Artist Imperial Triumphant

Album 『Spirit Of Ecstasy』

Tracklist

Album 『Spirit Of Ecstasy』

Tracklist
01. Chump Change
02. Metrovertigo
04. Merkurius Gilded
05. Death On A Highway
06. In The Pleasure Of Their Company
07. Bezumnaya
08. Maximalist Scream
今年のDissonant Death Metal枠は満場一致でArtificial Brainで決まりかと思いきや、まさかImperial Triumphantがそれを超えてくる展開は予想外過ぎた。というのも、2020年作にリリースされた前作の4thアルバム『Alphaville』は、その名の通りフランス映画界の巨匠ジャン=リュック・ゴダールが1965年に発表したSF映画『アルファヴィル』にインスパイアされたコンセプト・アルバムで、その超監視・管理社会の「黄金都市=スーパー・ゴールデン・シティ」を舞台に、同巨匠キューブリック監督の映画『時計じかけのオレンジ』の主人公アレックスやホームオブハートに洗脳された某ヴィジュアル系バンドのボーカルと共鳴する、それこそカルト宗教に洗脳された日本人女性扮するヨシコ・オハラ氏の発狂した絶叫が聞き手に極度の不安すなわちトラウマを植え付け、マインドコントロールにより人権を剥奪されて奴隷および家畜と化した国民が「民主主義の危機だ」と叫ぶ茶番は、皮肉にも2020年以降にディストピア化したリアルの世界情勢を予見するかのような傑作だった。
過去作と同様にコリン・マーストン案件となる本作の5thアルバム『Spirit Of Ecstasy』は、幕開けを飾る#1“Chump Change”からして、Dissonant Death Metalならではの不協和音リフとモダンでソリッドかつスラッジーな邪悪ネスが織りなす、ヘタなホラー映画なんかよりも全然恐怖心を煽るブラックメタルを軸に、黄金都市に棲むマインドコントロールされて「おそらきれい...」状態の黄金国民の如し奇奇怪怪の耽美イズムをはじめ、フュージョン風のテクニカルなソロワークを織り交ぜたアヴァンギャルド/ジャズ、そしてプログレ・メタル然とした対比的な楽曲構成とコンテンポラリーな世界観からは、比較的アヴァンギャルド寄りの作風だった前作よりも、オールドスタイルのヘヴィメタルに傾倒している印象を与える。
「Dissonant Death Metal化したGojira」の#2“Metrovertigo”、それこそ伊藤潤二の『うずまき』を読んでいる感覚に近い混沌とした不協和音全開のリフをはじめ、前作のトラウマが蘇るヨシコ・オハラ氏の猟奇的なスクリームや洗脳されて恍惚感を得ていると錯覚する耽美的なメロディパート、そしてメシュガーさながらのモダンなマシズモがエクストリーミーに融合した#3“Tower Of Glory, City Of Shame”、メシュガーのドラマーTomas Haakeが太鼓で参加していた前作に対して、まさかのサックス界のレジェンドことケニー・Gが客演として参加している#4“Merkurius Gilded”は、もはやホラー映画というより押井守のアニメ映画『天使のたまご』を彷彿とさせる、それこそ旧約聖書におけるノアの方舟の世界観を司る崇高なクワイアがケイオスとコンテンポラリーの狭間の渦に聞き手を放り込む。
「Dissonant Death Metal化したTOOL」の異名を裏付ける曲で、それこそTOOLの『Fear Inoculum』における“黄金のキザミ”に肉薄するグルーヴィなリフやSF映画さながらのサイケデリックなシンセが密教的なエクスペリメンタリズムを描き出す#5“Death On A Highway”、冒頭からジャズ/フュージョン然としたアヴァン・プログの調べを奏でるインストの#6“In The Pleasure Of Their Company”、一転して劇団四季『ライオンキング』顔負けの部族的なクワイアとヨシコ・オハラ氏のスクリームが織りなす邪教の黒魔術さながらの#7“Bezumnaya”、その名の通りカルトに洗脳された日本人女性扮するヨシコ・オハラ氏の本気マキシマム・スクリームが炸裂する、もはや色んな意味で笑えない#8“Maximalist Scream”は、Voivodのスネイクを道化のゲストボーカルとして招き入れ、俄然70年代のプログレッシヴ・ロック~アヴァンギャルドとの親和性、および理知的なインテリジェンスを強調する流れで締める。
あまりの恐怖に全く聞き込めなかった前作よりは全然優しいし(ケニー・G効果?)、とにかくメロディめっちゃある。しかし、あくまでヘヴィメタルの枠組みに身を寄せつつ、一方でトレンディなDissonant Death Metalにアプローチする器用さも伺わせる、とにかくカルト宗教に洗脳された人間の精神状態(精神崩壊)が共有できる大傑作です。これは皮肉の3㌧ハンマー以外の何者でもないけど、カルト集団に国家を支配されたリアル『アルファヴィル』の世界に棲む日本人こそ、いま最も聴くべき一枚ですw