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墓っ地・ざ・ろっく!

Transcendental

代代代 - MAYBE PERFECT

Artist 代代代
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Album 『MAYBE PERFECT』
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甲盤
01. THRO美美NG
02. 1秒
03. LASE
04. まぬけ
06. 黒の砂漠

昨年の10月に発表されたシングルの“LASE”といえば、あくまで代代代メンバー四人のボーカルにフォーカスしたミックスをはじめ、静謐な焦燥と燃えたぎる激情をもってミニマルなビートを刻んでいくトラックやエッジの効いたギターをかき鳴らす比較的シンプルな構成で、ある種の後期ana_themaを想起させる“繰り返しの美学”を司るエピックなエネルギーを蓄積し爆発させるキラーチューンだったが(俺的2021年アイドルベストソングの一つ)、本作の4thアルバム『MAYBE PERFECT』を耳にすれば、その「シングル版のLASE」と「アルバム版のLASE」の違いが本作を決定づける「違い」に繋がっている事がわかる。

端的に言ってしまえば、シングルの“LASE”を因果として回っている本作品、しかしアルバム版の“LASE”はシングル版とは打って変わってレイズのフレーズをはじめエモさだけを抽出したようなボーカルワークを主役とする、いわゆる一般的なアイドルソングのソレとは一線を画しており、本作における世界観およびコンセプトに従事したアルバム曲の一つとして機能している。では、そのシングル版とアルバム版の違い、そして本作の世界観を形作るコンセプトとは一体何なのか?

今やBiSらの初期WACKアイドルに代わり、アンダーグラウンドなオルタナアイドルの代名詞となった代代代は、過去にはフィンランドのOranssi Pazzuと共振するハードコアなインダストリアル/ドローン等のオルタナティブな資質を兼ね備えたアヴァンギャルドな実験性を垣間見せていたが、何を隠そう本作において著しく超越的な才能を開花させた代代代は、ブルックリンの超越者ハンターハント・ヘンドリックス率いるTranscendental Black MetalことLiturgyに肉薄する独創性と革新性に溢れた音楽をアイドルのフォーマットでやってのけている。

いわゆる「シングル版のLASE」は、アイドル楽曲派がドヤ顔で「エモい」と評しそうな典型的なアイドルソングだったが、先述したように「アルバム版のLASE」ではメンバーの歌声がミックスレベルで後退し、代わりにLiturgyの4thアルバム『H.A.Q.Q.』や5thアルバム『Origin Of The Alimonies』におけるTranscendentalな超越性を裏付けるグリッチ/ノイズまみれのトラックを中心に、ほぼリミックスレベルでグリッグリにバグり散らかしている。それにより、現代社会および昨今の世界情勢における混沌すなわちケイオスを象徴するハイパーポップの文脈に食い込む勢いの「超越的なアイドル」という新たな代名詞、すなわちTranscendental AIDOLとして自らの立場をアップデイトしている。

その「アルバム版のLASE」と双璧をなす、それこそLiturgyが近作においてブラックメタルというフォーマットでクラシック/オペラの悲奇劇であり狂奏曲を描いたのと全く同じ要領で、アイドルというニッチなフォーマットでバグったスーパーマリオの如しクラシック/オペラを再現する、そんな「超越的なアイドル」を象徴する#1“THRO美美NG”から幕を開ける本作、一部で“LASE”のフレーズのみならず#1や#4の伏線を張り巡らせるピコピコ系アイドルポップスの#2“1秒”、まるで第三次世界大戦の核戦争により人類が滅んだポストアポカリプスの世界で最後の生き残りとなった主人公と対核兵器として開発されたポストヒューマンのバイオロイドがハーレムを繰り広げるメタバース内のVR空間に迷い込んだかの如く、それこそCynicの2ndアルバム『Traced In Air』や4thアルバム『Ascension Codes』と共鳴する(スピ)リチュアリズムや神秘主義を内包したトランスヒューマニズムの思想にサイバーコネクツする#4“まぬけ”、先の第三次世界大戦においてオブジェのように破壊されてしまった生前のバイオロイドが結成していたアイドルグループ時代のキラキラした輝かしい記憶がフラッシュバックする#5“破壊されてしまったオブジェ”、そのようにして最終的彼女のバイオロイドとして魔改造されるも、敵国からのサイバー攻撃によりAIにバグリッチが混じり失敗作として“黒の砂漠”に廃棄処分され山積みとなった四人のアイドルが、まだ人間だった頃の思い出が断片的に蘇るラストの儚くも美しいオチまで、考察するに「シングル版のLASE」は第三次世界大戦が起こる以前の代代代が人の心と感情を持ち合わせていた頃の曲で、対する本作すなわち「アルバム版のLASE」は第三次世界大戦前夜に生身の人間の状態から強制的に魔改造(アセンション)させられて対核兵器としてトランスヒューマン化したAIの記憶がバグやグリッチのたびにフラッシュバックし続けている曲、みたいに解釈したら俄然エモすぎて泣ける。本作の何が凄いって、「アルバム版のLASE」におけるグリッチ/ノイズが代代代の音楽的な前衛性を高めているだけでなく、その歌詞から紐解ける文脈とともに『MAYBE PERFECT』のコンセプトおよび悲劇的な運命を辿る物語の根幹部を担っている点←これに尽きる。また、他の曲にもLASEのフレーズを引用することで「LASEへの帰結」を示唆する伏線の置き方も美しい。

面白いことに、本作のCD版は甲盤と乙盤の二枚組の作品(サブスクでは甲盤のみなので、このレビューは甲盤の視点から書いている)、しかし二枚組と言っても乙盤の方は甲盤を逆から再生した、つまり甲盤の最後の曲(黒の砂漠)から逆再生する形で曲順を入れ替えただけの作品となっている。要は運営側が甲/乙の二つの視点から聴くことを公式に推奨している。そこから分かる事と言えば、乙盤すなわち逆再生盤から記憶を手繰り寄せていけば、自ずとミスリードや伏線が張り巡らされた本作の「真実の物語」すなわち真エンディング(Eエンド)にたどり着ける可能性が高まるということ。では、この物語の鍵を握る甲盤のED曲であり、対する乙盤のOP曲となる“黒の砂漠”に何故バイオロイドが打ち捨てられていたのか?そこに本作の謎を紐解くヒントがある気がしてならなかった。

いずれ起きる第三次世界大戦で勝利を収めるには、主戦力である核の脅威に耐えうる強靭な精神とインダストリアルな肉体および細胞が必須となる。その高次元な能力を会得するには、まずは男女の性別における優劣やウィークポイントを克服する必要がある。そこで我々旧人類は、性別を故意にバグらせる事でジャンルの垣根を超えて新人類にトランスフォームしたLiturgyの超越者ハンターハント・ヘンドリックスを参照し、代代代という選ばれし四人の旧時代のアイドルグループを“アイドル”の概念はもとより、もはや人間としての性別や肉体を故意にバグらせて遂にはシンギュラリティを起こすことに成功したのである。つまるところ、ボーカロイド(AIDOL)と旧人類のハーフとして徐々にトランス化していく過程を描いたのが乙盤の物語なんですね。

乙盤の物語を簡潔に考察するとこうだ。#1“黒の砂漠”に壊れかけのローファイなラジオと一緒に投げ捨てられたバイオロイドの肉体に、#2“破壊されてしまったオブジェ”のアイドル精神をAIDOLに学習させる魔改造を#3“まぬけ”で行うも、その研究中に「レイズ」の天啓を得た新型ウイルスによりバグが生じて「アルバム版のLASE」と「シングル版のLASE」という二つの記憶に分裂し世界線が分岐、何とかして情緒不安定なAIDOLの精神を制御する研究を終え、核の脅威に耐えうる最終的彼女が完成したことを示唆する#5“1秒”、そして遂に第三次世界大戦が勃発、『MAYBE PERFECT』に出来上がったはずの最終的彼女は超越的(Transcendental)な能力を発揮すると、AI(愛)を知らないバイオロイドがAI(愛)の力で地球もろとも旧人類を滅ぼし全てを無に還す...。そして唯一生き残った旧人類の主人公と四人のバイオロイドによるハーレム云々でEエンドを迎える。

このように、甲盤の曲順が示す曖昧な物語よりも乙盤の逆再生順が示す悲劇的な物語の方が真エンドっぽいかもしれない。乙盤において徐々に薄れゆくアイドル時代の記憶、そして心と体が最終的彼女へと移行していく中で、やがて記憶と記憶の邂逅が真実を呼び起こすように、古の終末戦争時に開発された最終兵器彼女の記憶が「レイズ」の記憶と交錯し、時空を超えて現代アイドルの代代代に受け継がれているエモさったらない。

ここまでの話は冗談として聞き流してくれていいけど、しかし神パンチラインゲー『ニーアオートマタ』、というよりは虚淵玄作品に近いポストアポカリプス的な荒廃した世界観がシックリくる至極難解なSF作品なのは確か。それこそ『ニーアオートマタ』の前日譚を描いた舞台『少女/少年ヨルハ』のような演劇的なライブアレンジが映えそう、というか複雑な転調を繰り返す楽曲構成的にも面白い演出が期待できそうな予感。とにかく、代代代の作品としては2ndアルバム『∅』以来の大大大名盤です。

乙盤
01.黒の砂漠
02.破壊されてしまったオブジェ
03.まぬけ
04.LASE
05.1秒
06.THRO美美NG

Shapeshifter - Dark Ritual

Album 『Dark Ritual』
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Tracklist
01. Dark Ritual
02. Black Liquid
03. Erase
04. Rust
05. Dead Man
06. Mind Twist
07. Hereditary
08. Hollow
09. Abortive Flower
10. Psycho Eyes
11. Toxic

2020年に結成された東京のグラインドコアバンド、Shapeshifterの2ndアルバム『Dark Ritual』の何が凄いって、例えるなら灰野敬二やBoris、そしてENDONに代表されるジャパニーズ・ノイズとカニコーも裸足で逃げ出す殺傷性の高い残虐性を内包したパワー・バイオレンス/グラインドコアを量子レベルの光の速さで衝突させたような作風で、何と言ってもその聴いてるだけで脳ミソが掻き回されそうになるエゲツないサウンド・プロダクション、それはまるで“ノイズキング”ことスティーヴ・アルビニの文脈で語られるべき音作りの尋常じゃないほどの“こだわり”、この「音作り」一つ取ってみても彼らの非凡さが伺える。

再生ボタンを押した途端、言わば実質アルビニ仕様のノイズが約50秒流れるだけの曲と呼べないような曲を表題としている所からして「こいつらただもんじゃない」と約50秒で理解させてから、そのノイジーな波長を維持した状態のままカニコーばりにグロテスクかつブルータルなリフでエゲツない殺戮を繰り広げる#2“Black Liquid”、いわゆるDビートを刻みながらカオティックに展開する#3“Erase”、一転してマスロック的な一般人アピールというかインテリジェンスな側面を垣間見せるユルいイントロから急転直下にノイズ地獄へと突き落とす#4“Rust”、クラブのDJがハイになりながらターンテーブルをキュッキュしてる雰囲気の近未来型ノイズ/ポスト・ハードコアの#7“Hereditary”は本作のハイライトで、そしてBPMを抑えてThouやENDON級のドゥーム/スラッジーな轟音ヘヴィネスを叩き込む#9“Abortive Flower”、グリッチ/ノイズでバグり散らかしている#10“Psycho Eyes”、オルタナティブな側面を垣間見せながら18秒に全てを濃縮した#11“Toxic”まで、そのサウンド・プロダクション並びにソリッドなリフメイク、並びに海外バンドと比べてどうしてもキレ負けする印象の国産バンド特有のモタつきを一切感じさせないキレッキレな演奏力の高さにも驚かされるというか、とにかく今年のInfant Island枠およびportrayal of guilt枠として認知できるバンドが、まさか日本のアンダーグラウンドシーンから出てくるなんて夢にも思わなかった。

シンプルに気になって2021年作の1stアルバム『The Darkest Night』を(8分だし)チョロっと聴いてみたら、わりとありがちなDビート/ブラッケンドコアで少し意外だったというか、それ故に本作のノイズ象印の音作りは一体どこで学び、この一年も満たない短いスパンで一体どんな暗黒儀式(黒魔術)に手を染めたのかと変に邪推せざるを得なかったのも事実。それこそ幽霊や爬虫類人など、さまざまな姿に変身する妖怪とされる“シェイプシフター”という名が体を表すように、#4のイントロをはじめ要所で垣間見せるオルタナティブな側面もステレオタイプのグラインドコアとは一線を画す、その独自の革新性とエクストリーミーな思考回路に裏打ちされた彼らの実験的および超越的(Transcendental)な音楽スタイルを紐解く鍵は、レーベルメイト(ungulates)である日本のスリーピースオルタナバンドことdowntの音源を聴けば自ずと理解できるはず。大袈裟じゃなしに、もはやノイズの神様に取り憑かれたとしか思えないような覚醒の仕方というか。とにかく、その辺の裁量は個人レベルの感想でしかないけど、少なくとも彼らが世界基準の新鋭バンドであることには変わりないです(正直、ピッチフォークのメタル担当にフックアップされても何らおかしくない)。

Parvāne - Parvāne

Artist Parvāne
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Album 『Parvāne』
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Tracklist
01. 蛾の死
02. 追試
03. 毛毛蟲放克
04. 見てるだけの拷問
05. 十三月の鯨
06. 御破算
07. 浮く家

2022年に復活を控えている現代プログレ界の重鎮Porcupine Treeの頭脳スティーヴン・ウィルソンのこれまでのソロ活動において、彼はPTでは手が出せないような数多くの実験的なアプローチを自身の楽曲に取り入れてきた。それを象徴する一つがヒップホップからの影響である。わかりやすい所では、昨年リリースしたソロ作の『The Future Bites』において、同年にイェに改名したカニエ・ウェストの“On Sight”をオマージュした楽曲が見受けられた。そのようにして、いわゆるプログレとヒップホップという相容れないと思われた二つの音楽ジャンルの垣根を超えた調和、それはSWソロにおける実験性が行き着くところまでたどり着いた=「終着点」を意味していた。

何を隠そう、PTのスティーヴン・ウィルソンが60年代の伝統的なプログレッシブ・ロック側からヒップホップの解釈をもって現代的にアプローチしたオルタナティブなエンジニア兼プロデューサー兼ミュージシャンならば、言わばSWの逆の立場すなわちヒップホップ側から伝統的なプログレッシブ・ロックの解釈を現代音楽のヒップホップに落とし込んだエンジニア兼プロデューサー兼ラッパーこと、試金(Sicken)氏が昨年5月に立ち上げた音楽プロジェクト、その名も蛾を意味するParvāneである。

マスタリングや一部の楽器以外ほぼ全ての楽曲制作を試金氏が担っているParvāneの音楽は、例えるなら東京のヒップホップユニットDos Monosと共振するオルタナティブなヒップホップイズムとデスメタルやハードコア/パンクに精通する暴虐性および反骨心、そしてPorcupine TreeDeftonesに精通するニューウェイブ/プログレ/ネオサイケ/インダストリアル/フュージョンを経由したシンセやギターによるアレンジがエクストリーム合体した、もはやアヴァンギャルドやエクスペリメンタルという生半可な言葉じゃ説明できない言語化不可能なほど前衛的、それこそ既存のヒップホップにおける常識や概念をぶっ壊して、ヒップホップの存在を超越的(transcendental)な領域にアセンションする事に成功している。

ヒップホップとプログレの邂逅と聞いて真っ先に思い出されるのは、やはりトラックメイカーである荘子itがフリージャズやプログレの解釈を現代ヒップホップに落とし込んだDos Monosがその最たる存在だが、このParvāneはもっと直感的に60年代および70年代のプログレッシブ・ロックをヒップホップのフォーマットに落とし込んだ、いわゆる転調や変拍子を織り込んだプログレならではのバンドサウンドをトラックの基準としている。その音楽的な面も含め、既存のヒップホップから一線を画していると思ったのは、それこそヒップホップ特有の文化であるフィーチャリング文化やサンプリングを一切踏襲していない点にある。そのDeftonesの影響下にある歪んだギターサウンドをはじめ、ドラムやベース、そしてシンセという一般的なロックバンドでも馴染み深い楽器が織りなす、ロック畑でも余裕で通用するトラックメイキングにしても、少なからず既存のヒップホップ畑の中で甘んじているラッパーには実現不可能なサウンドメイキングは、このParvāne最大のオリジナリティであり、同時にそれは試金氏のアイデンティティに直結する事柄でもある。

また、試金氏は文芸誌「文芸思潮」の第17回現代詩賞に投稿され、総数732作もの応募の中から最終選考の候補作となり、佳作を受賞しているという経歴の持ち主でも知られる。そんな試金氏にとって処女作となる本作においても、その12~14世紀イスラーム哲学の流れを汲んだ独創的なリリックをはじめ、「処女膜」などの赤裸々なワードセンスやフロウの刻み方も俄然Dos MosnosのMC没を彷彿とさせ、中でも“プレイヤーとしての試金氏”と対になる“ラッパーとしての試金氏”その特異性、および思想的な一面を垣間見せる#3“毛毛蟲放克”の(某ドラえもんや某虫ポケモンも登場する)演劇あるいは“試金氏なりのポエトリーラップ”というより一種の現代的な落語パートにおけるお前が安倍晋三なら、俺はエイブルトンライヴだ。お前が竹中平蔵なら、俺は竹内朋康だ。お前が菅義偉なら~という詩人ラッパーらしいリリックの説得力ったらない。なお、その三島由紀夫が憑依したかのような火の玉リリックに被さるようにして、心のなかでフィーチャリング俺がベーシックインカムカムイン!ベーシックインカムカムオン!みたいなエアフロウを刻んでいる模様。

まるで村の入口に「日本国憲法この先通じず」みたいな看板がそびえ立ってそうな辺境の田舎で夜な夜な執り行われる奇祭、それこそGEZANに肉薄するオルタナティブな奇祭の幕開けを飾る#1“蛾の死”からして、開口一番PT『Fear Of A Blank Planet』を彷彿とさせるサイケデリックなシンセとノイズロック的なギター、そしてこの奇祭を演出する長である試金氏のGulchばりにオカルティックでパンキッシュなポエトリーリーディングが、Diskordばりにカオティックな不協和音(dissonant)を狂奏する一種のハードコア・ヒップホップあるいはエクストリーム・ヒップホップで、オートチューンを効かせた試金氏のガナリ声やアコースティックなギターを神事的に駆使しながら俄然サイケに揺らめくシンセを強調した#2“追試”、グリッチ/ノイズ/インダストリアルな側面とジャズ/フュージョン的な側面が調和した#4“見てるだけの拷問”、不協和音を奏でるサイケデリックなシンセから突如Deftones級のギターのヘヴィネスが全てをなぎ倒していく#5“十三月の鯨”など、そのオルタナティブなインストゥルメンタルや非凡な楽曲構成はもとより、ロックミュージックならではのリズムやグルーヴの刻み方からは彼の類稀なる才能を伺わせる。

全7曲トータル約46分、そのうち3曲が8分を超える長尺という既存のヒップホップからは到底考えられないプログレッシブかつ前衛的な本作において、そのヒップホップとプログレの邂逅が最も顕著に表現されている約10分に及ぶ#6“御破算”は、PT然としたネオサイケなシンセと打ち込みをフィーチャーしたイントロから、後期SWソロを彷彿とさせるオルタナティブ・ヘヴィなギターリフやキング・クリムゾンもビックリのセンスしかない変拍子および転調を惜しげもなく盛り込んだプログレを極め尽くしたようなサウンディングを繰り広げ、終盤からGEZAN化するとトライバリックな奇祭の総仕上げとして御破算(-5+8=3)!御破算(-5+8=3)!と呪詛のような声劇を展開する。そして冒頭のフュージョン然としたオシャンティなニューエイジ/AORを耳にしたら本作がヒップホップだと勘づく人は誰一人としていないであろう#7“浮く家”は、このガスリー・ゴーヴァン顔負けのギタープレイを本職ラッパーの詩人が演奏していると考えただけでエモいというか、そんなプログレ脳とヒップホップ脳をマルチに兼ね備えた試金氏こそ「ヒップホップ界のスティーヴン・ウィルソン」と言っても過言ではないのかもしれない。

今回、その試金氏が当ブログの読者とのことで直接メッセージを頂いたのが事の発端っちゃ発端で、試金氏曰く主に(SWはもとより)DeftonesUlverに関する記事の内容に賛同して頂いているとのことで、そんな筆者のような特殊な趣味嗜好を持ったブロガーのフォロワーが生み出した音楽と言ったら随分大げさだけど、少なからず当ブログの読者にもぶっ刺さること請け合いの60年代のプログレッシブ・ロックへのリスペクトと愛に溢れた音楽をやってる事には変わりなくて、それこそ当ブログにおいて決してメインストリームの扱いとは言えないヒップホップが当ブログの穴というアナ(ワームホール)を通すことで一つに繋がる、まるで男女のように相容れることのないジャンル同士の垣根を超越(transcendental)した唯一無二のヒップホップが試金氏であり、このParvāneなんですね。

この処女作は、まさにヒップホップが現代のパンク/ロックであるとされる所以、それを確信付けるようなヒップホップ=ロックな作品であり、既存のヒップホップの常識を覆す三島由紀夫並の才能に相見える事のできる傑作なので、まず当ブログの読者にこそ一聴して頂きたい所存。むしろ逆に、こんな才能の塊みたいな詩人に自分の拙い文章を読まれている事にただただ恐縮するというか、逆に感謝しかないです。とは言え、こんな奇才がアンダーグランドで埋もれてる日本のヒップホップ界隈、レベルが高すぎるのか、あるいはリスナーの審美眼が無さすぎるのかは不明というか皮肉はさて置き、とにかくある意味では2021年の年間ベストアルバムのスピンオフに位置づけられる“裏ベスト”的な一枚。

【追記】
試金氏本人様より、#7“浮く家”のギターは知り合いの人による演奏であり、それ以外の本作のギターは全て打ち込みであるとの回答がありましたので、今ここで訂正させていただきます。

Gonemage - Sudden Deluge

Artist Gonemage
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Album 『Sudden Deluge』
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Tracklist
01. Shifted
02. Paraselene
03. Sulk Sheets
04. Gumbulang Na Alon
05. No Corpse Found, Just A Spirit
06. Prisoner Of A Gaudy And Unlivable Present
07. Wisteria Sights (Pushed To Extreme Delights)
08. Pixel Expedition
09. Delirium
10. Scrying

昨今、成長著しいインディーゲームを装ったジャケに惹かれて、テキサスはダラス出身のGonemageの2ndアルバム『Sudden Deluge』を興味本位で聴いてみたら、そのドット絵のダンジョンRPG型インディーゲームを思わせるアーケードやゲームボーイ、あるいはファミコンに代表されるレトロゲーのBGMや効果音から誕生した、いわゆるチップチューンと呼ばれるジャンルのピコピコシンセをはじめ、Machine GirlThe Armedを連想させる素っ頓狂でパンキッシュなノイズロック的なアプローチ、そしてアヴァンギャルドなブラックメタルがエクストリーム合体した、自分でも書いてて言語化不可能なほどブッ飛んだ(メタバースにアセンションしたかのような)ハイパーポップあるいはウルトラポップやってて、例えるなら今年の俺的GOTYでもあるAAAタイトルの『サイバーパンク2077』を2Dの横スクロールアクションのフォーマットに落とし込んだようなイメージ(意味不明)。

この手のアニメやゲーム等のサブカルチャーの影響下にあるアンダーグランドなサブラックメタルといえば、今年のBandcamp界隈を賑わせたブラジルのsonhos tomam contaや韓国のParannoulThe ArmedMachine Girlを繋ぐ橋渡し的な存在というか、その系譜に位置しているのがこのGonemageである。それはまるで、ゲームの世界におけるバグやグリッチをブラックメタルに落とし込んだ、ハンター・ハントヘンドリックス率いるLiturgyともシンクロするグリッチだらけでバグったブラックメタル(transcendental black metal)の一種で、例えるなら野田クリスタルが制作したリアルにバグったスーパーマリオの世界で「3の倍数と3の付く数字でアホになる世界のナベアツ」が主人公(勇者)のクソゲーをプレイしているような感覚(意味不明)。とにかく、このように音楽シーンを飛び越えてサブカルのトレンドを押さえている器用な作品でもあって、まるでミニ四駆の違法モーター積んでんじゃねぇかくらい頭のネジが飛んじゃってる「ハイパ~ポップ!ハ~イ!」みたいな感じのピコピコミュージック、少なくとも8bitのキャパは優に超えるその音楽的な文脈の広さは、このGonemageが只者ではない事を示唆している。

The Armedライクなノイズ/パンクと8bitのコンピューターゲームの効果音的なピコピコシンセがカオティックに絡み合う#1“Shifted”を皮切りに、冒頭からノイズ/シューゲイザー的な浮遊感とemoみのあるオルタナティブなアプローチを効かせた#2“Paraselene”、パンキッシュなテンションから一転してアヴァンギャルドなブラックメタルの#4“Gumbulang Na Alon”、トレモロによる不協和音と金切り声を放ちながら粗暴なブラストビートでコンピューター・ブラックメタルを繰り広げる#5“No Corpse Found, Just A Spirit”におけるアウトロのローファイ・ヒップホップ的なチルいアプローチからは、それこそ『サイバーパンク2077』のようなAAAタイトルと『コーヒートーク』のようなインディーゲームを紡ぎ出す意図を感じさせる。ある意味で元祖ダンジョンシンセを駆使したシンフォニックでファンタジックなブラックメタルを展開する#6“Prisoner Of A Gaudy And Unlivable Present”は、Svalbardのセレナ・チェリーによる神ゲー『スカイリム』を題材にしたサイドプロジェクト=Noctuleの膝に矢を受けてしまったオープンワールドRPGの世界観に直通する。本作のハイライトを飾る#9“Delirium”、そしてダンジョンシンセの極地みたいなインストの#10“Scrying”もこのクソゲーのエンドロールを飾るに相応しい一曲と言える。

確かに、この手のピコピコ/キラキラシンセとブラックメタルのクロスオーバーといえば、最近ではAbstract Voidが似たような事やってた気がするけど、確かに互いにシンセを大々的にフィーチャーしているものの、このGonemageはチップチューンの影響下にあるポップなシンセとThe Armed的なアヴァンギャルド~ハードコア/サイバーパンク寄りのブラックメタルのクロスという明確な違いがある。ので、どちらもオヌヌメです。

Spectral Lore - Ετερόφωτος

Artist Spectral Lore
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Album 『Ετερόφωτος』
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Tracklist
01. Ατραπός
02. The Golden Armor
03. Initiation Into The Mystery
04. The Sorcerer Above The Clouds
05. Apocalypse
06. Ετερόφωτος
07. Terean

昨年、USBMのMare Cognitumとのスプリットアルバム『Wanderers: Astrology Of The Nine』という2時間映画並の超大作を発表するやいなや、アンダーグランドメタルシーンで一躍大成功を収めた、ギリシャ人のAyloss氏による独りブラック・メタルプロジェクト=Spectral Loreのオリジナル・アルバムとしては2014年作の4thアルバム『Ⅲ』から約7年ぶりとなる本作の5thアルバム『Ετερόφωτος』は、アートワークに模されたギリシャ神話に登場する巨人神族の一人であるプロメテウスが人類を創造し、その人類に火という名の知恵を与えたように、混迷を極めし現代の腐敗と堕落にまみれた終末人類に対して、それすなわち“主”の代弁者として革新的かつ革命的な叡智を授けるような、まさに「超越的なブラック・メタル」すなわち“transcendental black metal”の傑作となっている。

アルバムの幕開けを飾る#1“Ατραπός”からして、冒頭からスプリットアルバムの延長線にある荒涼感あふれるブラック・メタルの精神性とプログレ・メタルの構成力、そしてUSレジェンド=TOOL『Lateralus』を経由したJambinai『ONDA』を彷彿とさせる呪術的なウネリを効かせたリフ回しと密教的なボイスが織りなすオルタナティブな革新性がエクストリーム合体した曲で、この時点で大成功を収めたスプリットアルバムとは一線を画す代物である事がわかる。

その大袈裟に言うと“ブラック・メタル化したTOOL”を象徴するのが、TOOLの約13年ぶりとなる復活作『Fear Inoculum』に対するブラック・メタル側からの回答と言わんばかりの#3“The Sorcerer Above The Clouds”で、イントロからTOOLの復活作を司る“Invincible”が間違って始まったかと錯覚するレベルの、それこそ呪術廻戦おっ始めようってんじゃなかろうもんのTOOL然としたリフとギターワークの(オマージュってレベルじゃない)オマージュに笑う(アウトロも同様に)。結局、このアルバムの何が凄いって、神話上の巨人族であり人類を創造した始祖プロメテウスと、その“主”から超越的な叡智を授かった『進撃の巨人』のメタファーであるTOOL『Fear Inoculum』という二体の巨人をバチバチに共鳴させている点で、他にもImperial Triumphantばりのアヴァンギャルド・ブラックを展開する#5“Apocalypse”、そのアヴァンギャルドな流れを引き継いだ#6“Ετερόφωτος”では、再びTOOLならではのトライバルなアプローチとデレッデレッと複雑怪奇にウネるリフが織りなすクリーンパートを披露する。

そしてラストを飾る約20分に及ぶ#7“Terean”では、本家TOOLを凌駕する一寸の光もない“暗黒森林”を繰り広げるダーク・アンビエントで、それこそ『エイリアン』シリーズの前日譚である映画『プロメテウス』のように、紀元前32億年前の「無」状態の地球にプロメテウスを模したエンジニアが降臨し、自らのDNAを拡散し人類の誕生を促す瞬間みたいな、そんな新人類の誕生を描き出すような神秘的かつ密教的な典礼(Liturgy)の中から次世代のシン・エイリアンもといシン・人類が生まれちゃうやつ・・・!

実は、翻訳できない謎の古代文明文字繋がりでもあるATVMのデビュー作に引き続き、本作もコリン・マーストン案件と聞いてなるほどガッテンする完成度の高さで、確かにKralliceの新譜も『エイリアン』チックなSF要素満載の傑作だったけど、やっぱクラリスすげぇな・・・なんて話はさて置き、ヘタしたら本家TOOL『進撃の巨人』を超えてんじゃねえかくらいの、人によっては例のスプリットアルバムよりも気に入ること必須の一枚。
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