Artist slowthai
slowthai-15

Album 『TYRON』
inini

Tracklist
01. 45 SMOKE
04. VEX
05. WOT
06. DEAD
07. PLAY WITH FIRE
08. i tried
09. focus
10. terms feat. Dominic Fike & Denzel Curry
11. push feat. Deb Never
12. nhs
14. adhd

「デンゼル・カリーの新譜カッケー!」と思ったら、どうやらイギリスはノーサンプトン出身のラッパーことslowthaiだったらしく、そんな彼が今年の2月にリリースした2ndアルバム『TYRON』の何が凄いって、アルバム前半の大文字タイトルはエイサップ・ロッキーKenny Beatsをフィーチャーした曲をはじめ、それこそデンゼル・カリーの名盤『タブー』の系譜にあるトラップやパンク・ロックの新しい形と謳われるグライム・パンクをベースとしたUKヒップ・ホップに対して、アルバム後半の小文字タイトル曲はオルタナティブな側面を強調したスタイルに楽曲の雰囲気や世界観が反転するそのギャップにある。


それはまるで、先日リリースされたZellaKamiの1stアルバム『DOG BOY』におけるジャンルとジャンルの垣根を超えた次世代ラッパーとして共鳴するかのように、アルバム後半の小文字シリーズの幕開けを飾る、倦怠感丸出しのローファイ・ヒップホップ風なチルいトラックをフィーチャーした#8“i tried”や#9“focus”を皮切りに、SSWのドミニク・ファイクとデンゼル・カリーをフィーチャリングしたバキバキのエモ・ラップで泣かせる#10“terms”、からギャップレスに繋がって内省的な雰囲気から世界観が一転する#11“push”は、それこそUK産SSWのマリカ・ハックマンばりのアコースティックな癒やし系インディフォークとスロウタイのラップが極自然に馴染んでいる光景に衝撃を受けたというか、もはや「こんなラップありなん?!」と頭の切り替えが追いつかなかった。その癒やし系な雰囲気のまま、今度はピアノ主体のアンビエント・ポップとラップが邂逅する#12“nhs”、そしてUK音楽界のレジェンド=ジェイムス・ブレイクとコラボした#13“feel away”、そして最後までローファイで内省的な感情をハードコア・ラップばりに吐き散らす#14“adhd”まで、とにかくアルバム前半の大文字シリーズにおける英首相をディスるマクロなラップと、アルバム後半の小文字シリーズにおけるミクロなラップのギャップが本作のコンセプト、そのガキを握る作品となっている。

このslowthaiの新譜とZellaKamiの新譜、言うなれば双方の「新しいラップのあり方」を耳にして改めて思うのは、ラップってオルタナ/グランジやメタルのみならず、畑違いが過ぎる女性ボーカル系のフォーク・ミュージックやアンビエント・ポップすらも許容する寛容のジャンルなんだって事。また、奇しくもUKとUSを代表する若手ラッパーが揃って90sロックのレジェンド=Nirvanaに影響を受けているという意味でも、あのロック全盛時代から約30年が経過した今なおNirvanaは元より90sロックが現代のラップ界に与える影響は計り知れないものがあると痛感すると同時に、ラップこそロックでありパンクだと語る炎上芸人の言葉が俄然身に詰まされる。ともあれ、今年のラップ部門はロックやメタルの影響下にあるスロウタイとジラカミの新譜2枚と、デンゼル・カリーとKenny Beatsのコラボ作品『UNLOCKED 1.5』における“So.Incredible.pkg”が見事入選しました。