Welcome To My ”俺の感性”

墓っ地・ざ・ろっく!

experimental

岡田拓郎 - Betsu No Jikan

Artist 岡田拓郎
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Album 『Betsu No Jikan』
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Tracklist
01. A Love Supreme
02. Moons
03. Sand
04. If Sea Could Sing
05. Reflections / Entering #3
06. Deep River

近年における岡田拓郎の“動き”に関する話をすると、まずポカリのCMでもお馴染みのアイナ・ジ・エンドとROTH BART BARONによるA_oのバックバンドの一員としてMステ出演を果たすと、今年に入ってからはNHKのドラマ『17才の帝国』の羊文学の塩塚モエカ(作詞)と坂東祐大(作曲)が手がけた主題歌である“声よ”の編曲を岡田拓郎が担当したりと、少し前までは想像できなかったほどの売れっ子ぶりを見せつけている。しかし、自分の中では“売れっ子”というよりも、宇多田ヒカルが今年の初めに発表した『BADモード』において、普段からJ-POPをナメている岡田拓郎がワンパンKOされたイメージの方が強い。


その宇多田ヒカルに対するカウンターパンチとばかりに、今年のフジロックにも出演したジム・オルークやWilcoのネルス・クライン、そして岡田拓郎も敬愛するはっぴいえんどの細野晴臣やKing Gnuの前身であるSrv.Vinciの元メンバーの石若駿ら、国内外を代表するミュージシャンを客演として迎え入れた本作の『Betsu No Jikan』は、2019年作の1stアルバム『ノスタルジア』や2020年作の2ndアルバム『Morning Sun』などの過去作とは一線を画す、それこそ表題の「別の時間(軸)」で時を過ごしてきた、さしずめ別の次元にいた岡田拓郎が現次元の岡田拓郎として時空を超えてやってきた「ワンラン上の岡田拓郎」のような印象を受けた。

前身のバンド森は生きているを含めて、これまでのキャリアの中で岡田拓郎が積み重ねてきた音楽、つまりアンビエント/ニューエイジ~アヴァンギャルド・ジャズ~シティポップが同じ時間のタイムライン上でスムースに往来する実験的な音楽、その様々な音楽ジャンルを超越した先にある一つの到達地点となる『Betsu No Jikan』は、過去イチでボーカルレスのインストゥルメンタルに重きを置いた作品であると同時に、マイルス・デイヴィスさながらの本格志向のフリージャズに著しく傾倒した、言うなれば“アソビ”のない作風だ。「過去」のタイムラインと繋がりのない「別の時間」および別の次元からやってたきた高次元の宇宙人、もとい「自由人」の立場から奏でる「自由」な音しか鳴っていないのにも関わらず、彼が根ざしている部分は森は生きているから一貫して不変、それすなわち「いつもそこにある音楽」に他ならなかった。なんだろう、“意識”することによって初めて時間の存在が証明できるように、過去においても「別の次元」の「同じ時間」を過ごしていた事に気づかなかった、いや意識的に気づかないふりをしていたのかもしれない。逆に言えば、人類に対して意識的(Conscious)になることを促すような音楽がそこ(There)に、手を伸ばせば触れる事のできる距離にあるだけだった。

まるで江戸川区のパノラマ島奇談を読んでいる最中のような、昭和モダンな佇まいのある不協和音(dissonant)を駆使したネオ・サイケデリカの調べは、ある種の高次元のプログレというか、それこそスティーヴン・ウィルソンのサイドプロジェクトであるBass Communionを想起させる。これはあくまで感覚的な話だけど、Ulverが2021年に発表したライブアルバム『Hexahedron』において、過去作の楽曲をフリージャズの精神をもって再構築してみせたアプローチと限りなく近い実験性を感じるというか(宇多田ヒカルの『BADモード』も感覚としてそれに近い)、終始一貫して“ライブ感”というか“ほぼライブ”を聴いてるような感覚に近い。もはやジム・オルークのみならず、かの石橋英子や喜多郎に肉薄する孤高の立ち位置、その存在感を確立するに至っている。それぐらい過去作とは時間軸も、次元そのものが違う印象。

確かに、岡田拓郎にとってはこれすらも“ポップス”を意図して作っているだろうけど、百歩譲って過去作はまだしも、この『Betsu No Jikan』に関しては、少なくともパンピーにとっては“ポップス”として聴くことはほぼ不可能だと思う。正直ここまでくると、特にジャズに対する教養がない自分の耳からでは理解が到底追いつかない作品であることだけは確かで、わずかにアソビゴコロのあった過去作の方がまだ楽しめたのも事実。正直ここまでやっちゃうと、悪い意味で次回作以降が怖いというか。

Alora Crucible ‎– Thymiamatascension

Artist Alora Crucible
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Album 『Thymiamatascension』
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Tracklist
01. Livanomancy in Jasper
02. Synaxarion of John Isangelous
03. Synaxarion of John Abject
04. Bottomless Madrugada
05. Barriers Hymn
06. Psalloed Illusions

Alora Crucibleって誰かなぁ?と思ったら、あのVauraKayo Dotの中心人物として知られるトビー・ドライバーの新しい通名と知って驚いた。何が驚いたって、トビーといえば本家Kayo Dotではアヴァンギャルドmeetブラックメタルを、サイドプロジェクトのVauraではニューウェイヴmeetブラックゲイズを、Toby Driver名義のソロプロジェクトではストリングをフィーチャーしたネオクラシカルを、そして今回新たに始動した本プロジェクトでは、これまでの各プロジェクト同様に実験的は実験的ながらも、いわゆるニューエイジやアンビエントに振り切った、より音響的なアプローチを強めた音楽性を終始一貫して追求している。それこそ本作の『Thymiamatascension』は、ノルウェーのレジェンド=Ulverも在籍するレーベルのHouse of Mythologyからリリースされている事実が全ての答え合わせと言っても過言じゃあない。

いわゆるポストロックやスロウコア的なミニマル・ミュージックに、チェンバー・ミュージック然とした静謐的なストリングスや喜多郎顔負けのニューエイジ/アンビエントならではの幻想的なシンセが、まるで雨の日に傘から滴り落ちる水玉のようにこまだするインスト中心の楽曲における、それこそ彼がソロ名義で2018年に発表した『They Are The Shield』の延長線上にある、まるで現世の慈悲深さに慟哭するかの如しストリングスの音色は、Ulverが本国のオーケストラとコラボした『Messe I​.​X​-​VI​.​X』と否応なしに共鳴すると同時に、その自然な流れから日本のSSWシーンを代表する青葉市子岡田拓郎らが音楽的なバックグラウンドとして持つニューエイジの側面とも重なって聴こえる。なんだろう、ソロ名義よりも俄然ストリングスの鳴り方が日本の伝統音楽である雅楽はもとより、それこそ韓国のJambinaiをイメージさせる民族楽器風の荘厳な音色を奏でている。

もちろん、過去の関連プロジェクトと比較すると曲の抑揚や展開は最小限に抑制されており、あくまで“繰り返しの美学”を追求したミニマル地獄という名の、要は断捨離が好きなミニマリスト向けの癒やしの音楽を提示している。それこそ、ソロ名義の流れを踏襲したギターのリフレインがフェードインして始まる#1“Livanomancy in Jasper”からして、Ulver『Messe I​.​X​-​VI​.​X』における名曲“As Syrians Pour In, Lebanon Grapples With Ghosts Of A Bloody Past”をフラッシュバックさせ、俄然ポストロックmeetUlverな#2“Synaxarion of John Isangelous”、イントロから儚くも美しい悲哀を帯びた#3“Synaxarion of John Abject”、アジアの伝統楽器さながらの荘厳かつ優美なストリングスをフィーチャーした#4“Bottomless Madrugada”、トビーがボブ・ディラン顔負けのダーティな語り弾きオジサンと化す本作唯一のボーカル曲であり、またSSWやマルチプレイヤーとしての才能以前に彼(US版岡田拓郎として)のギターリストとしての才能が炸裂する#5“Barriers Hymn”、そしてニューエイジ指数の高い流行りのダンジョン・シンセを駆使した#6“Psalloed Illusions”まで、派手さのない地味な音楽ながらも幻想的かつ叙情的な世界観をバックに奏でられる、美しくも聡明なストリングスの音色に汚れた心が浄化されること請け合いの一枚。個人的にはソロ名義よりも好きな作風。

The Armed 『ULTRAPOP』

Artist The Armed
TheArmed

Album 『ULTRAPOP』
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Tracklist
01. Ultrapop
03. Masunaga Vapors
04. A Life So Wonderful
06. Big Shell
08. Faith In Medication
09. Where Man Knows Want
10. Real Folk Blues
11. Bad Selection
12. The Music Becomes A Skull

『サイバーパンク2077』といえば、人類がトランスヒューマニズム化した近未来都市=ナイトシティを舞台とした、悪い意味で話題を呼んだ無数のバグ(リッチ)すらも演出の一部だったんじゃねぇかぐらいの、自分も発売当初に買って早々にクリアしたほどの神ゲーで、とあるサブストーリーではブラックメタルに関する話がテキストで出てくる場面があったりと、今思えば「サイバーパンク2077はメタル」と言っても過言ではないメタルと相性抜群のゲームだった。

この『サイバーパンク2077』は、音楽の面でもその近未来的な世界観を形成する上で欠かせない要素の一つとなっており、有名どころではRun The JewelsSophieを筆頭に、そしてイーロン・マスクのパートナーであるグライムスが当然のように参加してるのも示唆的過ぎて笑ってしまうのだけど、中でもSF映画の金字塔である『ブレードランナー』の必然的なオマージュとしての日本文化リスペクトらしく、日本の芸術家アイドルユニットことナマコプリ(イメージ的にはCY8ERみたいな地下ドル)をゲーム内に登場する3人組アイドルユニット“アスクっクス”としてキャラ設定したり(いわゆるa.k.a)、そしてヘヴィ・ミュージック界からはConvergeTomb Moldなどのハードコアやデスメタルがサントラに参加しており、このように作中に登場する奇想天外な音楽は、この非現実的な近未来都市を描く上で切っても切れない関係性を担っている(個人的にサントラでは某ラタタタが好き)。ちなみに、このゲームの最重要人物であるキアヌ・リーブス演じるジョニー・シルヴァーハントがフロントマンを務める伝説のロックバンド=サムライは、スウェーデンのハードコア・レジェンドで知られるRefusedをフィーチャーしたコラボ曲を発表しており、そしてその曲のマスタリングを手がけたのはCult Of Lunaのマグヌス・リンドバーグという見事な伏線回収案件。

何を隠そう、ゲームの豪華サントラ陣の一組として参加しているのが、ミシガン州はデトロイト出身の奇天烈ハードコアバンド=The Armed(a.k.a )で、そんな彼らの4thアルバム『ULTRAPOP』を聴いて改めて思ったのは、端的に言うとゲーム音楽界隈がカタギ?のアーティストに与える影響力についてだった。つい最近では『サイバーパンク2077』にキアヌと同じく“サイバー人間”あるいは“デジタル・ヒューマン”としてカメオ出演した事でも知られる、ゲーム界のレジェンド=小島秀夫監督の最新ゲーム『デス・ストランディング』への楽曲提供や、ベセスダゲーこと『DOOM』シリーズの“ゲーム音楽”を手がけるミック・ゴードンをサウンド・プロデューサーとして迎え「BMTHなりのサイバーパンク」をやってのけたオレンジアルバムこと『Post Human: Survival Horror』へのカウンターパンチをお見舞いするかのような、もはや『サイバーパンク2077』のサントラに参加するために生まれてきたんじゃねぇかぐらいのリアルサイバーパンクが本作の『ULTRAPOP』なんですね。ちなみに、『サイバーパンク2077』のサントラに収録されているLe Destroyの“Kill Kill”と、BMTH『Post Human』に収録された“Parasite Eve”は同じ世界線にあると思う。


The Armedのプロデューサーであるカート・バロウ率いるConverge直系のハードコア・パンク然とした初期のカオティックな方向性から一転して、本作ではノイズやアートパンク方面に活路を見出し始めた前作『Only Love』の延長線上にありながらも、MelvinsHelms Aleeなどのノイズロック界隈は元より、ポスト・ハードコア、マスコア、ハードコア・パンク、トリップ・ホップ/インダストリアル、メタルコア、サイバー・グラインド、グリッチ、ポスト・メタル、アヴァンギャルド、ポスト・パンクなど、それこそ『サイバーパンク2077』のラップからデスメタルまでなんでもござれな闇鍋サントラに参加しているだけあって、その内容もゲームの世界観と共鳴するように脳内にマイクロチップを埋め込んで知能指数がカンストしちゃったリアルサイバーパンク野郎の領域に片足突っ込んでて、まるでConverge『サイバーパンク2077』のフューチャリスティックな世界に入り込んでパリピにヒャッハー!したような、それこそ本作のタイトルが示すようにハードコア云々以前に「ウルトラポップ」なサイバージャパンクもといサイバーパンクを展開している。ある意味で『サイバーパンク2077』のサントラのスピンオフ企画みたいな、そのサントラに提供した楽曲(Night City Aliens)の世界観を軸に展開される、ハードコアやパンクやポップスなど様々なジャンルを飲み込んだ唯一無二の「ウルトラソウル!ハーイ!」ならぬ「ウルトラポップ!ハーイ!」の世界が堪能できる。


なんだろう、この少しというかかなりイッチャッテル、その超越しちゃってる系すなわちTranscendence系のカオティック・ハードコアという意味では、USのLiturgyMachine Girlなどのエクスペリメンタリズム全開のデジタル・ハードコア勢の亜種として認識すべきかもしれない。しかしその一方で、カート・バロウ(=Converge)案件という意味でも新世代ボストン・ハードコアのVeinコード・オレンジを連想させる異端児感もある。とにかく、音楽的なハードコア/パンクよりも俄然ゲーム音楽的なサイバーパンクに傾倒しているというか、そういった意味でも改めてゲーム音楽界隈の侮れない影響力の強さを痛感させる。ハードコアなのにある種のポップパンク的なノリで聴けちゃう身軽なキャッチーさ、一周回ってオシャンティな雰囲気すら漂わせているアートパンクみたいな。

「ただのハードコア」とは一線を画した彼らのパンク魂やエクスペリメンタリズムを司るものこそ、Julie Christmasを彷彿とさせる女ボーカルのシャウトにあると言っても過言じゃなくて、しかも本作にはUKマスコアのRolo Tomassiのエヴァ・スペンスと、知る人ぞ知るTrue Widowのベーシストであるニコールがパフォーマーとして参加してるとか・・・もはやピンポイントで俺狙いなんじゃねかと勘違いするくらいの人選は完全に勝確案件。いや冗談じゃなしに、Rolo Tomassiといえば近作でブラゲ文脈とも繋がりを持ち始めたバンドで、何を隠そうThe Armedは本作の『ULTRAPOP』Helms Aleeも在籍するSargent Houseからデビューを果たしたことで、DeafheavenをはじめAltar of Plaguesなどのポストメタル/ブラゲ文脈と直通した感あって、それにより前作から芽生え始めたアートパンク気質がより高まったのも事実。そう考えると、本作はUKハードコア〜USブラゲラインとゴリゴリに繋がってる、ちょっととんでもないアルバムというか、つまり全てにおいてピッチフォークで高得点を叩き出しそうなオルタナティブなハードコアなんですね。


冒頭からアメイジング・グレイスばりの祈りがこだまする神聖な世界が徐々にバグり始め、近未来感溢れるインダストリアル〜ノイズ全開のサイバージャパンク化する表題曲の#1“Ultrapop”、Machine Girlあるいは初期のBiSというかBiS階段ばりにイッちゃってる奴らが奏でる天上のノイズが地上に降り注ぐ#2“All Futures”、かと思えば段階的に次元を超越していく感じが完全にLiturgyのソレな超絶エピックブラゲを披露する#3“Masunaga Vapors”、サイバーグラインドな#4“A Life So Wonderful”、USブラゲのVauraを彷彿とさせるニューウェイブ/オルタナチックな倦怠感溢れる#5“An Iteration”、Rolo Tomassiのエヴァのシャウトが炸裂するカオティックな#6“Big Shell”や#9“Where Man Knows Want”は、他の曲と比べて轟音ポストメタル要素マシマシなのも粋な計らいだし、もはや轟音シューゲイザーというか“ブラゲ化したJesu”みたいな雰囲気を醸し出す俄然エクスペリメンタルかつエレクトロな#7“Average Death”、もはや“ノイズゲイズ”としか形容しようがない全く新しい領域にイッちゃってる#8“Faith In Medication”、本作の中で最もサイパンサントラ提供曲とイメージが近い#10“Real Folk Blues”、この超越的な流れで今はなきVERSAのパクリというか†††(Crosses)みたいなインダストリアル〜トリップ・ホップを挟んでくる感じマジサイバージャパンク味しかない#11“Bad Selection”、最後はマーク・ラネガンをフィーチャーした#11“The Music Becomes A Skull”まで、なんだろう、日本の地下アイドルも参加しているサイパンサントラを経由した流れで、第一期BiSの名曲であるデジタル・ハードコアの“STUPiG”やBiS階段とも共振する懐の深さを伺わせる、もはや「20年代最高のパンクアルバム」と言っても過言じゃない一枚。

Vein 『新しいマシンの古いデータ Vol. 1』

Artist Vein
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Compilation 『Old Data In A New Machine Vol. 1』
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Tracklist
01. 20 Seconds : 20 Hours
02. Ripple+
03. Heretic+
04. TR+
05. Broken Glass [Nightstalker mix]
06. Paincanbetrusted [Rough mix]
07. virus://vibrance [3 Wheel mix]
08. Doomtech [Crooked Jaw mix]
09. Old Data In A Dead Machine [Demo 2016]
10. Quitting Infinity [Demo 2016]
11. Untitled [Demo 2016]

『新しいマシンの古いデータ』という謎の日本語タイトルからも察せるように、2018年に1stアルバム『errorzone』を発表するや否や新世代メタルの最右翼として名乗りをあげたボストン出身の5人組=Veinの新作は、いかにして彼らが「普通のハードコア」とは一線を画す特異な存在なのかを示す一枚となっている。

昨年に日本の某ラウドロックバンドの前座かなんかでシレッと初来日を果たしたとかしてないとか?なんだか変な界隈に利用されちゃってて、なんかちょっと勘弁してほしい感じのVeinさんなんですが、(その来日の思い出補正もあってか)わざわざ日本語で「新しいマシンの古いデータ(olddetainanewmachine)」と謳っているという事は、本作品は完全新作というよりは単刀直入に要約すると過去の音源に新しい要素を加えたリミックス/コンピレーション作品となっている。

『errorzone』“Untitled”をアコースティックに再構築した、それこそ「普通のハードコア」とは真逆の全編クリーンボーカルで展開する、Deftonesは元よりDeftonesフォロワーの新世代UKメタルのLoathe、あるいは在りし日のリンキンばりにダークアーバンなエモエモの#1“20 Seconds : 20 Hours”を皮切りに、#2から#4は「+」とあるように2015年作のEP『Terrors Realm』の楽曲に今っぽく手を加えたVeinらしいヘヴィなハードコアが続く。そして、本作品のメインディッシュパートであり、いかにしてVeinが「ただのハードコア」とは一線を画したexperimental=実験的なバンドなのか?それを証明するのが#5から#8まで続くリミックス音源である。

このリミックス音源がまた秀逸で、インダストリアル〜ブレイクビーツ風のパリピったビートを刻む音を聴いて妙に既視感あるなと思ったら、それこそニューヨークの独りデジタルハードコアことMachine GirlCode Orangeなどの新世代ハードコアラインに直に繋がる案件で、そして楽曲以外で彼らに共通するのはどちらも謎の日本語の使い手であるということ。まぁ、それは冗談として、元々バンドが持っているボストン生まれらしいアーバンでドライな雰囲気がブレイクビーツ風のリミックスによって、俄然チャッキーやフレディ顔負けの猟奇的ホラー映画のサントラ感に拍車をかけている。

オマケ扱いにしておくには勿体ない後半のデモ音源は、デモ音源らしくいい意味で粗悪なノイズ混じりの音質が生々しく映える粗暴なハードコアで、このデモ音源からは彼らの出自がアンダーグランドのハードコアにある事が理解できる。むしろ逆に、デモ音源のが良いと感じる人も少なくないであろう事が容易に想像できる“未完成品”ならではの魅力に満ちている(そこはかとなくInfant Island感も)。それこそ“Untitled”を美しいアコギで再構築した一曲目と最後を飾るデモ版のギャップこそVeinの真骨頂と言えるのかも。このようにアンダーグラウンドのハードコアからデブ豚リンキンに代表されるメインストリームのヘヴィロックに至るまで、改めて彼らが「普通のハードコア」ではないオルタナティブな才能の持ち主である事を再認識させる。そして自ずと次のフルアルバムにも期待がかかる。

Vaura 『The Missing』 レビュー

Artist Vaura
Vaura

Album 『The Missing』
The Missing

Tracklist
01. The Missing
02. Incomplete Burning
03. The Fire
04. Mare Of The Snake
05. Pleasure Blind
06. Passage To Vice
07. The Things That We All Hide
08. Braced For Collapse
09. Abeyance
10. Putting Flesh To Bone

【Kayo Dot×Gorguts×Blacklist・・・このUSはブルックリン出身の四人組、その名もVauraといえば→新譜が好評のGorgutsと新譜でブラックメタル化したKayo Dot、そしてBlacklistのメンバーからなるプロジェクトで、その音楽性としては→自身のバンドでやってるデススペルお兄さん系ブラックやポストパンク、ポストハードコアやゴシック、そしてエクスペリメンタルやポストロックなどのスタイル、それらの特徴をそれぞれ持ち寄って生まれたのがこのVaura、というわけ。で、デビュー作となった前作のSelenelionを聴いた時は→例えるならCynicのEPもしくはIsisがサイケ/プログロック化した感じのアレで、なんだこの気色悪い”ポスト”ミュージック・・・とか思いつつも、しかしその内容は思いのほか俺好みで、決して悪いものではなかったし、むしろクセになるほどだった。

【Post-Punk×Blackgaze=Post-Black】・・・そんな、イマイチ焦点が定まらない音楽性だった前作から、約一年ぶり通算二作目となる今作の『The Missing』は、かのProfound Loreに移籍して第一弾なんだけど、まずはオープニングのタイトル曲を聴いた瞬間に俺たちポストブラ厨をアヘ顔デフヘヴン状態にさせる。まるで、ファッションサブカル系男子御用達ミュージックことDeafheavenに対抗するかのような、実にブラゲ然としたMy Heart is epicッ!!な胸の高鳴り即ち昂揚感と激情的なエモーションを撒き散らしながらひた走るイントロから、俺たちのポストブラ魂に火をつける。次の#2は、中期KATATONIAもしくはLes Discretsを連想させるデプレ感を醸し出すゴシックロック/ポストパンクの名曲で、特にクライマックスを飾る泣きのギターソロは大きな聴きどころ。そして、もはやお馴染みの密教的なポスト空間を形成するイントロから、突如Krallice顔負けのトレモロリフが容赦なく襲いかかる#3を聴けばわかるように、つまり今作ではボーカル&ギター担当のJoshua Strawnが在籍する、Blacklistライクなゴシックロック/ポストパンクへのアプローチを著しく強めた耽美派ポストブラック、そんな明確かつ焦点の定まったスタイルを確立している。とにかく、ここまで#1~#3の異様な展開力の高さに、確かな”Progressive”を感じざるをえなかった。

【ポストパンクリバイバル】・・・トレモロをフューチャーした圧倒的なポストブラっぷりを見せつける序盤以降は→マイケル・ジャクソンのスリラーっぽいイントロが面白い#4、ナルシズム全開の妖麗なボーカルをはじめリズムからアレンジまで全ての音使いから往年のポストパンクリバイバルを感じる#5、そして前作の”Drachma”の続編にあたる#6あたりから、Kayo Dot直伝のネットリとまとわりつくようなサイケデリック/エクスペリメンタル色を強めていき、気づいたら密教の世界に迷い込んでいた。まさに、Kayo Dotの中心人物でありマルチプレイヤーのToby Driver、すなわちVauraの本領発揮ってやつだ。次の#7では、Cynic『The Portal Tapes』ライクなATMSフィールドを展開し、トビーによる肉厚のベースラインが主導権を握るドリーミーかつポストロッキンな#8では、ボーカルのジョシュアが今作で初めて荒々しい咆哮を披露している。特に轟音と轟音がけたたましくぶつかり合う終盤の展開はハイライトと呼ぶに相応しい。

【ポストブラ界のパラロス】・・・そんな、80sゴシックロックやらサイケロックやらポストパンクリバイバルの中盤の密教空間を抜けると→言うなれば【デススペルお兄さん×インダストリアル】な#9、ラストの#10は今作で最長の7分半ある曲で、Cult of Luna”Passing Through”を彷彿とさせる仄暗いイントロから、優雅なアコギとウネるようなベースがフェミニンなムードを漂わせながら、マッタリとした幻想的な空間を形成していく。終わりが近くなると、ゴシックスタイルにギアチェンジしてからepicッ!!なリフで徐々にキモチを高めていき、そして(おいおいパラロスのオマージュか)とツッコミたくなるボーカルの”ゴシック”なフレーズが飛び出す驚きのラストまで、最後の最後まで聞き手を楽しませる。

【化けた】・・・そんな感じで、イマイチ何がしたいのかよくわからなかった前作とは違って、今回は”ポストパンク”という明確なコンセプトがあって、しかし前作同様に若干のチープさは否めないが、その内容その完成度は前作を優に上回っている。あのProfound Loreに移籍した影響もあるのか、まさかここまで俺たちポストブラ厨をアヘ顔デフヘヴン状態にさせるアルバムを出してくるなんて・・・いやはや全く予想してなかったし、何かわからんが自分の審美眼を褒めてやりたくなった。これはもう”化けた”という表現を使っても問題ないんじゃあないか。なんか次作あたりでピッチフォーク厨が食いついてきそうな予感がプンプンしてる(あっ、既にか・・・)。ちなみに、このピッチ厨が大喜びしそうなジャケのレインボーおっぱいを手がけたのはレーベルメイトのLocrianTerence Hannum氏です。

Post-Black is DEAD・・・近頃のポストブラック界隈といえば→この手の界隈の皇帝ネージュAlcestを代表としたシューゲイザーブラックなるスタイルが流行っている・・・のかはいざ知らず、それを横目にPost-PunkとBlack-Metalの親和性の高さを見出し、実際に調和を試みるバンドもポツポツ出てきている。恐らく、ブラック(ブラゲ)にポストパンクっぽい音を初めて持ち寄ったバンドって、フランスのAmesoeursもしくはLes Discretsあたりだと思うんだけど、これからのポストブラ界隈は、このVaura『The Missing』を先駆けとしたPost-PunkにBlackをブチ込んだ耽美派ポストブラックが流行りそうな気がしないでもない(適当)

【ファッションブラック】・・・新曲のオパーイで、自らが生み出したポストブラックの歴史に自らの手で終止符を打ったAlcest。彼らの後継者は腐るほどいそうだが、Les Discretsの後継者って意外と少ないというか、このVauraしかいねーんじゃねーか?って。さすがに褒め過ぎかもしれないが、地味に今年のポストブラ系ではレーベルメイトのCastevetと並んでマストだと思う。もちろん、惜しくも解散してしまったAoPエクストリームエビ反りは言わずもがな、今やファッションブラック界のNo1,アイドルことデフヘヴンもね☆ でも正直、今年はデフへの新譜よりもコレ推したほうがドヤ顔できるんじゃねぇ~?
 
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Vaura
Profound Lore (2013-11-12)
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