Welcome To My ”俺の感性”

墓っ地・ざ・ろっく!

レビュー (M)

Maggie Lindemann - SUCKERPUNCH

Artist Maggie Lindemann
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Album 『SUCKERPUNCH』
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Tracklist
01. intro / welcome in
02. take me nowhere
03. she knows it
04. casualty of your dreams
05. self sabotage
06. phases
07. i'm so lonely with you
08. break me!
09. girl next door
10. we never even dated
11. novocaine
12. you're not special
13. hear me out
14. how could you do this to me?
15. cages

2016年に発表したシングルの“Pretty Girl”がバズった事でも知られる、約600万人のフォロワーを誇るインスタグラマー兼シンガーソングライターこと、マギー・リンデマンの1stアルバム『SUCKERPUNCH』の何がファッキンホットかって、過去にバズった“Pretty Girl”の毒にも薬にもならないインディポップみたいな曲調に反して、(その名残として)在りし日のアヴリル・ラヴィーン的なティーン向けのガールズポップ/パンクのキャッチーさを保持しつつも、それこそ00年代の洋楽ロックシーンにおけるゴシック系オルタナティブ・ヘヴィ代表のEvanescenceFlyleafを連想させるハードロックを現代に蘇らせ、そしてエイミー・リーとFlyleafのレイシーとChvrchesのローレン・メイベリーを足して3で割ったような内省的な儚さと、いわゆるどこまでも堕ちていく系のロンリーな孤独を抱えたマギーのロリータボイスが激エモなヘヴィロックやってる件について。


決して、過去に流行った女性ボーカル物のロックの二番煎じではなく、その古き良き“00年代の洋楽ロック”と、BMTHのオリヴァー・サイクスが仕切ってる事でもお馴染みの20年代を象徴するアイコンがピックされたプレイリスト【misfits 2.0】の文脈が邂逅する、つまり在りし日の洋楽ロックの熱気とZ世代を司るハイパーポップ然としたヤニ臭いサイバーパンク精神を紡ぎ出す、それこそ次世代アーティストおよび次世代インスタグラマーを称するに相応しい、いま最もファッキンホットな存在が彼女なんですね。


その手の“雰囲気”を醸し出すイントロSEに次ぐ#2“take me nowhere”からして、00年代にタイムスリップした気分にさせる、さながら現代のエイミー・リーとばかりに奈落の底までGoing Underしながら2秒でインスタフォローするレベルのダークなロックチューンで、一転して「現代のアヴリル」あるいは【アヴリルmeetチャーチズ】、さしずめ「女版マシンガン・ケリー」とばかりにポップパンク・リバイバルよろしくな#3“she knows it”、BMTHのジョーダン・フィッシュさながらのダイナミクス溢れるシンセやトラッピーなイマドキのアレンジを効かせた#4“casualty of your dreams”、再びEvanescenceFlyleafの影響下にあるモダンなパワーバラードの#5“self sabotage”、オルタナティブな雰囲気を醸し出すPoppyヨロポッピーな#6“phases”、そして闇堕ちしたマギーの歌声と00年代オルタナ/ヘヴィロック然としたリフ回しからして、初期Evanescenceの伝説的な名盤『Fallen』を確信犯的にオマージュしてのける#7“i'm so lonely with you”は、耳にした瞬間から00年代のメインストリームの洋楽ロックリスナーなら「これごれぇ!」とガッツポしながら慟哭不可避だし、スクリレックスやプッシー・ライオット文脈のSiiickbrainをフィーチャリングした#8“break me!”においては、『amo』以降のBMTHリスペクトな客演パートの歌メロと「ウチら【misfits 2.0】入りしたいんや!チュパチュパ...」とナニをSucksするハードコアなアレンジまでもハイパーポップ然としており、そのヤニ臭い毒素とセクシャリティの解放を訴える反骨精神むき出しの主張はMVにも強く反映されている。

アルバム後半においても、Evanescenceリスペクトな重厚感溢れる#9“girl next door”、アコースティックなシットリ系のバラードも聴かせるボーカリストとしてのポテンシャルを伺わせる#10“we never even dated”、オルタナティブな#11“novocaine”、MGKファミリーらしいアヴリル風ポップパンクの#12“you're not special”、本作のハイライトを飾る#7と共にどこまでも堕ちていきながら2秒でインスタフォロー不可避の#13“hear me out”、オーランドのエモ/ポスト・ハードコアバンドSleeping With Sirensのケリン・クインをフィーチャリングしたParamore風ポップパンクの#14“how could you do this to me?”、最後に改めて現代のアヴリルを印象付ける、曲調もMVのファッションも当時のアヴリルをオマージュした#15“cages”まで、確かにギターをはじめ音作りに対する不満はないと言ったら嘘になるけど、FlyleafのCoverを発表するくらいには00年代ヘヴィロックの影響下にある音楽性、同様に影響を受けているであろうBMTHのオリィが仕切ってる【misfits 2.0】に対する求愛行為に近いアプローチも含めて、アヴリル・ラヴィーンが洋楽のアイコンだった『あの頃』のノスタルジーと、時を経てマシンガン・ケリーをアイコンとするポップパンク・リバイバル(≒BMTH~Evanescenceの共演)、およびZ世代を象徴するハイパーポップの精神性を兼ね備えたハイブリッドな洋楽ロックは、体感2秒でマギーのインスタフォローすること請け合いのファッキンホットな魅力を放っている。

【エッジランナーズのレベッカ】×【マギー・リンデマン】=【misfits 3.0】

個人的に、この手の次世代アーティスト兼インスタグラマーと聞いて想起するのは、他ならぬカナダのPoppyことモライア・ローズ・ペレイラやNova Twinsだったりするけど、このマギー・シンプソンはそのどちらにも属さない独自の路線を突き進んでいる。(一足先に合流したサラ・ボニトのように)将来的にBMTHのオリィとコラボして、晴れて【misfits 2.0】入りするかは予測不能だけど、念のため今から予言しときます→

「こーれ来年のサマソニで来日します」

Miscreance - Convergence

Artist Miscreance
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Album 『Convergence』
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Tracklist
01. Flame of Consciousness
02. Fall Apart
03. Incubo
04. No Empathy
05. The Garden
06. Alchemy
07. My Internment
08. Requiem For Sanity

イタリアのスラッシュメタルバンド、Merciless AttackSofisticatorのメンバーからなるMiscreanceの1stアルバム『Convergence』の何がカッケェって、前身のバンドで培ったVoivodさながらのタイトでソリッドなキザミ成分と、Cynicに代表されるジャズやフュージョンを経由したSF系テクデスならではの転調や変拍子を織り交ぜたプログレッシヴな要素が絶妙な配合率で美しく融合した、理知的なインテリジェンスと小刻みな緩急を効かせたリズミカルなテンポを特徴とするテクニカル・スラッシュメタルやってる事で、少なくとも今年のテクデスの中では頭一つ抜きん出た良盤となっている。

そんな彼らのアイデンティティを司る冒頭の#1“Flame of Consciousness”からして、パッと見では詰め込み教育さながらのミクロなリフと幾多の起点を目まぐるしい展開が一つに凝縮されているが、一方でマクロ視点からだとその理路整然とした楽曲構築力の非凡さに驚かされる。また、ソリッドなキザミ主体の#2“Fall Apart”における、中盤にフェードアウトしてから唐突な泣きのギターソロをブッ込んでくる展開は、もはや意味がわからないというか想定外過ぎて最高でしかない。

なんだろう、テクデスやスラッシュメタルという名のざっくばらんで粗野な音楽ジャンルを潔癖症の完璧主義者が演奏している、それこそ寸分の狂いもない精巧な工芸品を鑑賞しているような感覚、その著しく矛盾したイメージを何食わぬ顔して整然と成立させている気持ちよさがある。とにかく、テクデスの一番美味しいところとスラッシュメタルの一番美味しいところを、ここまで器用な職人さながらの手さばきでクロスオーバーさせた音楽もなかなか珍しい。

Muse - Will Of The People

Artist Muse
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Album 『Will Of The People』
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Tracklist
01. Will Of The People
02. Compliance
03. Liberation
04. Won’t Stand Down
05. Ghosts (How Can I Move On)
06. You Make Me Feel Like It’s Halloween
07. Kill Or Be Killed
08. Verona
09. Euphoria
10. We Are Fucking Fucked

Museはメタル・・・というのも、何を隠そう初期のMuseって一部界隈住人からはプログレ兼メタルというか、厳密に言えばオルタナティブ・ヘヴィの文脈で語られるようなバンドで、しかし近作においてはチャーチズさながらの80年代風のシンセ/エレクトロ主体の作風が相次ぎ、気づけばソッチ界隈では微塵も話題に挙がらない存在となっていた。そんなUKロックを代表するMuseが今回、初期作における“Museはメタル”の精神を引っ提げた、約4年ぶりとなる待望の新作でカムバックしてきた件について。


この『Will Of The People』の足がかりとなる、1stシングルの“Won’t Stand Down”の何にド肝を抜かれたかって、“メタル”は“メタル”でも今やUKを代表するモンスターバンドと化したBring Me the Horizonの“MANTRA”を彷彿とさせるカルト宗教の儀式的なMVをはじめ、同バンドがEDMポップスと化した問題作の『amo』における某シングルのアイコニックなリフ、そしてUSのDeftones『Diamond Eyes』で目覚め20年作の『Ohms』において確立させた“20年代のヘヴィネス”を、Museなりの解釈でオマージュしてんのがガチでヤバ過ぎる件。で、シャウトとともにザックザクにキザミに刻んでくる俄然メタリックな間奏パート、およびメインリフのヘヴィネスが入ってくる直前の“タメ”に該当するギターのギョーンギョーンギョーンも同様にアイコニックかつパンチライン過ぎて語彙力消失(バッキングのシンセの音とか、ほぼほぼジョーダン・フィッシュ)。

とにかく、今や日本のアイドル(PassCode)やガールズバンド(Trident)にオマージュや楽曲カバーされるBMTHがいかにしてアイコニックな存在となったのかを、UKロックレジェンドのMuse“MuseなりのBMTH”と呼ぶべき1stシングルを介して証明して見せるという想定外の展開に、改めて現行のヘヴィミュージックシーンはBMTHを中心に回っている事に感動を覚えた。そもそもの話、このシングルだけ『amo』以降のBMTHや最近のDIR EN GREYお抱えのエンジニアであるダン・ランカスターを迎えている時点でほぼ確信犯です。


1stシングルと並び“ミューズはメタル”の直接的なアンサーソングとなる#7“Kill Or Be Killed”は、冒頭のGojiraさながらのテック・リフとメシュガーさながらのギョーンの合せ技からして、もはや“ミューズなりのメシュゴジラ”の領域に片足を突っ込んじゃってる、それこそ3rdアルバム『Absolution』における“The Small Print”を超えるミューズ史上最高にヘヴィな曲で、その“20年代のヘヴィネス”の原型となるメシュゴジラに象徴される現代的なプログレ・メタルのアプローチやデスメタルさながらの間奏パート、そしてイケメンことハーマン・リ顔負けのピロピロギターソロが織りなす、まさに初期作の楽曲を正統にアップデイトさせたようなゴリッゴリのメタルを繰り広げている。

なんだろう、00年代を代表するUKオルタナのMuseが、当時しのぎを削ったUSオルタナのDeftonesと約20年の時を経て邂逅するエモ(amo)さったらないというか、ザックリ約20年のブランクがあるにも関わらず、現代ヘヴィミュージック界のトレンドである“20年代のヘヴィネス”を的確に捉えるマシュー・ベラミーの審美眼、その“したたかさ”に震える。リアルな話、来年のダウンロードフェスジャパンで全然トリでいけるっしょ(準トリがBMTHで)

自分の中では完全に終わったバンドという認識だったのに、今作聴いたら「ホーリーシェイ!」ってなったわ。なんだろう、近作の内容があまりに酷すぎた結果、自分みたいな初期厨のニワカファンが離れて一気に人気を落としたタイミングで、(海外ではワーナーだが、日本におけるレーベルを担う)Fソニーが「あんたら人気落ちとるからエエ加減に売れる曲書いて初期みたいなメタル回帰してもろて」みたいにケツ叩かれたとしか思えない、知らんけどw

確かに、音楽通ぶりたい批評家からは近作と同様に不評だと思うけど、俺らみたいな初期厨のニワカが寄ってたかって飛びつき、手放しで褒め称えそうな楽曲をFソニーにスパンキングされて意図的にソングライティングしてきたわけだから、そのバンドというよりはレーベルの意向を素直に汲んで受け取るべきだし、むしろMuseニワカであるメタラーの俺たちが支持したらんと誰も支持せんと思うわ今作。


そもそも、オペラさながらの大仰なクワイアが「ちんこ~ちんこ~」という空耳を連呼する表題曲の#1“Will Of The People”からして、本作におけるサウンド・スタイルの回帰を示唆するキザミを効かせたハードロック的な曲調だし、他にも前作の『Simulation Theory』における80年代路線を踏襲した、映画『ロッキー』の劇中歌であるヨーロッパの“ザ・ファイナル・カウントダウン”のオマージュとばかりのシンセをフィーチャーした曲で、この絶妙なタイミングで「昆虫すごいぜ!」のカマキリ先生こと香川照之やキャバ嬢にてめぇの爆乳さわってもいい?と聞いてそうなひろゆきに対して企業コンプライアンスの大切さを訴える#2“Compliance”、UKレジェンドことクイーンの意思を受け継ぐかの如しクラシカル/オペラティックなコーラスワークをフィーチャーした#3“Liberation”、ピアノ主体のバラードナンバーの#4“Ghosts (How Can I Move On)”、再びジョン・カーペンターの『ハロウィン』シリーズや『エルム街の悪夢』などの70年代から80年代にかけてのスラッシャー/ホラー映画的なゴシック・ミュージカルを繰り広げる#6“You Make Me Feel Like It’s Halloween”、マシュー・ベラミーのファルセットボイスをフィーチャーしたバラードの#8“Verona”、Bメロで「乳輪~」と空耳させることで再び日本人に対してコンプライアンスのギリギリを攻める#9“Euphoria”、飼い主であるFソニーに対してFワードを吐いて抗う曲で、同UKのPure Reason Revolutionさながらのクラシカルな電子ロックの#10“We Are Fucking Fucked”まで、とにかく“ファイナル・カウントダウン”オマージュといい、80年代ホラー映画の明確な影響といい、コンプライアンスのギリギリのラインを攻める下ネタ(空耳)といい、なんだろう全体的にBMTH(Deftones)meetチャーチズとでも例えたくなる作風で(Deftonesは主宰のフェスでチャーチズと共演しているのも伏線)、もはやピンズドで俺受けを狙ってるとしか思えないし、これマジでFソニーにケツぶっ叩かれてるってw

Messa - Close

Artist Messa
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Album 『Close』
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Tracklist
01. Suspended
02. Dark Horse
03. Orphalese
04. Rubedo
05. Hollow
06. Pilgrim
07. 0=2
08. If You Want Her To Be Taken
09. Leffotrak
10. Serving Him

「Messaめっさ(Messa)いい!」みたいなしょうもないダジャレしか思いつかないくらい、イタリアはヴェネト出身の4人組、Messaの3rdアルバム『Close』がめっさ良い件について。というのも、本作の幕開けを飾る#1“Suspended”からして、古き良きトラディショナルなドゥームメタルを源流としながらも、ネオ・プログレ/サイケやブルース/ストーナー・ロック、そしてダークジャズやフュージョン等の多彩な表情を兼ね備えたヴィンテージなサウンド・スタイルと、いかにもこの手のヘヴィサイケに映える紅一点フィメールボーカルのサラによる呪詛を唱えるかの如し妖艶な歌声が、そのオカルティズムに溢れた(それこそPS版『ワールド・ネバーランド』的な)スピリチュアルでミステリアスな異世界を司(祭)る祈祷師さながらの怪異的な存在感を放っている。なんだろう、例えるならスウェーデンのPaatosCynicの前身バンドのPortalがドゥームメタル化した感じと言ったら変だけど。

追い込み馬並にスロースターターなドゥームメタル然とした冒頭から一転して、逃げ馬のごとしBPMのギアを上げてストーナーロック然とした「動き」のあるムーブで砂を駆ける#2“Dark Horse”、ゲストミュージシャンによるイントロのサックスソロを皮切りに、アラブ諸国の民族楽器であるウードやダルシマー、そしてアルメニアやアゼルバイジャンの民族楽器であるドゥドゥクが織りなす、それこそジャバンノリもといJambinaiを想起させる民族音楽的なトライバリズムを垣間見せる#3“Orphalese”、MastodonBaronessを連想させるプログレッシブな展開力を発揮するストーナーロックの#4“Rubedo”、短尺インストの#5“Hollow”のオリエンタルな流れを引き継いで、そして本作のハイライトを飾る#6“Pilgrim”では、アマゾンの奥地に棲む未接触部族に伝承する密教的なリチュアリズム、伝統的なドゥームメタルというよりはThouやニューロシス的なスラッジ/ポストメタル寄りの重厚なヘヴィネスが織りなす、それこそTOOLや在りし日のOpethに肉薄する一般的なドゥームメタルとは一線を画す緩急を効かせたプログレスな展開やドラマ性を孕んだエクストリーミーな楽曲構成は、ただのトラディショナルなドゥームメタルへの回帰にとどまらない、現代的(モダン)なトレンドを正確に捉えた彼らの審美眼の高さを裏付ける一曲となっている。

MastodonBaronessらのハードコア由来のストーナーロックをはじめ、それこそボストンのConvergeにも精通するハードコア・パンクならではの破天荒なリフメイクはMessaの「めっさいい」ところの一つで、そんなMessaの動的な側面を体現する#8“If You Want Her To Be Taken”のアウトロにおけるブラックメタル然とした悪魔的な黒魔術を唱える勢いに乗って、俄然カオティック/ハードコア・パンク然としたエクストリームーブを1分弱の中に集約した#9“Leffotrak”など、とにかく「めっさイイ」以外の言葉が見つからないくらいの完成度。

MØL - Diorama

Artist MØL
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Album 『Diorama』
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Tracklist
01. Fraktur
03. Serf
05. Redacted
06. Itinerari
07. Tvesind
08. Diorama

UKを代表する気鋭のインディーズレーベル、Holy Loar Recordsの創始者であるアレックス・フィッツパトリックがやらかした結果、レーベルに所属する気鋭の才能を持つ数多くのバンドが路頭に迷う事となったわけなんだけど、このデンマーク出身の新世代メタルバンドであるMØLもHoly Loarを背負って立つ有望株だったのは確かで、しかし奇遇にも悲運に見舞われたこのタイミングで(代表が新レーベルのAtomic Fireを立ち上げた)業界最大手のNuclear Blastに引き抜かれたのは何の因果か。しかし、本作を聴き終えた今思えば、結果的に新作をリリースするタイミングで半ば不可抗力的に引き抜かれたのは彼らにとって非常に幸運であり好都合な出来事だったのかもしれない。

そんな、フィッツパトリックに見出され鳴り物入りでHoly Loar Recordsからリリースされた1stアルバムJORDから約3年ぶりとなる2ndアルバム『Diorama』は、ヘヴィミュージック界を代表する重鎮テッド・ジェンセンをエンジニアに迎え、その楽曲自体も元レーベルおよびフィッツパトリックの趣味嗜好であるAlcestDeafheavenの影響下にあるブラックゲイズ~ポストメタル、あるいは新世代メタル界のホープとしての“らしさ”を前作から正統に引き継ぎつつも、まるでフィッツパトリックから喧嘩を吹っかけられたBFMVの新譜BFMVに加勢するかの如し、それこそフィッツパトリックへの手向けとしてMØLなりの「ご愁傷様」のお気持ちが込められた、心機一転そんな著しく洗練されたメジャー感を打ち出したエクストリーミーなサウンド、そのワンランク上の強度の高さからは確かな正当進化を伺わせる。


『ジオラマ』を冠する本作の幕開けを飾る#1“Fraktur”からして、Alcest『Kodama』Esben and the Witchを連想させるUKオルタナ気質に溢れた幻想的なオープニングから、Deafheavenのジョージ・クラークリスペクトな金切り声を皮切りに、バンドの出自がホーリーシーもといホーリーロアーであることを裏付けるようなカチコミ不可避の超絶エピックな洗練されたメロディ、そしてアウトロの音響意識までもDFHVNの正統後継者を襲名すれば、DFHVN『シン・バミューダ』の影響下にあるブラストビート全開のブラゲを軸としつつイーサリアルなクリーンパートを織り込んだ#2“Photophobic”および#3“Serf”、皮肉にもレーベルメイトとなったDark Tranquillityのミカエル・スタンネもビックリの、ヒマワリ畑が目の前一面に広がる超絶エピックなリフレインを響かせる#4“Vestige”、DFHVN普通の堕落した人間の愛における“Worthless Animal”から一部引用した#5“Redacted”、さしずめ“サンフランシスコ・ネイティブ”ならぬ“スカンディナヴィア・ネイティブ”として覚醒した北欧ならではの叙情的なメロディセンスを垣間見せる#6“Itinerari”および#7“Tvesind”、そして女性ボーカルをフィーチャーしたドラマティックなポストロックを展開する表題曲の#8“Diorama”は本作のハイライトで、改めてDFHVNが今年リリースしたInfinite Graniteにおいて脱メタルしたこのタイミングで、その大きな穴を埋めるようにフォロワーのMØLDFHVN化の著しい作品を発表するという神展開。とにかく、前作比で著しく上下の奥行きと立体感を増した楽曲面での内的要因と不可抗力(ホーリーシー)による外的要因、その全てにおいてタイミングの良さとバンドの「運」も含め極めて高い完成度を誇る、そして「やっぱりニュークリアブラストがナンバーワン!」と唸ること請け合いの1枚。
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