Artist Cryalot
Album 『Icarus』
Tracklist
01. Touch The Sun
02. Hurt Me
03. Hell Is Here
04. Labyrinth
05. See You Again
06. Labyrinth (Edit)
Album 『Icarus』
Tracklist
01. Touch The Sun
02. Hurt Me
03. Hell Is Here
04. Labyrinth
05. See You Again
06. Labyrinth (Edit)
「そういえば最近ケロケロボニト見かけないな?」と思ってるそこのYou、KKBは2018年作の2ndアルバム『Time 'n' Place』以降はコンピレーションやシングルを継続的に発表してるし、当時に俺ィも一回以上は聴いた記憶があるけど、いかんせん自分の中では1stアルバムの『Bonito Generation』ほど刺さらなかったのも事実っちゃ事実(内容はめっちゃ良いはずなのに)。とは言いつつも、ポップラップ・デュオ100 gecsの曲でCharli XCXと共演してたのは流石に「売れすぎじゃね?」と驚かされたし、サラ・ボニト自身も寺田創一らの日本のミュージシャンとコラボしてるみたいだけど、それに関しては全くノーマークで追えてなかった。しかし何を隠そう、それこそケロケロボニトの1stアルバムぶりに全身にブッ刺さったのが、他でもないサラ・ボニトのソロ・プロジェクトCryalotのデビュー作となるEP『Icarus』だった。
この記念すべきデビュー作について書いていく、その前に『amo』以降のBring Me The Horizon、およびフロントマンのイーモゥボーイことオリヴァー・サイクスの不可解なムーヴを語る必要がある。というのも、バンドでは問題作の『amo』におけるグライムスとのコラボを皮切りに、2020年作のEP『Post Human: Survival Horror』においては、女性の権利とLGBTQ差別を訴えるアシュニコに見せかけたNova Twinsや膝から流血ボーイのヤングブラッド、すなわちプレイリスト「misfits 2.0」文脈との共演、その翌年に発表したポスト・マローンオマージュのシングルこと“DiE4u”をハイパーポップアーティストにリミックスさせたかと思えば、オリィ個人ではロシア・モスクワの反政府ユニットである(既にロシアを脱出したと噂の)IC3PEAKやフィリピン系オーストラリア人のdaineとの多様性溢れる共演、極めつけにはNY/LAを拠点とする中国出身のハイパーポップアーティストAlice Longyu Gaoと一緒にバッキバキに加工されたプリクラをフィーチャーしたパリピなMVと、もう一方でWACKアイドルのASPさながらのブッ飛んだサイバーパンクなMVを2パターン撮ってて、「あぁ、これがHYPE BOYか...」と全てに納得した。
それらの「misfits 2.0」文脈を中心とした一連のコラボムーヴの終着点こそ、昨今のポップパンク・リバイバルの立役者であり、現代ロックシーンにおいて良くも悪くも揶揄の対象であるMGKことマシンガン・ケリーとBMTH(オリィ)のコラボに他ならない。一見すると「何がしたいねん」とツッコミ不可避かつ不可解なムーヴに見えるかもしれないが、数年前の『amo』という問題作を全ての起点として、約3年をかけて今をときめくMGKとのコラボにたどり着くオチまで、正直ここまで「筋」の通ったムーヴをキメるバンドも今どき珍しいんじゃねぇかってほど。とにかく、改めてBMTHおよびオリィにはリスペクトしかないし、身をもって「全ては繋がってる理論」を再確認させられた次第である。
要するに、現代ロックシーンの広告塔(インフルエンサー)を担うラスボスとしてのMGKとBMTH(オリヴァー・サイクス)の共演は必然っちゃ必然であり、それこそ日本のsic(boy)やサンフランシスコのdynasticは、MGKを長とするポップパンク/エモ・リバイバルのムーブメントを象徴する次世代アーティストの一人として、その名声を高めている真っ只中だ。それに関連した話で言うと、MGKとBMTHおよびオリィとAlice Longyu Gaoのコラボレーションというのは、sic(boy)から影響を受けている日本のハイパーポップアーティストを代表する4s4kiとニューヨークのPuppetが共演した某コラボ曲へのアンサーソングであると、いわゆる“シン・薩英同盟”を締結させた“日本の俺ィ”の中ではそう解釈することにした。
確かに、確かにその件とサラ・ボニトは全然関係なくね?と思うかもしれんけど、個人的にBMTH(オリィ)とMGK(終着点)のコラボについて一旦このタイミングで書いておきたかった、それこそ伏線回収しておきたかったネタでもあるし、何よりもサラ・ボニトのソロ・プロジェクトであるCryalotが既に「misfits 2.0」の文脈にガッツリ食い込んできている、さしずめ「サラ・ボニトなりのハイパーポップ」を真正面からやってきてるんだからしょうがないというか。それこそ、今回の伏線の一つとしてある「misfits 2.0」文脈の陽キャであるPoppyの存在に、イギリスの陰キャであるサラ・ボニトが触発された説まである。ともあれ、ここまで全てが繋がってんのマジでヤベーっつー話。
それこそCryalotのアーティスト写真からして、KKBのバブルガム/ポジティヴなイメージからは一線を画した、まるで百戦錬磨のハイパーポップアーティストさながらの地獄オーラを放っている。そんなサラ・ボニトの言わば“裏の顔”が落とし込まれた『Icarus』は、幕開けを飾る一曲目の“Touch The Sun”からして、アンビエント~トリップ・ホップばりにチルい冒頭の音響的な雰囲気から一転、さながらDJサラがプレイするクラブミュージック、あるいはEDM然としたバッキバキの低音を効かせた本格志向のトラックを打ち込んだ曲で、KKBにおける野郎のトラックメイカーが生み出すガムクチャなサウンドとは明確な違いを打ち出している(ほのかにBOOM BOOM SATELLITESっぽいかも)。その一方で、ポンキッキーズのテーマ曲に採用されてもおかしくないKKB譲りのバブルガム・ボニト味をウリとする二曲目の“Hurt Me”、そしてBMTHのオリィが仕切ってるプレイリスト「misfits 2.0」文脈のド真ん中をブチ抜くシングルの三曲目“Hell Is Here”は、それこそハードコア精神に溢れたシャウトでFワードを含んだ内省的なリリックを吐き散らす、カナダのDana DentataやZheaniさながらのカオティックなホラーコアを繰り広げる。
先述したKKBの1stアルバムに肉薄する最大の要因、それほどまでに自分の胸にブッ刺さった曲が四曲目の“Labyrinth”と五曲目の“See You Again”である。前者の“Labyrinth”はコーラスのリフレインがJ-POPっぽい、というより最近の代代代を彷彿とさせるグリッチ・ポップ的な、それこそ久石譲さながらのメランコリックでノスタルジックな雰囲気をまとった曲で、例えるなら『最終兵器彼女』に代表される00年代のセカイ系サブカルアニメさながらのディストピアな世界観が、不協和音を奏でながら徐々に崩壊していく様子を描くグリッチーなアプローチを打ち出す。
後者の“See You Again”は、Grouperさながらのノスタルジックなアンビエント・ポップをバックに、『進撃の巨人』の地ならしにより焦土と化した地上にただ独り、「Ah~」という祈りにも近い歌声と『破壊と創造』の美学を謳うオリジナルの日本語詩のセリフを朗読するポエトリーガールさながらの姿は、日本のポエトリーラッパーを代表する春ねむりが今年リリースした最新作の『春火燎原』において、宮沢賢治の『よだかの星』を朗読した彼女のポエトリー・リーディングはもとより、既存のJ-POPとは一線を画すユニークなトラックメイクと否応にも共振するし、まるでサラが抱える心の闇の焦燥と刹那を含んだ中盤の呼吸SE以降は(映画『猿楽町で会いましょう』の主題歌“セブンス・ヘブン”のサンプリングっぽい雰囲気)、次世代ノイズバンドのmoreruさながらのシューゲイザーを経由したアンダーグランド・ノイズのヒリついたアプローチから(~離のポエトリーをフィーチャーした某曲も伏線)、後半はストリングスを交えた青葉市子風のニューエイジ~インディポップへと流動的に姿形を変えていく。
(先述したように)これ以上ないタイミングとあらゆる意味で、日本のSSWである春ねむりを想起させる(誤解を恐れずに言うと)J-POP的なムーヴは流石に確信犯だと思う(もはや俺ィが今回のレビューを書くことすらサラは確信してそう)。というのも、何を隠そう、春ねむり自身も今年リリースした『春火燎原』において、日本の気鋭ハイパーポップアーティストをプロデュースに迎えた楽曲を書いている。そのハイパーポップに対する見識やハードコアなシャウトを含めた音楽的な要素のみならず、同ロンドンを拠点に活動する世界的な歌姫リナ・サワヤマとクィア・アーティストとしての立場を共有するドリアン・エレクトラとKKBのコラボ曲を発表しているのも、心にレインボーフラッグをはためかせている春ねむりの世界観、およびIC3PEAKの盟友プッシー・ライオット派閥のフェミニスト/ライオット・ガール然としたパンキッシュな思想および価値観を(間接的に)共有していると言っても過言ではない。よってサラ・ボニトのソロ・プロジェクトであるCryalotの存在も、BMTHおよびオリヴァー・サイクスと同じベクトルで「筋」が通り過ぎている。もはや春ねむりとツーマンしてる未来が視えるほど、とにかくイギリスの才能と日本の才能が高らかに共鳴し合っててガチでemo(イーモゥ)い。
改めて、春ねむりの新譜やBMTH×MGKのコラボ、sic(boy)やdynasticの次世代アーティストが台頭し始めたこのタイミングで、それらの伏線を回収するかのような一直線に「筋」の通った作品を出してくるのはガチで凄いとしか言いようがない。さすが名古屋県生まれとしか言いようがないし、本作の内容も「こーれ天才です」としか他に言いようがない。ともあれ、このレビューの考察を「信じるか信じないかはあなた次第」ですけど、少なくとも今年のベストEPであることだけは確かです。