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墓っ地・ざ・ろっく!

レビュー (T)

The Callous Daoboys - Celebrity Therapist

Artist The Callous Daoboys
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Album 『Celebrity Therapist』
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Tracklist
01. Violent Astrology
02. A Brief Article Regarding Time Loops
03. Beautiful Dude Missile
04. Title Track
05. Field Sobriety Practice
06. The Elephant Man In The Room
07. What Is Delicious? Who Swarms?
08. Star Baby

アトランタ・ポップ・ミュージックを自称するThe Callous Daoboysの2ndアルバム『Celebrity Therapist』は、バンド曰くFall Out BoyやPanic! At The DiscoがGlassjawにボコられているようなものと表現するように、レジェンドTDEPや今回レーベルメイトとなったUKのRolo Tomassiに代表される、いわゆるカオティック/マス・コアを一つの大きなバックグラウンドとしながらも、バンドのキーパーソンとなる電子ヴァイオリン奏者のアンバーによる素っ頓狂なストリングスやDissonant Death Metalさながらの不協和音を刻むリフメイクなどのアヴァンギャルドな要素を駆使して、ホラーチックかつオペラティックなストーリー性を内包した戯曲を繰り広げており、最近の若手マスコア勢を代表するロンドンのPUPIL SLICERやスコットランドのFrontiererと共鳴するUKポストハードコア的なエモ要素はもとより、それ以上にメインストリームのモダンなポップ/パンク・ロックバンドに精通する、言わばマス・ポップとでも呼ぶべき謎キャッチーなフックに富んだオルタナティブな側面を強く打ち出している。


古き良き伝統的なマスコアのカオティックな側面と持ち味のアヴァンギャルドな側面がスクリムを組んだ#1“Violent Astrology”を皮切りに、不協和音全開のマシズモを強調したカオティック・メタルコアの#2“A Brief Article Regarding Time Loops”、まさに“アトランタ・ポップ・ミュージック”を称するに相応しい、もはやFall Out BoyPanic! At The DiscoのみならずボストンのVeinやルイジアナのiwrestledabearonce、終いにはフィラデルフィアのSoul Gloが乱入して大乱闘スマッシュブラザーズおっ始めたかのような#3“Beautiful Dude Missile”、一転して女性ボーカルをゲストに迎えて後期TDEPさながらのオルタナティブ・ヘヴィ的な多様性を覗かせる#4“Title Track”、混沌蠢くケイオスとインディロックさながらの優美な美メロがスムースに交錯する#5“Field Sobriety Practice”やジャズ/フュージョン的なアプローチを効かせたストーリー仕立ての#6“The Elephant Man In The Room”、サックス奏者をゲストに迎えて“ジャズコア”のジャンルを開拓しつつある#7“What Is Delicious? Who Swarms?”や大団円感あふれる#8“Star Baby”における、それこそアメリカを代表するアニメ『シンプソンズ』や地元アトランタを舞台にしたドナルド・グローヴァー主演の海外ドラマ『アトランタ』に通じるシニカルなブラックコメディ要素は、(コント仕立てのMVにも象徴されるように)彼らThe Callous Daoboysならではの特権と言えるし、この手の他のバンドと一線を画す独自のオリジナリティとバンド最大のセールスポイントとして誇示している。

Trhä - Vat gëlénva!!!

Artist Trhä
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Album 『Vat gëlénva!!!』
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Tracklist
01. Ljúshtaeshrhendlhë jecan glézma
02. Grã sôhhlen bem rhôn trhãthàs
03. Ödënthändelä vòn la gönmëtwa
04. Sëtrharhanlha
05. Jadështahhdlha nudahhhana dëvét

イリノイ州郊外のオークパーク村を拠点に活動する、97年メキシコ生まれの若き才能ことThét Älëfによる独りブラックメタル・プロジェクト、その名もTrhäの5thアルバム『Vat gëlénva!!!』の何が凄いって、それこそJRPGの地下ダンジョンで流れるBGMみたいな、(アンダーグランドシーンのトレンドでもある)シンフォニックなダンジョン・シンセをフィーチャーした、生々しい狂気とファンタジーな幻夢世界が入り乱れる規格外のロー・ブラックメタルで、今年の3月と8月に発表した二枚のアルバム、というより全一曲でトータル40分超えの長尺という、それこそCD買取が停止されつつあるストリーミング時代におけるマージンの存在を真っ向から否定するかのような彼の規格外っぷりを象徴する近作に引き続き、今年に入って三作目となる本作においても一曲の尺が10分を優に超える、全5曲トータル65分という超尺志向を踏襲しながらも、(近作におけるブラックメタルとモダン・クラシカル~ミニマル・アンビエントがスムースに往来する喜劇的な狂想曲さながらの)それこそAAAタイトルの大作RPGさながらの起承転結を効かせたドラマ仕立ての楽曲構成は、その確かなソングライティングに裏打ちされた、それこそガンキマってる発狂アートワークに裏打ちされた、長さを全く感じさせない唯一無二の魔力(ホーリーシー)を放っている。

近作におけるローファイ・ブラックメタルというよりは、ロー・ブラックメタル然としたソリッドなキレと殺傷力高めのメロブラ的なリフや粗暴なブラストビートをはじめ、オールドスクールのブラックメタルの要素で構成された深界一層の#1“Ljúshtaeshrhendlhë jecan glézma”、在りし日のShining(SWE)を連想させるスーサイダル~デプレッシブ・ブラックメタルならではの内省的な自傷作用を促しながら、気づけば深界二層の上昇負荷の影響を被るダンジョンに迷い込み、そして浄化作用を促す終盤のドラマティックな展開に圧倒される#2“Grã sôhhlen bem rhôn trhãthàs”、まるで「踊れるブラックメタル」と言わんばかりに、昭和モダン風の魅惑的な香りが施されたシンセによるクサメロ的な旋律と、地下ダンジョンの迷宮の如し転調と緩急を織り交ぜながら、緻密な地形に合わせて様々な表情でプレイヤーを迎え入れる深界三層の#3“Ödënthändelä vòn la gönmëtwa”、一転して近作におけるモダン・クラシカルな優美さ及びシンフォニックな大仰さと超絶エピックなスケール感をまとった、それこそD F H V NLiturgyさながらの現代的なブラックゲイズ然とした激情的な荒涼感に包まれて成れ果てと化す深界四層の#4“Sëtrharhanlha”、そして深界五層の呪いにかけられたような混沌蠢く絶望感に苛まれる#5“Jadështahhdlha nudahhhana dëvét”まで、そのオカルティックな黒魔術を唱えるかのごとしアトモスフェリックでプリミティヴなブラックメタルは、それこそ今作を聴き終えた後には二時間映画の鑑賞後の満足感と脱力感が味わえる。なんだろう、感覚的にはブラックメタルの文脈でというよりは、Bandcamp界隈でもお馴染みのsonhos tomam contaと同じ文脈で語るべき存在なのかもしれない。

The Halo Effect - Days Of The Lost

Artist The Halo Effect
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Album 『Days Of The Lost』
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Tracklist
01. Shadowminds
03. The Needless End
04. Conditional
05. In Broken Trust
06. Gateways
07. A Truth Worth Lying For
09. Last Of Our Kind
10. The Most Alone

先日のダウンロードフェスジャパンで初来日を果たした、ex-IN FLAMESのメンバーが同窓会とばかりに集結した“シン・フレイムス”ことThe Halo Effectの全世界のメロデサーが待ち望んだ1stアルバム『Days Of The Lost』は、当時のIN FLAMESの黄金時代を築き上げたギタリストのイェスパーを擁しているだけあって、イェスパー在籍時...つまりメロデスメロデスしてた頃...要するにイェーテボリ・スタイルを踏襲した単音リフをはじめ、昨年にIN FLAMESを脱退したニクラス・エンゲリンとの新旧インフレエンサーによるツインリードが全盛期並みに炸裂しまくっているかと言われたら実はそうでもなくて、あくまで「北欧の吉井和哉」ことボーカルのミカエル・スタンネが在籍するDARK TRANQUILLITYの近作、その延長線上にある印象を受けた。

イェスパーはもとより、ベースのピーターとドラムのダニエルという、それこそ黄金期IN FLAMESを縁の下で支えたリズム隊を従えている時点で、どちらかと言えば背乗りした側のアンダースとビョーンが仕切ってる現IN FLAMESよりも全IN FLAMESなんじゃねぇかって、もはやどっちがシンのSIN FLAMESなのか疑問を呈したくなる状況はさて置き、いわゆる北欧メロデスと一蓮托生的な存在であるイェンス・ボグレンをエンジニアとして迎えた、本作の幕開けを飾る1stシングルの#1“Shadowminds”からして、「最近のdtにこんな曲なかったっけ?」ってなるくらいモダンな曲で拍子抜けしかけるも、しかし初期IN FLAMESさながらのイェスパー節全開の慟哭のツインリードが炸裂する次の#2“Days Of The Lost”で「これこれぇ!」みたいにガッツポーズさせると、イェーテボリ・スタイル以前に広義の意味で北欧メタルとしての真価を発揮する#3“The Needless End”、北欧メロデスらしい殺傷力高めの単音リフで血飛沫を撒き散らす#4“Conditional”、そして「北欧の吉井和哉」ことミカエルがdtで培ったイケおじならではの色気を醸し出すクリーンボイス主体の#5“In Broken Trust”や#7“A Truth Worth Lying For”、この辺りで「イェスパー節消えたな...そういえば先日のダウンロードフェスからもイェスパー消えてたな...」とか思った瞬間、再び初期IN FLAMESさながらの叙情的なツインリードが慟哭のハーモニーを奏でる#8“Feel What I Believe”は本作のハイライトで、アルバム後半はチクビームのキイチきゅんが登場して例のトラウマをフラッシュバックさせる#9“Last Of Our Kind”など、少なくとも「あり得たかもしれないif世界線のインフレ」あるいは【イェンス・ボグレン×イン・フレイムス】として、往年のメロデスフリークなら必聴である事だけは確かです。

しかし、そのキイチ参加の楽曲からも察しがつくように、言い方は悪いけどどうしても「商業的」な酒代もといゼニの匂いというか俗っぽい思惑が透けて見えるのも事実で(そもそもケツモチがニュークリア・ブラストの時点で)、一作目でこの感じなら二作目は「もういいかな」みたいな変な満腹感があるのも事実。確かに、母国スウェーデンでチャート1位を獲得するのも納得の内容だけれど、「おもてたんと違う」ほどではないが、「ほぼdtじゃねこれ?」と感じる人も少なくないと思う。

Turnstile - Glow On

Artist Turnstile
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Album 『Glow On』
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Tracklist
01. Mystery
03. Don't Play
04. Underwater Boi
05. Holiday
06. Humanoid / Shake It Up
07. Endless
08. Fly Again
09. Alien Love Call
10. Wild Wrld
11. Dance-Off
12. New Heart Design
14. No Surprise
15. Lonely Dezires

ロードランナーの秘蔵っ子ことメリーランドはボルチモア出身の5人組、Turnstileが昨年リリースした3thアルバム『Glow On』がめちゃんこヤバい。ハードコア/パンクを根っこのルーツに持ちながらも、ソリッドでエッジーなリフを中心に、カウベルやクラップ、ハイハットやパーカッションの細部にまで“こだわり”を感じさせるユーモラスなアレンジ、その「ユニークでありながらキャッチーでエッジーなオルタナティブ・ロック」って、それこそ「10年前の自分が好んでよく聴いていた奴じゃん」と少しノスタルジックな気持ちにさせる、爽快感溢れるメロディック・ハード(コア)ロック・サウンドを展開している件について。

まるで相対性理論ばりにメルヘンチックなシンセが鳴り響くイントロから、それこそ『宇宙人ポール』みたいなコメディ&SF映画を彷彿とさせる、例えるなら宇宙人転生系のラノベで可愛い宇宙人が空から舞い降りてくるシーンの効果音みたいな雰囲気で始まる#1“Mystery”からして、ドライブ感溢れるエネルギッシュかつハードロック的なリフや過去作には見受けられなかったギターソロが織りなすオルタナティブなポスト・ハードコア然とした、少なからずオールドスクール寄りだった過去作とは一線を画すような曲となっている。

1stアルバム『Nonstop Feeling』の系譜にあるハードコアならではの強靭なリフとヘヴィなブレイクダウンを交えながらダイナミックに展開する、ハイハットやパーカッションをはじめカウベルみたいなユニークなアレンジが光る#2“Blackout”、クラップやパーカッションを交えたポップなピアノの旋律と身体を突き動かすパンクビートを刻むエッジーで破天荒なリフが織りなすテンションアゲアゲなロックンロールの#3“Don't Play”、メンフィスのSSWジュリアン・ベイカーをコーラスに迎えた、90年代のオルタナを象徴するシューゲイザー/ドリーム・ポップの影響下にあるリヴァーブを効かせた曲で、ほのかにジュンスカ味というかAOR的なノスタルジーを漂わせる#4“Underwater Boi”、冒頭のド直球のパンクスからの転調パートが鬼カッコいい#6“Humanoid / Shake It Up”、UKのSSWブラッド・オレンジがコーラスで参加した#7“Endless”、デンマークのVolbeatばりにダークでメタリックなリフやメタル然としたソロワークまでもメタルメタルしてる#8“Fly Again”、再びブラッド・オレンジをスポークン・ワードとしてフィーチャリングした曲で、そして再び『宇宙人ポール』とのアブダクションを試みるかのような90年代のUKドリーム・ポップ然とした#9“Alien Love Call”、クラップに釣られてついついジャンピングモッシュしたくなる#10“Wild Wrld”、90年代から一転して今度は80年代のニューロマンティック/ポストパンク的なヘアメイクを施した#12“New Heart Design”、出自の根っこにあるハードコア・パンクに直結したサウンドとヒップホップ的なアウトロのギャップがセンスしかない#13“T.L.C.”、三度ブラッド・オレンジをメインボーカルに添えた#15“Lonely Dezires”まで、まるでおとぎ話のようなポップネスとハード(コア)の絶妙なバランス、メタル耳からしても魅力しかないエッジを効かせたリズミカルなリフの数々とエゲツないオルタナティブなアレンジセンス、そして素直に聴いてて楽しい爽快感溢れるロックンロールのキャッチーさを兼ね備えた名盤ここにあり。

それもそのはず、前作の『Time & Space』は界隈の重鎮ウィル・イップがプロデュースを担当、そして今をときめくアーサー・リザークがレコーディングに携わったド直球のハードコア/パンク作品だったのに対し、本作の『Glow On』ではエミネムやアヴリルの作品でもお馴染みのプロデューサーことマイク・エリゾンドを迎えた影響か、コアとなる音のベースはそのままに、オルタナ化およびメタル化が著しく進行した、すなわちオルタナティブ・ヘヴィとしての素質が開花した(ゲストのジュリアン・ベイカーやブラッド・オレンジの存在も含めて)メジャー感マシマシの大衆性に富んだロックンロールとして大化けしている。2021年の鬼マストアイテム。

tricot - 上出来

Artist tricot
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Album 『上出来』
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Tracklist
01. 言い尽くすトークします間も無く
02. 暴露
03. いない
04. ティシュー
05. カヨコ
06. 餌にもなれない
07. Dogs and Ducks
08. スーパーサマー
09. いつも
10. 夜の魔物
11. ひとやすみ
12. 上出来

昨年の1月、エイベックス傘下のカッティングエッジからメジャーデビューを果たし、同レーベル出身の「平成最悪のヴィジュアル系バンド」ことJanne Da Arcの正統後継者として、そして「メジャー行って終わったバンド」の典型としてやらかして解散待ったなしというか、所詮は時代遅れの化石レコード会社のベクソバンドの時点でどうでもいいっつーか、その「メジャー行って終わったバンド」を裏付ける同年の10月に発表されたメジャー2ndアルバム『10』は、その実験的なアプローチとJ-POP的なアプローチをゴチャ混ぜにしたまるで焦点の定まらない駄作だった。個人的に『10』は(これは当時のレビューにも書いた気がするけど)曲数を半分に減らして、EPのフォーマットでリリースしたらもっと真っ当に評価されたに違いないと。

そんな賛否両論のメジャー1stアルバム、およびメジャー2ndから約1年3ヶ月ぶりとなるメジャー3rdアルバム『上出来』は、そのメジャー1stにおける「あたしらは日本のハイムや!」とばかりに色気づいた作風、あるいはメジャー2ndにおける水曜日のカンパネラやジュディマリや相対性理論を連想させるゴリゴリのJ-POPと岡田拓郎トクマルシューゴに代表されるレフティな音楽の実験性をグチャグチャに混ぜ込んだ作風に対し、どっかの音楽批評気取りのオタクから「ハイム?ウォーペイント?オサレバンド気取ってんじゃねぇ!オメーらはオサレバンドになんか一生なれねぇんだよ!」と説教かまされたのかは露知らず、メジャー3rdとなる本作では打って変わってフラット≒平常心なtricotというか、少なくともメジャーデビュー以降では最も色気づいてない、いい意味でユルさのあるインディーズ時代の波長にチューニングを合わせてきた印象。

メジャーデビュー後のtricotは、裏声を多用して色気を出してきたイッキュウ中島のいかにもJ-POP的な歌メロをはじめ、リードギタリストのキダモティフォはキダモティフォでキレのあるソリッドなリフが縦横無尽に動き回るある種のメタルばりにド派手なギターメイク、そのキダーのダイナミズムが脳直的に楽曲に伝達しメリハリのある大胆な転調を織り交ぜた、兎にも角にもダイナミックでド派手な作風を繰り広げ、逆に言えばインディーズ時代とはひと味もふた味も違う一面が垣間見れたのも事実。

しかし、一転して普遍的なtricotへ回帰した本作では、イッキュウ中島のインディーズ時代を彷彿とさせる砕けたボーカルワークをはじめ、これまでの作為的な転調や作為的な変拍子よりも身体に染み付いた転調、つまり意識的な転調から無意識な転調を駆使したシームレスな楽曲構成を繰り広げる。また、#2“暴露”や#3“いない”におけるインディーズ時代にも見受けられなかったノイズとはまたちょっと違うエクスペリメンタルなギターアプローチ、例えるならノイズ界の重鎮スティーヴ・アルビニが監修したかのようなヴィンテージ風の音作りからは、インディーズ・ネイティブならではの“こだわり”を伺わせる。俄然インディーズ時代のバンドとしての生々しいグルーヴ感を求めたような作風というか、そういった意味でも一曲一曲の粒立ちの点の意識からアルバム全体の線に意識が移った印象。なんだろう、例えるならメジャーデビューを知らされていない状態で曲を書いたtricotみたいな。


アルバムの幕開けを飾る#1“言い尽くすトークします間も無く”からして、それこそ派手さとは無縁のアメリカ中西部のマスロック的な質素なリフでミニマルに構築する曲で、インディーズ時代のtricotならではの心地よいユルさに故郷という名のノスタルジーが蘇る。メジャー2ndにおける水曜日のカンパネラからのケツメイシあるいはオレンジレンジを連想させるイッキュウ中島なりのJラップを披露する#6“カヨコ”、メジャー1stで培ったメタル魂を継承したKDMTFの鬼キザミが炸裂する#9“いつも”、中でもマーズ・ヴォルタ的ファンキーなリフメイクやサイケなアレンジが際立った#6“餌にもなれない”のぶっきら棒なノリをはじめ、本作における“インディーズ回帰”をより強く印象づける再録の#8“スーパーサマー”は、この一曲を根っこにアルバム全体の波長を合わせたような感覚すら植え付ける。

このように、良くも悪くも普遍的なtricotに回帰しながらも、メジャー以降に培った実験的な要素も本作のサウンド面にしっかりと落とし込んでいる。それこそメジャー以降の作品が苦手だって人に受ける気がする。個人的には、黒盤が(ノスタルジックな肌触りも含めて)色々な意味でドンピシャ過ぎたのでアレだけど、この辺は完全に好みの問題だと思う。また、本作におけるインスト版の存在意義というのは、サブスクの再生数稼ぎなんかでは決してなく(←コラ)、まさに音作りの面で新たな試みに挑戦している事に紐付いている。
とにかく、このタイミングで改めてバンドの立ち位置をより戻してきた作品であり、改めて器用なバンドやなと素直に感心すること請け合いの一枚。
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