Artist The Armed
TheArmed

Album 『ULTRAPOP』
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Tracklist
01. Ultrapop
03. Masunaga Vapors
04. A Life So Wonderful
06. Big Shell
08. Faith In Medication
09. Where Man Knows Want
10. Real Folk Blues
11. Bad Selection
12. The Music Becomes A Skull

『サイバーパンク2077』といえば、人類がトランスヒューマニズム化した近未来都市=ナイトシティを舞台とした、悪い意味で話題を呼んだ無数のバグ(リッチ)すらも演出の一部だったんじゃねぇかぐらいの、自分も発売当初に買って早々にクリアしたほどの神ゲーで、とあるサブストーリーではブラックメタルに関する話がテキストで出てくる場面があったりと、今思えば「サイバーパンク2077はメタル」と言っても過言ではないメタルと相性抜群のゲームだった。

この『サイバーパンク2077』は、音楽の面でもその近未来的な世界観を形成する上で欠かせない要素の一つとなっており、有名どころではRun The JewelsSophieを筆頭に、そしてイーロン・マスクのパートナーであるグライムスが当然のように参加してるのも示唆的過ぎて笑ってしまうのだけど、中でもSF映画の金字塔である『ブレードランナー』の必然的なオマージュとしての日本文化リスペクトらしく、日本の芸術家アイドルユニットことナマコプリ(イメージ的にはCY8ERみたいな地下ドル)をゲーム内に登場する3人組アイドルユニット“アスクっクス”としてキャラ設定したり(いわゆるa.k.a)、そしてヘヴィ・ミュージック界からはConvergeTomb Moldなどのハードコアやデスメタルがサントラに参加しており、このように作中に登場する奇想天外な音楽は、この非現実的な近未来都市を描く上で切っても切れない関係性を担っている(個人的にサントラでは某ラタタタが好き)。ちなみに、このゲームの最重要人物であるキアヌ・リーブス演じるジョニー・シルヴァーハントがフロントマンを務める伝説のロックバンド=サムライは、スウェーデンのハードコア・レジェンドで知られるRefusedをフィーチャーしたコラボ曲を発表しており、そしてその曲のマスタリングを手がけたのはCult Of Lunaのマグヌス・リンドバーグという見事な伏線回収案件。

何を隠そう、ゲームの豪華サントラ陣の一組として参加しているのが、ミシガン州はデトロイト出身の奇天烈ハードコアバンド=The Armed(a.k.a )で、そんな彼らの4thアルバム『ULTRAPOP』を聴いて改めて思ったのは、端的に言うとゲーム音楽界隈がカタギ?のアーティストに与える影響力についてだった。つい最近では『サイバーパンク2077』にキアヌと同じく“サイバー人間”あるいは“デジタル・ヒューマン”としてカメオ出演した事でも知られる、ゲーム界のレジェンド=小島秀夫監督の最新ゲーム『デス・ストランディング』への楽曲提供や、ベセスダゲーこと『DOOM』シリーズの“ゲーム音楽”を手がけるミック・ゴードンをサウンド・プロデューサーとして迎え「BMTHなりのサイバーパンク」をやってのけたオレンジアルバムこと『Post Human: Survival Horror』へのカウンターパンチをお見舞いするかのような、もはや『サイバーパンク2077』のサントラに参加するために生まれてきたんじゃねぇかぐらいのリアルサイバーパンクが本作の『ULTRAPOP』なんですね。ちなみに、『サイバーパンク2077』のサントラに収録されているLe Destroyの“Kill Kill”と、BMTH『Post Human』に収録された“Parasite Eve”は同じ世界線にあると思う。


The Armedのプロデューサーであるカート・バロウ率いるConverge直系のハードコア・パンク然とした初期のカオティックな方向性から一転して、本作ではノイズやアートパンク方面に活路を見出し始めた前作『Only Love』の延長線上にありながらも、MelvinsHelms Aleeなどのノイズロック界隈は元より、ポスト・ハードコア、マスコア、ハードコア・パンク、トリップ・ホップ/インダストリアル、メタルコア、サイバー・グラインド、グリッチ、ポスト・メタル、アヴァンギャルド、ポスト・パンクなど、それこそ『サイバーパンク2077』のラップからデスメタルまでなんでもござれな闇鍋サントラに参加しているだけあって、その内容もゲームの世界観と共鳴するように脳内にマイクロチップを埋め込んで知能指数がカンストしちゃったリアルサイバーパンク野郎の領域に片足突っ込んでて、まるでConverge『サイバーパンク2077』のフューチャリスティックな世界に入り込んでパリピにヒャッハー!したような、それこそ本作のタイトルが示すようにハードコア云々以前に「ウルトラポップ」なサイバージャパンクもといサイバーパンクを展開している。ある意味で『サイバーパンク2077』のサントラのスピンオフ企画みたいな、そのサントラに提供した楽曲(Night City Aliens)の世界観を軸に展開される、ハードコアやパンクやポップスなど様々なジャンルを飲み込んだ唯一無二の「ウルトラソウル!ハーイ!」ならぬ「ウルトラポップ!ハーイ!」の世界が堪能できる。


なんだろう、この少しというかかなりイッチャッテル、その超越しちゃってる系すなわちTranscendence系のカオティック・ハードコアという意味では、USのLiturgyMachine Girlなどのエクスペリメンタリズム全開のデジタル・ハードコア勢の亜種として認識すべきかもしれない。しかしその一方で、カート・バロウ(=Converge)案件という意味でも新世代ボストン・ハードコアのVeinコード・オレンジを連想させる異端児感もある。とにかく、音楽的なハードコア/パンクよりも俄然ゲーム音楽的なサイバーパンクに傾倒しているというか、そういった意味でも改めてゲーム音楽界隈の侮れない影響力の強さを痛感させる。ハードコアなのにある種のポップパンク的なノリで聴けちゃう身軽なキャッチーさ、一周回ってオシャンティな雰囲気すら漂わせているアートパンクみたいな。

「ただのハードコア」とは一線を画した彼らのパンク魂やエクスペリメンタリズムを司るものこそ、Julie Christmasを彷彿とさせる女ボーカルのシャウトにあると言っても過言じゃなくて、しかも本作にはUKマスコアのRolo Tomassiのエヴァ・スペンスと、知る人ぞ知るTrue Widowのベーシストであるニコールがパフォーマーとして参加してるとか・・・もはやピンポイントで俺狙いなんじゃねかと勘違いするくらいの人選は完全に勝確案件。いや冗談じゃなしに、Rolo Tomassiといえば近作でブラゲ文脈とも繋がりを持ち始めたバンドで、何を隠そうThe Armedは本作の『ULTRAPOP』Helms Aleeも在籍するSargent Houseからデビューを果たしたことで、DeafheavenをはじめAltar of Plaguesなどのポストメタル/ブラゲ文脈と直通した感あって、それにより前作から芽生え始めたアートパンク気質がより高まったのも事実。そう考えると、本作はUKハードコア〜USブラゲラインとゴリゴリに繋がってる、ちょっととんでもないアルバムというか、つまり全てにおいてピッチフォークで高得点を叩き出しそうなオルタナティブなハードコアなんですね。


冒頭からアメイジング・グレイスばりの祈りがこだまする神聖な世界が徐々にバグり始め、近未来感溢れるインダストリアル〜ノイズ全開のサイバージャパンク化する表題曲の#1“Ultrapop”、Machine Girlあるいは初期のBiSというかBiS階段ばりにイッちゃってる奴らが奏でる天上のノイズが地上に降り注ぐ#2“All Futures”、かと思えば段階的に次元を超越していく感じが完全にLiturgyのソレな超絶エピックブラゲを披露する#3“Masunaga Vapors”、サイバーグラインドな#4“A Life So Wonderful”、USブラゲのVauraを彷彿とさせるニューウェイブ/オルタナチックな倦怠感溢れる#5“An Iteration”、Rolo Tomassiのエヴァのシャウトが炸裂するカオティックな#6“Big Shell”や#9“Where Man Knows Want”は、他の曲と比べて轟音ポストメタル要素マシマシなのも粋な計らいだし、もはや轟音シューゲイザーというか“ブラゲ化したJesu”みたいな雰囲気を醸し出す俄然エクスペリメンタルかつエレクトロな#7“Average Death”、もはや“ノイズゲイズ”としか形容しようがない全く新しい領域にイッちゃってる#8“Faith In Medication”、本作の中で最もサイパンサントラ提供曲とイメージが近い#10“Real Folk Blues”、この超越的な流れで今はなきVERSAのパクリというか†††(Crosses)みたいなインダストリアル〜トリップ・ホップを挟んでくる感じマジサイバージャパンク味しかない#11“Bad Selection”、最後はマーク・ラネガンをフィーチャーした#11“The Music Becomes A Skull”まで、なんだろう、日本の地下アイドルも参加しているサイパンサントラを経由した流れで、第一期BiSの名曲であるデジタル・ハードコアの“STUPiG”やBiS階段とも共振する懐の深さを伺わせる、もはや「20年代最高のパンクアルバム」と言っても過言じゃない一枚。