Welcome To My ”俺の感性”

墓っ地・ざ・ろっく!

レビュー (V)

Valleyheart - Heal My Head

Artist Valleyheart
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Album 『Heal My Head』
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Tracklist
01. Birth
02. The Numbers
03. Miracle
04. Heal My Head
05. Vampire Smile
06. Your Favorite Jacket
07. Back & Forth
08. Warning Signs
09. Ceiling
10. Carousel
11. The Days
12. 6:26

マサチューセッツ州はセイラム出身のスリーピースバンド、Valleyheartの2ndアルバム『Heal My Head』の何が良いって、それこそブルックリンのHENTAIバンドことCigarettes After Sexのグレッグ・ゴンザレスに肉薄する、いわゆるベッドルーム・ミュージックならではの倦怠感溢れる中性的なボーカルと、(その変態セックスはもとより)知る人ぞ知るTrespassers WilliamThe War On Drugsを連想させる、アンビエント/ドリーム・ポップを経由したインディロック/フォークトロニカの佇まいが絶妙なバランスで調和した、古き良きオルタナティブ・ロックの調べを奏でている件について。


それこそ「古き良き洋楽」を象徴する、往年のオエイシスを全力でオマージュしたアルバム冒頭の#1“Birth”から「洋楽最高!」と言わんばかりの煽りに対し、こちらからも「こういうのでいいんだよ」とレスポンスしたくなる気分になる。なんだろう、それ以上のものはないけど「良いものはいい」みたいな理論。続く#2“The Numbers”では、イントロから古き良きポップパンクみたいな力強いビートを刻むと、サビでは古き良き洋楽をフラッシュバックさせるフックの効いた爽やかなボーカルメロディを聴かせる。

それ以降もフォーキーなアプローチを効かせたインディロック寄りの#3“Miracle”、ウェットに富んだシンセポップ的なアプローチを効かせた表題曲の#4“Heal My Head”、(変態セックスはもとより)Trespassers WilliamThe War On Drugsを連想させるペダルスチールを駆使した倦怠感むき出しの#5“Vampire Smile”、再び「洋楽最高!」と叫びたくなるコード進行とフックに富んだ爽快感溢れるボーカルメロディをフィーチャーした#6“Your Favorite Jacket”、イーサリアルなドリームポップの#7“Back & Forth”や#11“The Days”、もはや変態セックスがPost-Progを学んでスピッツ化したような#8“Warning Signs”など、例えるならUKのSSWマリカ・ハックマンの男バンドバージョンみたいなイメージというか、ジャンル云々というよりも古き良き「ザ・洋楽」って感じの雰囲気を楽しむべき作品である事だけは確か。

いわゆるエピタフ系と並んで、アメリカのエモ/ハードコア界を牛耳るRise Recordsからデビューしている事からもわかるように、そのポスト・ハードコア的な傾向を顕著に垣間見せていたデビュー作に対して、かのUnderoathが在籍するTooth & Nail Recordsに移籍した本作では、よりオルタナ/インディ寄りの方向性に舵を切っている。このようにコアな方向性からコテコテのオルタナティブ・ロック!に方向転換したバンドというと、最近ではロードランナーのTurnstileを彷彿とさせなくもない。ともあれ、変態セックス好きはもとより、往年のオルタナティブ・ロックや古き良き洋楽の雰囲気を楽しみたい人にウッテツケの良盤です。

Vein.fm - This World Is Going To Ruin You

Artist Vein.fm
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Album 『This World Is Going To Ruin You』
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Tracklist
01. Welcome Home
03. Versus Wyoming
04. Fear In Non Fiction
05. Lights Out
06. Wherever You Are
07. Magazine Beach
08. Inside Design
09. Hellnight
10. Orgy In The Morgue
11. Wavery
12. Funeral Sound

ボストン出身のVeinといえば、2018年に1stアルバム『Errorzone』を発表するやいなや、そのTDEP顔負けの次世代のマシズモと同郷のレジェンドConverge譲りのボストン・ハードコアがエクストリーム合体したカオティックなサウンドで、一躍「新世代メタル」の最右翼に躍り出た新星バンドだが、その1stアルバムから約4年の月日を経てリリースされた待望の2ndアルバム『This World Is Going To Ruin You』において、まさか業界最王手ニュークリア・ブラストの仲間入りを果たすなんて夢にも思わなかった。そして、レーベル案件のみならずバンド名もVeinからVein.fmへと改名して心機一転となる一枚となっている。


持ち前の脳天に3㌧ハンマーを叩き込む勢いのボストン・ハードコアmeetマスコア的なサウンドを軸に、Gojiraやメシュガーらの00年代を代表するエクストリーム・メタルの影響下にあるエクスペリメンタルな新世代メタルは、この2ndアルバムにおいても不変極まりないが、それこそ冒頭の#1“Welcome Home”のスラッジ級の轟音や#2“The Killing Womb”のMVにおけるイキリ具合からも分かるように、彼らと同じく新世代メタルのライバルとしてシノギを削るコード・オレンジ『Underneath』に対する回答とばかりのエクストリーム・メタルコアを展開している。その形相は、まるでCode Orange KidsからCode Orangeに改名した彼らへの挑戦状であるかの如く。

俄然そのコード・オレンジ的なイキリメタルコアを印象づける、いわゆるポストハードコアならではのエモいクリーンボイスを大胆に取り入れた#4“Fear In Non Fiction”、そして#6“Wherever You Are”や#12“Funeral Sound”を筆頭に各楽曲で垣間見せる、2020年作の過去楽曲をリミックスを交えて再構築したコンピアルバム『Old Data In A New Machine Vol. 1』で培った、洗練された大都市の裏側に潜む半地下の闇を映し出す、それこそDeftonesに肉薄するダークアーバンかつ病的な世界観と従来のコアいスタイルをシームレスに融け合わせる事に成功している。

また、本作から大手ニュークリア・ブラストと業務提携した影響か、1stアルバム時代の(ホラー映画『チャッキー』のTシャツ着てるヤベー奴らが奏でる)アンダーグラウンドなハードコア/パンクの文脈に直通するモッシュッシュなブレイクダウンを筆頭に、チャッキーばりにキマっちゃってる焦燥的な危うさと引き換えに、メジャー感あふれる普遍的なメタルコアとしてのダイナミズムおよび楽曲のスケール感を獲得している。例えるなら、18禁.fmから15禁.fmに表現内容の対象年齢が引き下げられた感じ。それにより、マスコア経由のプログレッシブな変拍子やグルーヴィなリズムからなる、楽曲のフック(コア)に直結していた変態的なマシズモは影を潜め、より新世代メタル仕様のヘヴィネスの厚みとソリッドさがマシにマシており、それらの微細な「変化」は彼ら自身が新世代メタルを牽引する現状の立場を理解し、そしてシーンの代表者としての自意識の芽生えを示唆している。しかし、グロテスクなヘヴィネスやドラムの音作りに関しては、それこそ“メジャー感”という語源の曖昧さを裏付ける没個性的的な本作よりも、圧倒的に1stアルバムのがオルタナティブなセンスを感じたのも事実。この辺は利害得失の関係性にあり、リスナーの間で賛否両論を巻き起こしそうな争点となりそう。

正直、1stアルバム『Errorzone』が現代メタルコアの金字塔と呼ぶに相応しい名盤だっただけに、なまじ2ndアルバムを出す前に解散発表して「そして伝説へ...」みたいなオチを不安視してたのも事実で、しかし(決して否定的意見がないとは言わないが)本作において1stアルバムをベースに前作を経由させて正当進化した姿を目にしたらただの杞憂に過ぎなかった。なまじ最終兵器的な立場のVein.fmがこのレベルの作品を出してきたことで、昨今の新世代メタル(コア)シーンはコード・オレンジKnocked Looseが対角の二辺を担う正三角形すなわち三つ巴の関係が成立し、改めてこの界隈アツ過ぎるなって。要するに、彼ら以外にGojiraの作品にも携わっているプロデュース/エンジニアのウィル・パットニー最強!ってこと~。

Voivod - Synchro Anarchy

Artist Voivod
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Album 『Synchro Anarchy』
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Tracklist
01. Paranormalium
04. Mind Clock
06. Holographic Thinking
07. The World Today
08. Quest For Nothing
09. Memory Failure

カナディアン・スラッシュメタルのレジェンド、Voivodの約4年ぶり通算15作目となる『Synchro Anarchy』が凄い。というのも、過去作においてピンク・フロイドやキング・クリムゾンなどのプログレカバーを発表してきたのを鑑みるに、彼らは伝統的なヘヴィメタルバンドながらも同時にプログレッシブロックに対する資質を備えたバンドでもあり、その元来の伏線を回収するかのような本作は、それこそオリジナリティを捨ててフォロワーからパクりまくった末の駄作で知られるテクデス界のレジェンドことCynicの3rdアルバム『Kindly Bent To Free Us』を再解釈した上で独自に正統進化させた、と同時にCynicが初期のテクデスから徐々にプログレッシブロックに傾倒していったのと全く同じ要領で、カナディアン・スラッシュの重鎮Voivodも同様にプログレ化している件について。


それこそCynic『Kindly Bent To Free Us』を彷彿とさせる、ポスト・スラッシュ然としたムシムシQ大好きなジュクジュクしたタイトなポスト・キザミをはじめ、まるでParvaneの試金氏を思わせるパラノイヤの道化師の如し素っ頓狂でアヴァンギャルドなボーカルワークを中心に、ディストピア映画『メトロポリス』を想起させる無機的かつシニカルな世界観を形成しながら、終始一貫してキザミ意識を植え付けるアウトロまで奇術師のごとく奇奇怪怪に展開していく#1“Paranormalium”を皮切りに、続く表題曲の#2“Synchro Anarchy”では、芸歴40年のイケオジである彼らのアイデンティティを司る卑しい変拍子をインストパートのみならずコーラスワークにもインテリジェンスに組み込みつつ、そのプログ・ロック化を司る変拍子のみならず転調以降のポスト・スラッシュパートにおける、Cynicのポール・マスヴィダルを皮肉るかのようなフュージョン然とした幽玄なソロワークまで、そのスティーヴン・ウィルソンに肉薄する現代のプログレッシブ・ロックに精通した審美眼と黄金のキザミ”の源流と呼ぶべきキザミは、80年代初期のスラッシュメタル黎明期において伝説のスラッシュ四天王と真正面からカチコミ合った経験が成せる業であり、そして芸歴40年の大大大ベテランになった今なお「キザミの可能性」を探求し続けるスラッシャーとしての貪欲な姿勢に脱帽するとともに、いわゆる“進歩”という正しい意味での“Progressive”が爆発的なシナジーを起こしている。

ポストスラッシュすなわちポストキザミの教科書とでも呼ぶべき、あらゆるBPMと質量の振り幅に富んだキザミの総数に圧倒される本作、そんなVoivodの“キザミ王”としての権威を象徴する#3“Planet Eaters”、そしてカナダのトラック野郎(フリーダム・コンボイ)の背中という名のアクセルを後押しするかのような、見世物小屋の如しキザミのからくりサーカスを繰り広げる#5“Sleeves Off”や黄金のキザミ”指数が最も高い#6“Holographic Thinking”など、少なくとも前作までのヘヴィメタルのサブジャンルにおけるスラッシュメタルではなく、本作はスラッシュメタルにおけるポストスラッシュならではのキザミの極意にたどり着いた傑作と言える。しかし今回のVoivodといい、80年代初頭に世界各国で発起したスラッシュメタル勢で真っ先に覇権エンジニアのイェンス・ボグレンと邂逅したジャーマンスラッシュのKreatorといい、クラシックメタル至上主義の保守的なベテランが前触れもなくイマドキのインテリっぽい事やってくる“しぐさ”に相変わらず弱い。

Volbeat - Servant Of The Mind

Artist Volbeat
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Album 『Servant Of The Mind』
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Tracklist
01. Temple Of Ekur
02. Wait A Minute My Girl
03. The Sacred Stones
04. Shotgun Blues
05. The Devil Rages On
06. Say No More
07. Heaven's Descent
08. Dagen Før
09. The Passenger
10. Step Into Light
11. Becoming
12. Mindlock
13. Lasse's Birgitta

これはもう永延に言い続けたいと思ってる事なんだけど、それこそ彼らVolbeatのルーツであるメタリカが大トリを飾るOCEAN STAGEにおいて、今はなきリンキン・パークやBFMVよりも先に実質トップバッターとしてパフォーマンスを披露した2013年のサマソニは今でも脳裏に焼き付いていて、しかもその奇跡の初来日かつ日本初ライブをあの至近距離で体験できた事は、改めて奇跡としか他に言いようがない最高の思い出として記憶の片隅に残っている。

気を取り直して、ここで2019年にリリースされた前作の『Rewind, Replay, Rebound』を振り返ってみると、皮肉にもサマソニで初来日した同年に発表されたアルバム以降、少し低迷期に差しかかり始めた兆しを再び盛り返すような、それこそTOOLSlipknotなどのメガモンスター級のバンドお抱えのボブ・ラドウィックとジョー・バレシというメインストリームのド真ん中で活躍する二人のエンジニアを迎え入れ、まさにデンマークを代表するギガモンスターバンドとしての自覚が芽生えたかのような、意地悪く言えば少し背伸びしたような復活作で、しかしその一線級としての自覚と意識の高さが俄然作品のポテンシャルにダイレクトに繋がっていたのも事実。中でも、近年稀に見るVolbeatの成り上がりからの低迷期を見て、その座を奪わんとする刺客としてロードランナーから送り出されたUnto Othersの台頭を予言するような「ソリサコボン」こと“Sorry Sack Of Bones”の存在は、まさに彼らの復権を象徴する名曲だった。

前作から約2年ぶり通算8作目となる本作の『Servant Of The Mind』は、そんな少し背伸びした作品から一転してデビュー当初からの長年の付き合いであるヤコブ・ハンセンをプロデュース/エンジニアとして再任、ここまでメガモンスター級のバンドとして成り上がったにも関わらず、未だにヤコブを起用し続ける彼らの義理堅さは人気の裏付けと言っても過言じゃあないかもしれない。

もちろん、「ヤコブ・ハンセンが作り出す音=Volbeatのサウンド」であるという話はさて置き、とにかく本作でもヤコブ仕様のモダンな音作りをもって、まるで西部劇に登場するカウボーイのシンボルすなわち象徴である男根をおっ勃たせるマチズモ全開の骨太肉厚でありながらもグルーヴィなリフと、デンマークイチの色男ことマイケル・ポールセンの哀愁を帯びたコーラスワークを中心とする(MewやDizzy Mizz Lizzyを生んだデンマークならではの)スカンディナヴィア・ネイティブらしいキャッチーなメロディが「This is Volbeat」を宣言する#1“Temple Of Ekur”を皮切りに、彼らを司るロカビリー×メタリカ×エルトン・ジョンのツイストフルスロットルな#2“Wait A Minute My Girl”、前作の名曲“ソリサコボン”の系譜にある#5“The Devil Rages On”や#10“Step Into Light”、ex-Anthraxのギタリスト=ロブ・カギアーノ仕込みのスラッシュメタルをルーツとするスタイリッシュでありながらもグルーヴィなキザミが炸裂する#6“Say No More”、母国デンマークの歌姫Stine Bramsenをフィーチャーした#8“Dagen Før”、もはやスウェディッシュ・デスメタルばりのブルータルなエクストリームメタルもやっちゃう#11“Becoming”など、確かに別段変わった事をしているわけではないし、確かに前作におけるソリサコボンを超えるような名曲もないけど、メジャー感溢れるポップでキャッチーな前作よりも俄然ザックザクかつゴリゴリのキザミ意識の高さは最高で、つまり良くも悪くも「いつものヴォルビート」を貫き通している安定品質の一枚であることは確か。だからサマソニで再来日キボンヌ。久々にツイスト決めてぶっ倒れたい。

Violet Cold 『Empire of Love』

Artist Violet Cold
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Album 『Empire of Love』
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Tracklist
01. Cradle
02. Pride
03. Be Like Magic
04. We Met During The Revolution
05. Shegnificant
06. Working Class
07. Togetherness
08. Life Dimensions

Liturgyのハンターハント・ヘンドリックスは、いわゆるLGBTQ.Q.に属するトランスジェンダーの一人として男女の性別=SEXの概念を超越(Transcendental)した革新性をブラック・メタルに持ち込んだメタル界の風雲児であり、そのヘンドリックスの呼びかけという名のカミングアウトに呼応したのが、アジアとヨーロッパをつなぐ中近東(西アジア)に位置するアゼルバイジャンは首都バクー出身のエミン・グリエフ氏による実験音楽プロジェクト、その名もViolet Coldだった。このViolet Coldは、その音楽はもとよりアートワークやミックス/マスタリングまで全てエミン氏独りで手掛けているDIYな独りブラゲで、2014年に1stアルバム『Lilu』でアンダーグラウンド・メタルシーンに登場するや否や、一年に一枚のハイペースでコンスタントに作品を発表し続けている、その手のマニアの間では知る人ぞ知るアーティストである。

そんなViolet ColdLiturgyがどのような文脈で繋がってくるのか?何を隠そう、彼の出身国であるアゼルバイジャンという国は、隣国であるトルコやアルメニアと並び、アンチLGBT国家のワースト1位(最下位)にランクインしている国家であり、近年でもLGBTの性的嗜好を持つ人々が逮捕されたり、その他様々な理不尽とも言える言論弾圧に対し世界中の人権派から非難を浴びている国として知られる。そんな“しがらみ”に囲まれた国に生まれたエミン・グリエフ氏はこの度、母国アゼルバイジャンを裏で操る隣国トルコの国旗をLGBTのシンボルである6色のレインボーフラッグに染め上げたアルバム、その名も『Empire of Love』という国家権力に抗う革命児とばかりの作品を発表、しかし(隣)国が(隣)国だけに、宗教が宗教だけに、これヘタしたらアンチLGBTの過激派に、というか国家権力そのものに命を狙われてもおかしくないレベルの“ガワ”からして既にパンク過ぎて逆に心配の気持ちが勝るのも事実。

Violet Coldは、先述したように初期の頃から実験的な側面を持つ音楽で知られ、例えばエレクトロニカやアンビエント、ネオクラシカルやウィッチハウスなどのブラック・メタルとは無縁の音楽ジャンルを取り込んだハイブリッドなスタイル、端的に言えば「アンダーグラウンド界のハンターハント・ヘンドリックス」がエミン・グリエフ氏である。しかし本作の『Empire of Love』では、これまでの比較的王道のブラックゲイズから一転して、アルバムの幕開けを飾る#1“Cradle”から母国アゼルバイジャンに伝わる民謡的な楽器(マンドリン的な)をフィーチャーした遊牧民的なオリエンタリズムを繰り広げたかと思えば、次の#2“Pride”が始まった瞬間・・・

そんなん言うてもな~んも知らんよ♪

・・・という、中東近辺に属する国の生まれらしいエスニックな香りを帯びた、恐らくアゼルバイジャン語?で歌う謎の女性コーラスパートが、もはやタモリ倶楽部の空耳アワーに投稿不可避の空耳で笑った。

ともあれ、本作はテーマがテーマだけに、それらの女性ボーカルによるイーサリアルなコーラスワークを効果的に起用した、過去最高にアンニュイでエピックな作風となっており、それはまるでレインボーフラッグが青々と澄み切った大空を恍惚の表情で凱旋し、ヘイトや分断ではなく、寛容とつながりに満ち溢れた虹色の世界の実現を祈るような高揚感溢れる音世界は終始めちゃめちゃエピックで、方や女性ボーカルによる癒やしと安らぎに溢れ、方や中東地帯は今なお復讐と報復の連鎖が続いている事実を訴えるようなエミン氏の絶望的なシャウト、それらの儚くも残酷な現実世界を虹色に包み込むかのようなノイズの壁に、まさに今の今、つまり「平和の祭典」であるはずの東京五輪が強行されようとしている真っ只中、それこそ2020年、アゼルバイジャンと隣国アルメニアの旧ソ連同士の歴史的な因縁を持つ領土問題や宗教対立を起因とする紛争(第二次ナゴルノ=カラバフ紛争)が再燃、本作はアンチLGBTに対する抗議のみならず、アゼルバイジャン周辺国との領土・宗教対立による、ドローン兵器が投入された近代的な軍事衝突(あるいは代理戦争)を皮肉交じりに映し出す鏡のような作品となっている。このようにLGBT問題のみならず、民族紛争の要因である宗教的なタブーにも切り込んでいくエミン氏の当事者としての“国民の叫び”が込められた命懸けの覚悟と勇気に、僕は敬意を表したい。「激情...あゝ激情」。

本作におけるブラックゲイズのベースとなっている基礎的な部分がデフヘヴンの金字塔『サンベイザー』という、ある意味でLGBT的な隠語となっているのも俄然皮肉めいた面白さがあって(メタル過激派にゲイと揶揄された作品)、とにかく宗教の厳しい戒律に縛られた保守的な国家権力に抗うかの如く、LGBTコミュニティへの締付けや抑圧に対して抗議行動(プロテスト)する歌詞には、理不尽なヒエラルキーに反対するアナーキズムをはじめ、ブラック・メタルの本質であるアンチ・クライスト(アンチ宗教)が啓示されている。そして、#3“Be Like Magic”のような犯罪者風モザイクボイスのラップ/トラップやエレクトロニカの要素を寛容の精神をもって柔軟に取り入れる革新性、それこそ超越者(ハンターハント・ヘンドリックス)から受け継いだ超越(Transcendental)的な音楽的な才能を開花させている。

本作を聴いて、僕は「平和の祭典」というクソッタレな雄弁を盾にした東京利権五輪が強行開催されようとしている日本という国に生きる一人の人間として、日本のミュージシャンに音楽を知っている椎名林檎が存在する事に心から安堵すると同時に、純粋に彼女の存在を誇りにしたいと思った。確かに、そんなん言うてもなんも知らんよと思われてもしょうがないけど、なんだかんだ叫んだって今の世界にはViolet Coldが提唱する寛容のオプティミスト精神が必要ってことで・・・さぁ、皆さんご一緒に→

そんなん言うてもな~んも知らんよ♪

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