Artist Moonspell
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Album 『Hermitage』
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Tracklist
01. The Greater Good
04. Hermitage
05. Entitlement
06. Solitarian
08. Apophthegmata
09. Without Rule
10. City Quitter (Outro)

めっきり最近は「誰がエンジニアなのか?」または「誰がプロデューサーなのか?」で音源を聴くようになってしまい、それが果たして良いことなのか、はたまた悪い事なのかなんて話はさて置き、少なからずMoonspellの約4年ぶりとなる13thアルバム『Hermitage』を聴く限りでは「良いこと」だと思った。というのも、ゴシック・メタル界の重鎮でのある彼らは、“テイラー・スウィフトのマブダチ”で知られるイェンス・ボグレンをプロデューサーに迎えた前々作の11thアルバム『Extinct』を発表し、バンドとしてもうワンランク上の高みへと上り詰めた事は今も記憶に新しい。前作の12thアルバム『1755』では、過去作でもお馴染みのテッド・ジェンセンをプロデューサーとして再起用し、壮大なクワイアなどのシンフォニックメタル的な側面を強調し、そして全編にわたり母語のポルトガル語やスペイン語を交えた歌詞で展開する、そのイェンス流メタルメタルした前作とは一転して歴代最高にコンセプト色を強めた作風となった。

何を隠そう、通算13枚目となる本作のプロデューサー兼エンジニアを担当している人物こそ、今やイェンス・ボグレンの正統後継者と言っても過言じゃあない、南米コロンビア出身のハイメ・ゴメス・アレリャーノで、このようにテッド・ジェンセンは元より、イェンス・ボグレンからのハイメ・ゴメスというメタルプロデューサー/エンジニア界におけるトレンドの王道路線を歩んできている時点で、今の自分にとって彼らは信頼感しかないメタルバンドの一つと断言できる。近年、ハイメが手がけた主な作品というと、それこそゴシックメタルの元祖であるParadise Lostの近作が最も馴染み深いと思うのだけど、そのパラロスもパラロスでイェンス・ボグレン→ハイメ・ゴメスラインで後期の作品を積み重ねてきているバンドの一つで、そう考えたら同じくゴシック・メタル界の重鎮を担うこのMoonspellがレジェンドの影響を受けないはずもなかった。というより、前作の『1755』が全編ポルトガル語〜スペイン語の作品だったのは、次作=本作で同じスペイン語圏であり南米出身のハイメと邂逅する伏線だった・・・?事実、本作ではまるでお互いのことを古くから熟知する親友のような化学反応を起こしている。

個人的なハイメの印象っていうと、端的に言ってしまえばそのバンドが持つ「裏の顔」を引き出すプロデューサーだと思ってて、例えばベテランバンドが長年培ってきたスタイルに敬意を払いながらも、一方でこれまで見せたことのないようなバンドの一面を引っ張り出して、芸歴ウン十年の大御所すらも全く新しい存在として生まれ変わらせる天才、そんなイメージだ。それを証明するかのように、彼の才能が遺憾無く発揮された本作の『Hermitage』は、どの過去作とも似ても似つかないような一枚となっており、それこそ本作のリード曲を担う#2“Common Prayers”に代表されるように、まるで「北欧の吉井和哉」に対抗して「ポルトガルの吉井和哉」を襲名するようなエロス全開の官能的なクリーン・ボイス主体のフロントマン=フェルナンド・リベイロは、近年のDark Tranquillityにおけるミカエル・スタンネをはじめ、DTと同じスウェーデン出身のSoenのジョエル・エケロフやKATATONIAのBサイドを連想させるとともに、そのリフ回しすら近年DTSoen、そしてIn Mourningなどのモダン・メタル〜プログレ・メタルの影響下にある、言うなれば僕たちスウェディッシュ・メタル大好き芸人で〜すと言わんばかりのスウェディッシュ・スタイルを展開している。また、ボーカルパートの面では過去一でクリーンクリーン青空しているので、従来のブラック・メタルとも共鳴するフェルナンドのガナリボイスが激減しているのも事実。これは賛否両論と言うよりは、本作の作風そのコンセプト的な意味で意図してそうなっている可能性が高い。

そして何と言っても、その官能的なロマンチズムとナルシシズムに満ち溢れたクリーンパートのみならず、80年代のニューウェイブ/ポストパンクに精通するシンセの音色も本作を象徴する一つで、直感的にボーカルの自己主張が著しく弱くなった分、相対的にキーボードやギターを中心とした楽器隊に焦点が当てられている印象。その楽器隊主導を象徴するインストの#6“Solitarian”の存在感からも分かるように、それこそゴリゴリのゴシック・メタルというよりは、ミドルテンポ中心の楽曲で政則泣き不可避のゲイリー・ムーアばりのクサいソロワークや近年DTの影響下にあるATMSなシンセや新味としての打ち込み、そして壮麗なストリングス・アレンジなど、いわゆるメタル的なヘヴィネスよりもバンドの特色である内省的かつ繊細な独特の色気をまとった幽玄な音世界すなわち“ゴシック”その一点にフォーカスした、これまでバンドが挑戦してこなかったワンランク上のアレンジを新しい波=ニューウェイブとして楽曲に持ち込んでいる。もちろん、いわゆるゴシック・メタルの“メタル”をイメージして聴くと音が軽いのは否定しようもない事実だけど、逆にゴシック・メタルの“ゴシック”をイメージして聴くなら十分満足のいく作品だと思う(それこそKATATONIAのメタルサイドとBサイドの関係性に近い)。これまで築き上げてきた“ゴシック・メタル”という音楽ジャンルの概念を刷新するかのような、著しい革新性を内包した“シン・ゴシック・メタル”の世界を繰り広げており、単純にMoonspellってこんな攻めた事もできるんだと感心すること請け合いの、そして本作における革新性を寄与した最大のキーマンであるハイメ・ゴメス・アレリャーノという“ポスト-イェンス・ボグレン”の才能に屈服する一枚となっている。

しっかし改めて、この手のゴシック・メタル界の重鎮とハイメがタッグを組んだ良作が立て続けに続くと、もしもハイメとKATATONIAがタッグを組んだら、もしも日本のDIR EN GREYあたりと絡んだら一体どうなるんだろうと俄然妄想が捗りすぎる件について・・・!