Artist Denzel Curry
Album 『Melt My Eyez See Your Future』
Tracklist
01. Melt Session #1
02. Walkin
03. Worst Comes To Worst
04. John Wayne
05. The Last
06. Mental
07. Troubles
08. Ain't No Way
09. X-Wing
10. Angelz
11. The Smell Of Death
12. Sanjuro
13. Zatoichi
14. The Ills
Album 『Melt My Eyez See Your Future』
Tracklist
01. Melt Session #1
02. Walkin
03. Worst Comes To Worst
04. John Wayne
05. The Last
06. Mental
07. Troubles
08. Ain't No Way
09. X-Wing
10. Angelz
11. The Smell Of Death
12. Sanjuro
13. Zatoichi
14. The Ills
マイアミ出身の“ブラックメタル・テロリスト”ことデンゼル・カリーが2018年に発表した名盤『Ta13oo(タブー)』において、当時のビリー・アイリッシュを同年のサマソニに招致したクリマン清水社長並の審美眼をもって共演した名曲の“Sirens | Z1renz”は、その年の俺的BESTラップソングの一つだったが、当時その曲でフィーチャリングしている女性歌手が(その後に『007』の主題歌に抜擢される)あのビリー・アイリッシュだと知らない状態で聴いてたのもあり、しばらく後になってその事実に気づいた時の衝撃というか引力ったらなかった。しかし、2020年に開催予定だったビリー・アイリッシュの単独来日公演のチケットが奇跡的に取れたのに、某コロナによって開催中止に追いやられたのは今でも思い出しては泣く。
改めて、2ndアルバム『Ta13oo(タブー)』でもフィーチャリングしているZillaKamiやGhosteManeに代表される昨今のトラップ・メタルムーブメントの立役者であるデンゼル・カリーといえば、マソソソ・マソソソをはじめKornやGHOSTなどの新旧ヘヴィミュージックやハイパーポップのAlice Glassが在籍するワーナー傘下のレーベルLoma Vistaに所属している一方で、その『タブー』や2019年作の3rdアルバム『Zuu』に至っては、スティーヴン・ウィルソンのソロ作でもお馴染みの大手ユニバーサル傘下のCaroline International(現Virgin Music Label & Artist Services)から作品をリリースしている。要するに、彼は現代ポップス界におけるアイコンと化したビリー・アイリッシュをはじめ、バズったRATMのCoverやトラップ・メタル界はもとよりクセの強いロック畑のバンドとも親しい共通点を持った、比較的オルタナティブな立ち位置にいる珍しいラッパーで、それ故に自分のようなロック耳にも否が応にもブッ刺さる、幅広い音楽を咀嚼したロック的なサウンドとトラップ/ヒップホップならではのビートがシームレスに交錯するラップをウリとしている。
また、デンゼル・カリーは人生においてインスパイアされた作品の一つに『カウボーイビバップ』を挙げるほど、そして今現在は『呪術廻戦』にハマっていると公言するほど日本の文化やサブカルチャーに強い関心を持ったラッパーでも知られる。そんなカリーの日本文化に対する珍妙な視線は、名盤『タブー』に収録された“Sumo | Zumo”の曲名が日本の国技である相撲から名付けられている点からも明らかだ。その次作となる3rdアルバムの『Zuu』では、一転して前作『タブー』が評価された所以と呼べるジャズ/R&B的なムードや地元マイアミ特有の倦怠感のあるチルい匂いを乗せたAOR風のシンセを極力排除して、それこそ“Sumo | Zumo”の系譜にある地元マイアミ直伝のトラップ/ギャングスタ・ラップに重きを置いた、要するに自身のラッパーとしての側面を深く掘り下げた作風で、これはこれでカリーが持つ別の顔というかジモティー愛に溢れた作品で決して悪いものではなかった。
言い方は変というか無礼(者)だが、そんなカリーの「復調気配」を垣間見せたのが、2021年にDJのKenny Beatsとコラボした『Unlocked 1.5』の冒頭を飾る“So.Incredible.pkg (Robert Glasper Version)”に他ならない。その伏線を回収するかの如し、本作の『Melt My Eyez See Your Future(目が溶ける 未来を目指せ)』の幕開けを飾るジャズピアニストのロバート・グラスパーをフィーチャリングした“Melt Session #1”では、本作の根幹部を担うネオソウルとドラムンベースが融け合った、それこそ名盤『タブー』の延長線上にあるジャズ/R&B的なムード志向のクラシック・スタイルへの回帰を示すと、それをイントロ扱いとして本作のリード曲でありシングルの#2“Walkin”へとスムースに展開していく。また、#4“John Wayne”ではカリーの盟友JPEGMAFIAが、そしてファンク調の#11“The Smell Of Death”では雷猫ことサンダーキャットがプロデュースを担当している。
それらシングル曲におけるジャケの日本語表記や“相撲”ネタはもとより(某SWの『ザー・フューチャー・バイツ』リスペクトか?)、本作の『目が溶ける 未来を目指せ』においても日本映画界の大スターである三船敏郎主演の黒澤明映画『椿三十郎』からインスパイアされたトラップ・メタルの#12“Sanjuro”、そして北野武版でも知られる勝新太郎主演の『座頭市』という昭和の日本映画を象徴する伝説的な作品からインスパイアされた曲で、昨年の俺的BESTヒップホップ・アルバムを獲得したUKラッパーのslowthaiをフィーチャリングしたシングルの“Zatoichi”は、(それこそslowthaiのアルバム『Tyon』で既に相性の良さを見せていたように)この曲においてもslowthai的なグライムなトラップ...というよりも、三浦大知の紅白曲でお馴染みの“EXCITE”みたいなJ-POPばりにキャッチーなラップは、恐らく本人も意図していない隠れ日本要素的な意味でも面白いっちゃ面白い(MVはカンフーを意識している)。また、『目が溶ける 未来を目指せ』というタイトルも暗にDeftonesのジャケ写を示唆しているようにしか思えなくて、カリーに対して“俺感”の読者説が芽生えたのは今さら言うまでもない。
全体的な印象としても、やはり名盤『タブー』に肉薄するジャズやR&B、そして昨今のトレンドであるローファイ・ヒップホップやアンビエント・ポップに精通するメンタルヘルシーなトラックメイクを楽曲の軸としながらも、決して『タブー』の二番煎じに陥ることのない、大げさだけど宇多田ヒカルの『BADモード』と韻踏めちゃうレベルの名盤だと思う。なんだろう、今年の初めに新作の『Dawn FM』をリリースしたポップスターのザ・ウィークエンドは、彼の「優しさ」それ故に前作の傑作『After Hours』を超える事ができなかったけど、このデンゼル・カリーの場合は名盤『タブー』と同等、もしくはそれを超える可能性を十二分に秘めちゃってるのがヤバスンギる。