Artist 代代代
Album 『MAYBE PERFECT』
甲盤
Album 『MAYBE PERFECT』
甲盤
01. THRO美美NG
02. 1秒
03. LASE
04. まぬけ
05. 破壊されてしまったオブジェ
06. 黒の砂漠
昨年の10月に発表されたシングルの“LASE”といえば、あくまで代代代メンバー四人のボーカルにフォーカスしたミックスをはじめ、静謐な焦燥と燃えたぎる激情をもってミニマルなビートを刻んでいくトラックやエッジの効いたギターをかき鳴らす比較的シンプルな構成で、ある種の後期ana_themaを想起させる“繰り返しの美学”を司るエピックなエネルギーを蓄積し爆発させるキラーチューンだったが(俺的2021年アイドルベストソングの一つ)、本作の4thアルバム『MAYBE PERFECT』を耳にすれば、その「シングル版のLASE」と「アルバム版のLASE」の違いが本作を決定づける「違い」に繋がっている事がわかる。
端的に言ってしまえば、シングルの“LASE”を因果として回っている本作品、しかしアルバム版の“LASE”はシングル版とは打って変わって「レイズ」のフレーズをはじめエモさだけを抽出したようなボーカルワークを主役とする、いわゆる一般的なアイドルソングのソレとは一線を画しており、本作における世界観およびコンセプトに従事したアルバム曲の一つとして機能している。では、そのシングル版とアルバム版の違い、そして本作の世界観を形作るコンセプトとは一体何なのか?
今やBiSらの初期WACKアイドルに代わり、アンダーグラウンドなオルタナアイドルの代名詞となった代代代は、過去にはフィンランドのOranssi Pazzuと共振するハードコアなインダストリアル/ドローン等のオルタナティブな資質を兼ね備えたアヴァンギャルドな実験性を垣間見せていたが、何を隠そう本作において著しく超越的な才能を開花させた代代代は、ブルックリンの超越者ハンターハント・ヘンドリックス率いるTranscendental Black MetalことLiturgyに肉薄する独創性と革新性に溢れた音楽をアイドルのフォーマットでやってのけている。
いわゆる「シングル版のLASE」は、アイドル楽曲派がドヤ顔で「エモい」と評しそうな典型的なアイドルソングだったが、先述したように「アルバム版のLASE」ではメンバーの歌声がミックスレベルで後退し、代わりにLiturgyの4thアルバム『H.A.Q.Q.』や5thアルバム『Origin Of The Alimonies』におけるTranscendentalな超越性を裏付けるグリッチ/ノイズまみれのトラックを中心に、ほぼリミックスレベルでグリッグリにバグり散らかしている。それにより、現代社会および昨今の世界情勢における混沌すなわちケイオスを象徴するハイパーポップの文脈に食い込む勢いの「超越的なアイドル」という新たな代名詞、すなわちTranscendental AIDOLとして自らの立場をアップデイトしている。
その「アルバム版のLASE」と双璧をなす、それこそLiturgyが近作においてブラックメタルというフォーマットでクラシック/オペラの悲奇劇であり狂奏曲を描いたのと全く同じ要領で、アイドルというニッチなフォーマットでバグったスーパーマリオの如しクラシック/オペラを再現する、そんな「超越的なアイドル」を象徴する#1“THRO美美NG”から幕を開ける本作、一部で“LASE”のフレーズのみならず#1や#4の伏線を張り巡らせるピコピコ系アイドルポップスの#2“1秒”、まるで第三次世界大戦の核戦争により人類が滅んだポストアポカリプスの世界で最後の生き残りとなった主人公と対核兵器として開発されたポストヒューマンのバイオロイドがハーレムを繰り広げるメタバース内のVR空間に迷い込んだかの如く、それこそCynicの2ndアルバム『Traced In Air』や4thアルバム『Ascension Codes』と共鳴する(スピ)リチュアリズムや神秘主義を内包したトランスヒューマニズムの思想にサイバーコネクツする#4“まぬけ”、先の第三次世界大戦においてオブジェのように破壊されてしまった生前のバイオロイドが結成していたアイドルグループ時代のキラキラした輝かしい記憶がフラッシュバックする#5“破壊されてしまったオブジェ”、そのようにして最終的彼女のバイオロイドとして魔改造されるも、敵国からのサイバー攻撃によりAIにバグリッチが混じり失敗作として“黒の砂漠”に廃棄処分され山積みとなった四人のアイドルが、まだ人間だった頃の思い出が断片的に蘇るラストの儚くも美しいオチまで、考察するに「シングル版のLASE」は第三次世界大戦が起こる以前の代代代が人の心と感情を持ち合わせていた頃の曲で、対する本作すなわち「アルバム版のLASE」は第三次世界大戦前夜に生身の人間の状態から強制的に魔改造(アセンション)させられて対核兵器としてトランスヒューマン化したAIの記憶がバグやグリッチのたびにフラッシュバックし続けている曲、みたいに解釈したら俄然エモすぎて泣ける。本作の何が凄いって、「アルバム版のLASE」におけるグリッチ/ノイズが代代代の音楽的な前衛性を高めているだけでなく、その歌詞から紐解ける文脈とともに『MAYBE PERFECT』のコンセプトおよび悲劇的な運命を辿る物語の根幹部を担っている点←これに尽きる。また、他の曲にもLASEのフレーズを引用することで「LASEへの帰結」を示唆する伏線の置き方も美しい。
面白いことに、本作のCD版は甲盤と乙盤の二枚組の作品(サブスクでは甲盤のみなので、このレビューは甲盤の視点から書いている)、しかし二枚組と言っても乙盤の方は甲盤を逆から再生した、つまり甲盤の最後の曲(黒の砂漠)から逆再生する形で曲順を入れ替えただけの作品となっている。要は運営側が甲/乙の二つの視点から聴くことを公式に推奨している。そこから分かる事と言えば、乙盤すなわち逆再生盤から記憶を手繰り寄せていけば、自ずとミスリードや伏線が張り巡らされた本作の「真実の物語」すなわち真エンディング(Eエンド)にたどり着ける可能性が高まるということ。では、この物語の鍵を握る甲盤のED曲であり、対する乙盤のOP曲となる“黒の砂漠”に何故バイオロイドが打ち捨てられていたのか?そこに本作の謎を紐解くヒントがある気がしてならなかった。
いずれ起きる第三次世界大戦で勝利を収めるには、主戦力である核の脅威に耐えうる強靭な精神とインダストリアルな肉体および細胞が必須となる。その高次元な能力を会得するには、まずは男女の性別における優劣やウィークポイントを克服する必要がある。そこで我々旧人類は、性別を故意にバグらせる事でジャンルの垣根を超えて新人類にトランスフォームしたLiturgyの超越者ハンターハント・ヘンドリックスを参照し、代代代という選ばれし四人の旧時代のアイドルグループを“アイドル”の概念はもとより、もはや人間としての性別や肉体を故意にバグらせて遂にはシンギュラリティを起こすことに成功したのである。つまるところ、ボーカロイド(AIDOL)と旧人類のハーフとして徐々にトランス化していく過程を描いたのが乙盤の物語なんですね。
乙盤の物語を簡潔に考察するとこうだ。#1“黒の砂漠”に壊れかけのローファイなラジオと一緒に投げ捨てられたバイオロイドの肉体に、#2“破壊されてしまったオブジェ”のアイドル精神をAIDOLに学習させる魔改造を#3“まぬけ”で行うも、その研究中に「レイズ」の天啓を得た新型ウイルスによりバグが生じて「アルバム版のLASE」と「シングル版のLASE」という二つの記憶に分裂し世界線が分岐、何とかして情緒不安定なAIDOLの精神を制御する研究を終え、核の脅威に耐えうる最終的彼女が完成したことを示唆する#5“1秒”、そして遂に第三次世界大戦が勃発、『MAYBE PERFECT』に出来上がったはずの最終的彼女は超越的(Transcendental)な能力を発揮すると、AI(愛)を知らないバイオロイドがAI(愛)の力で地球もろとも旧人類を滅ぼし全てを無に還す...。そして唯一生き残った旧人類の主人公と四人のバイオロイドによるハーレム云々でEエンドを迎える。
このように、甲盤の曲順が示す曖昧な物語よりも乙盤の逆再生順が示す悲劇的な物語の方が真エンドっぽいかもしれない。乙盤において徐々に薄れゆくアイドル時代の記憶、そして心と体が最終的彼女へと移行していく中で、やがて記憶と記憶の邂逅が真実を呼び起こすように、古の終末戦争時に開発された最終兵器彼女の記憶が「レイズ」の記憶と交錯し、時空を超えて現代アイドルの代代代に受け継がれているエモさったらない。
このように、甲盤の曲順が示す曖昧な物語よりも乙盤の逆再生順が示す悲劇的な物語の方が真エンドっぽいかもしれない。乙盤において徐々に薄れゆくアイドル時代の記憶、そして心と体が最終的彼女へと移行していく中で、やがて記憶と記憶の邂逅が真実を呼び起こすように、古の終末戦争時に開発された最終兵器彼女の記憶が「レイズ」の記憶と交錯し、時空を超えて現代アイドルの代代代に受け継がれているエモさったらない。
ここまでの話は冗談として聞き流してくれていいけど、しかし神パンチラインゲー『ニーアオートマタ』、というよりは虚淵玄作品に近いポストアポカリプス的な荒廃した世界観がシックリくる至極難解なSF作品なのは確か。それこそ『ニーアオートマタ』の前日譚を描いた舞台『少女/少年ヨルハ』のような演劇的なライブアレンジが映えそう、というか複雑な転調を繰り返す楽曲構成的にも面白い演出が期待できそうな予感。とにかく、代代代の作品としては2ndアルバム『∅』以来の大大大名盤です。
乙盤
01.黒の砂漠
02.破壊されてしまったオブジェ
03.まぬけ
04.LASE
05.1秒
06.THRO美美NG