Welcome To My ”俺の感性”

墓っ地・ざ・ろっく!

レビュー (P)

Pool Kids - Pool Kids

Artist Pool Kids
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Album 『Pool Kids』
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Tracklist
01. Conscious Uncoupling
02. That's Physics, Baby
03. Almost Always Better (Almost Always Worse)
04. Further
05. Talk Too Much
06. Comes In Waves
07. I Hope You're Right
08. Swallow
09. Couch
10. Waking Up
11. Arm's Length
12. Pathetic

フロリダ州はタラハシー出身のPool Kidsの2ndアルバムで、セルフタイトル作となる『Pool Kids』の何が斬新過ぎるって、いわゆるミッドウェスト・エモをルーツとするエモ・ポップ要素とドリーム・ポップに精通するオルタナティブな側面、Audiotree文脈におけるマスロックの数学的なインテリジェンスとポスト・ハードコアの生々しいダイナミズムがインディロックの批評性を装いながら、それらの要素をハイコンテクストな解釈をもって高次元のアート・ロックとして成立させている、そのユニークな不思議さに尽きる。

聴いてるだけで楽しい気分にさせる彼らの音楽性を象徴する#1“Conscious Uncoupling”からして、オルタナ然としたリバーヴィな冒頭からAudiotree界隈らしいライブ感溢れるダイナミックなロックサウンドへと転調を交えながら展開していく曲で、00年代のUKポスト・ハードコア然としたエモいリフメイクを打ち出した#2“That's Physics, Baby”、UKのSSWことマリカ・ハックマンや姉妹分のThe Big Moonを連想させる90年代グランジ的な倦怠感を内包した#3“Almost Always Better (Almost Always Worse)”、俄然女性SSWに肉薄するアトモスフェリック~ドリーム・ポップラインの幽玄なアプローチを強調した#4“Further”、さしずめポップパンクヨロシクなキャッチーさを伴う#5“Talk Too Much”、日本のJYOCHOさながらの流麗なマスロックとポスト・ハードコア的なダイナミズムが融合した#6“Comes In Waves”、フックの効いたエモーショナルな歌メロが光るオルタナチューンの#7“I Hope You're Right”、西海岸的なマスロック然としたリフメイクをフィーチャーした#9“Couch”、Warpaintさながらのドリーム・ポップ然とした内省的な世界観に引き込まれる#10“Waking Up”、一転してキャッチーなポップ・ロックナンバーの#11“Arm's Length”、もはやマリカ・ハックマンにしか聴こえないアンビエント・ポップ的な#12“Pathetic”まで、なんだろう、テイストこそ違うけど今現在のTurnstileに通じるポップ/パンクなバンドサウンドとフィメールSSWの繊細さを兼ね備えた、全く新しいマスロックの解釈を打ち出した独創的な音楽性は、好き者にとってはとことんドツボにハマること請け合い。

Petit Brabancon - Fetish

Artist Petit Brabancon
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Album 『Fetish』
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Tracklist
01. Don't forget
02. 疑音
03. OBEY
04. Ruin of Existence
05. 主張に手を伸ばす修羅
06. 
07. come to a screaming halt
08. I kill myself
09. Pull the trigger
10. 非人間、独白に在らず
11. Isolated spiral
12. 無秩序は無口と謳う
13. 渇き

DIR EN GREYのボーカリストこと京のソロ活動におけるイメージって、それこそ2013年に結成したsukekiyoを見てもわかるように、いわゆる「ヴィジュアル系バンドのボーカルのソロ・プロジェクト」←この手のステレオタイプのイメージとは一線を画していて、なんというか京自身のソロ(個人)に重きを置くのではなく(露骨に自分自分してないというか)、あくまでバンド(複数)を形成する骨格の一部としてマイクを握っているミュージシャンだと思うから、個人的にsukekiyoは京のソロ・プロジェクトと思って聴いたことは一度もなかったりする。

ナニを隠そう、DIR EN GREYの京とL'Arc~en~Cielのドラマーのyukihiroを中心に、他豪華メンバーが集結したプチブラことPetit Brabanconは、90年代のオルタナ/グランジおよびミクスチャー/ヌーメタルに象徴される古き良きニューロックから、“DV野郎”ことニューロシスやTOOLに代表される00年代のポストメタルを経由して、そして2020年代のDeftonesが新たに啓示した“20年代のヘヴィネス”を紡ぎ出す、それらの「過去」「現在」「未来」のロックミュージックの心臓部を貪り喰らいながら、新時代のヘヴィロックを切り拓かんとする反骨心むき出しのスーパーバンドで、(僭越ながら)各シーンの最前線で活躍するバンドメンバーを揃えておきながら、正直ここまで音楽的(≒非商業的)な方向性に振り切ってくるなんて想像もしてなかった(←この驚きがまず一つ)。例えるなら、V系バンドマンに対する偏見ランキング1位の「DV野郎」、そのV系バンドマンのDV野郎(偏見)とリアルDV野郎がシンクロしたシン・DV野郎の爆誕...そして解散という「よくあるオチ」みたいな(リアルにDVまがいのことをやらかして、活休中のバンドを解散に追いやったV系バンドマンがいるらしいw)。


記念すべきデビューシングルとして先行リリースされた、さしずめ“さおだけ屋ヘヴィロック”こと#6“刻”におけるギターの音作りに象徴される、ゴム毬が弾むようにギョンギョン鳴らすポスト・ジェントの領域、すなわち“10年代のヘヴィネス”を“ポスト”的にアップデイトさせた、いわゆる“20年代のヘヴィネス”に対する見識の広さに驚かされる一方で、今作のオープニングを飾る#1“Don't forget”におけるRATMさながらの90年代ミクスチャーというよりも00年代前半のDragon Ash的な、モッシュピットを自然発生させるグルーヴ感マシマシの縦ノリ邦ロックを、この豪華メンバーでプレイするギャップと贅沢さったらない。

DIR EN GREY『Withering To Death.』を想起させる、アンダーグランドかつアヴァンギャルドな不協和音系ヘヴィミュージックの#5“主張に手を伸ばす修羅”、そしてDIR EN GREY『ARCHE』における“Phenomenon”の系譜にある、ニューウェイブ/ポスト・パンクやトリップ・ホップを経由した電子音を打ち込んだモダンなポストメタルの#7“come to a screaming halt”における、それこそオルタナに傾倒し始めたKATATONIA『Viva Emptiness』、および“Bサイド”に肉薄する耽美的なオルタナイズムと病的なヘヴィロックの邂逅を筆頭に、もとよりyukihiroが奏でるスカン!スカン!したドラムの音がex-KATATONIAのDaniel Liljekvistにしか聴こえないのが笑っちゃうくらいにドンピシャ。

また本作のハイライトを飾る#10“非人間、独白に在らず”における、DV野郎(偏見)とリアルDV野郎のニューロシスの邂逅はもとより、現代ポストメタルを象徴するThou顔負けのスラッジーな邪悪ネスと、それこそ東京酒吐座THE NOVEMBERSのメンバーが真価を発揮する音響意識の高い轟音ヘヴィネスからは、もはや『DSS』リリース後の「あったかもしれないDIR EN GREYの未来」、すなわちifの世界を再現しているような錯覚すら憶える。これは冒頭に書いたことに繋がる話だけど、このように音響界隈で名を馳せるバンドメンバーの嗜好が如実に音に反映されている点も、れっきとした一組の“バンド”として著しい説得力を植え付けるとともに、そのバンドメンバー各々が奏でる色に同化するかの如し、ボイスを変幻自在に操るカメレオン人間の京だからこそ成り立つ≠ソロ・プロジェクト=“バンド”であることを再認識させる。

もはや「ヴィジュアル系バンドのボーカルのソロ・プロジェクト」からイメージされがちなポップで商業的なソレとは真逆と言っていい、それこそ京×yukihiroというアンチV系コンビ(偏見)から産み落とされる音楽は余計にイメージできな過ぎたけど、いざ蓋を開けてみるとグルーヴ感マシマシの最新型ヘヴィロックを紛れもないバンド体制で作り上げている事実に驚きと称賛しかなかった。なんだろう、各メンバーが在籍するどの本家よりも自由なことやってるというか、バンドの芸歴が長ければ長くなるほど強くなる“しがらみ”みたいなのが全て取り払われて真の自由を得た結果、心身ともにフレッシュな状態かつフラットな視点で挑めたからこそ、ヘヴィミュージックの未来を司る新世代のヘヴィネスにアクセスする事ができたのかも。

どれだけ重くとも、どれだけ激しくとも、ドラムが奏でる魔法の旋律によって全てをオルタナに変えてしまう、そんなyukihiroのサウンド面の根幹部を司る精神的支柱、その圧倒的な存在感ったらない。近年のDIR EN GREYとはまた少し違ったアプローチを見せる京のボーカルのみならず、各分野に長けた楽器隊がシナジーを起こすサウンドや音作りに対するこだわりを強く感じる作品でもあって、その著しく音楽的な表現に対する意識の高さは、それこそ京のソロ・プロジェクトに対する考え方みたいな部分に直結してくる話なんだと思う。また、シンプルに「あったかもしれない未来のDIR EN GREY」として聴くのも一考かもしれない。『ベア・ナックル2』みたいな画風のアートワークも含めて。

Perfume - PLASMA

Artist Perfume
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Album 『PLASMA』
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Tracklist
01. Plasma
02. Time Warp (v1.1)
03. ポリゴンウェイヴ (Original Mix)
04. 再生
06. マワルカガミ
07. Flow
08. ∞ループ
09. Drive’n The Rain
10. ハテナビト
11. アンドロイド&
12. さよならプラスティックワールド

最近のパフューム関連の出来事といえば、プロデューサーの中田ヤスタカがガーシー砲食らってコンポーズ能力に支障をきたさないか心配したけど、そんな杞憂はなんのその、前作の『Future Pop』から約4年ぶりとなる8thアルバム『PLASMA』は、デビュー当時のCHVRCHESすなわち1stアルバム『The Bones of What You Believe』をフラッシュバックさせるエレクトロビーツに乗せて、80年代を代表するSF映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ばりのレトロフューチャーなシンセがウルトラマンばりのスペシウム光線を放つ表題曲の#1“Plasma”からして、いつになく80年代のアーバンな雰囲気と海外志向を強調したかと思えば、珍しくカッティングギターやローファイなローズ・ピアノをフィーチャーした#3“ポリゴンウェイヴ”、西海岸にタイムワープさせるファンキーなグルーヴ感溢れるギターリフやアーバンなシンセがオメガトライブORIGINAL LOVEさながらのシティポップを奏でる#5“Spinning World”、アコースティックギターをフィーチャーした#6“マワルカガミ”、映画『キッズ・リターン』の久石譲を彷彿とさせる幼少期のノルタルジーと幻想的なニューエイジズムが交錯する#7“Flow”、その「雨のドライヴ」を冠するタイトルといいローファイ・ヒップホップ的なチルいアレンジといい、80年代のシティポップをフラッシュバックさせるローズ・ピアノのソロワークやレトロ・シンセのリフレイン、そしてセンチメンタルなボーカル/リリックが織りなすパフュームなりのシティポップの#8“Drive’n The Rain”、もはやマスロック顔負けのギターを聴かせる#11“アンドロイド&”をフィーチャーしている。


イマドキのEDM路線だった前作と比較すると、「パフュームってこんな弦楽器推しだったっけ?」と驚くほど本作はギターがいいアクセントになってる、と同時にローファイ・ヒップホップの常套手段であるローズ・ピアノをフィーチャーしたシティポップ風の楽曲をはじめ、海外というか世界的にリバイバルやムーブメントを巻き起こしているトレンディな音楽を咀嚼したチルいアレンジが施された、これまでにないパフュームの新たな一面を覗かせる一枚であることは確か。いい意味でインディーゲームのサントラっぽいというか、既存のパフュームらしいダンス・ポップと現代の音楽業界におけるトレンドが、多角的な方向から幾重にも反射しあって無限大∞のプラズマを解き放っている。正直、久々にパフュームの音源聴いたのもあって別段期待してなかったけど、少なくとも前作よりはバラエティに富んでて聴きごたえあります。

Porcupine Tree - Closure / Continuation

Artist Porcupine Tree
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Album 『Closure / Continuation』
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Tracklist
01. Harridan
02. Of The New Day
03. Rats Return
04. Dignity
05. Herd Culling
06. Walk The Plank
07. Chimera's Wreck

2009年から本格始動した、Porcupine Treeの頭脳であるスティーヴン・ウィルソンのソロ活動。まず前提として、彼は90年代のデビュー当時からインターネット上の評価を手立てに現在の立場まで上り詰めたアーティストであり、それはネット社会が当たり前の世の中になった今現在でもネット上の評価に過敏なミュージシャンでもあるわけ。事実、ソロ始動とほぼ同時期に発表したPTの10thアルバム『The Incident』が過去作と比較しても明らかに酷評の多い駄作だったのは、ソロ活動を本格化させるにあたって既存のPTファンを取り込む思惑があったんじゃねぇかと邪推するほどに(一部インタビューによるとSW自身も不満を感じていたマンネリ作品で、それはメンバー間の対立が原因とのこと)。そんな彼に対し、改めて“したたか”だと痛感する出来事として、昨年発表したソロ最新作となる『The Future Bites』がネット上で『The Incident』と同等の酷評を受けてからのPT復活宣言は、まさに輪廻転生じゃないけど、それこそ歴史は繰り返すじゃないけど、バンドもソロも似たような「閉鎖/Closure」を経ているのは皮肉にも面白いというか、英国人らしい「“したたかさ”ここにあり」と唸らされた。また、2018年にはSWはソロで奇跡の来日公演を実現させ、PT時代の名曲も披露し観客を熱狂させたことは今も記憶に新しい。

そんな、パンデミック/ロックダウン時代という特殊な時期にリリースされた『The Future Bites』のコンセプトを振り返ると、現代のインターネット社会を支配的に牛耳るビッグ・テックことGAFAに対抗する架空の企業『TFB™』を通して、先の米大統領選における不正選挙疑惑を発端とする米連邦議会襲撃事件を陽動したトランプ信者ことQアノン/Jアノンというカルト集団の暗躍、ケンドリック・ラマーのMVにも採用されたディープフェイク技術の進歩やDSことディープステイトにまつわる陰毛論/フェイクニュースが入り乱れた情報合戦、英国のEU離脱(ブレグジット)、銃規制の問題や中絶権の禁止(ロー対ウェイド判決)すなわちリベラルの敗北、からの「日本語ラップ界のほんこん」ことKダブシャインの台頭、COVID-19にまつわる陰毛論やTFB™製ワクチンにまつわる「中身はアストラゼネカ製だ!」などという偽情報、そして日常的にメインストリームメディアからセンセーショナルに垂れ流される戦争報道という名の分断、それらの真偽不明な情報の海に汚染されたジョージ・オーウェルの『1984』さながらのディストピア社会を、それこそポスト・トゥルース時代のピーク値を超えた数多くの分断および二極化した未来の景色を、言わば預言者(Prophet)の立場から実験的なポップ・ミュージックを介して人類に“気づき”を与えてくれた、そんな独自性の強い作品だった。そして数々の戦禍の火の粉に、僕の陰毛もチリチリに焼け焦げたのは今さら言うまでもない。

前作の問題作『The Incident』から約13年ぶり、そしてロードランナーではなく本家ソニーUKから発表された復活作の『Closure / Continuation』は、同じく13年ぶりに刷新された新しいアー写を見てもわかるように、(大変残念ではあるが)ベレー帽キャラでありベーシストのコリン・エドウィンはバンドから離脱している事がわかる。もちろん、その理由も(上記の諸々の理由から)察することができるし、受け手側が察するべきだと思う。ちなみに、本作のアートワークはSWワークスでお馴染みのLasse Hoileではなく、エイフェックス・ツインの作品で知られるThe Designers Republicが担当している。

しかし、昨今の世界情勢やバンドの未来を予見してか、SWは近年のソロ活動においては全て自身でベースを弾いており、それこそ復活第一弾となった1stシングルの#1“Harridan”からして、そのベレー帽という名の一抹の不安を掻き消すほどのキレッキレかつグルーヴィなベースラインで幕開けを飾ると、“PTにおけるドラム”を司る現キング・クリムゾン/パイナップルシーフでもお馴染みのギャヴィン・ハリソンのプレイ、そしてPTならではのドラムがボーカルと近い位置にある「ドラムが声を出して歌っている」と錯覚するサウンド・プロダクション、および傑作『In Absentia』を想起させるシンバルのハイを強調させたギャヴィン本人によるミックス、方や“PTにおけるシンセ”を司るリチャード・バルビエリのサイケデリックな旋律に誘われるように、OpethコラボやTOOL台頭以降のオルタナ/プログレ・メタルの影響下にあった9thアルバム『Fear Of A Blank Planet』や8thアルバム『Deadwing』に代表される後期の作品から「時を戻そう」とばかり、そこから更に遡って中期の『In Absentia』はもとより『Lightbulb Sun』への回帰を予感させる。とにかく、この復活シングルから聴こえてくる音色からして、13年のブランクがあったとは思えないほどPT然とし過ぎてて素直に感動するし、ミックスやプロダクションのみならず、メロディやアレンジの細部に至る所まで一聴して理解る「PTの音」「PTの色」への回帰を促している。

そして何より、ソロ時代のポップスとは対極にあるSWの寂寥感溢れるセンチメンタルな歌声が司る内省的かつ悲観的、すなわちペシミストとしてのSWが指揮するPTならではのペシミスティックなUKロックらしい世界観への回帰を果たしている。もちろん、中盤からはメタル路線の後期PTを踏襲した陰鬱なシンセ/パーカッションやポストメタリックなギター、そして最近のSWワークスにおける“Personal Shopper”を思わせるモダンなエレクトロビーツがシームレスに絡み合う、そのヘヴィサイケ然とした幽玄な間奏パートを織り込んだ、要するにロックのダイナミズムとプログレのインテリジェンスが高い緊張状態でせめぎ合いながらも、ヘタにプログレプログレしていないスムースな楽曲構成は、いかにも「クラシックスタイルのPT」への回帰を促している。


本作で唯一SWが単独で作曲している曲で、SWのバラードタッチのボーカルを中心にソロ五作目の『To the Born』的なシンプルさを追求した#2“Of The New Day”、続く#3“Rats Return”におけるSWソロワークスを思わせる霊的なコーラスやソロ四作目『Hand. Cannot. Erase.』をルーツとするヘヴィでマッシーなリフメイク、そしてOpethと相思相愛だった「00年代のPT」を嫌でも思い起こさせる中盤の間奏パートは、まさに00年代以降のSWワークスの集大成の一曲と呼ぶべき暗鬱系プログレッシブ・ロックの代名詞と言える。冒頭からバルビエリ作品でもお馴染みのスウェーデン人シンガーLisen Rylanderのコーラスワークや子供たちが賑やかに戯れる環境音がフィールド・レコーディングとして聴こえてくるニューエイジな雰囲気をまとったアコースティック・バラードの#4“Dignity”は、ソロ二作目の『Grace For Drowning』を彷彿とさせるカラッとした朝焼けにどこか仄暗さを孕んだ淡いアレンジと、俄然バラード映えするSWの歌声をフィーチャーしている。

冒頭のリフとメインのダイナミックなヘヴィネスを軸に音の強弱を効かせた、至極シンプルなソングライティングまでもが傑作『In Absentia』の“Blackest Eyes”への回帰を促す#5“Herd Culling”、晩年のSWソロと晩年のPTが約13年の月日を経て運命的な邂逅を果たしたような打ち込み主体の#6“Walk The Plank”、本編を締めくくる約10分に及ぶ大作の#7“Chimera's Wreck”は、耽美的なフォークソング~アコースティック調のミニマルスティックな前半から徐々にバンドサウンドが本格化していき、中盤以降はプログレならではのリフやソロワーク、そしてクライマックスにはバチクソタイトなリフで『Deadwing』路線へと回帰する。本編の他に収録されているボートラの三曲は、“PT”を司る“Population Three”は微かに最初期のPTを彷彿とさせるダークでミステリアスなインストで、一転してトクマルシューゴさながらのポップなアレンジを効かせた“Never Have”、ほのかにシティポップ的な「夏」っぽいニュアンスを感じさせる“Love In The Past Tense”など、どの曲もあまりに聴きごたえがある。

とにかく、どの過去作とも一線を画した、ブランク明けのバンドにありがちなパロディやセルフオマージュと言われるような“逃げ”ではない、前作の10thアルバム『The Incident』から地続きの状態で「継続/Continuation」した、れっきとした「PTの11thアルバム」として“攻め”のムーブしかしてない、未だ衰えを知らない創作意欲とその貪欲な姿勢に終始感激しっぱなし。少なくとも、実験的なソロを経てプログレッシブ・ロックの概念を刷新している偉大な一枚であることは確かで、既に自分の中では表題の「閉鎖/Closure」が示唆するPTラストツアーに伴う来日公演(2デイズ)を妄想しちゃってるのも事実。そして、SWソロワークスが「継続/Continuation」していく先に待ち受ける新作『Harmony Codex』も今から期待に胸が膨らむ。

Pure Reason Revolution - Above Cirrus

Artist Pure Reason Revolution
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Album 『Above Cirrus』
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Tracklist
01. Our Prism
04. Cruel Deliverance
05. Scream Sideways
07. Lucid

2020年作の『Eupnea』にて奇跡の復活を果たした、00年代のUKモダンプログレ界を象徴するPure Reason Revolutionの復活第二弾となる新作音源が、まさか2年という短いスパンで発表された事に歓喜し涙するだけでなく、その内容も10年代のポスト・プログレッシブの源流の一つと呼べる、PRR本来の姿に回帰した復活作の流れを汲んだ、古き良きネオ・プログレッシブ・ロックの調べを奏でている件について。

復活第一弾の『Eupnea』にて垣間見せた、大聖堂の壮観なる彫刻が今にも動き出しそうなPRRの音世界を華やかに彩るシンセ/キーボードとジョンとクロエのコーラス/ハーモニーを中心とした抒情的なポップネスは控えめに、一転して本作の『Above Cirrus』は活動休止前のエレクトロ路線への回帰を促すようなモダンな電子音をフィーチャーしつつも、個人的に実はこのバンドの一番の強みだと思ってるポスト・ヘヴィネス然としたリフメイクのカッコ良さを極め尽くしたような一枚となっている。

そんな彼らのセンスフルなギターワークおよび現代ポストメタルに精通するソリッドなヘヴィネスの片鱗を覗かせる冒頭の#1“Our Prism”からして、TOOL顔負けのオルタナティブな側面を垣間見せたかと思えば、あくまでPRRらしいフロイド直系のアトモスフェリックなサウンドスケープをベースに、活休前のスタイルを20年代仕様にアップデイトさせたモダンなエレクトロニカや持ち前のポスト・ヘヴィネスが放つダイナミズムが交錯する#2“New Kind Of Evil”、ポスト・プログレッシブ界の第一人者であるスティーヴン・ウィルソンの最新作『The Future Bites』における“Personal Shopper”的なエレクトロビーツを刻む#3“Phantoms”、PRRならではのアート気質の高いネオ・プログレッシブとTOOLに肉薄する現代ポストメタル的な実験性が邂逅した大作の#5“Scream Sideways”は本作のハイライトで、本作の中で最もジョンとクロエのコーラス/ハーモニーが活かされた#6“Dead Butterfly”、そして最初と最後はTOOLで締めるとばかり、それこそ復活作の時にもTOOLに精通する黄金のキザミ意識を持つバンドである事について言及したけど、まさにその答え合わせをバンド自身で提示する#7“Lucid”まで、当時は物議を巻き起こした活休前のエレクトロ路線、つまり活休の直接的な原因となった方向性のトラウマと改めて向き合い、そして先人であるSWの力を借りてそれを克服するかのような復活第二弾に相応しい一枚。
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