Welcome To My ”俺の感性”

墓っ地・ざ・ろっく!

レビュー (E)

Enforced - Kill Grid

Artist Enforced
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Album 『Kill Grid』
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Tracklist
1. The Doctrine
2. UXO
3. Beneath Me
4. Malignance
5. Kill Grid
6. Curtain Fire
7. Hemorrhage
8. Blood Ribbon
9. Trespasser

メロデス四天王チルボドのカリスマフロントマンであるアレキシ・ライホと新世代メタルの最右翼として期待されていたPower Tripのフロントマンであるライリー・ゲイルの訃報は、近代メタルシーンにおいても稀に見る多大な損失であり喪失で(シャウトの仕方が二人とも似ているのも相まって)、彼らの死はメタルの死を意味するのと同意でもあった。

何を隠そう、このヴァージニア州はリッチモンド出身の5人組=Enforcedの2ndアルバム『Kill Grid』は、決して「Power Tripの生まれ変わり」とまでは言わないが、それこそPower Tripがこの世に遺した歴史的名盤『Nightmare Logic』に肉薄する、ハードコア/パンクと伝統的なスラッシュメタルが組み合わさったクロスオーヴァー・スラッシュを展開している。

もはや亡きライリーが咆哮しているような錯覚すら憶えるほど、フロアのハーコーキッズを煽るハードコア/パンクならではの男臭いコール、殺戮の合図となるチョーキングからツインギターによる流麗なソロワーク、そしてPower Tripに肉薄する切れ味抜群の、まるでライリーへのレクイエムでもあるかの如しキザミにキザミまくるリフとマーシャルの性能を最大限引き出すことに注力したようなサウンド・プロダクションで二重に刻んでくるエッジーな音作り、その唯一無二のプロダクションをもってタイトに刻むミドルパートと殺傷力強めに高速で刻むパートの緩急を活かした楽曲構成までもがPower Tripの正統後継者を襲名するかの如し、とにかく名盤『Nightmare Logic』を意図してオマージュおよびリスペクトしたかのような作品となっている。Power Tripとの違いがあるとすれば、それはEnforcedの方がブラッケンド/デスメタルに精通するブルータルな側面を持っている点。それでも“ほぼ完コピ”に近い。

それもそのはず、というのも前作に引き続き本作にはPower TripTomb Mold、そしてUnto Othersなどの作品を手がけた今をときめくプロデューサーのアーサー・リザークをエンジニアとして迎え、そしてゴス系メタルコアバンドMotionless in Whiteのギタリストであるリッキー・オルソンがレコーディングに関わっている点からも、本作に賭ける熱量みたいなのが嫌でも伝わってくる。確かに、彼らに対してPower Tripおよびライリー・ゲイルのような圧倒的なカリスマ性を求めるのは酷だし、正統後継者や生まれ変わりと呼ぶのも言葉が違いすぎるけど、少なくともゲイリーが亡くなってロスを感じているメタラーやスラッシャーを満足させるには十分過ぎるほどの存在である事は確かで、それに見合うポテンシャルが遺憾なく発揮された本作は必聴です。

Every Time I Die - Radical

Artist Every Time I Die
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Album 『Radical』
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Tracklist
01. Dark Distance
02. Sly
03. Planet Shit
05. A Colossal Wreck
06. Desperate Pleasures
07. All This And War
09. Hostile Architecture
10. AWOL
11. The Whip
12. White Void
13. Distress Rehearsal
14. sexsexsex
15. People Verses
16. We Go Together

ニューヨークはバッファロー出身の5人組、Every Time I Dieの約5年ぶり通算9作目となる『Radical』の何が凄いって、シンプルに「曲がいい」←この一言に尽きる。本当にこの一言に尽きるから他に言及する事がない。要するに、いわゆるエピタフ系ならではのカオティックな“コアさ”を極め尽くした強度の高い楽曲の連続。

それこそ、Knocked LooseVeinなどの今勢いに乗る新世代メタルの作品に携わっているウィル・パットニーが前作に引き続きプロデュース/エンジニアを担当しているだけあって、アルバムの幕開けを飾る#1“Dark Distance”からして、最近のKORNさながらのヌーイズムを感じさせるグルーヴィなリフでカオティックに展開すれば、PTHばりの狂騒曲的なアレンジとソリッドに刻むリフでゴッリゴリに畳みかける#2“Sly”、イントロからETIDとともに二大エピタフ系の一角を担うConvergeや初期のMastodonが光の速さで衝突した破天荒なロックンロールの#3“Planet Shit”、サザンロッカーとしてのブルージーな側面をチラ見せしながらダイナミックに展開するマヨマヨレーションなメロディック・パンクの#4“Post-Boredom”、打って変わってサノバビッチでカオティックなマスコア~ハードコア・パンクの#5“A Colossal Wreck”、メタルコアらしい強烈なブレイクダウンが炸裂する#6“Desperate Pleasures”、ニッコー・ヤマダ擁するアトランタの'68とコラボしたノイズコアの#7“All This And War”、クリーンボイス主体の哀愁のサザンロックを繰り広げる#8“Thing With Feathers”、ETIDの本領発揮とばかりのウネリを効かせたグルーヴィなリフを擁する#9“Hostile Architecture”、スラッジーなヘヴィネスをもって牛歩戦術を成功させる#11“The Whip”、初っ端からスラッシーな轟音リフで猪突猛進しながらケイオスがケイオスを呼ぶ#13“Distress Rehearsal”、【sex×3=3P】した過ぎて咽び泣いてる俺の煩悩が具現化したような#14“sexsexsex”、もはやGojira級のヘヴィネスを叩き込むドラマティックな#15“People Verses”、終始勃ちっぱなしのヘヴィネスの全てをぶっ放す#15“We Go Together”まで、なんだろう(飲んだことないけど)バイアグラを飲んだような気分に(錯覚)させる捨て曲なしの傑作です。

総合的に、過去イチでヘヴィ/メタリックかつガッツリとソリッドに刻んできているのでメタル耳にも馴染むし、前作比では彼らのアイデンティティの一つであるストーナーやサザンロック特有の南部臭が薄まり、それらを飛び越えてスラッジ級の重厚感溢れる鬼ヘヴィネスを轟かせる一方で、台頭する新世代メタルに負けじと芸歴20年を超えるベテランの意地を見せつけるような強靭なリフに次ぐリフの応酬が、ド頭からドン尻までポテンシャルを維持しながら終始勃ちっぱなしなのがEDとは無縁そうで素直に羨ましくなった。

Evanescence 『The Bitter Truth』

Artist Evanescence
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Album 『The Bitter Truth』
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Tracklist
01. Artifact/The Turn
02. Broken Pieces Shine
04. Yeah Right
05. Feeding The Dark
09. Take Cover
10. Far From Heaven
11. Part Of Me
12. Blind Belief

We Are The Fallenとは一体何だったのか?・・・なんて話はさて置き、自分の中にあるEvanescenceの記憶といえば、もうかれこれ10年前にリリースされたセルフタイトルの3rdアルバム『Evanescence』に伴う、2012年に開催された来日公演を観に行ってるくらいには好きだったバンドっちゃ好きなバンドで、しかしまさか、そんなエヴァネというかエイミー・リーを久々に生存確認したのが、あのBring Me the Horizonとのコラボだったのは思いもよらぬ出来事だった。しかも、そのBMTHとのコラボに至る経緯というのが、エヴァネ側のマネージャーが「BMTHとグライムスがコラボした楽曲(Nihilist Blues)はエヴァネのパクリだ!」と訴えを起こそうとしたのを起因に、そのお詫びというじゃないけど、BMTHが2020年に発表した最新EP『Post Human: Survival Horror』の最後に収録された、やけに長いタイトルの曲でエイミーとオリヴァー・サイクスがデュエットする形で示談もとい和解を果たしている。そう考えたら、EPのサイバーパンク的な作風の中、エイミーとのコラボ曲だけ不可解に浮いてるように感じたのは、そういった“もらい事故”じゃないけど意図しない偶発的な出来事による産物、その真相にたどり着いたのはちょっと面白い話ではある。個人的にもっとも面白いのは、約10年前にエヴァネの(恐らく来日公演としては最後)ライブを観に行った僕が、現状最後に観た外タレのライブが2019年のBMTH(最前)だったりするのは、妙な因果を感じなくもなくて俄然面白いなって。


しかし、そのパクリと訴えられかけた「“Nihilist Blues”に似た曲ってエヴァネにあったっけ?ただのイチャモンだろw」とか思いつつも、てっきりオリジナル・アルバム扱いと思ってなくて今まで聴いてこなかった2017年作の4thアルバム『Synthesis』を今このタイミングで聴いてみたら(やっぱり過去曲のオケアレンジが中心)、3rdアルバム『Evanescence』に収録された“Never Go Back”の歌メロがまんま“Nihilist Blues”でグライムスが歌ってる歌メロな事に気づいて(←気づくのおせぇ...)、それがあまりにもモロパクリ案件で「ちょっと待って、これエヴァネが逆にパクってんじゃん・・・え?」と、一瞬頭ン中こんがらがるくらいにはゴリゴリのパクリで笑った。もはや完全にカヴァー曲レベルのパクリで、これは流石に訴えられるわw

約10年前に発表された3rdアルバムの『Evanescence』は、そりゃライブに足を運ぶくらいだから普通に好きなアルバムだし(“My Heart Is Broken”とか普通に名曲だと思うし)、たった今聴いている4thアルバムの『Synthesis』もオーケストラをフィーチャーしたシンフォニック~クラシカルな本格志向の作風で、その後にエヴァネが欧州シンフォニック・メタルを代表するWithin Temptationとツーマンツアーを発表した経緯、それに関する自分の一方的な誤解について、決してエヴァネが落ち目になったからではない事を今このタイミングで知るという申し訳の無さ。さっきのパクリ案件といい、自分の中にある近年エヴァネのイメージが2秒で「最悪」から「最高」に変わった瞬間でもあった。なんだろう、こういった出来事に対する『苦い真実(Bitter Truth)』を知った今思えば、エイミーが日本の和楽器バンドとコラボしたのもきっと大きな意味があるんだ・・・きっとそうに違いない!(←恐らく、というか普通にユニバーサル案件)

これまでエヴァネに対する壮大なる勘違いをしてきた、自分の中にある「都合のいいエヴァネッセンス」=「苦い真実(Bitter Truth)のエヴァネッセンス」のイメージから、ものの2秒で「真実(Truth)のエヴァネッセンス」に変わったこの自分が、今さら約4年ぶりとなる5thアルバム『The Bitter Truth』についてフラットな目線で一体何を書こうと言うのか?っつー話で、少なくとも「全く信用に値しないレビュー」と言う名の懺悔になる事を、読者には今ここで前もってお伝えしておきますw

この『The Bitter Truth』というタイトルは、言わずもがなポスト・コロナ禍におけるポスト・トゥルース時代に誰しもが、さっきまでの俺しもが都合のいい真実だけを盲信している、つまり某子供探偵の言葉を借りるならたった一つの真実ではない無数の『真実』の中にある自分にとって都合のいい真実を薬物依存症者のように摂取する様を苦い真実(Bitter Truth)としてメタ的に皮肉った表題と解釈していいだろう。

そもそもの話、過去作の名曲にオーケストラ・アレンジを施した前作の『Synthesis』をオリジナル・アルバムとして勘定するべきなのか問題もあるし、厳密にそれをオリジナル・アルバム=スタジオ・アルバムとして勘定しないとするなら、スタジオ・アルバムとしては3rdアルバムの『Evanescence』から丸々10年のブランクが存在するわけで、正直そのブランクやメンバーチェンジも重なって作品の内容に全く期待していなかった事もあって、流石にエヴァネと言ったら1stアルバム『Fallen』と2ndアルバム『The Open Door』←これらの初期の名作を超えた!なんて、いくら懺悔しろと言われてもそれだけは絶対に懺悔することはないけど、しかし最低限に設定されたハードルは優に超えてきたのは事実。なんだろう、ハッキリ言ってめちゃくちゃいいアルバムですこれ(←全然信用できねぇw)。


本作の何が凄いって、そのポイントを一つ挙げるとするなら、それはヌーメタル界のレジェンド=KoЯnが2019年に発表した『The Nothing』やジョナサン・デイヴィスのソロ作のプログラミングを手掛けたTiago Nunezを迎えている点で、仄かにインダストリアル要素をまとった00年代のヌーメタル回帰じゃないけど、なんだろう90年代ロックを象徴するグランジの名残を受け継いだ2000年代の古き良き洋楽ロックみたいな装いもあって、とにかく色々な意味で懐かしくて泣ける。ちなみに、その本作のキーマンとなるTiago Nunezが参加しているKoЯn『The Nothing』は、アルバム冒頭のバグパイプを擁したケルティックなイントロからリード曲の“Cold”に繋がるノイジーにヒリついたインダストリアル味溢れる雰囲気とか、一方的にポストブラック界のレジェンド=Altar Of Plagues味を感じて久々にKoЯnのアルバムで刺さったし、また盟友であるDeftonesの名盤『Diamond Eyes』の影響下にあるモダン・ヘヴィネス、そしてそことはかないIN FLAMES味が組み合わさって最高にツボった(←それはパクられw)。

本作の『The Bitter Truth』KoЯn『The Nothing』を意識しているのは明白であり、もちろんゴリゴリのヌーメタルあるいはグランジやってるという話ではないけど、少なくともピアノ主体の過去最高にポップな作風だった3rdアルバムよりは、いい意味で病的で堕落した初期のグランジチックな世界観、俗に言うゴシック・メタル的なダークさに回帰している印象。特にエイミーの歌メロに関してはその傾向が顕著に現れており、それこそ名曲“Bring Me To Life”のMV並に底なしの闇にどこまでも“Going Under”していくようなエイミーの「エヴァネらしい」然とした退廃的な歌メロが懐かしくも心地いい。なんだろう、前作ほど歌メロに強引さがなくて比較的丁寧というか。


その「エヴァネらしい」然としたを司るシングルの#3“The Game Is Over”や#4“Yeah Right”を皮切りに、初期作をフラッシュバックさせるダーク&ゴシックでシンプルに「ザ・エヴァネ」な#5“Feeding The Dark”はアルバム曲の中でも隠れた名曲の一つで、エイミー持ち前の繊細かつ大胆な歌声が冴え渡る王道ロックバラードの#6“Wasted On You”、本作のキーマンとなるTiago Nunezのプログラミングとヘヴィなリフが絡み合う#7“Better Without You”、ライブ映えしそうなBMTHばりのシンガロングをフィーチャーした#8“Use My Voice”、それらアルバム中盤の屋台骨となる「らしい」としか形容しがたいシングル3連発を挟んで、インダストリアル志向の強い#9“Take Cover”、壮麗なストリングが舞い散るピアノバラードの#10“Far From Heaven”、そして個人的に本作の中で最も度肝抜かれたというか、もう一つの隠れた名曲として推薦したいのがアルバム終盤を飾る#11“Part Of Me”と#12“Blind Belief”だった。この曲の何が凄いって、それこそDeftonesが最新作『Ohms』の中で示した“20年代のヘヴィネス”の系譜にある現代ポストメタルと共振するヘヴィネスと、前作における“My Heart Is Broken”と同等の立ち位置にあると言っても過言じゃないエイミーの堕ち尽くす歌メロが極みに極まってるのが最高。この辺りでしっかりとKoЯnDeftones、そしてLinkin Parkラインの同期じゃないけど、今では様々な事情で散り散りとなった「俺たち世代の洋楽」を象徴する、00年代ヘヴィロックシーンの一時代を築いた盟友同士の面影と現代ヘヴィロックのトレンドを抑えてきてるのは、とても10年のブランクがあるようには見えなくて俄然エモいし、そんで最終的には「やっぱエイミー様には敵わねぇや・・・」ってなる。

確かに、本音を言うと(最後の2曲以外は)バンドの音自体は貧弱でつまらなく感じるし、まだ前作のがリフ的な意味でも(初期作とは一線を画す)モダンなメタルとしてゴリゴリ鳴らしてた気がするのも事実(それこそパクられ曲の“Never Go Back”の原曲とか)。もしも全編に渡って終盤のポストメタル路線だったらガチで初期の名作超えてた可能性があっただけに、そこだけは唯一惜しい点かな。とにかく、自分自身そんなつもり微塵もなかったのに、「なんだかんだ自分の中で想像した以上に楽しめたアルバム」だなんだと言ったところで、こんなFAKEレビューなんて誰も信用しちゃあいないと思うのでアレだけど、なんだかんだ10年ぶりに「ライブ観てぇ」と素直に思わせるくらいの底力とシーンにおける確かな存在感を示してくるのは、本当に本当にエイミー様様といった感じ(今となってはパクリ屋のオリヴァー・サイクスにエイミーの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいw)。もうこうなったらデブ豚と一緒に今年のスパソニで来日したらエエんちゃう?

Emma Ruth Rundle & Thou 『May Our Chambers Be Full』

Artist Emma Ruth Rundle & Thou
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Collaboration Album 『May Our Chambers Be Full』
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Tracklist
01. Killing Floor
02. Monolith
03. Out Of Existence
04. Ancestral Recall
05. Magickal Cost
06. Into Being
07. The Valley

チェルシー・ウルフの姐御といえば、同レーベルSargent HouseのポストメタルバンドRussian Circlesとのコラボに感化されて何かに目覚めたのか、ポストメタル界のレジェンド=Isisのアーロン・ターナーを迎えた4thアルバム『Abyss』以降、明確にゴシック・ドゥーム/ポストメタル路線に方向転換して驚いたのも今は昔。そんなチェルシー姐さんを筆頭に、実はこの手の女性SSWとポストメタルという一見関連性のなさそうなジャンル同士の異文化交流は古くから独自のルートを通じてあるにはあって、(SSWではないけど)一つ例を挙げるなら「しばらく冬眠するわ」と無期限活動休止を宣言したのに、ブルックリン出身のJulie Christmasとのコラボ作品で何事もなかったように復活したスウェーデンのCult of Lunaが記憶に新しい。それらに象徴される「コラボレーション」の機運が著しく高まってきている流れを汲んで、満を持してチェルシー姐さんの妹分であり同じカリフォルニア出身の同レーベルで同い年のEmma Ruth Rundleが、日本のVampilliaとのコラボでもお馴染みのThe Bodyの盟友でありルイジアナ州の激遅重ヘヴィロックバンド=Thouとのコラボを実現させるという神コラボ展開。

Emma Ruth Rundleって、元はといえばIsis人脈が立ち上げたRed Sparowesのメンバーで、2010年を境にバンドの活動が止まってからはソロ名義でSSWとして活動しつつ、2015年にはMarriagesというポストロック系のバンドでアルバムを発表したり、当時まだ同レーベルだったDeafheavenのツアーにソロで参加したりと、もう完全に「ポストメタル界の姫」のイメージが定着しているSSWだ。しかし、実際に彼女がソロ作でやってる音楽性といえば、ポストメタルとは無縁のTrespassers WilliamやUKのEsben And The Witchとも共振するインディ/ドリーム・ポップやドリーン/ノイズの素養を含んだポストロックの影響下にあるネオフォーク的な抒情的な憂いを帯びたメランコリックな音楽で、例えば姉貴分のチェルシー姐さんがゴシック/イーサリアルをルーツとするSSWなら、妹分のエマはフォーク・ミュージックをルーツとするSSWといったイメージ。変な言い方だけど、それら数々の“前科”があるERRThouのコラボは不思議でもなんでもない案件なんですね。

ちなみに、初期の頃は「UKの相対性理論」だったEsben And The Witchも今やスティーヴ・アルビニを長とするノイズ界隈の一員として活動し、今やSeason Of Mistというバリバリのメタルレーベル所属で、過去にはアンダーグラウンド/ヘヴィミュージックの祭典Roadburn Festivalにも出演している。ちなみに、残念ながら中止が発表された今年のRoadburnではEER40 Watt Sunのコラボをはじめ(←このコラボはエグい)、冒頭のJulie Christmasや2020年のメタルを象徴するOranssi PazuzuRussian CirclesRed Sparowesの再結成ライブ、そしてCult of Lunaのフロントマン=ヨハネスの出演が予定されており、俄然それらの夢のコラボや夢の再結成ライブが実現しなかったのは本当に残念で仕方ない(来年に期待)。要するに、「Roadburn界隈」の一言で全部説明できちゃう案件が今回のコラボなんですねw

今年のヘヴィミュージック界隈で一番興味深い出来事って、それこそ22年ぶりに復活作の『Inlet』を発表したUSオルタナ界のレジェンド=Humが、Deftonesの新作にも影響与えてんじゃねえかぐらいの、むしろDeftonesが新作の『Ohms』で本当にやりたかった事をHumがやっちゃったんじゃねぇかぐらいの、その新時代の「ヘヴィネスの基準」をヘヴィミュージック・シーンに提示してきた事で、何を隠そう、今回のERRThouによるコラボ作品は、結論から言えば「新世代ポストメタル」のビッグウェーブに乗っかった傑作なんですね。

ERRのSSWとしての音楽性が持つエモーショナルな叙情性と、Thouの音楽性が持つ(Nirvanaのカヴァーからもわかるように)90年代のシアトルサウンドをリスペクトしたハードコア/パンク精神溢れるスラッジーなDIYヘヴィネスの相性はこの上なくグンバツで、一見、水と油のように交わることのないモノ同士だからこそ、言わば光と影の関係性のように、闇の中にある一筋の光、あるいは光の中に差し込む闇の如し、(男と女の関係のように)切っても切れない表裏一体の関係性から成り立つ相乗効果により、お互いの新たな一面と未知のポテンシャルを引き出し合っている。これは本当に極端な例えだけど、ERRのインディ・フォーク的な側面とThouのブルージーな側面は、まさに日本のSSWを代表する岡田拓郎がドゥームメタル化したらこんな感じになると妄想しても存外シックリきちゃうのがまた面白い。

初期のPallbearerを彷彿とさせる、フューネラル・ドゥーム然とした重厚なヘヴィネスと一種のメロドゥーム的な慟哭不可避のギターのフレーズや叙情的なギターソロが織りなすポスト・アポカリプス時代の『死亡遊戯』を描き出す#1“Killing Floor”とThouバンド主体のスラッジーな#2“Monolith”、チェルシー姐さんリスペクトなERRによる艶美なパートと獰猛な咆哮とエゲツない重低音を轟かせるThouパートの対比を描きながら、ブルーズじみた泣きのギターソロ/フレーズと著しく感情的に歌い上げるエマのエモーショナルな歌声が邂逅する哀愁ダダ漏れの終盤の展開、その想定外にドラマティックな楽曲構成に脳天ブチ抜かれる#3“Out Of Existence”、スラッジ/デスメタル要素の色濃い#4“Ancestral Recall”、同レーベルのレジェンド=EarthCult of Lunaを連想させるブルーズ臭溢れるスロウコアな前半パートからブラストでブルデス化する後半パートに分かれた#5“Magickal Cost”、そして本作のハイライトを飾る約9分にも及ぶ#7“The Valley”は、冒頭から西部劇映画のサントラ顔負けの情緒的なフィドルの音色をフィーチャーした、それこそERRの叙情的なアンビエント~ポストロックの側面が表面化したような曲で、まさに「女版Hum」を襲名するかのような新世代ポストメタル然としたヘヴィネスをクライマックスに持ってくる完璧な流れ。

改めて今回の異種コラボ、単なるThouのソロとERRのソロをミックスさせただけのコラボじゃない所がミソで、むしろPallbearerに代表される現代ヘヴィロック界のトレンドと直結するような、それこそPallbearerの1stアルバム~2ndアルバムにおけるトラディショナル・ドゥームとポスト・メタルの狭間にあるような抒情的なヘヴィミュージックで、そして90年代のグランジにも精通しているのも俄然同時期にアンダーグラウンドで名を馳せたHum、彼らが発表した今年のヘヴィロックを象徴する金字塔であり復活作の『Inlet』へと結びついていく。そこからたぐり寄せた紐の先にある謎の覆面の正体こそ「女版Hum」だったという「よくあるオチ」。ERRERRで、エマよりもいち早くヘヴィミュージックを取り入れたチェルシー姐さんをイメージ/オマージュしている部分もあって、実際にERRのソロ作におけるメロディを聴いてもDeftonesに影響されてそうな曲もあったりするので、そういった意味でも俄然なるべくしてなった必然的なコラボと言える。

Elder 『Omens』

Artist Elder
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Album 『Omens』
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Tracklist
01. Omens
02. In Procession
03. Halcyon
04. Embers
05. One Light Retreating

数日前の僕「PRR復活!!!!!」

今の僕「PRR復活!!!!!・・・え?『救世主』は二度復活する・・・だと?」

Elderって、2017年作の4thアルバム『Reflections Of A Floating World』をBandcampで買ったはいいけど、結局数回しか聴かなかった程度の印象しかなくて、そんな自分が奇跡の復活を遂げたネオ・プログレ界のレジェンドことPure Reason Revolutionの伝説の1stアルバムをフラッシュバックさせる、まるで彫刻家ミケランジェロのモーゼ像が朽ち果てたようなアートワークに目を惹かれて、約三年ぶりとなる5thアルバム『Omens』を聴いてみたら、実はコッチのがPRRの復活作なんじゃねぇかと錯覚するぐらい、それこそ2005年前後のネオ・プログレ経由のネオ・サイケとストーナー経由のヘヴィ・サイケが時を超えて運命的、いや必然的な出会いを果たしてて泣いた。

この手のドゥーム/ストーナー方面からプログレ方面に移行したバンドといえば、つい最近ではリトルロック出身のクマラーことPallbearerが真っ先に思い浮かぶ。しかしPallbearerの場合はプログレ化した弊害により本来の持ち味が消え失せてコレジャナイ感満載だったけど、このElderPallbearerと違ってプログレ化に大成功している。もちろん、これまでもプログレ的なバックグラウンドを持ち合わせていたけど、ここにきて遂にそれが本格化している。まずスウェーデンのAnekdotenを彷彿とさせるレトロなキーボードやメロトロンが織りなすスペースサイケな宇宙空間を演出したり、PRRの伝説の1stアルバムを彷彿とさせる電子音を駆使したモダンなアプローチだったり、それこそ2000年代のネオ・プログレッシブ的というか、それこそPRRの約10年ぶりの復活作から地続きで聴けるというか、例えるならPost-Progressiveという言葉が生まれずに、そのままネオ・プログレッシブが主流だった世界線のPRRみたいな、とにかくネオ・プログレ方面にゲージ全振りしてプログレ化計画が完了している。

まるで2005年前後の平穏な時代の世界線と2020年のポストコロナ時代の世界線が時空の歪みの影響により繋がってしまったような訳のわからなさ。今作において、その「訳のわからなさ」を象徴するのが3曲目の“Halcyon”で、この曲で聴ける内なる激情を秘めたポスト・エピックなリフレインは完全にSWソロ〜ana_themaライン、すなわち10年代のプログレを象徴するPost-Progressive路線に乗ってきている。その“Post-化”の極め付けとなる5曲目の“One Light Retreating”は、イントロのリフレインからしてPRRの正統後継者であるana_themaの金字塔とも呼べる2010年作の傑作『We're Here Because We're Here』の名曲“Thin Air”と繋がることで、00年代のネオ・プログレッシブから10年代のPost-Progressiveへと進化していった現代プログレの“歴史”を辿り、そして新時代=20年代のプログレを切り拓いていく事を堂々宣言する。なんだろう、PRRの復活と連動するように新世代のプログレとして君臨してしまった感がすごい。まるでプログレ界の“歴史”を追憶していくようなアルバムの流れは、まんまPRRが復活作の『Eupnea』でやった事と同じで、やっぱり世界線がバグってきてるとしか思えねぇわw

まず間違いなく言えるのは、これまでとは明らかにメロディの傾向が変わったこと。バンドの専売特許であるストーナー特有の“臭み”を消して、アート・ロック指数の高いミニマルでメロウなリフレインを中心に構築していくリリカルな展開美、10年代の西海岸系インスト/マスロックなどの新世代プログレ勢らと共振する、それこそ近作のIntronautを想起させるポスト・インストゥルメンタルのモダンなアプローチと、70年代を思わせる古典的なプログレ/サイケとしての側面とヘヴィロック的な側面が絶妙に均衡している。また、ケミカル臭のしないキレイメなサウンド・プロダクションも俄然その“Post-化”に貢献しており、同時にボーカルのポテンシャルもメイチの仕上げと言わんばかりのパフォーマンスで答えている。しかし、それ以上に“ソングライティング”の高さが全ての要素を飲み込んでる感じ。

もはやPallbearerと謎の逆転現象が起きてるというか、ここでふと思い出したけど、Pallbearerってドゥームメタル時代の初期ANATHEMAをリスペクトしているバンドでもあって、一方でElderは革新的な変化が起こった10年代のana_themaをリスペクトしているという点では、その世界線の違うana_THEMAの影響がそれぞれの作品にしっかりと反映されているのが面白い。そういった意味でも、Elderは完全に「プログレ知ってる人たち」なんですね。ひとえにプログレと言っても、そのオタ臭いイメージとは裏腹に音がめちゃくちゃエネルギッシュで、ここでも懐古主義的なクマラーとの違いを見せつけている。特にPost-化が最高潮に達する#5のアウトロとか、ここだけ聴いたら誰もElderとは思わないレベル。

正直、20年代は『悪夢』のメタル暗黒時代に突入すると予想してたら、2020年を迎えて半年も経たないうちに、この先10年分の名盤が駆け込み需要で押し寄せてきた感じ。PRRenvyのレジェンド達の復活作も最高傑作レベルに凄けりゃ、Oranssi PazuzuといいElderといい充実期を迎えたバンドが最高傑作を超えた歴史的名盤を連発してくるとか、マジで地球滅亡すんじゃねぇかと思うぐらいの駆け込み需要。結果的に、PRRをフラッシュバックさせたジャケからして名盤の予感しかしなかったけど、その予感は見事に的中した。何故なら、今作を聴き終えた後の第一声が「あ、これニュークリア・ブラストがアップし始めたわ」だったからw
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