Artist Ulver

Album 『Messe I.X-VI.X』

Track List
01. As Syrians Pour In, Lebanon Grapples With Ghosts Of A Bloody Past

Album 『Messe I.X-VI.X』

Track List
01. As Syrians Pour In, Lebanon Grapples With Ghosts Of A Bloody Past
02. Shri Schneider
03. Glamour Box (Ostinati)
04. Son Of Man
05. Noche Oscura del Alma
06. Mother Of Mercy
ノルウェイに棲む”森のクマさん”こと、奇才Kristoffer Rygg率いる異才音楽集団Ulverというのは、初期の頃こそネオフォークやいわゆるポストブラックとかいうジャンルの原点および先駆け的な存在としてその名を上げていたが、2000年作の傑作『Perdition City』以降はトリップ感のある電子音楽/実験音楽的な音楽性へとシフトし、その流れで映画のサントラを手がけたり、近年では映像作品の『The Norwegian National Opera』を、更には60s/70sのサイケロックをカバーした『Childhood's End』をリリースしたりと、そんな異様異質異形な音楽変遷を辿っている彼ら。初期の頃から現在まで、ここまで音楽性の変化その振り幅が大きいバンドって、このUlverの他に居ないんじゃあないか?
そのUlverと同国のTromsø Chamber Orchestraのコラボが実現した本作の『Messe I.X-VI.X』、気になるその作風としては→かのKscopeとの引かれ合いが実現した前作の『Wars Of The Roses』とは明らかに毛色が違って、中心人物のKristoffer Rygg=ガルムが前々作『Shadows Of The Sun』の姉妹作だと語るように、確かに『Shadows Of The Sun』、その中でも”Like Music”や”What Happened?”を連想させるクラシカルかつアンビエーションな雰囲気を踏襲しつつ、近年Ulverが得意とするエレクトロニカとフルオーケストラによる重厚なクラシック音楽がクロスオーヴァーした、実にアヴァンギャルドかつアンニュイなモダンクラシカルを繰り広げている。また、日本人ヴァイオリニストの川見優子さんがオケの一人として参加してるのも一つのポイント。
今思えば、ピッチフォークのレビューで散々こき下ろされた『Perdition City』って、あのKscopeが掲げるポストプログレッシブサウンドの先駆け的なアルバムだったんだな・・・って、あらためてUlverの先見の明、そのセンスに脱帽するばかり。で、このUlverが所属するKscopeというのは、いわゆるLOVE&PEACEを思想/信条としながらも、一方で人間社会の非情さや無情さから目をそらさず、むしろ逆に人間の心に潜む『闇』すなわち負のエネルギーを儚くも美しい旋律に変えて、それこそ人間世界の悲惨の「線」を深裂に描き出していく、そんなKscopeが提唱スル音楽理念およびUlverの音楽に対する真意な姿勢に、あらためて僕は敬意を表したい。
そんなKscopeの音楽的理念、そして本作のメインテーマである【Ulver×Tromsø Chamber Orchestra】が顕著に感じられる、オープニングを飾る#1”As Syrians Pour In, Lebanon Grapples With Ghosts Of A Bloody Past”では、小動物の鳴き声や小鳥のさえずり、銃撃戦や爆撃機のSEによって紛争地帯という名のダークサイドに引きずり込むような演出から、それはもはやオドロオドロしい暗黒を超えた漆黒...人間同士の争いで犠牲となった死者の霊魂が彷徨い続ける黒い小宇宙を生成しながら、いわゆる【ATMSフィールド】全開の不気味な音響亜空間、その奈落の底へと沈み込むような重厚なオーケストラと哀しい旋律を奏でるピアノの音色によって、まるで映画のサントラのような、それこそ人間の業と悲しみ...復讐が復讐を生む輪廻...絶えることなく繰り返される戦争の悲劇を描いた映画『ビフォア・ザ・レイン』の如し、人間の心に潜む『漆黒の狂気』を美しく静かに、しかし深裂に描き出している。この曲、初めて聴いた時は鳥肌たったというか、あまりにも生々しすぎてゾッとしたというか、おぞましいほどの恐怖を感じた。それぐらい、『人間の狂気』というものを内面から容赦なくエグり出している。なんつーか、Cult of Lunaの名曲”Vicarious Redemption”に匹敵する”凄み”すらあった。
本作『Messe I.X-VI.X』を象徴するかのような、その素晴らしきオープニングに続いて、スウェーデンのCarbon Based Lifeformsを彷彿とさせるサイケ/トリップ感のあるヒーラー系エレクトロニカとクラシック音楽が現代的な出会いを果たす#2”Shri Schneider”、その流れからの#3”Glamour Box”ではミニマルなニカとピアノのカラミ、そしてスケール感を施すスリリングなオケが、クライマックスに向かうにつれて徐々に静寂のダイナミズムを形成していく。で、ここまで聴くと(本作はTromsø Chamber Orchestraを中心としたインストモノかな?)と思うが、本作のハイライトを飾る#4”Son Of Man”のオープニングで遂に森のクマさん...もといガルムの人類に語りかけるようなダンディなボーカルが導入され、教会の鐘や神々しい賛美歌、そして崇高かつ大仰なオーケストラが悲劇的かつ壮大な物語を演出していく、それこそ黒い旧約聖書を音で描き出すかのような、圧倒的なスケール感および展開力の高さを見せつける。この曲を聴いてしまうと、本作があくまでも”オーケストラ中心”の作風だという事がわかる。それぐらいオケの本領発揮ってやつだ。
本作の中では一番サントラ風というか、曲の展開にあまり起伏のない#5”Noche Oscura Del Alma”では、Ulverらしいレトロ感を醸し出す老舗のレイトショー的なSEが鳴り響く。そしてラストを飾る”Mother Of Mercy”はと言うと、再びガルムのムーディな歌声とオケの優美な音色が聖地エルサレムで共鳴しながら、しかしふとした瞬間に#1と瓜二つのダークサイドに迷い込んでいる事に気づいてしまったら最後→これにて『輪廻転生』が完了する...。当然、いくら『Shadows Of The Sun』の姉妹作だと言っても、約6年前のUlverと今現在のUlverが別物である事と同じように、コレとソレは全てにおいて別物であるのは確かで、本格的なクラシック音楽と電子音楽がUlverという名の数奇な運命を辿りし巨人(奇行種)の体内で出会った結果→まぁ、一言でいっちゃえばヤケに洗練されたヒーリング音楽です。さすが、本作のマスタリングを担当したのが、惜しくも解散したAltar of Plaguesの新作を手がけたJaime Gomez Arellano氏というだけあって、とにかく”音”がいい。
そんなわけで、ANATHEMAが『Universal』でオーケストラとの共演を成功させたように、Ulverもこの『Messe I.X-VI.X』で成功させた。ANATHEMAのダニー・キャバナーが出演したシリアのラジオ番組『Souriali』のインタビューを筆頭に、最近のKscope界隈の流行りはシリア問題すなわち中東問題らしく、もうなんか【オーケストラ×中東問題=Kscope】という認識でエエんちゃうの?ってくらいの中東ブームで、これにはダニー・キャバナーも「I LOVE Cyria!! I LOVE Cyria!!」と子供のように大喜びしているハズ。当然、本作も流行りの中東問題に対する痛烈なメッセージや祈りが込められた作品で、つまり彼らが『Shadows Of The Sun』で描き出していた『人類の創始』および『人類の夜明け』を、今現在のUlver流の解釈をもって輪廻(一巡)させた先の世界がこの『Messe I.X-VI.X』、というのが僕の見解。
Messe I.X-VI.X
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