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レビュー (N)

NEMOPHILA - REVIVE

Artist NEMOPHILA
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Album 『REVIVE』
JK_nemophila

Tracklist
01. REVIVE
02. DISSENSION
03. 鬼灯
04. HYPNOSIS
05. GAME OVER
06. Life
07. SORAI
08. Rollin'Rollin'
09. Change the world
10. 雷霆 -RAITEI-
11. OIRAN

つい最近まで「NEMOPHILAって誰?」状態だった自分とガールズメタルバンドNEMOPHILAの馴れ初め的な話をすると、もう十数年前に国内メタラーのバイブルとして一世を風靡し(そなの?)、あのタレントSHELLYを排出した音楽番組『ROCK FUJIYAMA』のyoutube版に天才少女ギタリストことLi-sa-Xが同番組のレギュラーでお馴染みのマーティ・フリードマンとROLLYと一緒にギター弾いてる姿を久々に見て、相変わらずギターうめぇなと感じるよりも先にまだ子供だった当時のイメージから急激に大人っぽく成長してる事にビビったわけ。で、その元?天才少女ギタリストが結成したLi-sa-X BANDの存在を認知したタイミングでオヌヌメに挙がってきた下記のギタープレイスルー動画を観たら、あのLi-sa-Xの超絶技巧派プレイに全く引けを取らず流麗にハモり散らかしているメガネっ娘ギタリストに萌えて「このメガネっ娘誰ッ?!」みたいな流れから、どうやらそのメガネっ娘がLi-sa-X BANDのギタリストでありNEMOPHILAってガールズメタルバンドのギタリストの葉月らしいと知る←この起点から今現在に至る。


何を隠そう、自分自身も当時『ROCK FUJIYAMA』でメタルを学んだ世代っちゃ世代のメタラーなのにも関わらず、あれから十数年が経過した今現在の自分の立ち位置すなわち世界線からでは、NEMOPHILAのネ(Ne)の字もバブリシャス(Obliviscaris)の字も出てこないし、ニアミスすらしたことないバンドだったのも事実。で、一体全体どこの文脈から派生してんの?と気になって調べてみたら、どうやらガールズメタルバンドMary's BloodのギタリストSAKIを中心に結成したバンドらしくて「なるほどガッテン」した。あと某界隈で有名人らしいドラマーのむらたたむの事も普通に知らなかった、というか普通に「村田らむ?」としかならんかった(←普段どこの辺境地に生息してんねんw)。

このように、NEMOPHILAに関して「何も知らないジョン・スノウ」ばりに何も知らない、ましてやリーダーのSAKIが在籍するMary's Bloodすら一度も聴いたことがない、通称ニワカFUJIYAMAメタラーの自分がNEMOPHILAの音楽を想像してみたところで、それこそ活動休止中のLOVEBITESのフォロワー程度のイメージしか浮かばなかったのも事実。しかし、いざバンドの記念すべき1stアルバム『REVIVE』を聴いてみたら、言うなれば「ベビメタ以降」のモダンなラウドロックをベースとしたゴリゴリのメタルやってて驚いた。というのも、初期の正統派メタルから徐々にシンフォニック・メタルに傾倒していったLOVEBITESとは真逆の音楽性に近いというか、いわゆるガールズメタルバンド=シンフォニック系みたいな安易なイメージとは一線を画した、侠気ならぬ姐気あふれる硬派なメタルを展開している事に好感しか沸かなかった。


まず何が衝撃だったかって、アルバムの幕開けを飾る表題曲の#1“REVIVE”からして、初っ端BMTHのEP『Post Human: Survival Horror』が始まったかと錯覚するギターの入りから、7弦ギターならではのローにローを重ねたモダンなヘヴィネスと共に在りし日のMachine Headばりにスラッシーかつソリッドに刻むリフ、そしてボーカルのマユはマユで開口一番に女性的な歌声ではなく激しいシャウトが織りなす、その想定外としか言いようがないゴッリゴリなサウンドに面食らいド肝を抜かれると、そのエクストリーミーな流れのまま地獄の底から響き轟くような悪魔的なスクリームをぶっ放す「スクリーマーとしてのマユ」を全面にフィーチャーしたゴリゴリのグルーヴ/メタルコアナンバーの#2“DISSENSION”、ここまで冒頭の殺傷力の高いブルータルな音波の激流によって2秒でメタラーのナニもといハートをグッと掴んでくる。

ヘタしたら「日本のガールズバンド史上最もヘヴィなんじゃねぇか説」が芽生える程度には鬼ヘヴィな冒頭の流れを引き継いで、今度は古代エジプトの黄金の装飾を身にまとったクレオパトラさながらの妖艶な存在感とフィメールボーカリストとしての表現力の高さを垣間見せる女帝マユの艷声を中心に、それこそ近年のAmorphisを彷彿とさせるオリエンタルラグいトライバリズムに溢れたフォークメタル的なアレンジを効かせた#3“鬼灯”や#4“HYPNOSIS”に象徴される、今風のヘヴィネスのみならず楽曲構成力の高さやアレンジ力の非凡さにも確かなセンスを覗かせる。

ヘヴィメタルにおいてバラードは必須科目とのことで、そのドラマー村田らむちゃんによる手数多めのドラミングのダイナミクスを“縁の下のちからむちゃん”とした、この手の情感溢れるメタルバラードを歌うために生まれてきたんじゃねぇかと錯覚するくらい映えに映えるマユのハスキーボイスから解き放たれるサビメロを聴いた瞬間、往年の演歌歌手ばりにコブシを握りながら「泣くがいい・・・セーソクの胸を借りて泣くがいい・・・」と呟いていた#5“GAME OVER”は、「バラードだから」とかそんなん関係なしに、本作において最も7弦の特性が活かされたギターのゴリッゴリなヘヴィネスで刻んでくるガチな間奏から、ギタリスト葉月とSAKIのツインギターによる慟哭のハーモニーを奏でる流麗なソロワークへと想いを紡いでいく様式美的な構成も含めて、まさに21世紀を代表するメタルバラードの名曲と呼ぶに相応しい一曲となっている。

その本作のハイライトを飾るメタルバラードと対になる、(90年代の大黒摩季あるいは相川七瀬をフラッシュバックさせる)希望に満ち溢れた前向きな明日を歌う往年のJ-POPスタイルの#7“Life”は、シンガロング推奨のアリーナロックにも映える柔軟性を内包したオールラウンダーなボーカリストと言ったら語弊がありそうだけど、とにかくメタル野郎のみならず一般大衆の琴線に訴えかける幅広いソングライティングとマユのフレキシブルな歌声は、まさにNEMOPHILAというバンドの底抜けなさと(そう遠くない未来にデカい箱で演ってる姿、その景色が目の前に浮かんでくるかのような)スケールのデカさ、および音の説得力に直結している。

ガールズメタル界のレジェンド=SHOW-YAに代表される、日本の伝統的なガールズメタル魂を継承する#7“SORAI”やハードロック調の#9“Change the world”、これまでの「ベースいらなくね」の雰囲気から一転して、どう考えても「ベースいるくね」としか言いようがないベース担当ハラグチサンによるソロプレイから始まる曲で、ベビメタはもとより既に対バンが決まっているPassCode風のシンセをはじめ、日本のアイドル文化に精通するノリのいいコール&レスポンスを擁するモダンなラウドロックの#8“Rollin'Rollin'”、メロデスばりに疾走感溢れるソリッドなリフにシンフォニーXのマイケル・ロメオ顔負けの超技巧ギターによるスリリングなソロバトルをフィーチャーした#10“雷霆”、イントロから「デレッデレッデレ」というエクストリームメタルの代名詞の如くスラッシーなリフから小悪魔が憑依したマユのスクリームにガッツポ不可避の#11“OIRAN”は、それこそジャパメタ界のレジェンドことラウドネスの二井原御大に代表される、80年代のヘヴィメタル全盛期のメタルマスターを現代的なメタルとしてREVIVEさせるかの如し、その女帝さながらのマユの雄雄しい歌声を耳にすれば2秒で跪くこと必須。

改めて、古き良きクラシックなヘヴィメタルや伝統的なジャパメタに対するリスペクトと「ベビメタ以降」の日本独自の文化的側面と現代的なヘヴィミュージックのモダンさを兼ね備えた、と同時に「ベースいらなくね」という各世代が受け継いできた“メタルあるある”を踏襲した、それこそDIR EN GREY『DUM SPIRO SPERO』を軽くいなす7弦の重いサウンドを持ち味の一つとする、全世代のメタル愛に満ち溢れたイマドキのガールズメタルバンドがこのNEMOPHILAだ。中でも、長きにわたる様々なメタルの歴史を世代を超えた現代的な解釈をもって忠実に再現する「今」のヘヴィメタルを従えて、全盛期の寺田恵子に肉薄する強い女性像を司る表情やDIR EN GREYの京に肉薄するスクリームに象徴される小悪魔的な表情他、それこそ「女版DIR EN GREY京」と称すべきマユの多彩な表情筋で魅せる表現豊かなボイスパフォーマンスは、NEMOPHILAのセンターを担うに相応しい最大の魅力と言える。

そんな、NEMOPHILAについて本当に何も知らない、ましてやX JAPANの“ベニ”や“Rusty Nail”の楽曲Coverしまくってる事すら知らない、いわゆる“ニワカFUJIYAMAメタラー”の自分が2秒でドハマリするぐらいには、想像を超えた楽曲の完成度と各メンバーのスキルに裏打ちされたバンドサウンドの説得力に圧倒させられたし、大袈裟じゃなしに「ベビメタ以降」のラウドミュージックの現在地を示す革新的な最重要アルバムの一つだと思う。少なくとも「いま最もライブが観たいバンド」なのは確かです。

Noctule 『Wretched Abyss』

Artist Noctule
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Album 『Wretched Abyss』
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Tracklist
01. Elven Sword
02. Labyrinthian
03. Wretched Abyss
04. Evenaar
05. Winterhold
06. Deathbell Harvest
07. Unrelenting Force
08. Become Ethereal

スカイリムはメタル・・・そう熱弁するのは、UKポスト・ハードコアバンド=Svalbardの紅一点フロントウーマンのセレナ・チェリー。彼女は、昨年イギリスがロックダウンしている期間に、ベセスダが誇る世界的人気ゲームシリーズ「The Elder Scrolls」の通称「TES5」こと『スカイリム』をテーマにしたブラック・メタルアルバムを制作、そんなセレナ・チェリーによる新しいプロジェクト=Noctuleのソロデビュー作となるのが本作の『Wretched Abyss』である。

小島秀夫監督の『デス・ストランディング』『サイバーパンク2077』に代表されるAAAタイトルのゲームとメタル、その親和性の高さを再確認させる案件が立て続く昨今の流れに乗って、遂に一つのゲームシリーズから更に一つのタイトルにピックアップして、それをコンセプトにした音楽アルバムを作っちゃった「スカイリム大好き芸人」がこのセレナ・チェリーだ。曰く、彼女は過去にブラック・メタルバンドで演奏していた前歴があり、それこそ本家のSvalbardはUKポストハードコアをベースにしながらもブラック・メタルの影響も垣間見せるハイブリッドメタルで、そんなゴリゴリのブラックメタラーでもある彼女の音楽的ルーツと、本家Svalbardが持つもう一つの側面がこのプロジェクトに集約されている。確かに、SvalbardでもBlackgazeとして聴ける楽曲も多数見受けられたが、セレナの“ソロ”プロジェクトである本作は自分の思うように好き勝手にブラックメタルできちゃうというわけ。これは余談だけど、一本のゲームをコンセプトにした音楽作品といえば、ポーランドのプログレバンド=Riversideの7thアルバム『Wasteland』は、『スカイリム』と同じベセスダゲーの『フォールアウト4』からインスパイアされた作品で知られている。

本作のジャケには、TESシリーズにおけるアイコニックな存在である“ドラゴン”が翼を広げて飛び立つ姿が描かれており、また楽曲のタイトルも全て『スカイリム』関連の用語を採用し、その歌詞も『スカイリム』の舞台となる極寒の雪山や内省的なテーマ、そして北欧神話に精通するバックボーンについて歌われている。そしてきっと、きっとTESシリーズ屈指の名ゼリフである膝に矢を受けてしまってなでお馴染みのあの元兵士の気持も歌われているハズ・・・!

初っ端からキチガイハードコアのGulchが始まったかと錯覚するくらいの、ブラック・メタル然としたグロテスクな金切り声=“シャウト”に、あいも変わらず男勝りなセレナ姐さん芸を見せつけられるデジャブしかない#1“Elven Sword”は、それこそエルフの両手剣を装備してマン振り脳筋プレイでドラゴンをボコってた自身のゲームプレイを約10年ぶりにフラッシュバックさせる、不気味の山脈に吹雪が舞い散るかの如し荒涼感溢れるトレモロ・リフが神ゲー『スカイリム』ならではの幽玄な音世界を描き出す。

古くは初期Alcestを長とする、いわゆるアトモスフェリック・ブラックの王道を行く#2“Labyrinthian”では、アコギを駆使したフォーキッシュなメロウパートを折り込んで静と動のコントラストを覗かせ、セレナのギタリストとしての才能を垣間見せるような、近年のSvalbardEnslavedにも通じる勇壮かつ超絶エピックなギタープレイが冴え渡る#3“Wretched Abyss”、ブラック・メタルというよりはポストロック的なギターの幽玄なフレーズやけたたましいブラストビートをフィーチャーしたデンマークのMOLを想起させる#4“Evenaar”、『スカイリム』プレイ中の僕→「フッ...“力”こそ全てであるこの我にウィンターホールド大学の学位(魔力)なんぞ必要ないわ!」みたいな当時の脳筋中二病プレイ(黒歴史)がフラッシュバックして頭を抱える#5“Winterhold”、フランスのドラゴンならぬゴジラ顔負けのエクストリーム・メタル然としたキザミを駆使した#6“Deathbell Harvest”、『スカイリム』の特殊能力である“シャウト”の一つである「揺るぎ無き力」を文字通りシャウトして敵をなぎ倒す#7“Unrelenting Force”、これまた“シャウト”の一つである「霊体化」を歌った壮大なインストナンバーの#8“Become Ethereal”まで、なんだろうブラック・メタル云々以前にメタルとして完成度高いです。そして、どんだけ『スカイリム』のこと好きやねんと、いや確かに神ゲーだけども。

今から10年前、PS3で『スカイリム』が出た時に初めてTESシリーズをプレイして、まんまとその壮大な世界観にハマったエルフの民としては、ドラゴンとの激しい死闘を繰り広げる傍ら、「スカイリムはノルド(ストームクローク)のもの」問題などの種族間に起こる様々なイザコザ、そんなイザコザには無関心な民ののどかな暮らし、雄大な大地や壮観な雪景色、それらの超スケールで描かれるファンタジーオブファンタジーの世界観が懐かしくなると同時に、恋しくなってくること請け合い。個人的にも、フィジカル全振りステータスキャラの両手剣マン振り脳筋ゴリ押しプレイしてたら物語の終盤で詰んで辞めたのを思い出したり(大人しく大学通っとくんだった・・・)、時に進行不能バグに出会ったり、時に戦闘がクソだったり、時に膝に矢を受けてしまったり、時に従者リディアと仲良くしてみたり、時に吟遊詩人の歌に癒やされたり、そんな楽しい思い出の数々がフラッシュバックした。

そんな神ゲー『スカイリム』も今年で10周年記念。既に続編のアナウンスがされている『TES6』がガチで発売されたその日には、それを「スカイリム大好き芸人」の異名を持つセレナがトロコンするまでSvalbardの新作は諦めるしかないな・・・。というか、もし本当にTES6が出たらソロプロジェクトが本業になりそうな勢いだなw

Nothing 『The Great Dismal』

Artist Nothing
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Album 『The Great Dismal』
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Tracklist
01. A Fabricated Life
02. Say Less
03. April Ha Ha
04. Catch a Fade
05. Famine Asylum
06. Bernie Sanders
07. In Blueberry Memories
08. Blue Mecca
09. Just a Story
10. Ask the Rust

前作の3rdアルバム『Dance On The Blacktop』を聴いて、このバンドの存在意義がある日突然暴漢に襲われ慢性外傷性脳症(CTE)を患い自殺を考えたフロントマン=ドメニク・パレルモの「音楽療法」であることを知った。改めて考えさせられたのは、人は自死を選んだところで「Nothing=何もない」ということ。本人にも、そして何よりも残された人たちにとっても「Nothing=何もない」ということ。それこそ、先日の某女ギタリストの訃報に対して一言述べるとするならばWhen I Die, Will I Get Better?っつー話で、つまり死んだところで現状は何も変わらないし、何より誰も救われない。

そんな「淫乱テディベア」のメガシンカみたいなパンチの効き過ぎているジャケからしてド肝を抜いてくる、フィラデルフィア出身のNothingが約3年ぶりに放つ4thアルバム『The Great Dismal』は、同郷フィラデルフィア出身の若き天才SSWアレックスGやジュリアナ・バーウィックとともに来日経験もあるハープ奏者のメアリー・ラティモアがゲスト参加し、お馴染みのウィル・イップがプロデューサー兼エンジニアを担当している。そのジュリアナ人脈で思い出したのは、彼らが2019年に発表したBサイド集をGrouperの曲をカヴァーしてて驚いた記憶があって、今回のフィラデルフィア人脈はその点と点が線に繋がる案件でもあった。ちなみに、パレルモの右腕だったギタリストのブランドン・セッタは前作を最後に脱退し、本作における影のプロデューサーであるニック・バセットくんと新ユニット=Pink Slipを結成、代わりの新メンバーとして同レーベル(Relapse)のCloakroomのドイル・マーティンを迎えている。


この『すげぇ憂鬱』という直球タイトルを冠する本作は、真夜中にこんなんに出くわしたら全力ダッシュ不可避のヘタな幽霊より怖いジャケからは想像つかない、もはやポストロックの領域に片足突っ込んじゃってるドリーミーな音響空間で2ndアルバムでもお馴染みのヴァイオリン奏者シェリー・ワイズによるストリングスとメアリー・ラティモアによるハープが神聖なる黄泉世界の入り口へと誘う#1“A Fabricated Life”からして、持ち前のノイズともヘヴィネスとも無縁の「ドゥームゲイズの肩書きとは?」と言わんばかりの意表を突いた幕開けを飾る。しかし、その黄泉の世界から一転して淫乱テディベアの幻覚攻撃を喰らったかのようなリード曲の#2“Say Less”では、一種の自傷行為のメタファーであるギターノイズが炸裂し、UKロック界のレジェンド=キリング・ジョーク的なインダストリアル/ポストパンクを装ったフェミニンでヒステリック、そしてサイコデリックな堕落した「淫夢」という名の「悪夢」に飲み込まれる。前作で言うところの“Blue Line Baby”を連想させる、グランジ界のレジェンド=Nirvanaがシューゲイザー化したようなドゥームゲイズ然とした#3“April Ha Ha”は、後半からアレックスGが歌うパートのそこはかとないスティーヴン・ウィルソンの1stアルバム感すき。

(アレックスGさん・・・)

近年のデフヘヴンを連想させるというか、というのも最新作の『堕落した普通の人間の愛』American Footballに代表されるアメリカ中西部を発信源とする90’sエモ/ポストロックへの「隣人愛」を示した実にキリスト教的かつリベラル(民主党)的な作風で、その90年代emo(イーモゥ)に精通するリフレイン主体の美メロが咲き乱れる#4“Catch a Fade”、サビのバッキングがメランコリックな「シンプルイズベスト」の#5“Famine Asylum”、2020年のアメリカを象徴するブラック・ライヴズ・マターに賛同し、自身のBandcampを介した売り上げを黒人コミュニティに寄付するほどの筋金入りの「民主党バンド」であることを示唆する#6“Bernie Sanders”は、その名の通り渦中の「Vote is Metal(選挙はメタル)」こと米大統領選の民主党内における最有力候補の一人だった上院議員バーニー・サンダースから拝借したもので、自分が知る所ではデフヘヴンローレン・メイベリーなどの海外のインテリ系ミュージシャン界隈はサンダースを根強く支持していたが、最終的に彼は民主党の候補者指名争いから撤退を余儀なくされた。しかし、なぜ彼がミュージシャンに好かれるのか?それは彼が持つ音楽への造詣の深さ故である。ちょっと面白いのは、このNothingの出身地は今回の選挙で不正を疑われてトランプに提訴された激戦区のペンシルバニア州はフィラデルフィアってのもまたタイムリー過ぎる話(ジャケのヤベー奴はメガシンカしたサンダース説w)。

前作にはあったメタリックなコアさは皆無に近く(どちらかと言えば2ndアルバム的)、しかしシューゲイザーやオルタナ、エモやポストロックなどの90年代リバイバルな新世代グランジは不変で、このNothingが奏でる音楽こそ大病を患いながらもパレルモが生き続ける意味、この世に存在し続ける理由、その存在証明である事を再確認させる。タイトルの「Dismal」が示す「憂鬱」で「陰気」なメロディと「荒涼」としたギターノイズが「もの哀しさ」に満ちたサウンドスケープを構築していく、その中でも今はなき日本の女ギタリストや今はなききのこ帝国が歓喜しそうなシューゲイザーならではのリバーヴを効かせた音響意識と美しいリフレーンを描き出すギター、まさにコレに尽きる。とにかく「ポストシューゲイザー」としての本領が遺憾なく発揮された、これが音楽療法のチカラかと唸るような安定の一枚。

Necrot 『Mortal』

Artist Necrot
Necrot_Band

Album 『Mortal』
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Tracklist
01. Your Hell
02. Dying Life
03. Stench Of Decay
04. Asleep Forever
05. Sinister Will
06. Malevolent Intentions
07. Mortal

デスメタル女子「直腸陥没!!」

フェイク王「直腸陥没!!」

ぼく「直腸陥没!!(計画通り・・・ニチャア)」

今年に入ってからというもの、日本が世界に誇るデスメタル女子の広瀬すずに負けじと、例年以上に自主的にイケてるデスメタルをディグる強化月間が続いてて、ここ最近ディグった中ではドイツのCytotoxinやUSのKarmacipherあたりのテクデスが好感触だった。その中でも特に良かったのが、他ならぬカリフォルニアはオークランド出身の3人トリオ=Necrotの2ndアルバム『Mortal』で、一曲目からデスメタル女子の宇垣美里が生み出した名言私には私の地獄がある、その回答としての“Your Hell”=「あなたの地獄」という闇キャラアピールの激しい意味深なタイトルにもあるように、カリフォルニアの空がコード・オレンジ色に染まる現世こそ「地獄」そのものであるという話はさて置き、まるで日本のドクサレ政治家の末路=「Go To Hell」を暗示するかのような、それこそデスメタル女子の広瀬すず宇垣美里フェイク王が仲良く揃ってトゥース!ばりのデスポーズを決めながら「ドクサレ政権の生皮剥いで直腸陥没!!」とデスボイス不可避の“GoToデスメタル”

近年デスメタル界と言えば、「アヌンナキ降臨派系デスメタル」Blood Incantation「土星の水全部抜く系童貞デスメタル」Cryptic Shiftに代表されるSF系デスメタルがトレンドの一つだけど、彼らNecrotはデスメタルはデスメタルでも一体どのタイプのデスメタルにカテゴライズされるか?強いて言うなら、カナダのTomb Moldに近い比較的硬派なデスメタルやってて、要するに流麗なソロワークを挟みつつ「Go To Hell」=「地獄行き」に相応しい極悪人の生皮剥いで地獄という名の三体世界に突き落とすような暴虐非道のブルータルなリフやタイトでヘヴィなキザミを駆使した、オールドスタイルのヘヴィメタルにも精通するデスメタル。

Nothing 『Dance On The Blacktop』

Artist Nothing
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Album 『Dance On The Blacktop』
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Tracklist
02. Blue Line Baby
03. You Wind Me Up
04. Plastic Migraine
05. Us/We/Are
06. Hail On Palace Pier
08. The Carpenter's Son
09. (HOPE) Is Just Another Word With A Hole In It

「デフヘヴン包囲網」を最前で指揮する必殺仕事人こと、ex-deafheavenニック・バセットくん擁する・・・って、いやいやいやいや、こんな有事の際になんでお前脱退しとんの・・・。確かに、2010年にフィラデルフィアで結成されたNothingは、2014年作に名門メタルレーベルRelapse Recordsから1stアルバムGuilty Of Everythingが発表されるや否や、ローリング・ストーンやピッチフォークなどの世界的な音楽メディアから一目置かれ、そのメタリックかつドゥーミーな重さとノイジーな90sシューゲイズがクロスオーバーしたハードコアなスタイルに対し、あるメディアから”ドゥームゲイズ”と称されまたたく間に世界中で話題を呼んだ。

一見、その手の界隈のイメージ的には、”アンチ・デフヘヴン”で知られるex-deafheavenニック・バセットくん主導の「デフヘヴン包囲網」の一環として発足したバンドだと思われがちだが、それは全くの勘違いで、このNothingはギタボでありヤク中ゼンカモンうつ病メンヘラ系男子ドメニク・パレルモが古くから患っている心身の障害を緩和するための、いわゆる音楽療法(テラピー)を主な目的とした、もう片方のギタボでバンドの中心人物であるブランドン・セッタとドラマーのカイル・キンボールの3人で立ち上げたバンドだ。事実、ニックが加入した直後の1stアルバムGuilty Of Everythingには彼の名前はクレジットされておらず、2016年作の2ndアルバム『Tired Of Tomorrow』で初めてベーシストとしてクレジットされている。そして2018年、これまではバンドの中心人物と(一方的に)勘違いされてきたニックが電撃脱退した後、バンドは黒人ベーシストのアーロンを迎え、約2年ぶりとなる3rdアルバム『Dance On The Blacktop』で再出発を果たした。ちなみに、今作のアートワークは女性写真家のChelsea Hudsonによるもので、個人的にペドロ・アルモドバル監督の変態映画『私が、生きる肌』を思い出した。

この『Dance On The Blacktop』は、フロントマンパレルモ自身の過去の問題や現在の問題、そして自らの出自を起因とした過去最高にパーソナルなアルバムとなっている。高い犯罪率と様々な労働者階級とヘロイン中毒者のたまり場で知られる(現在は閉鎖されている)、ノースフィラデルフィアのケンジントンという劣悪な環境で育ったパレルモは、そのめんどくせぇ出自もあってか90年代後半から00年代にかけて変化していた地元のハードコア/パンクシーンの中で、自身のバンドHorror Showを結成する。彼の経歴からもわかるように、パレルモの音楽的なルーツはパンクでありハードコアだった。周りにヘロイン中毒者とクズしかいねぇクソの吹き溜まりみたいな地域で育った彼自身も、若気の至りと言わんばかりに荒れ狂ってたパンクス時代に暴行罪で2年の懲役刑を受け刑務所にブチ込まれてしまう。月日は流れ、晴れてゼンカモンとなった彼は、再び音楽の世界にカムバックしようとデモを制作、そしてちょうどこの頃にCocteau TwinsRideをはじめ90年代のUKミュージックを象徴する”90年代愛”を互いに共有し、同時にHorror Showのファンでもあったパンク仲間のブランドン・セッタと運命的な出会いを果たす。これが後のNothingへと繋がる。

何を隠そう、Nothingの1stアルバム『Guilty Of Everything』では、そのテーマ/コンセプトとしてパレルモ自身が過去にムショにブチ込まれてゼンカモンとなった不合理な実体験と、投獄中に受刑者の間でドナルド・ゴインズアイスバーグ・スリムというデトロイトのスラム街/ストリートを扱った、それこそケンドリック・ラマーなど現代のラッパーにも強い影響を与えた黒人作家が人気だと知った彼は、このアルバムを象徴する哲学的なバックグラウンドとして自身の音楽に取り入れることで、結果としてどの万能薬/特効薬よりも効果的な音楽療法としていた。

2015年、再びパレルモに不幸が襲う。1stアルバムに伴うUSツアーを順調に回ってる時、ライブの後にオークランドの地下鉄で見知らぬ男に携帯を貸すように頼まれたパレルモがそれを拒否すると、急に男がパレルモに襲いかかり、彼の目、頭蓋骨、脊柱を骨折させる大怪我を負わせ、その結果ツアーも全てキャンセルせざるを得ない、もはやバンドの存続以前に生命の危機に曝されてしまう。そして彼は最近、神経変性疾患であるCTE(慢性外傷性脳症)の初期段階と診断された。神はどこまでパレルモを追い詰めるのだろうか?死ぬまでか?自殺するまでか?なんて非情、なんて無慈悲なんだ・・・。改めて、この世界には神はいないと思い知らされた。すると、今度はThursdayのフロントマンのレーベルで知られるCollect Recordsと新たに契約しようとするも、そのレーベルに投資していた「アメリカで最も憎まれている男」で知られる製薬会社CEOマーティン・シュクレリが証券詐欺罪で逮捕されてしまう。もはや神のいたずらでは済まされないレベルで、立て続けに不幸がパレルモに襲いかかる。そんなゴタゴタの中、Nothingの面々は数々の苦難を経て2016年に2ndアルバム『Tired Of Tomorrow』を発表する。するとメンバーとエンジニアWill Yipの精力的な活動および努力によって、世界最大のフェスLollapaloozaへの出演をはじめ、AFIDinosaur Jr.などのレジェンドと共演を果たすまでの成功者となる。

音楽的に語る1stアルバム『Guilty Of Everything』は、UKのJesuやUSのJuniusなどのJJ系ポストメタルをはじめ、パレルモブランドンの共通嗜好であるマイブラやスロウダイヴなどの90年代を象徴するシューゲイザー/ドリーム・ポップ愛に溢れた、まさしく”ドゥームゲイズ”を称するに相応しい良作だった。その中でも、自分の中で2曲目の”Dig”を聴いた時はちょっと衝撃で、それこそカイルのヘヴィなドラミングとハードコア/ノイズ然とした轟音ギター、90sグランジもビックリの倦怠感むき出しのパレルモのボーカル、そしてヤク中ゼンカモンうつ病メンヘラ系男子の真骨頂とも呼べるパレルモのエモさちょちょ切れそうなサビのバッキングでリフレイする、まるでムショの独房で自傷行為に勤しむメンヘラ受刑者の「心の闇」を色々な意味で炙り出すようなギター、それら全ての音が神がかり的な曲で、まさにNothingの真髄が詰まった”究極のヤク中ソング”としか他に例えようがなかった。

で、その”究極のヤク中ソング”こと”Dig”をついて、個人的にちょっと面白い発見が後にあった。まず、日本のバンドにきのこ帝国ってのがいて、そのきのこ帝国が2015年に発表したメジャー1stアルバム猫とアレルギーの中に”YOUTHFUL ANGER”というアルバム唯一の英語タイトルの曲があって、実はその曲ってこれまでインディーズでシューゲイザーやってた彼らがメジャー進出してJ-POP化したと批判されたそのメジャーデビュー作の中で、それこそビッグなアンプに通電させてラウドにノイジーに歪ませた轟音ギターをカチ鳴らすグランジ界の伝説NIRVANAをリスペクトしたようなヘヴィロックで、何を隠そう、そのきのこ帝国”YOUTHFUL ANGER”Nothing”Dig”というメンヘラソングを構成するノイジーかつグランジーな轟音ヘヴィネス、そして自傷行為を誘発するようなリフレインなど共通する要素が多数あって、この不思議な引力みたいなのに気づいた時は、「もしかすると陰陽座好きで有名なメタラーのあーちゃんはNothing聴いてるかもな」って思ったくらい。


実はこっからが本番で、それはNothing『Dance On The Blacktop』のリードシングルとなる”Zero Day”を聴いた時、まず初っ端の左耳から聴こえてくるギターの歪ませ方から”YOUTHFUL ANGER”の”歪”をフラッシュバックさせ、それと同じように”Dig”をフラッシュバックさせるグランジ・リバイバル不可避な轟音ノイズと今にも消えて無くなりそうなほど憂鬱なパレルモボイス、そのバッキングで”まるでムショの独房で自傷行為に勤しむメンヘラ受刑者の「心の闇」を色々な意味で炙り出すようなギターのリフレイン”が聴こえてきて、その瞬間もう泣きながら「Nothing is Back...」と呟きながら、あるいは「死にたい・・・」とツイートしながらリスカかますけど絶対に死なない日本のメンヘラクソ女ばりに、それこそ獄中のヤク中ゼンカモンメンヘラ系男子の「心の闇」が乗り移ったような気がした。この件は本当に面白いと思ったし、Nothing”Dig””Zero Day”を紡ぎ合わせるのがきのこ帝国”YOUTHFUL ANGER”だったという事実に、なんかちょっと感動したというか、この事実だけでメジャー以降のきのこ帝国がどれだけ凄いのか分かるし、とにかくメジャー以降の帝国を否定している奴らは、まず先に自らの審美眼のなさを否定すべきだ。

それ以降も、アルバム『Guilty Of Everything』”Dig”とともにNothingを象徴する”Bent Nail”の中盤を彷彿させるボーカル・メロディや初期のWhirrを想起させる儚くも美しいギター・ノイズをフィーチャーした、Nothing史上最高に叙情的でメロディアスな#2”Blue Line Baby”を皮切りに、全体のメロディやフレーズからして前向きな明るい未来へと歩み出すノイズ・ポップの#3”You Wind Me Up”Jesu系ポストメタルの#4”Plastic Migraine”、今作で1番emoいボーカルと1stアルバムを彷彿させるメタリックなリフと共にけたたましいノイズをぶっ放す#5”Us/We/Are”パレルモブランドンのサイドプロジェクトDeath Of Lovers直系のドリーム・ポップ~ポスト・パンクの90年代の思い出を行き来する#6”Hail On Palace Pier”、今度はグランジ~ハードコア~メタルを行き来するダーティな曲で中盤のドラムソロがイカす#7”I Hate The Flowers”、スロウダイヴ直系のリヴァーブと美しいリフレインをもってドリーム・ポップ然とした音響空間を形成する#8”The Carpenter's Son”、そして最後を締めくくる#9”(HOPE) Is Just Another Word With A Hole In It”は、アルバムの集大成、バンドの集大成を飾るような、デビュー当時から一貫してパレルモの過去の実体験を元に、それを自らの音楽に落とし込んでいくという、それこそNothingの発足理由に直結するような、まさに(HOPE)=希望に溢れた曲となっている。

なんだろう、Nothingというバンドの真髄が凝縮された名曲”Dig”をルーツとするリフレインとBPMを軸に、最初から最後まで質の高い轟音ノイズぶっ放してる時点でもう最高なんだけど、それ以上に90sオルタナ/グランジ、90sシューゲイザー/ドリーム・ポップ/ポスト・パンク、そしてハードコア/メタルまで、とにかくパレルモブランドンの音楽的ルーツである90s愛が込められたギターのフレーズやメロディがバンド史上最高レベルで、これほど細部まで徹底したリバイバル意識が込められた90s愛は、それこそSonic YouthダイナソーJrなどの90年代のUSオルタナ/インディを象徴するバンドを手がけた、つまり90年代の音楽を知り尽くした巨匠ジョン・アグネロを今作のプロデューサーに迎えたからに他ならなくて、彼の手によって一段と洗練された叙情的でメロディアスなサウンドが、USインディを代表するThe War On Drugsを手がけたミキシング・エンジニアと、日本の岡田拓郎くんの作品を手がけたSterling Soundの重鎮グレッグ・カルビの手によって、更に”メジャー感”溢れる当時の90sサウンドそのままに磨きがけられた結果、自身の集大成となる正真正銘の最高傑作が誕生した。つまり、彼らがこのアルバムで成し遂げたのは「メジャー宣言」、それらの”メジャー”という言葉から思い浮かぶのはやはり日本のきのこ帝国で、もしかしてもしかすると、このアルバムって実はきのこ帝国がメジャーデビューしなかった未来、つまりずっとインディーズで活動し続けた場合の世界線なんじゃねーかって。そう考えたら、きのこ帝国のメジャー化は日本語ロック最大の損失だったりするのかも?

しかし、ここまで文句なしの最高傑作を作り上げたのに、何かが足りない、誰かが足りない気がする・・・。そうだ、ニック・バセットが足りないと感じた僕は、アルバムのクレジットに彼の名前が載ってないか何度も何度も探した。そして遂に見つけた。僕は泣きながら「おるやん、普通にニックおるやん」と呟いた。彼は、今作のリードトラックとなる2曲目の”Blue Line Baby”パレルモと共作しつつ、その中でピアノとキーボードも弾いていた。また嬉しくて涙が出てきた。そもそも彼の脱退理由は、噂によれば家族の問題らしいので、それならしょうがないね。別に音楽をやめたわけじゃなさそうだから安心した。でも笑っちゃうのは、毎度のことながらニックが在籍するバンドが”メジャー”に、有名になりそうな気配を察すると誰にも気付かれないようにコソッと脱退する世界最高の陰キャバンドマンのニックホントすき・・・。ニックこそ裏の立役者だし、ニックこそ本物のアンダーグラウンドだと思う。やっぱりニック関連で信頼できるバンドはWhirrだけ!(なお)

しかしながら、暇さえあればdeafheavenを取り巻く相関図や勢力図的な事を勝手に妄想するのが面白い。ところで、パレルモdeafheavenについて「典型的なバズマーケティング」だと、同時にI have nothing against Deafheaven」=「デフヘヴン(に対して語ること)は何もない」と、しまいには「私たちは全く異なるバンド(意訳:ピッチフォークのカキタレと一緒にすんな)」だと語っていて、つまり”アンチ・デフヘヴン”≒”アンチ・ピッチフォーク”としての立場でニックの意見と同調する部分があったからこそ、パレルモブランドンと出会った時と同じように、必然的にニックと出会ったのだ。実は、Nothingというバンド名から既に「Deafheaven is Nothing」=「デフヘヴンは何もない」という意味でデフヘヴンを包囲していた説、その皮肉めいたパレルモの策略にニックは引力を感じた説。でも想像した以上に、デフヘヴンニック・バセットおよびNothingとその周辺の遺恨は根深いなぁと(もっとやれ)。ちょっと笑ったのは、 6曲目の”Hail On Palace Pier”はイギリスの小説家グレアム・グリーン『ブライトン・ロック』にインスパイアされているらしく、奇しくもデフヘヴンOrdinary Corrupt Human Loveグレアム・グリーンの小説から引用されている(実は仲いい説)。

パレルモのように生涯うつ病や偏執病を患い、つい最近CTE(慢性外傷性脳症)の初期症状と診断された根っからの悲観主義者(ペシミスト)が、人生に追いつめられた時ふと衝動的に頭の中で考えること、それが自殺だ。しかし彼は決してそうはしなかった。死ななかった。自殺しなかった。いくら刑務所で不条理な目に合おうとも、いくら地下鉄で暴漢にボコられて生死を彷徨おうとも、いくらCTEと診断されて常に”痛み”を抱えようとも、彼は死ななかった。むしろ生きた。必死に生きてきた。そして彼は言った、「自殺が私の人生の選択肢だったら、そう(自殺)したと思う」と、しかし「私の遺伝子はそうではない」と「音楽が人に与える精神的/健康的な施しに前向きなロックバンドとして、そして生涯にわたる悲観主義を守る責任がある」と。こんな言葉、満身創痍の人間が口にする言葉じゃない。むしろ逆に強い”生命力”に溢れた人間の言葉だ。Nothingの音楽を通して、自己嫌悪や自己破壊、自身で経験した不条理の世界で悲観主義者がたどり着いたのは唯一の(HOPE)、それは(希望)であり、それは(光)だった。

パレルモは”本物の痛み”を知る当事者として、本物の説得力をもってこの『Dance On The Blacktop』を傑作たらしめている。それこそ口々に”痛み”をアピールしてるどこぞのV系バンドは見習うべきだし、今の時代に「あ~死にて~」と思っている人にこそ、このアルバムを聴いてパレルモの生き様、その勇気と強い生命力を感じて取ってほしい。本当の死から逃げるな。どうしても死にたいなら、死ぬ前にパレルモのパンクス魂を見てから死ね。そして死ぬ間際にこう叫べっ!


I have nothing against Deafheaven


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