Artist AURORA

Album 『The Gods We Can Touch』

Tracklist
01. The Forbidden Fruits Of Eden
02. Everything Matters
03. Giving In To The Love
04. Cure For Me
05. You Keep Me Crawling
06. Exist For Love
07. Heathens
08. The Innocent
09. Exhale Inhale
10. A Temporary High
11. A Dangerous Thing
12. Artemis
13. Blood In The Wine
14. This Could Be A Dream
15. A Little Place Called The Moon

Album 『The Gods We Can Touch』

Tracklist
01. The Forbidden Fruits Of Eden
02. Everything Matters
03. Giving In To The Love
04. Cure For Me
05. You Keep Me Crawling
06. Exist For Love
07. Heathens
08. The Innocent
09. Exhale Inhale
10. A Temporary High
11. A Dangerous Thing
12. Artemis
13. Blood In The Wine
14. This Could Be A Dream
15. A Little Place Called The Moon
昨今のコロナ時代において外タレの来日が困難な状況にも関わらず、日本の三大フェスの一つであるサマソニの代替として開催された昨年のスーパーソニックに(時期が時期だけでに当然のようにキャンセルも出たりした中で)出演してくれたAURORA(極光少女)って、北欧の妖精を通り越してもはや天使なんじゃねぇかと思わざるを得なかった。
日本人にそんな大天使ぶりを見せつけた北欧ノルウェー出身のAURORAといえば、今や日本でも大ブームとなったディズニー映画『アナと雪の女王2』の主題歌「Into the Unknown」を本国版エルサ役のイディナ・メンゼルのみならず、日本版の松たか子ともフィーチャリングするというサプライズ級の大抜擢を足がかりにして一気にスター街道を駆け上がると(ちなみに、日本ではBiSHのセントチヒロ・チッチがファンを公言している)、新世代ニューエイジャーとしての威信を背負った“北欧の歌姫”という肩書きを大きく飛び越えて、今では“欧州のビリー・アイリッシュ”いや“世界の歌姫”としての地位を確立したとかしないとか。確かに、北欧の自然豊かな片田舎から生まれたリアル『もののけ姫』におけるサンが『もののけ姫』を生んだ国であるこの日本でフェスデビューするなら、見渡す限りの森林に囲まれた苗場で開催されるフジロック一択だと思ってやまなかったけど、しかしケツモチがデズニーとなった今ではフジロックよりもサマソニ(スパソニ)の方が色々な意味で象徴的なのかもしれない。そもそもの話、資本主義の象徴と称すべきネズミーと自然崇拝および山岳信仰をテーマとしている『もののけ姫』のサンは水と油の関係性だろ、みたいなマジレスは禁止で。
(これは皮肉だが)同じ北欧出身だけあって、悪い大人にそそのかされて環境保護団体のアイコンすなわち象徴として担ぎ上げられているグレタ・トゥーンベリちゃんの音楽バージョンが今現在のAURORAの立ち位置、みたいな意地の悪い詮索はさて置き、ともあれ現代ポップシーンにおいて一つのアイコニックな存在となったAURORAの約3年ぶりとなる4thアルバム『The Gods We Can Touch』は、近作にて確立したIKEA製の洗練された北欧ポップスは不変ながらも、“リアルサン”ならではの無国籍というか多国籍風のオリエンタルでエキゾチックな魅力はより一層磨きがかかり、デビュー当時のまだあどけない十代の極光少女らしいピーキーな子供っぽい青臭さが抜けきった一人の大人の女性としての上品かつ穏やかな歌声は、それこそケイト・ブッシュの後継者として俄然板がついてきたというか、この年にして早くも“ディーヴァ”さながらの貫禄が出てきた。とにかく、本作はその少し大人びた等身大のAURORAがそのまま作品に反映したような内容となっている。
北欧の妖精を司る存在として、自然の神秘であり北欧全土で観測されるオーロラのごとし美しい波が幻影と幻想をまとってこの地上に舞い降りるイントロの#1から、姉貴分であるSusanne Sundførの後継者として一段とアダルティで落ち着き払ったAURORAの歌声とフレンチシンガーPommeのフェミニンな歌声が北欧らしい陰影な世界をダークに彩るインディ・フォークの#2“Everything Matters”、“北欧のチャーチズ”ならではのダンサブルでキャッチーなエレポップの#3“Giving In To The Love”、IKEA製らしく洗練されたダンスポップナンバーで、ElsianeのElsieanneを想起させる低域を効かせた歌声の粋なアレンジが聴きどころの#4“Cure For Me”、北欧出身ならではの昭和歌謡に通じる哀愁を帯びた艶めかしい歌声を聴かせる#5“You Keep Me Crawling”、優美なストリングスをまとったアコギをバックに昭和のシャンソン歌手さながらのアダルティな歌声を披露する#6“Exist For Love”、それこそ苗場のステージでバリ島の男声合唱で知られる“ケチャ”をバックにAURORAが呪術的かつ妖艶な演舞劇を繰り広げる絵しか浮かばない#8“The Innocent”、エキゾチックな暗黒ミュージカルの世界観を形成するインディ・フォークの#9“Exhale Inhale”、キャッチーなシングル曲の#10“A Temporary High”、北欧の広大な大地や豊かな自然と対話するかの如し力強くも神秘的な歌声が地上に響き渡る#11“A Dangerous Thing”、「ケツモチがディズニー」という真の意味で“無敵の人”として現代の男性社会に蔓延るマチズモに抗うフェミニズムを内包したAURORAなりのガールズクラッシュを展開する#13“Blood In The Wine”、本作唯一となるバラードナンバーの#14“This Could Be A Dream”、グライムス的な中華風のオリエンタリズムを放つ#15“A Little Place Called The Moon”まで、一聴する限りでは派手さのない印象を受けるかもだけど、聴く回数を重ねるうちにどの曲も丁寧なアレンジで、細部にまでこだわりをもって音が練り込まれてる事に気づく。徐々に耳に馴染んでくるというか、だんだん心に浸透してくるイメージ。
北欧が生んだ妖精として現代の『サウンド・オブ・ミュージック』さながら、その音楽に合わせて舞い踊るかの如しキャッチーな大衆向けのダンス・ポップのみならず、レジェンドABBAを生んだ北欧ならではのレトロな昭和歌謡的なムードを醸し出す懐メロから、一方でイマドキのウォーペイント大好きっ子としてお茶目な一面を垣間見せるダークなフォークソングまで、多様性のあるアレンジで楽しませる質の高いオルタナティブなポップ・ミュージックは、それこそ映画『アナ雪』が好きなキッズやティーンが摂取しても問題ない、トランス脂肪酸や人工甘味料などの毒素が添加されていない天然素材あるいは自然由来の素材で構成された、それこそ環境問題やSDGsの目標にきっと優しいかもしれない音楽だ。「ケツモチがディズニー」すなわちヘタに尖ったことできない制約がありながらも、今や「世界の歌姫」となった彼女にしかなし得ないバラエティに富んだ唯一無二の音楽を自由に伸び伸びとやっている印象。少なくとも、日本のスタジオジブリとディズニーを紡ぎ出す無敵の存在として、ジブリもアナ雪も大好きな日本人こそ国民全員が聴くベき一枚です。