Welcome To My ”俺の感性”

墓っ地・ざ・ろっく!

レビュー (I)

Imperial Triumphant - Spirit Of Ecstasy

Artist Imperial Triumphant
body_145602

Album 『Spirit Of Ecstasy』
R-24000245-1658805192-8584

Tracklist
01. Chump Change
02. Metrovertigo
05. Death On A Highway
06. In The Pleasure Of Their Company
07. Bezumnaya
08. Maximalist Scream

今年のDissonant Death Metal枠は満場一致でArtificial Brainで決まりかと思いきや、まさかImperial Triumphantがそれを超えてくる展開は予想外過ぎた。というのも、2020年作にリリースされた前作の4thアルバム『Alphaville』は、その名の通りフランス映画界の巨匠ジャン=リュック・ゴダールが1965年に発表したSF映画『アルファヴィル』にインスパイアされたコンセプト・アルバムで、その超監視・管理社会の黄金都市スーパー・ゴールデン・シティを舞台に、同巨匠キューブリック監督の映画『時計じかけのオレンジの主人公アレックスやホームオブハートに洗脳された某ヴィジュアル系バンドのボーカルと共鳴する、それこそカルト宗教に洗脳された日本人女性扮するヨシコ・オハラ氏の発狂した絶叫が聞き手に極度の不安すなわちトラウマを植え付け、マインドコントロールにより人権を剥奪されて奴隷および家畜と化した国民が「民主主義の危機だ」と叫ぶ茶番は、皮肉にも2020年以降にディストピア化したリアルの世界情勢を予見するかのような傑作だった。

過去作と同様にコリン・マーストン案件となる本作の5thアルバム『Spirit Of Ecstasy』は、幕開けを飾る#1“Chump Change”からして、Dissonant Death Metalならではの不協和音リフとモダンでソリッドかつスラッジーな邪悪ネスが織りなす、ヘタなホラー映画なんかよりも全然恐怖心を煽るブラックメタルを軸に、黄金都市に棲むマインドコントロールされて「おそらきれい...」状態の黄金国民の如し奇奇怪怪の耽美イズムをはじめ、フュージョン風のテクニカルなソロワークを織り交ぜたアヴァンギャルド/ジャズ、そしてプログレ・メタル然とした対比的な楽曲構成とコンテンポラリーな世界観からは、比較的アヴァンギャルド寄りの作風だった前作よりも、オールドスタイルのヘヴィメタルに傾倒している印象を与える。


「Dissonant Death Metal化したGojira」の#2“Metrovertigo”、それこそ伊藤潤二の『うずまき』を読んでいる感覚に近い混沌とした不協和音全開のリフをはじめ、前作のトラウマが蘇るヨシコ・オハラ氏の猟奇的なスクリームや洗脳されて恍惚感を得ていると錯覚する耽美的なメロディパート、そしてメシュガーさながらのモダンなマシズモがエクストリーミーに融合した#3“Tower Of Glory, City Of Shame”、メシュガーのドラマーTomas Haakeが太鼓で参加していた前作に対して、まさかのサックス界のレジェンドことケニー・Gが客演として参加している#4“Merkurius Gilded”は、もはやホラー映画というより押井守のアニメ映画『天使のたまご』を彷彿とさせる、それこそ旧約聖書におけるノアの方舟の世界観を司る崇高なクワイアがケイオスとコンテンポラリーの狭間の渦に聞き手を放り込む。

「Dissonant Death Metal化したTOOL」の異名を裏付ける曲で、それこそTOOL『Fear Inoculum』における黄金のキザミ”に肉薄するグルーヴィなリフやSF映画さながらのサイケデリックなシンセが密教的なエクスペリメンタリズムを描き出す#5“Death On A Highway”、冒頭からジャズ/フュージョン然としたアヴァン・プログの調べを奏でるインストの#6“In The Pleasure Of Their Company”、一転して劇団四季『ライオンキング』顔負けの部族的なクワイアとヨシコ・オハラ氏のスクリームが織りなす邪教の黒魔術さながらの#7“Bezumnaya”、その名の通りカルトに洗脳された日本人女性扮するヨシコ・オハラ氏の本気マキシマム・スクリームが炸裂する、もはや色んな意味で笑えない#8“Maximalist Scream”は、Voivodのスネイクを道化のゲストボーカルとして招き入れ、俄然70年代のプログレッシヴ・ロック~アヴァンギャルドとの親和性、および理知的なインテリジェンスを強調する流れで締める。

あまりの恐怖に全く聞き込めなかった前作よりは全然優しいし(ケニー・G効果?)、とにかくメロディめっちゃある。しかし、あくまでヘヴィメタルの枠組みに身を寄せつつ、一方でトレンディなDissonant Death Metalにアプローチする器用さも伺わせる、とにかくカルト宗教に洗脳された人間の精神状態(精神崩壊)が共有できる大傑作です。これは皮肉の3㌧ハンマー以外の何者でもないけど、カルト集団に国家を支配されたリアルアルファヴィルの世界に棲む日本人こそ、いま最も聴くべき一枚ですw

IU 『LILAC』

Artist IU
0689fbea

IU 5th Album 『LILAC』
IU-LILAC

Tracklist
01. LILAC
02. Flu
03. Coin
04. Hi spring Bye
06. Troll (Feat. DEAN)
07. Empty Cup
08. My sea
09. Ah puh

今年のGW中は、ずっと観たかった映画やドラマシリーズを色々と消化して終わったGWだったのだけど(本命はルカ・グァダニーノ監督の『僕らのままで』)、その中の一つにアマプラでやけに評価の高い韓国ドラマ『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』というのがあって、あらすじから想像するにおじさん三兄弟がひょんな事から若いOLと同棲生活が始まるドタバタハートフルコメディかな?と思って試しに1話を観てみたら、ところがどっこい。そこは韓国ドラマらしく?シリアスな要素満載の比較的ダークなドラマで、アカデミー賞を受賞した映画『パラサイト半地下家族』俳優とのダブル主演で贈る、このドラマのヒロイン演じる女優イ・ジウン(IU)BiSHセントチヒロ・チッチを少しだけ病み可愛くしたような雰囲気のある娘で(トカナの女編集長にも似てるw)、そんな彼女の役回りを一言で表すならナチュラルサイコパスの「ヤベー女」というか、強いて言うなら(話の内容は全く別物だけど)韓国版『家なき子』というか、それこそ安達祐実の名台詞「同情するなら金をくれ」のセリフが似合いそうな、暗い過去を持つ役柄なこともあって初めは「完全に地雷女じゃん」みたいな目線でしか見れなかったけど、しかし回を重ねるうちに何故だか愛おしくなってくる悪女的な魅力がまた絶妙で、とにかく男が観ても楽しめるし最後の最後まで泣けること請け合いの傑作ドラマだった(劇中のBGMがX JAPAN~Anathemaっぽいもの◎)。で、そもそもの話「イ・ジウンって誰やねん」と思ったら、「え、ちょっと前にテキトーに音源ディグってる時に偶然耳にしたあのIUかよ」、みたいな妙な繋がりというか無意識下の引力が既に発生していた模様。つまり『マイ・ディア・ミスター~』のヒロインの本職がまさかの歌手(しかも国民的歌姫)だったという、よくあるオチ(IUは2012年にEMIから日本デビューも果たしている)。


そんな女優としても活躍する彼女がアーティストとしてやってる音楽というのが、少なくともドラマ『マイ・ディア・ミスター~』の寡黙で無愛想な役柄からは到底イメージできない、イマドキのK-POPのトレンドを抑えたハイレベルなポップ・ミュージックやってて、本作の『LILAC』は兎にも角にもドラマの陰鬱した雰囲気とのギャップが最高な一枚となっている。そんな「あのドラマのヒロインがこの子なの!?」とギャップ萌え不可避な曲で、軽快なカッティングギターやストリングス・アレンジをバックに、清涼飲料水並に爽やかなIUのウィスパーボイスがとびきりポップにハジケる#1“LILAC”から、USインディのHaimを思わせるミニマルなトラックと洗練されたコーラス・ワークが映えるオシャインディ・ポップの#2“Flu”、K-POPならではのラップとアリアナ・グランデ顔負けの洋楽メインストリーム然としたメロディを聴かせる#3“Coin”、韓国ドラマの劇中歌にありそうなしっとり系バラードの#4“Hi Spring Bye”、イマドキのトラップ~EDMラインのトラックを駆使した#5“Celebrity”、かと思えば今度は韓国ラッパーのDEANをフィーチャーした(サンダーキャットじゃないけど)ローファイ・ヒップホップ的なファンキーでボサノヴァ的なユル~い気怠さをまとった#6“Troll”、これまたHaimを思わせるアダルティな色気漂うR&Bナンバーの#7“Empty Cup”、IUの超絶的な歌唱力が遺憾なく発揮された王道バラードの#8“My Sea”、おとぎ話のようなポップソングを聴かせる#9“Ah Puh”、今度は童話的というかレトロなアレンジを効かせたラストの#10“Epilogue”は、UKインディ・フォークのマリカ・ハックマンやEMI繋がりで例えるなら初期の椎名林檎というか日本の某赤いガールズバンドの初期の名盤である某白盤を彷彿とさせて、なんだろう・・・やっぱ「引力」って怖いなって。とにかく、今作の中でも特異的なこの曲をエピローグとして最後に持ってきている事からも、いかにこの作品が片手間ではなく“ガチ”な作品なのかが垣間見れる。


さっきも書いたけど、ちょっとした引力的な出来事から贔屓目のある上で話すけど、ドラマのイメージとは真逆のギャップ溢れるIUの歌を活かしたパフォーマンスはもとより、イマドキのEDM~トラップラインにある洋楽志向の強いK-POP然としたトラックをはじめ、もはやピンポイントで俺狙いなんじゃねぇかぐらいの、それこそHaimサンダーキャットなどの洋楽シーンの一線で活躍するUSインディ~ジャズラインのオシャンティなアレンジや聴き応えのある洗練されたインストゥルメンタル、のみならずフォーク・ミュージックにも精通する様々な曲調に合わせて、一方で女優らしい多彩な表情で魅せるIUにゾッコン不可避。いわゆる女優でも活躍してる系の歌手による「毒にも薬にもならない音楽」なんかでは決してなくて、それは異常に良いサウンド・プロダクションからも本作のポップスとしての完成度の高さを物語っている。正直、こんな良作の日本盤を出さないEMIは本当にセンスのないレーベルだと思う。


ドラマ『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』IUを知ってハマった人は必ず聴くべきアルバムだし、また本作を聴いてIUが気になった人は今すぐにアマプラでドラマを観てIU(イ・ジウン)のギャップにヤラれるべきです。無論、どちらが入り口であっても結果はIUにガチ恋不可避だから。そのぐらい、アルバムはアルバムで「いいアルバム」だし、ドラマはドラマで「いいドラマ」だしで、何を言ったところで最終的に「IU最高!」ってなると思う。僕自身、このドラマ→このアルバムというワンツーを喰らって、自分の中にある「彼女にしたい韓国人女性ランキング」でASMRのソナちゃんと並んで同率一位の存在になったわ。そりゃ坂本龍一IUのインスタフォローするのも納得だし、既にあの是枝裕和監督の最新作『ブローカー』にも出演決定してるとか・・・こんなん絶対に観るしかないじゃん(是枝監督へ、IUの登場シーン多めでお願いしますw)。というわけで、次はアマプラで韓国ドラマ『ハッシュ~沈黙注意報~』を観ますw

Imperial Triumphant 『Alphaville』

Artist Imperial Triumphant
imperial_triumphant_-_24051

Album 『Alphaville』
91zFGYvinZL._AC_SL1500_

Tracklist
02. Excelsior
05. Transmission To Mercury
06. Alphaville
07. The Greater Good
08. Experiment
09. Happy Home

ニューヨーク出身の黄金仮面トリオことImperial Triumphantの約2年ぶりとなる4thアルバム『Alphaville』が、まるで一般市民による自粛警察が蔓延る近未来の超監視社会を描いたジョージ・オーウェルの小説『1984』の世界観を地でいくような、そして表題からもわかるようにフランス映画界の巨匠ジャン=リュック・ゴダールが1965年に発表したSF映画アルファヴィルをモチーフにした、それこそ巨匠キューブリックのSF映画時計じかけのオレンジの主人公マックスのように、人間が洗脳/統制されたスーパーシティ=黄金都市のディストピア社会が崩壊した後のポスト・アポカリプスの終末世界を描いてて、とにかくヤバ過ぎる件について。

物語の幕開けを飾る#1“Rotted Futures”は、その「統制された不協和音」という矛盾した不可解さと不気味さを醸し出す不規則なリズムとメロディからして、前作のような二大フレンチ・デスメタルのDeathspell OmegaGojiraに肉薄する混沌が混沌を呼ぶカオティックなプログレッシヴ・ブラック/デスメタルというよりは、それこそ今年2020年のメタルシーンにおける最重要アルバムの一つと断言していいOranssi Pazuzu『Mestarin Kynsi』を脳裏にフラッシュバックさせる。そのメタル最王手レーベルのNuclear Blastと契約したオレンジ・パズズと同じように、メタルの名門Century Mediaと契約してオレンジの色気を出してきた面も少なからずある本作は、正確には普通のブラックメタルとも普通のデスメタルとも一線を画した、マスロックなどのプログレ要素やノイズロックなどのHENTAISMを喰らったテクニカル志向の強いジャズ〜アヴァンギャルドラインにある暗黒メタルといった印象。

例えば、近年デスメタルを象徴するBlood Incantation『Hidden History of the Human Race』のようなアヌンナキや宇宙人あるいはエイリアンもしくは地底人が登場するファンタジーなSF系デスメタルじゃなくて、接触恐怖症やリモートワーク、それらに象徴されるソーシャルディスタンスを推し進めた現代人の人間不信社会という新たな現代病が最後に行き着く先にある、あくまでも超現実的な超監視社会を描いた近未来的なエイリエネーション・シンドロームを描いたのが本作。そのスーパーゴールデンシティという名の、外側は金ピカの黄金=資本主義に染まったリッチな人間と見せかせて、内側は既に感情や自由など個人主義的な思想が排除され、その行動すらもAI=人工知能アルファ60によって洗脳/統制された家畜同様のモルモットが生活する、二度と太陽の昇ることのないモノクロームの黄金都市・アルファヴィルの世界を皮肉交じりに描写していく。そこには巨匠キューブリックの時計じかけのオレンジや同ゴダールの『気狂いピエロ』を観賞した後のような「生理的に無理」な不快感と吐き気を催すほどの邪悪が混在している。ある種のカルト映画に近い、人間が論理感を失った欲望と粗暴な暴力性がむき出しになった状態。まさに「実験的、芸術的、冒険的、半SF」とゴダール自身が名付けたSFによる文明批評映画ならぬ、アルファヴィル公開から約60年の時を経てリアルな現実問題として直面している2020年を生きる現人類による文明批評メタルだ。

メシュガーの鬼神ドラマートーマス・ハッケが和太鼓でゲスト参加している(しかし当たり前のように和太鼓も叩けるハッケ天才過ぎるな)#3“City Swine”は、ある意味で“デスメタルなのにポップでキャッチー”と出会って2秒で矛盾を言いたくなるような、もはや不協和音を極め過ぎた結果普通のマスロックみたいになるという、もはや不気味の谷を通り越したヤバさを内包した爽やかなメロディで誘惑してくる感じが逆に恐怖心を煽ってくる。そしてイントロからホワイトノイズ交じりの60年代の白黒TVから聴こえる喜劇的な男性コーラスがただならぬ雰囲気を醸し出す#4“Atomic Age”は、ボストンハードコアのvein的な親しみやすい変拍子リズムで展開すると、中盤からJKパズズが60年の歳月を経てBBAパズズに化けて出てきたような心霊現象的なクワイヤや小声が聞こえてきて、稲川淳二ばりにうわぁ〜嫌だなぁ〜怖いなぁ〜と思った次の瞬間、心かき乱されるような不安とおどろおどろしい恐怖心を煽るYoshiko Ohara氏という日本人女性による金切り声混じりの絶叫、から一転して天上へと昇るようなクリーンパートに場面が切り替わるやいなや、直後に再び地獄へと突き落とされるカオティックの極み。この曲の忌々しく背筋が凍るような(Bloody Pandaのフロントウーマンこと)オオハラ氏の奇声は久々に面食らったし身震いしたわ(恐らくというか、ほぼ間違いなく日本人女性で限定したら、いや限定しなくとも日本一ヤバいスクリームかもしれん)。その時気づいた、このアルバム相当ヤバいって。

ちなみに、本作のボートラ兼実質本編扱いの8曲目と9曲目はカバー曲で、前者はカナディアン・スラッシュのレジェンドVoivod、後者は70年代に前衛的な音楽性で一部の音楽マニアを虜にしたルイジアナ出身のThe Residents。特に後者のザ・レジデンツは、その“Experiment”でエキセントリックな音楽性だけでなく、その素顔を明かさない目玉のマスク姿というビジュアル面に関しても、謎の集団感を醸し出す黄金仮面を身につけたImperial Triumphantなりのオマージュとリスペクトが込められている。これらは彼らのルーツの紐解く一つの重要なファクターとしてより理解を深める事ができる。その曲タイトルが“Happy Home”というのも粋で、つまりAIに全てを監視/統制された黄金都市人類の楽園=Happy Homeであると思い込ませるように洗脳完了した事を示唆する。このようにして、実質本編扱いのカバー曲ですらアルファヴィルの一部として組み込んでるのも俄然皮肉が効いている。

巨匠ゴダールのレトロフューチャーなディストピア映画を題材としたコンセプトも、この2020年という新時代に突入した現時代とも否応にもメタ的に繋がるし、かつメシュガーからの大物ゲストをはじめ、アヴァンギャルド的な側面ではOranssi Pazuzuと、前衛的・実験的な側面では新世代メタルのveinとも違和感なく共振してくるあたり、それら“20年代のメタル”に象徴される新世代メタルに片足突っ込んじゃってる感じは、露骨にモダンな色気を出してきたと評価せざるを得ない。無論、その“色気”が功を奏して本作を名盤に押し上げているもの事実。なんかもう凄すぎてJKパズズの新譜が子供騙しに見えてしまうのも事実。それくらい、聴いてる最中は体強張りすぎて聴き終えた後に無駄に肩凝るくらい、こんなおっかないメタル久々に聴いたかもしれない。もはや怖過ぎて再生ボタン押すのにもちょっとした度胸が必要というか、怖すぎて小音でしか聴けないし、もはや色々な意味で怖すぎて稲川淳二の怪談ばりにうっかりダメだダメだダメだ、こいつダメだ、こいつ危ない、こいつ怖いってなること請け合いだから、繰り返して聴き込むなんて事は絶対に不可能という・・・w

Infant Island 『Sepulcher』

Artist Infant Island
img_1590401634

EP 『Sepulcher』
a3856456492_10

Tracklist
01. Burrow
02. Unspoken
03. Phantom Whines
04. Awoken
05. Sepulcher

ぼくバンドキャンパー「えっ、新世代メタルバンドBandcampの新譜が$7!?やっす!ポチー」

Bandcamp「ご購入ありがとうございます!んじゃ好きなファイル形式でダウンロードしてってな!」

ぼくバンドキャンパー「やっぱり容量/音質ともに攻守最強のFLACでダウンロードポチー」

Bandcamp 「お客さんFLACをお選びとはお目が高い!今日だけ特別サービスで【96kHz/24bit】のハイレゾ音源持ってけ泥棒!(容量1ギガ)」

ぼくバンドキャンパー「えぇ・・・なにその“ありがた迷惑FLAC”・・・」

Bandcampあるあるの一つに、上記のような経験をしたBandcampユーザーことバンドキャンパーは決して少なくないはず。要約すると、Bandcampで配信されているデジタル音源を購入する際、購入者側はCD音源同等とされるいわゆるロスレス(可逆圧縮音源)のFLACを求めているのに対して、Bandcamp側というかアーティスト側は、昨今よく耳にするようになったCDを超える音質を謳うハイレゾ音源を提供してくるありがたいけど迷惑な行為。この行為のことを僕はそのまま“ありがた迷惑FLAC”と呼んでいる。

そもそもの話、FLACというのは複数あるファイル形式を選択する上での一つのフォーマットに過ぎなくて、もちろん普段のようにCDからリッピングして可逆圧縮でCD音質同等のロスレスにすることもできれば、ハイレゾ相当の高ビットレートでリッピングしてアートワークやタグを埋め込むことも可能(これがFLACが好まれる最大の利点)。しかし、BandcampでFLAC音源を買ってもDLして解凍するまでビットレートが判別できない事から、冒頭のような“ありがた迷惑FLAC”と出会ってしまう事がままある。厳密に言えば、事前にアルバムの収録時間と表記されているダウンロード容量からザックリと推測することは可能っちゃ可能(「あっ、この容量はハイレゾか?」とか、「あっ、この容量は偽レゾか?」とかw)。ちなみに、FLAC以外の形式(MP3とか)は一度もDLした事ないからわからない。というか、MP3で満足するならわざわざBandcampなんか使わないっていうw

つい最近、日本でもAmazon HDやmoraナントカがハイレゾストリーミング配信サービスをローンチした事が記憶に新しい(もちろん両方とも既に体験済み)。しかし、それ以前から海外ではラッパーのジェイ・Zが買収した事でも話題となったTIDALがハイレゾストリーミングの主流として既に存在しており(まだ日本ではローンチしてない)、いわゆる“ハイレゾ”という言葉はまだしも“ハイレゾ音源”は日本人よりも海外の人のが身近に感じている人が多い現状。その論理でいくと、ハイレゾストリーミングで配信してんのに、一方で同じデジタル配信であるはずのBandcampだけ従来のCD相当のFLAC音源を提供するとなると、なんだか変な格差が生まれちゃうのも事実で、そういった諸々の兼ね合いから“ありがた迷惑FLAC”が生まれている可能性も否定できない。勿論、全てのアーティストがそうだとは一概に言えないし、そもそもBandcampで音源をデジタル配信してるアーティストは世界でもほんの一握りに過ぎない事は百も承知の上での話。逆に、Bandcamp上で“ありがた迷惑FLAC”もといハイレゾ配信してないアーティストはストリーミングでもハイレゾ配信してない可能性が高い(ソースは極小だけど)。それこそ投げ銭音源のがビットレートが高いパターンも全然“Bandcampあるある”だし、そしてBandcampでハイレゾや偽レゾが続いてから買った音源が通常のFLAC音源だった場合、なんか損した気分になるのも“Bandcampあるある”の一つw

ハイレゾ/デジタル音源の話はさて置き、ここで“リッピングの鬼”を自称する僕が考える企業秘密のCDリッピングの方程式をコッソリ教えちゃうぞ。まずリッピングソフトは界隈でも有名なdBpowerampの有料版、ドライブはパイオニアのちょっと良いやつを使い、いわゆるAR=AccurateRip機能はオフに、そしてSecureをdBpoweramp公式が推奨する【424】に数値を合わせて無圧縮FLACでリッピングする(もはや俺レベルの“リッピングの鬼”になるとAR機能は信用しない)。ありとあらゆる試行錯誤の末、現状これ以上の最強リッピングの方程式は見当たらない。そんで今愛用してるイヤホンはEmpire Earsの約18万ぐらいの奴を4.4mmバランスで・・・って、この辺のマイリスニング環境は誰も興味なさそうなので割愛します。

話を戻して、それら“ありがた迷惑FLAC”に代表される“Bandcampあるある”という名の偏見ランキング3位あたりに食い込んできそうなのが、他ならぬ有料>>>投げ銭(無料)みたいな心理的なイメージだった。しかし、そんなBandcampあるある界の常識を真正面から覆したのが、バージニア州はフレデリックスバーグ出身のInfant Islandが今年の4月に発表したEPの『Sepulcher』で、実はその翌月にリリースされた2ndフルアルバム『Beneath』(有料)よりも、その一月前の投げ銭EPのがヤベーんじゃねぇか説がある。

2ndアルバムの時にも書いたように、このEPは1ヶ月後に出た2ndアルバムよりもレコーディング時期が最近(今年の頭)のもので、それもあってか音的には『Beneath』よりも全然こっちのがイマドキの音像というか、シンプルにこの音どうやって出してんの?って気になる【シューゲイザー×ブラックメタル=Blackgaze】すなわちブラゲでもない、例えるなら【ノイズ×Blackgaze=Noisegaze】すなわちノイゲは、それこそメタルの最先端に位置するCode Orange『Underneath』Machine Girlみたいなデジタル・ハードコアに直結する“20年代”の音を出してるのが面白い(これはスリーマン不可避)。そのコロナ禍を吹き飛ばすノイズ禍を形成するエゲツナイ音作りを皮切りに、このEPはInfant IslandがセールスポイントとしているGrouper直系のアンビエントと初期のDeafheaven直系の激情ハードコアの二面性に特化した、複数の音楽ジャンルを取り込んだ2ndアルバムとは違って要点だけにフォーカスした作品だけあって、正直『Beneath』よりも完成度高いと感じる人も少なくないはず。

「フルアルバムとEPでは担っている役割がそもそも違うだろ」というごもっともな話は置いといて、初期envyのエモ/スクリーモをルーツとする初期Deafheaven直系の激情ハードコアの#1“Burrow”と#2“Unspoken”でカオティックなノイズ禍を巻き起こし、賛美歌“アメイジング・グレイス”がドローン/アンビエント化したようなGrouper直系の#3“Phantom Whines”、そして今作のハイライトを飾る約10分の大作の#4“Awoken”は、無心にひた走る粗暴なブラストビート主体のドラミングやポストロックルーツの曲構成をはじめ、伝説の1stアルバム『ユダ王国への道』時代のDeafheavenをリスペクトした激情ゲージが振り切れるくらいの超絶epicッ!!な、それこそ『惡の華』の仲村さんが「春日くんの心の内にあるもの全部グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっとさらけ出しちゃえ!」とばかりに地獄の底から血肉湧き上がる激情感、後先考えず今この一瞬に全てを賭ける刹那と焦燥が入り乱れる激情感、それらの日本の春ねむりとも共鳴する2020年の今だからこそ通用する「叫び」は、この時代に「怒り」を忘れた僕たちの心に突き刺さる。そのポスト・ノイズ後は恍惚の表情で天国へと導かれるように、まるでJulianna BarwickGrouperが劇伴を担当するかの如く、小鳥のさえずりと清らかな川のせせらぎの自然豊かな環境音が天上に鳴り響く表題曲の#5“Sepulcher”は、ノイズ禍のディストピアからの現実逃避であるかのようなニューエイジ幸福論と自らのハッピーバースデイを祝うかのようなパトラッシュ感溢れる名曲。

正直、2nアルバム『Beneath』の中に激情路線では#4“Awoken”を、アンビエント路線では#5“Sepulcher”を超える曲があるかと聞かれたら、そしてEPを聴き終えた後の涙腺崩壊不可避のカタルシスを上回るかと聞かれたら口を噤んでしまうのも事実。そしてInfant Islandを象徴する曲が投げ銭EPにあるという違和感。1stアルバムも含めて好みが別れそうなところだけど、このEPに限って言えばとにかく音が新世代過ぎて感動する。

Infant Island 『Beneath』

Artist Infant Island
img_1590401634

Album 『Beneath』
a1756856940_10

Tracklist
01. Here We Are
02. Signed In BLood
03. Content
04. The Garden
05. One Eyed
06. Death Portrait
07. Colossal Air
08. Stare Spells
09. Someplace Else

年明け早々、ピッツバーグのCode OrangeやUKのLoathe、そしてフィンランドのOranssi Pazuzuを皮切りに、新時代の幕開けを告げる新世代メタルの波が続々と押し寄せてきている昨今。そして、それと呼応するかのように、10年代のメタルシーンをピンク色に彩ったポスト・ブラックメタル界から20年代を象徴する新星が現れた。彼らこそ、2016年に結成されたバージニア州は独立市フレデリックスバーグ出身の5人組、その名もInfant Islandだった。

10年代のメタルシーンを象徴するポスト・ブラック、そのアイコニックな存在としてポストブラシーンを牽引してきたサンフランシスコ出身のDeafheaven、彼らが10年代に築き上げた成り上がりストーリー、その「伝説の始まり」を告げる1stアルバム『ユダ王国への道』が2011年に発表された当時は、その90年代のポストロック/シューゲイザーとDeathwish由来のカオティックな激情ハードコア/スクリーモをエクストリーム合体させたBlackgaze、それはまるでメタル界に突如として現れた巨大なモノリスであるかのように、アンダーグラウンドに生息するメタラーが得体の知れない『未知との遭遇』を経験してしまったような、それほどまでに彼らの登場は当時のメタルシーンに強烈な印象と戸惑いを植えつけた。ご存知、Deafheavenはその2年後にアンダーグラウンド・シーンのみならず世界的な音楽メディアを巻き込んでピンク色の衝撃を与えた歴史的名盤の『サンベイザー』という名の“NEW BLACK”の金字塔を打ち立てたのは今は昔。

何を隠そう、そのDeafheavenの伝説の1stアルバム『ユダ王国への道』が約10年の歳月を経て一巡した結果が、このInfant Islandの2ndアルバム『Beneath』なんじゃねぇかって。この手のメタル、というよりは初期envyに精通するエモ・スクリーモ/激情ハードコアをコープスメイクとしたブラックメタルで思い出されるのは、それこそDeafheavenの伝説の1stアルバムよりも前に発表された『指Demo』、そしてチェコ出身のnicこと██████が2013年に発表した伝説の『Demo』という「2枚のDemo」に他ならなかった。つまり、あの当時のDeafheavenみたいな“時代”を映し出すノスタルジックな懐かしさと「こいつら化ける感」を漂わせまくっているのがこいつら。

実は今年、この2ndアルバムがリリースされる一足先(4月)にEPの『Sepulcher』を発表していて、そのEPはグラインドコア経由の圧死不可避の脳天直輸入激情Blackgaze/カオティック・ハードコア~ドローン/アンビエントというバンドの二面性を分かりやすくシンプルに極めた初期衝動的な傑作で、その中にはいかにも初期のDeafheavenを彷彿とさせる確信犯的な約10分にも及ぶ長尺も存在していた。しかし、2010年あたりの『Demo』ムーブメントから2020年の現在までに「変化」が起きないはずもなく、Infant Islandが今作の中でやっているのは、シューゲイザーやアンビエント、ポストロックやノイズ、ドゥームやポストメタル、エモやポスト・ハードコア、それらの10年代いや00年代以前からメタルと邂逅してきた様々な音楽的サブジャンルをサクリファイスした、それこそCode OrangeLoatheと共振する20年代のイマドキのトレンドを網羅したエクストリーム・ミュージックは、もはやポストブラック云々以前に“新世代メタル”として認識すべき案件。

19世紀のロマン派の英国人画家で知られるジョン・マーティンの絵画から引用した、水彩画タッチのアートワークが同州主要都市のリッチモンド出身のアンダーグラウンド・メタルの雄Inter Armaを想起させるあたり、いかにもピッチフォークが推しそうなオーラを醸し出しているという余談はさて置き、今作の幕開けを飾る#1“Here We Are”のイントロからデンマークのMOLあるいはEarthニューロシスを連想させるドゥーム〜スロウコアラインのそれかと思いきや、突如ブラストビートで荒涼感を撒き散らしながら、予想だにしない急転直下の展開を絡めながら不規則で不気味な不快感を催す姿は邪悪そのもの。まさに混沌に次ぐ混沌、今度はコード・オレンジLiturgyを連想させるバグったノイズ禍が俄然このバンドの「得体の知れなさ」を増幅させる#2“Signed In BLood”、アンビエント系ポストロック由来のATMSフィールドを張り巡らせるイントロからポストメタリックなリフを駆使して激情的かつドラマティックに展開していく、それこそenvyの復活作にも精通するような#3“Content”Deafheavenの盟友ことBosse-de-Nage的なポスト・ハードコアの#4“The Garden”、ポストメタリックなヘヴィネスを強調する#6“Death Portrait”、そしてGrouper顔負けのスペース・アンビエントな#7“Colossal Air”から、DeafheavenDeathwish時代に置き忘れてきた“激情”を取り戻すかのような、激情ハードコアならではの内省的な寂寥感と粗暴なバイオレンスがせめぎ合い20年代最高のemo(イーモゥ)が炸裂する#8“Stare Spells”までの流れは今作のハイライトで、そのアウトロ的な役割を果たし、モノクロ傘の露先から雨が滴り落ちるようなピアノ主体のアンビエントが極上のカタルシスへと誘う#9“Someplace Else”まで、初期Deafheaven直系のエモ/激情性とLiturgy直系の超越的なノイズ/実験性とAltar of Plagues直系のポストメタリックなヘヴィネス/音像という、世界三大ポストブラックの遺伝子を均等に受け継いだ“20年代の(ポスト)(ブラック)(メタル)”は、この手のフォロワーとして有名なデンマークのMOLとも一見近いようで遠く、またメジャー化が著しい現在のDeafheavenよりも俄然アンダーグラウンドな音を鳴らしている。

結果的にEPとフルアルバム、またDeafheavenとの差別化が図れているというか、比較的エモ/スクリーモ〜アンビエント一辺倒だったEPをベースメイクとして、そこへ多種多様なトレンド/ジャンルをしたたかな色気をもって20年代仕様にアップデイトすることに成功したのが本作。またEPのように5分以上の長尺がなく、どれもコンパクトに収まっている分、バンドの生命線でありウリであるアンビエント〜ポストロックラインのインスト曲を織り込んだ組曲的な演出が効果的に活きている。あと、これは小ネタだけど、本作をBandcampで購入すると、今作のパンチラインを担う#4と#8だけそれぞれ固有のアートワーク(同ジョン・マーティン作)が表示されるという隠し要素もニクい演出。個人的に、このバンドの何が最高って、今作の#9やEP『Sepulcher』の表題曲にも象徴されるように、アンビエントはアンビエントでも、この世のものとは思えない天上で鳴り響く環境音楽みたいなピアノ主体のアンビエント・ポップが、界隈でも著名なリズ・ハリスGrouperに匹敵する品質なのが最も推せるポイント。

これは別に珍しいことでもないけれど、ちょっと面白いと思ったのは、この2ndアルバムよりも一ヶ月前にリリースされたEPの方がレコーディング時期が最近であるという点。公式に発表されている情報に基づくと、EPは2019年の12月から今年2020年の3月まで、2ndアルバムは2018年の12月から2019年の1月までの間。ちょうど一年の時差がある。事実、EPは『Demo』時代のDeafheavenっぽい印象で、それよりも以前にレコーディングされた2ndアルバムの方が20年代のトレンドを抑えているという時系列的な矛盾も面白い。つまり、楽曲は『Demo』時代っぽいのに音自体はとても今風に洗練されたEP、それに対して楽曲はもの凄くイマドキなのにそこはかとない古さを感じる2ndアルバム、その正体の違和感。むしろその“違和感”こそ、このバンドの真髄と呼べる部分なのかもしれない。
記事検索
月別アーカイブ
アクセスカウンター
  • 累計: