Artist Mastodon

Album 『Hushed and Grim』

Tracklist
Disc I

Album 『Hushed and Grim』

Tracklist
Disc I
01. Pain With An Anchor
02. The Crux
03. Sickle And Peace
04. More Than I Could Chew
05. The Beast
06. Skeleton Of Splendor
07. Teardrinker
Disc II
01. Peace And Tranquility
02. Dagger
03. Had It All
04. Savage Lands
05. Gobblers Of Dregs
06. Eyes Of Serpents
07. Gigantium
USヘヴィミュージック界の“ドンファン”ことMastodonの約4年ぶり通算8作目となる『Hushed and Grim』。事前に先行シングルとなる“Pushing The Tides”を聴く限りでは、それこそ初期の獣性むき出しのカオティックなコアさとポストハードコア路線の5thアルバム『The Hunter』のキャッチーなリズムをミックスしたような、しかし『The Hunter』よりもっと初期型のリフで畳みかけるスタイルみたいな。実のところ、本作において露骨に歴代マストドンの面影を感じさせる曲って実質そのシングルだけで、バンド史上最長となる二枚組約86分に及ぶ本作の全貌は、たった数曲のシングルだけで説明できるようなそんなスケールの狭い作品では到底なかった。
本作のプロデュースには、キング・クリムゾンやラッシュの関連作品をはじめ、ピーター・ガブリエルやデヴィッド・シルヴィアン、TOOLやMuseなどのオルタナ/プログレ界を代表するバンドの作品に携わっているDavid Bottrillを迎えているだけあって、ディスク1の幕開けを飾る#1“Pain With An Anchor”からして、オールドスタイルのヘヴィメタルならではのクサメロを経由した叙情的なメロディ、不協和音を奏でるアトモスフェリックかつサイケデリックなリフレイン、ソリッドな“キザミ”を駆使した破天荒なヘヴィネス、プログレ然としたソロワークやダイナミックな楽曲構成まで、まさに本作の鍵を握る要素を一つに凝縮したような曲となっている。
まずは“キザミ”について。ディスク1では冒頭を飾る#1の低域をタイトに刻み込むソリッドなキザミを皮切りに、#2“The Crux”のプログレッシブ・ロックの専売特許であるテクニカルなインストパートにおける質量の低いスタイリッシュなキザミ、ソフトなプログレパートとポストメタル級の重厚感溢れる質量を蓄積したタイトなキザミ主体のヘヴィネスの対比を効かせた#3“Sickle And Peace”、引き続きイントロから質量豊富のポストメタリックなキザミを擁する#4“More Than I Could Chew”など、このディスク1では(それこそ“スラッシュメタル”という言葉を生み出したマルコム・ドームに捧げるかのような)往年のスラッシュメタルを希釈したポスト・スラッシュメタルならではの“キザミ”を軸とした、俄然ポストメタリックなスタイルを展開している。それこそ、彼らが歴史的名盤と謳われる4thアルバム『Crack The Skye』を境に“キザミの世界”に入門した結果、俗に言う“黄金のキザミ”を会得したバンドが為せるファストからミドルに、質量/BPMを変幻自在に操ってキザミにキザミ尽くしている。もはやキザミ界の王であるTOOLの『Fear Inoculum』への回答であるかの如し、そのキザミ意識の高さは過去イチと言っても過言じゃあない。
まずは“キザミ”について。ディスク1では冒頭を飾る#1の低域をタイトに刻み込むソリッドなキザミを皮切りに、#2“The Crux”のプログレッシブ・ロックの専売特許であるテクニカルなインストパートにおける質量の低いスタイリッシュなキザミ、ソフトなプログレパートとポストメタル級の重厚感溢れる質量を蓄積したタイトなキザミ主体のヘヴィネスの対比を効かせた#3“Sickle And Peace”、引き続きイントロから質量豊富のポストメタリックなキザミを擁する#4“More Than I Could Chew”など、このディスク1では(それこそ“スラッシュメタル”という言葉を生み出したマルコム・ドームに捧げるかのような)往年のスラッシュメタルを希釈したポスト・スラッシュメタルならではの“キザミ”を軸とした、俄然ポストメタリックなスタイルを展開している。それこそ、彼らが歴史的名盤と謳われる4thアルバム『Crack The Skye』を境に“キザミの世界”に入門した結果、俗に言う“黄金のキザミ”を会得したバンドが為せるファストからミドルに、質量/BPMを変幻自在に操ってキザミにキザミ尽くしている。もはやキザミ界の王であるTOOLの『Fear Inoculum』への回答であるかの如し、そのキザミ意識の高さは過去イチと言っても過言じゃあない。
ここでTOOLの『Fear Inoculum』に関連する話を述べると、その“キザミ”のみならず、主にギターの音色やトーンを耳にすればわかるように、本作はサウンドプロダクションを含めた音作りという音楽制作における根本的な面でも従来のマストドンと一線を画してきている。それこそ、ヘヴィロック界のキングであるDeftonesが2020年に発表した『Ohms』において“10年代のヘヴィネス”から“20年代のヘヴィネス”に更新してみせた、その現代ポストメタルの新しい形として披露された次世代のヘヴィネスと共鳴するかのような、それ即ち“20年代のヘヴィネス”に対するマストドンなりの回答であり、従来のクラシックな傾向から一転してモダンな音像に振り切って現代ポストメタル然としたヘヴィネスを轟かせている本作品は、お馴染みのPaul Romano氏が手がけたアートワークとシンクロするような発色のないモノクロームの世界観を描くように、名盤『Crack The Skye』経由のブルージーかつサイケデリックな側面を強調しながらも、過去一でテクニカル/プログレメタル然とした大胆不敵な楽曲構成力の高さと、その強度の高さが全盛期に肉薄する勢いすら感じさせる1枚となっている。
ディスク1の鍵を握る“キザミ”の他に、もう一つ別の鍵となる要素を挙げるとするなら、それは“プログレ”に他ならない。そもそもの話として、今ではマストドン=プログレのイメージを持っている人も少なくないだろうし、それは全くもって間違いではない。しかし、このディスク1における“プログレ”の概念は、例えばドンの代表作である『Crack The Skye』から連想される“プログレ”のソレとはまるで違っている。その本作におけるプログレを象徴する#5“The Beast”では、それこそ西海岸系インストみたいなイントロを皮切りに、曲中は『Crack The Skye』の系譜にあるサイケデリックでブルージーな雰囲気を漂わせるも、筆頭すべきギターのソロパートではスティーヴン・ウィルソンの4thアルバム『Hand. Cannot. Erase.』や5thアルバム『To The Bone』を連想させる明瞭なギターソロを披露している。続く“Skeleton Of Splendor”でも、冒頭のアルペジオギターが醸し出す湿り気のある仄暗い雰囲気からしてSWソロを彷彿とさせつつ、そして専属の鍵盤奏者が在籍するコテコテのプログレバンドみたいなキーボードのソロパートが導入されている。そのプログレらしいキーボードソロは、もはや頭から“メロディアス”な領域に突っ込んでるクラシックなハードロックチューンでシングルの#7“Teardrinker”にも容易く取り入れられている。
本作におけるアルペジオギターを積極的に多用したメロディアスでサイケデリックな世界観形成も、展開の豊富さも、ブルース/ハードロック的なソロワークも、現代プログレの代名詞であるドリムシの影響というよりは、先日復活を宣言したPorcupine Treeの頭脳であるスティーヴン・ウィルソンのソロ作品からインスパイアされたフレキシブルなオルタナ/プログレといった印象。そういった意味では、現代プログレの名盤『Crack The Skye』のプロデューサーであるブレンダン・オブライエンを再起用した前作の7thアルバム『Emperor Of Sand』みたいな、ガワだけを取り繕った形だけの『Crack The Skye』リバイバルではなく、いわゆるプログレという概念を新たに刷新した本作こそ『Crack The Skye』が正統進化した作品と言えるのかもしれない。
ここまで外に開かれたマストドンは未だかつて見た事がなかった。それこそ歴代最長のトータルタイムを誇る二枚組の超大作志向は、長年のライバルであり盟友Baronessを意識しての事だろうと容易に推測できるし、また本作における著しいオルタナ/プログレ志向についても、Baronessが一足先にオルタナ化した2019年作の傑作『Gold & Grey』という現代ポストメタルの最先端を誇示する、その名の通り金字塔であり革新的な内容に対する危機感というものが、これまで保守的な姿勢を貫いてきたドンの思想をリベラル側に突き動かしたのかもしれない。
ディスク1を司るオルタナ/プログレなアプローチを引き継いで、ディスク2の幕開けを飾る“Peace And Tranquility”では、冒頭からプログレはプログレでもバンドのテクニカルな側面を押し出した盟友Baronessリスペクトなストーナーメタルを繰り広げる。インド周辺の民族楽器であるサーランギーやパーカッションが織りなす、オリエンタルでサイケデリックな世界観を強調した“Dagger”、往年のDTを彷彿とさせる哀愁むき出しのアルペジオギターを軸にThou顔負けのスローなヘヴィロックを展開する“Had It All”、ディスク1のアグレッシブでメタリックな側面を踏襲した“Savage Lands”、それこそ現代ポストメタル/ドゥームメタル界を牽引するPallbearerと共振するドゥーミーな序盤から、一転してオルタナティブな側面を強調しながらダイナミックに展開する“Gobblers Of Dregs”、ドンの音楽史においてこんな洗練されたメロディ聴いたことないってくらい、それこそSWソロと錯覚するレベルのイントロのキーボードから始まる“Eyes Of Serpents”、そしてディスク2のラストを飾る“Gigantium”は、Deftonesの『Ohms』とともに“20年代のヘヴィネス”をアップデイトしたHumの『Inlet』リスペクトなヘヴィ・シューゲイズ然としたギターワークを耳にしたら、なんだか急に微笑ましくなってクソ気持ち悪い顔で(ニチャア)ってなった。何故なら、ここで、最後の最後で全部繋がるカタルシスったらないというか、この曲のシューゲイザー然としたギターに本作の全てが詰まってるからね。
そんな風に現代ポストメタルを象徴するPallbearerからのHumというヘヴィミュージックシーンのトレンドをかっ喰らい、いかに本作がオルタナや現代ポストメタルを新規の軸に制作されたのかを証明すると同時に、本作の裏コンセプトとしてある「オルタナ化したバロネス」に対する「オルタナ化したマストドン」なりの答えが起承転結を迎える。とにかく特定のどこがとか、特定の何かが凄いとか、そういう次元の話じゃなくて、芸歴20年を超えるベテランの経験からくるプレイヤーとしてのパフォーマンス/スキル、それらを踏まえた総合力の高さとメタルとしての強度が尋常じゃなく高い。なんだろう、コロナ禍において内に抱えた暗黒エネルギーみたいなのを全て外側に開放して、やれること全部やってみた結果が本作というか、例えばジャンルは違うけどオルタナ化したAlcestでお馴染みのアルバム『Kodama』を聴いてるような感覚に近い。
確かに、確かにデビュー当時から一貫してヘヴィミュージック界のオリジネイターとしてシーンの一線を張ってきた彼らが、悪く言えばその辺のテクニカル/プログレ・メタルバンド勢がやってそうなアルペジオギターを多用した過去イチでメロディアスなインストゥルメンタルを筆頭に、プログロック的な小技を効かせたリフメイクや雰囲気シンセというより明瞭な姿形をしたシンセのメロディ、そして近年のメタル界におけるトレンドに迎合するかのような、過去イチで“ドンらしからぬ”姿勢に違和感を覚える人も少なくないと思う。しかし、それは決してオリジナリティが欠如しているのではなく、逆にオリジナリティを確立したバンドだからこそ可能にした作品だと思う。それを肯定的に言うなら、過去作のどれとも干渉しない対外的な外的要因を軸とした本作の中だけで完結する高いオリジナリティを内包している。何故なら人間、歳を重ねれば重ねるほど「変化」を嫌う傾向にあるのが定説なのにも関わらず、この歳になっても新しい試みに挑戦する獣性むき出しの若々しくストイックな姿勢に、そしてコレをドンがやるという新鮮なギャップとフレキシブルな感性に只々驚かされたし、改めてやっぱこいつら天才だと唸った一枚。これは何度も言ってるけど、おいら、今回のようなシーンを代表するオリジネイターがトレンドに迎合した作品を生み出す瞬間に猛烈な“エモさ”を見い出す変態という名の紳士なんで、この『Hushed and Grim』はまさにその“エモさ”を体感できる作品なんですね。
結論からすると、やはり2019年のBaronessの名盤『Gold & Grey』をはじめ、2020年にDeftonesの『Ohms』とHumの『Inlet』が提唱した“20年代のヘヴィネス”が早くもシーンに行き届いていた事を、これ以上ない圧倒的な説得力をもって回答してみせたのが、他ならぬヘヴィミュージック界の異端児であるドンだった。もはや、こいつらWelcome To My ”俺の感性” の読者なんじゃねぇか説が芽生えるほど、過去に自分が書いた“20年代のヘヴィネス”に関する話の流れをスムースにアップデイトしている気がしてならなかった。つまり「僕が考えた最強のドン」をそのままやってきてるような作品で、恐らく日本で俺しか解けない本作という名の問題は流石に解読しがいがあったわ。しっかし、こいつら日本のラジオネーム【スティーヴン・ウィルソン】をナメ過ぎだろ・・・むしろ俺レベルになると、聴く前からDeftonesの『Ohms』をブログのヘッダー/トップ絵にする事で既にほぼ解読してるっつーの。そして、このタイミングでPorcupine Treeの復活だろ?こんなん“引力”エグ過ぎるし、興奮しすぎて自律神経バグるってw