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墓っ地・ざ・ろっく!

Post-Metal

Ashenspire - Hostile Architecture

Artist Ashenspire
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Album 『Hostile Architecture』
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Tracklist
01. The Law Of Asbestos
02. Béton Brut
03. Plattenbau Persephone Praxis
04. How The Mighty Have Vision
06. Apathy As Arsenic Lethargy As Lead
07. Palimpsest
08. Cable Street Again

ニューヨークのImperial Triumphantが生み出した、かのケニー・Gを客演に迎えたアヴァンギャルド・メタルの傑作に対抗するかのように、スコットランドを代表するポスト・ブラックことFallochのメンバー擁するグラスゴー出身のAshenspireによる2ndアルバム『Hostile Architecture』は、壮麗優美なヴァイオリンやケニー・Gさながらのサックス、そして中東の民族楽器であるダルシマーが織りなすジャジーなアヴァン・プログmeetブラックメタルをベースに、CynicVoivod...ひいてはTOOLの近作を連想させる現代ポストメタル風の無機的なポスト・キザミ成分、資本主義を確立した産業革命が後の社会に及ぼした影響、そのUKという名の階級社会において抑圧された労働者階級の視点で描かれるアナーキズムに溢れたパンキッシュなリリック、および権力への抵抗を示す喜劇的なボーカルワークが(血税が投入された)バロック的な建築様式に則って、さしずめシニカルなスコティッシュ・ブルータル・デカダンスを繰り広げている。


幕開けを飾る#1“The Law Of Asbestos”からして、過去に同レーベルのCode666に在籍していたOGのネ・バブリシャスさながらの超絶epicッ!!なヴァイオリン擁するdissonantなアヴァン・ブラックと、近年のCynicを彷彿とさせるインテリジェンスなポスト・キザミが交錯するプログレッシブかつカオティックな楽曲構築力を垣間見せたかと思えば、継続してネ・バブリシャス的な粗暴なブラストビートを効かせたブラックメタルらしい#2“Béton Brut”、ローズ・ピアノとヴァイオリンが奏でる内省的なアプローチを内包した悲壮感溢れるデプレッシブ・ブラックメタルの#3“Plattenbau Persephone Praxis”、それこそImperial Triumphantさながらのコンテンポラリーな喜劇を演じるかの如しオペラティックなボーカルとクワイアが織りなす#4“How The Mighty Have Vision”、冒頭からMastodonを想起させるスラッシュメタルmeetテック/ポストメタル然としたモダンなリフ回しを叩き込むパンク/ハードコア精神に溢れた#5“Tragic Heroin”、継続してタイトなポスト・キザミを中心にプログレ・メタル然とした転調を繰り返す#6“Apathy As Arsenic Lethargy As Lead”、在りし日のKATATONIAを彷彿とさせるイントロのリフレインを皮切りに、シタールが奏でる民謡的なフレーズとジャジーなサックスが織りなすミニマルなインストの#7“Palimpsest”、冒頭からネ・バブリシャスやICDDさながらのエクストリームメタル然としたブルータリティを粗暴に吐き散らしながら、一方で悪夢の如し生々しいトラウマをフラッシュバックさせるKATATONIAのBサイドさながらの陰鬱で内省的なブレイクパートを織り込んだ、それこそ“スコティッシュ・ブルータル・デカダンス”と呼ぶに相応しい大作の#8“Cable Street Again”まで、Imperial Triumphantや初期のネ・バブリシャスなどのエクストリーム/ブラックメタル勢のみならず、最近のVoivodCynicに肉薄するポスト・スラッシュおよびポスト・メタルを経由したポスト・キザミの使い手として、今年のメタルアルバムの中ではマストの傑作と断言できる(Fallochフアンはもとより)。

Bad Omens - The Death Of Peace Of Mind

Artist Bad Omens
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Album 『The Death Of Peace Of Mind』
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Tracklist
01. Concrete Jungle
02. Nowhere To Go
03. Take Me First
05. What It Cost
07. Bad Decisions
08. Just Pretend
09. The Grey
10. Who Are You?
11. Somebody Else.
12. IDWT$
13. What Do You Want From Me?
15. Miracle

今年のBMTH枠。というのも、リッチモンド出身のBad OmensといえばBMTHのフォロワー、厳密に言えば『Sempiternal』『That's The Spirit』前後のBMTHフォロワーとして有名なメタルコアバンドで、何を隠そう前作から約3年ぶりとなる3rdアルバム『The Death Of Peace Of Mind』は、それこそ前作と同年(2019年)にBMTHが発表した6thアルバム『amo』において彼らが未来へ向けて示し出した“20年代のヘヴィネス”をフォロワー最右翼ならではの正しい視点から丸々コピーしている件について。


改めて、BMTH『amo』の革新性って、一見ただのメジャーなポップ・ミュージックと見せかけて、10年代の終りに未来を見据えた“20年代のヘヴィネス”の基準の一つをヘヴィロックシーンに提示した事にある。その象徴的な曲であるダニ・フィルスをフィーチャーした“Wonderful Life”は、つい最近その某曲のリフメイクにおける(10年代メタル総合ランキング同率1位のGojiraとメシュガーを的確に捉えた)10年代のヘヴィネスを20年代のヘヴィネスとして次世代の解釈と独自の視点からアップデイトしたのが、他ならぬ日本のCVLTEPaleduskがコラボした“eat acid, see god.”である。それでは、BMTHのコピバンもといフォロワーのBad Omensは、本作において如何様にして『amo』を自分達のモノとして料理したのか?

それこそ、本作の幕開けを飾る#1“Concrete Jungle”からして、シングルの“Wonderful Life”とともに『amo』を象徴する一曲目の“I Apologise If You Feel Something”から二曲目の“Mantra”までの一連の流れを一曲に集約したかのような、トリップホップ/アートポップ風のキレイめな打ち込みとバンドの中心人物でありリードボーカルのノア・セバスチャンによるオリヴァー・サイクス顔負けのクリーンボイス、そして“Mantra”を模したドライブ感あふれるグルーヴィなリフを『amo』のサウンドを模したプロダクションに乗せて、そしてタイトルの「Concrete Jungle」というノルウェーの歌姫AURORAの“Animal”を想起させるニューエイジ思想に傾倒したリリック/ポップなメロディを中性的な歌声で歌い上げる。つまり、昨今のオリィの発言におけるリベラルな立ち位置と、今やケツモチがディズニーことAURORAの立ち位置の近親ぶりを理解したフォロワー脳じゃなきゃ実現不可能な一曲となっている。


Amorphis『Under The Red Cloud』や近年のTOOLに精通するポストキザミから形作られるポストヘヴィネスと、BMTHが“Wonderful Life”で示した現代ポストメタルにおける“20年代のヘヴィネス”の邂逅をいともたやすくやってのける#3“Take Me First”、もはやBMTHフォロワーの肩書きをブチ破るかの如し現代ポストメタルの一つの回答であるかのようなプロダクションおよびヘヴィネスを展開する#4“The Death Of Peace Of Mind”や#5“What It Cost”など、アルバム前半における全てのリフおよびヘヴィネスが“Wonderful Life”を多角的な視点から解釈した結果と言っても過言じゃあなくて、兎に角その逐一徹底したBMTH愛に脱帽する。

冒頭のAURORAのみならず、アルバム後半はEDM(Trap)のアプローチを効かせたBMTH直系バラードの#7“Bad Decisions”を皮切りに、ElsianeVERSAを連想させるエレクトロニカ/トリップホップ志向の強い#10“Who Are You?”、『amo』の隠し要素だったK-POPのLOONA顔負けのヤーウェイ系EDMをフィーチャーした#11“Somebody Else.”におけるノア・セバスチャンのジェンダーを超えた女性的な歌声は本作の聴きどころの一つと言える。もはやグライムスとフィーチャリングできないならできないなりにセルフで女体化すればイイじゃんのノリでフェミニンな色気を醸し出している。と同時に、もはや自分の中で伝説化してるVERSAをフォローアップしている時点で俺感の読者なんじゃねぇか説が芽生えるなど。とにかく、要所で垣間見せるストリングスの鳴らし方とかエレクトロな打ち込み要素をはじめ、その他細部に至るアレンジまでも『amo』をモデリングしている徹底ぶり。

ジョーダン・フィッシュ顔負けのシンセやストリングスを擁する#13“What Do You Want From Me?”は、『amo』のハイライトを担う“Mother Tongue”をラウド寄りに仕立て上げたようなポップメタルのソレで、BMTHがグライムスとコラボした“Nihilist Blues”を模したミニマルなエレクトロビーツを刻む#13“What Do You Want From Me?”、そしてアルバムの終わりがけに自分たちの出自がメタルコアバンドであるという記憶を取り戻し、アリバイ作りのために仕方なくゴリゴリのメタルコアをやってのける#14“Artificial Suicide”からの#15“Miracle”まで、総評するとオリジナリティは皆無に近いけど「BMTHフォロワー」としては100点満点だし、あの『amo』を世界一のフォロワーなりに独自解釈した結果、人によっては本家『amo』と同等、いやそれ以上に凄いことやってんじゃねぇか説を唱える人も多数いそう。

なんだろう、そのBMTHフォロワーとしてのネタ的な視点、BMTH『amo』で紡ぎ出した“20年代のヘヴィネス”の回答としてのオルタナティブな革新性、そしてAURORAVERSAを連想させるフェミニンな隠し要素が多数盛り込まれた、決して「いわゆるフォロワー」の枠にとどまらない凄みが本作にはある。かろうじてハイパーポップ化だけはしなかったのは唯一の救いか。

Author & Punisher - Krüller

Artist Author & Punisher
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Album 『Krüller』
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Tracklist
01. Drone Carrying Dread
03. Centurion
04. Maiden Star
05. Misery
06. Glorybox
07. Blacksmith
08. Krüller

カリフォルニアはサンディエゴ出身のトリスタン・ショーンによるワンマンプロジェクト、Author & Punisherの約4年ぶりとなる6thアルバム『Krüller』の一体何が凄いって、UKのJesuGodfleshの系譜にある無機的なインダストリアルデザイン、オーダーメイドの特殊な精密機械から生成されるドローン/ノイズが内在したThou顔負けのスラッジ/ドゥームメタル然とした邪悪ネス、Nirvanaに代表される90年代グランジの鬱々とした内向性を破滅的にクロスさせながら、そしてDeftones(†††)やパラロスを連想させるゴシックな耽美性(エロティシズム)を醸し出すダークシンセのミステリアスな旋律が無機質な世界をアーバンに彩る、ありがちなインダストリアルミュージックにとどまらない、全く新しい現代ポストメタルの形を提示している件について。

そんなA&Pのオルタナティブな側面を裏付ける、USオルタナレジェンドTOOLのベーシストであるジャスティン・チャンセラーが参加した曲で、ホラー/サスペンス映画のサントラばりに不気味なシンセと機械的な打ち込みが織りなす#3“Centurion”や同じくドラマーのダニー・ケアリーが参加した#5“Misery”を筆頭に、幻想的に煌めくシンセをフィーチャーしたドローンmeetポストメタルの#4“Maiden Star”、Portisheadのカバー曲の#6“Glorybox”、Ulverがエレクトロに傾倒し始めた『Perdition City』をグリッチ/ノイズまみれに魔改造してバグらせたような#7“Blacksmith”、そしてDeftonesのチノ・モレノ顔負けの中性的な歌声を擁しながら官能的かつダークアーバンな世界観を形成する表題曲の#8“Krüller”まで、いわゆる90年代初頭から後半に黎明を迎えたオルタナ/グランジやニューメタルなどの当時のヘヴィロックを、(マシズモほとばしる前衛的なジャケが示唆する)実験的なアプローチをもって現代的なポストメタルにアップデイトさせたような作品。それこそTOOLが2019年に発表した『Fear Inoculum』を足がかりに、2020年にDeftonesが発表した『Ohms』に象徴される“20年代のヘヴィネス”を別路線から合流してきたイメージ。例えば、20年代以降のThouEmma Ruth Rundleのコラボアルバム『May Our Chambers Be Full』Humの復活作『Inlet』とはまた少し方向性の違ったアヴァンギャルドでオルタナティブなヘヴィネスとして。

Cult of Luna – The Long Road North

Artist Cult of Luna
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Album 『The Long Road North』
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Tracklist
02. The Silver Arc
03. Beyond I
04. An Offering To The Wild
05. Into The Night
06. Full Moon
07. The Long Road North
08. Blood Upon Stone
09. Beyond II

自分の記憶が正しければ、スウェーデンの頭脳派音楽集団ことCult of Lunaって2013年作の『Vertikal』および『Vertikal II』を最後にしばらく冬眠という名の活動休止を宣言したかと思いきや、たった三年足らずして(過去に当ブログでも取り上げたことのある)ブルックリン出身のJulie Christmasとのコラボ作品『Mariner』を発表し、体感2秒でシレッと復活するやいなや、そこから3年後の2019年にはスタジオアルバムとしては約6年ぶりとなる7thアルバム『A Dawn To Fear』を発表し完全復活を遂げた。

(この頃のCoLを返せ!w)
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7thアルバム『A Dawn To Fear』は、近作の『Eternal Kingdom』『Vertikal』シリーズにおけるプログレッシブなアソビが希薄となり、それこそ「マジメか!」って100回くらいツッコんだくらいにはクソ真面目な覇道のポストメタルやってて驚いた、と同時に気づいた事が一つあった。近年のCoLにおける「面白さ」すなわち「アソビ」を司っていた存在こそ、2003年にバンドに加入した鍵盤奏者のAnders Teglundに他ならなかったんだということ。事実、彼が2013年作の『Vertikal II』発表後に脱退して以降のCoLはある種の原点回帰というか、余計な味付けのない原材料のみのオーガニックな重厚感溢れるポストメタルに回帰することに成功、その結果が彼不在の『A Dawn To Fear』には如実に表れていた。しかし、個人的に彼らのアーティスト/ビジュアル面を含めた、例えるなら浦沢直樹の漫画『20世紀少年』に通じる二次元的というかサブカルっぽい雰囲気に特別な魅力を感じていただけに、その中でも「僕が考えた最強の実写版『デスノート』のL」みたいなAnders Teglundがバンドから離脱したのは、彼らCoLにとって致命傷レベルの出来事なのではないかと。そんな考えを持つ自分からしても、前作の『A Dawn To Fear』は“キング・オブ・スウェーデン”の称号に相応しい、漢の覚悟が込められた文句なしの傑作である事は認めざるを得なかった。というより、作品のスケールがクラシックのオーケストラ並にデカ過ぎて理解が追いつかなかったのも事実で、まさに「唖然とする」とはこの事かと。

そんなメタル史に名を残す超弩級の前作から約3年ぶりとなる8thアルバム『The Long Road North』は、少なくとも前作よりは以前までのオルタナティブな“アソビ”を多少なりとも取り戻している印象。まるで新世代メタルのコード・オレンジへの宣戦布告かと思うような、デ~ンデ~ンと荘厳に鳴り響く近年のCoLらしいドローン志向の高いイントロから幕を開ける#1“Cold Burn”からして、「CoLのリフ」として確立されたリフすなわちバンドオリジナルのリフを持っている強みとバンドオリジナルのグルーヴを持っている強み、それらのマクロなダイナミズムとは対照的なミクロな視点から綿密に組み立てられた、北風小僧の寒太郎のノスタルジックな記憶を呼び覚ます幽玄なメロディが織りなす“キング・オブ・ポストメタル”を目の当たりにして改めて思うのは、今や彼らはレジェンドIsisを源流とした00年代の伝統的なポストメタルを守護する世界で唯一のバンドなのかもしれない、ということ。

スウェーデンの女性ボーカルMariam Wallentinがチェルシー・ウルフ顔負けの呪術を廻戦する#3“Beyond I”、奇才アリ・アスター監督のホラー映画『ヘレディタリー/継承』などの劇伴にも参加しているサックス奏者コリン・ステットソンのアルト/テノールサックスをはじめフルートやリリコンなどの吹奏楽器を用いた、俄然シネマティックかつアヴァンギャルディなサントラ級のスケールで描き出す#4“An Offering To The Wild”、暗黒街に鳴り響くスラッジーなリフ主体の表題曲の#7“The Long Road North”、ドラマーのThomas Hedlundがサポートしているフランスのインディロック・バンドPhoenixのギタリストであるクリスチャン・マザライとローラン・ブランコウィッツをゲストに迎えた、今世紀最大の覇道を極め尽くしたような本作のハイライトを飾る#8“Blood Upon Stone”など、正直ここまで“バンド”としてのグルーヴを大事にしてるアーティストって今どき珍しいと感じるぐらいにはグルーヴ感に溢れ過ぎている。

Rolo Tomassi - Where Myth Becomes Memory

Artist Rolo Tomassi
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Album 『Where Myth Becomes Memory』
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Tracklist
01. Almost Always
03. Mutual Ruin
04. Labyrinthine
05. Closer
06. Drip
07. Prescience
08. Stumbling
09. To Resist Forgetting
10. The End Of Eternity

Holy Roar Recordsの創始者であるアレックス・フィッツパトリックが複数の女性から性的暴行を告発された件で、レーベルの看板娘であり屋台骨として二人三脚で長年共に歩んできたホームグラウンドから強制退去を余儀なくされたUKポストハードコアバンド、Rolo Tomassiの約4年ぶりとなる6thアルバム『Where Myth Becomes Memory』は、Black Label SocietyHigh On Fireが在籍するニューヨークのインディーズレーベルMNRK Heavyへ移籍して初となる作品。

改めて、UKの気鋭インディーズレーベルとしてメタルヘッズから一目置かれていたHoly Roar Recordsといえば、いわゆるUKポストハードコア系のバンドを主戦としながらも、昨今のメタルシーンにおけるトレンドのDeafheavenに象徴されるポストメタルムーブメントに乗っかる事に成功し、それこそRolo TomassiがHoly Roarへの置き土産として遺した前作の5thアルバム『Time Will Die And Love Will Bury It』は、DFHVNからの色濃い影響下にあるブラックゲイズをはじめポストロックおよびポストメタルを経由したオルタナティブな側面を大胆に取り入れたエクストリーム・ミュージックの金字塔と呼べる名盤だった。

心機一転、新天地からリリースされた本作においても彼らの革新的なアイデンティティは不変で、その先見性に富んだサウンド・スタイルは複雑極まりない静と動のコントラストを効かせたポストメタル/ポストロックの方向性へと舵を切っている。それにより持ち前のカオティックなマシズモは著しく減退した印象で、鍵盤奏者のジェイムズ・スペンス兄貴が奏でるリリカルな物語性を演出する神秘的なメロディを一歩前に打ち出したスタイルを軸としている。

幕開けを飾る#1“Almost Always”からして、それこそ2015年作の『Grievances』から始まり前作の『Time Will Die And Love Will Bury It』を経て本作まで続く三部作において、平凡なTDEPフォロワーだった彼らをTranscendentalな超越した存在に仕立て上げたRitual=儀式という名の魔改造に使用した禁忌の遺伝子(DNA)であるDeafheaven『サンベイザー』ばりにピンク色のノイズを撒き散らしながら、次第にピアノをフィーチャーしたATMSフィールドをまとったアンビエントな神秘世界を形成し、すると「叫ぶ女」界の特攻隊長であるエヴァ・スペンスたそが著しく洗練されたクリーンボイスで歌い上げる、まるでクソお世話になったアレックス・フィッツパトリックに対する「グッバイ」という餞別の言葉を示唆するリリックとともに、現代的なポストメタル然とした轟音が放つ怒涛のスケールとダイナミズムが俄然ドラマティックに物語を紡ぎ出していく。

全体を通して一聴する限りでは前作から特に大きな変化はない作風だと思いがちだが、本作において彼らがいかに凄いのかを証明するのが本作のハイライトを飾る#8“To Resist Forgetting”における、それこそまさにDeftonesが2020年作の『Ohms』においてシーンに啓示した“20年代のヘヴィネス”という現代ポストメタルの基準を、Rolo Tomassiなりの解釈で次世代のブラッケンド・ヘヴィネスあるいは全く新しいオルタナティブ・ヘヴィの一つの答えとして“ヘヴィネス”の概念を新世代仕様にアップデイトしている点←この一点に尽きる。それ即ち、マスコアレジェンドTDEPのマシズモを正統に受け継ぎながらも(出自)、10年代のメタルを象徴するDeafheavenを遺伝子組み換えレベルで経由して(フィッツパトリックによる魔改造)、そして出自もDNA(PINK BLOOD)も超越した本作でDefotnesMastodonに代表される今現在のヘヴィミュージックの最先端その先っちょまで到達しちゃってるエモさったらないというか、つまりあのTDEPすらなし得なかった偉業を成し遂げているヤバさ。とにかく、古巣のHoly Roar時代に培ったオルタナティブな革新性および先見性を今なお貫き通している事実に泣くし、それが、それこそが“元親”であるアレックス・フィッツパトリック改めアレックス・やらかし・フィッツパトリックに対する“娘”からの最大級の賛辞であり、これ以上ない別れの挨拶となっている。


もちろん、作品の衝撃度という点においては前作に劣るが、その前作において確立したエクストリームメタルを著しくトレンディにブラッシュアップした本作は、2015年作から続く三部作の最終章を飾るに相応しい集大成、と同時に自ら新天地からの再出発を祝うかのような傑作です。とにかく、このRolo TomassiがVevo化したのは素直に感慨深いものがあるというか、不謹慎だけどフィッツパトリックがやらかさなかったら実現しなかった案件なのも事実。
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