Artist tricot
Album 『上出来』
Tracklist
01. 言い尽くすトークします間も無く
02. 暴露
03. いない
04. ティシュー
05. カヨコ
06. 餌にもなれない
07. Dogs and Ducks
08. スーパーサマー
09. いつも
10. 夜の魔物
11. ひとやすみ
12. 上出来
このように、良くも悪くも普遍的なtricotに回帰しながらも、メジャー以降に培った実験的な要素も本作のサウンド面にしっかりと落とし込んでいる。それこそメジャー以降の作品が苦手だって人に受ける気がする。個人的には、黒盤が(ノスタルジックな肌触りも含めて)色々な意味でドンピシャ過ぎたのでアレだけど、この辺は完全に好みの問題だと思う。また、本作におけるインスト版の存在意義というのは、サブスクの再生数稼ぎなんかでは決してなく(←コラ)、まさに音作りの面で新たな試みに挑戦している事に紐付いている。とにかく、このタイミングで改めてバンドの立ち位置をより戻してきた作品であり、改めて器用なバンドやなと素直に感心すること請け合いの一枚。
Album 『上出来』
Tracklist
01. 言い尽くすトークします間も無く
02. 暴露
03. いない
04. ティシュー
05. カヨコ
06. 餌にもなれない
07. Dogs and Ducks
08. スーパーサマー
09. いつも
10. 夜の魔物
11. ひとやすみ
12. 上出来
昨年の1月、エイベックス傘下のカッティングエッジからメジャーデビューを果たし、同レーベル出身の「平成最悪のヴィジュアル系バンド」ことJanne Da Arcの正統後継者として、そして「メジャー行って終わったバンド」の典型としてやらかして解散待ったなしというか、所詮は時代遅れの化石レコード会社のベクソバンドの時点でどうでもいいっつーか、その「メジャー行って終わったバンド」を裏付ける同年の10月に発表されたメジャー2ndアルバム『10』は、その実験的なアプローチとJ-POP的なアプローチをゴチャ混ぜにしたまるで焦点の定まらない駄作だった。個人的に『10』は(これは当時のレビューにも書いた気がするけど)曲数を半分に減らして、EPのフォーマットでリリースしたらもっと真っ当に評価されたに違いないと。
そんな賛否両論のメジャー1stアルバム、およびメジャー2ndから約1年3ヶ月ぶりとなるメジャー3rdアルバム『上出来』は、そのメジャー1stにおける「あたしらは日本のハイムや!」とばかりに色気づいた作風、あるいはメジャー2ndにおける水曜日のカンパネラやジュディマリや相対性理論を連想させるゴリゴリのJ-POPと岡田拓郎やトクマルシューゴに代表されるレフティな音楽の実験性をグチャグチャに混ぜ込んだ作風に対し、どっかの音楽批評気取りのオタクから「ハイム?ウォーペイント?オサレバンド気取ってんじゃねぇ!オメーらはオサレバンドになんか一生なれねぇんだよ!」と説教かまされたのかは露知らず、メジャー3rdとなる本作では打って変わってフラット≒平常心なtricotというか、少なくともメジャーデビュー以降では最も色気づいてない、いい意味でユルさのあるインディーズ時代の波長にチューニングを合わせてきた印象。
メジャーデビュー後のtricotは、裏声を多用して色気を出してきたイッキュウ中島のいかにもJ-POP的な歌メロをはじめ、リードギタリストのキダモティフォはキダモティフォでキレのあるソリッドなリフが縦横無尽に動き回るある種のメタルばりにド派手なギターメイク、そのキダーのダイナミズムが脳直的に楽曲に伝達しメリハリのある大胆な転調を織り交ぜた、兎にも角にもダイナミックでド派手な作風を繰り広げ、逆に言えばインディーズ時代とはひと味もふた味も違う一面が垣間見れたのも事実。
しかし、一転して普遍的なtricotへ回帰した本作では、イッキュウ中島のインディーズ時代を彷彿とさせる砕けたボーカルワークをはじめ、これまでの作為的な転調や作為的な変拍子よりも身体に染み付いた転調、つまり意識的な転調から無意識な転調を駆使したシームレスな楽曲構成を繰り広げる。また、#2“暴露”や#3“いない”におけるインディーズ時代にも見受けられなかったノイズとはまたちょっと違うエクスペリメンタルなギターアプローチ、例えるならノイズ界の重鎮スティーヴ・アルビニが監修したかのようなヴィンテージ風の音作りからは、インディーズ・ネイティブならではの“こだわり”を伺わせる。俄然インディーズ時代のバンドとしての生々しいグルーヴ感を求めたような作風というか、そういった意味でも一曲一曲の粒立ちの点の意識からアルバム全体の線に意識が移った印象。なんだろう、例えるならメジャーデビューを知らされていない状態で曲を書いたtricotみたいな。
アルバムの幕開けを飾る#1“言い尽くすトークします間も無く”からして、それこそ派手さとは無縁のアメリカ中西部のマスロック的な質素なリフでミニマルに構築する曲で、インディーズ時代のtricotならではの心地よいユルさに故郷という名のノスタルジーが蘇る。メジャー2ndにおける水曜日のカンパネラからのケツメイシあるいはオレンジレンジを連想させるイッキュウ中島なりのJラップを披露する#6“カヨコ”、メジャー1stで培ったメタル魂を継承したKDMTFの鬼キザミが炸裂する#9“いつも”、中でもマーズ・ヴォルタ的ファンキーなリフメイクやサイケなアレンジが際立った#6“餌にもなれない”のぶっきら棒なノリをはじめ、本作における“インディーズ回帰”をより強く印象づける再録の#8“スーパーサマー”は、この一曲を根っこにアルバム全体の波長を合わせたような感覚すら植え付ける。
このように、良くも悪くも普遍的なtricotに回帰しながらも、メジャー以降に培った実験的な要素も本作のサウンド面にしっかりと落とし込んでいる。それこそメジャー以降の作品が苦手だって人に受ける気がする。個人的には、黒盤が(ノスタルジックな肌触りも含めて)色々な意味でドンピシャ過ぎたのでアレだけど、この辺は完全に好みの問題だと思う。また、本作におけるインスト版の存在意義というのは、サブスクの再生数稼ぎなんかでは決してなく(←コラ)、まさに音作りの面で新たな試みに挑戦している事に紐付いている。とにかく、このタイミングで改めてバンドの立ち位置をより戻してきた作品であり、改めて器用なバンドやなと素直に感心すること請け合いの一枚。