Artist Hum
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Album 『Inlet』
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Tracklist
01. Waves
02. In the Den
03. Desert Rambler
04. Step Into You
05. The Summoning
06. Cloud City
07. Folding
08. Shapeshifter

ハムことイリノイ州はシャンペーン出身のHumは、90年代のグランジ/オルタナ全盛の頃にちょっとしたヒットした曲が一つあったりなかったりする、少なくともメインストリームのシーンとは一線を画した、しかし一部ではレジェンド的な扱いをされていた知る人ぞ知るマイナーなバンドだったらしい(らしい)。自分は失礼ながらこれまで存じ上げてこなかったバンドで、そんな2001年に解散した彼らの約22年ぶりとなる復活作が90年代以降のヘヴィロックを総括するかのような歴史的名盤な件について。

まず幕開けを飾る#1“Waves”から、それこそ2000年代初頭にムーブメントを起こしたIsisPelicanを連想させるポストメタルの王道、そのド真ん中をブチ抜くオールドスクールなポストメタル・リフが津波の形相で押し寄せる濃密なヘヴィネスと、同90年代に産声を上げたポストロック〜シューゲイザーラインのATMSフィールドを張り巡らせる、一種のミニマリズムを極めたかのようなヘヴィロックで、この倦怠感剥き出しの歌や夢遊病患者の如し幽玄な浮遊感からして、いかにも90年代のオルタナ全盛を地肌で直に経験した人たちの音作りって感じ。打って変わって、イントロからそこはかとないIDM風味なスペース音とシューゲイザー由来のノイズ成分とTorche由来のコア成分を配合したハリと弾力のあるヘヴィネスがLiturgyJesuを連想させるドゥームゲイズの#2“In the Den”、まるで催眠術にかけられているような内省的な魅惑のリフレインともはやドゥーム・メタルに片足突っ込んじゃってるニューロシスばりの遅重なヘヴィネスが艶かしく官能的に絡み合う#3“Desert Rambler”は、それこそメタルの開祖であるブラック・サバスは元より、新世代ドゥーム・ベアラーことPallbearerと90年代のオルタナを象徴するシューゲイズレジェンドのマイブラが、この2020年というバグった世界線で運命的な邂逅を果たしてしまったような曲。

再びBPM指数を上げてハムのルーツであるイリノイ州を代表するエモレジェンド=アメリカン・フットボールばりのemo(イーモゥ)〜ポスト・ハードコアラインのニューウェイブなエモさとコアさを押し出していく#4“Step Into You”、まるで宇宙の暗黒物質をコーヒーミルですり潰したような“旨味”が焙煎された、ニューロシス顔負けのヘヴィネスという名の巨人の壁が“地ならし”を発動させ地底から大地を揺るがす#5“The Summoning”、古き良きオルタナを懐古するかのようなイントロから(こちらも13年ぶりに復活した)TOOLA Perfect Circle、そしてDeftonesなどの90年代後半から00年代のヘヴィロックを牽引していく偉大なバンドにもハムが影響を与えている可能性を示唆する#6“Cloud City”(デブ豚(ハム)だけにw)、再びマイブラ直系のシューゲイザー/ドリーム・ポップならではの夢心地な気分にさせるリバーブをかませたリフレインを繰り返し、アウトロは宇宙規模のスペース・アンビエントを展開する#7“Folding”、そしてノスタルジーを誘うメランコリックなメロディを引き連れて、90年代emo(イーモゥ)のように純粋無垢だった青春時代のあの頃の思い出が時が止まったままの姿で帰ってくるかのようなラストに号泣不可避の#8“Shapeshifter”まで、このまま永遠に優しく圧迫されたいと願うこと請け合いなお前を真綿で締めつけるようなヘヴィネスと、まるで「地球最後の日」みたいな非現実的な美しさを内包したメロディは、ある種の漫画『デビルマン』のラストシーンとも共振する美しくも残酷な終末思想的世界観を形成する。

まさに90年代以降の全ヘヴィロック大集合なアルバムで、何よりも肉厚で濃厚なヘヴィネスの「音がいい」。正直、この一言に尽きる。まず#1のセンスしかない転調部からはDeftones〜Juniusラインを、往年の90年代オルタナやエモ〜ポスト・ハードコアからはマイブラは元よりマイナーバンドという位置づけからもCave Inを、ハードコア/パンクルーツの“コアさ”からはNothingWhirrなどのDeafheaven界隈をフラッシュバックさせる。とにかく、ハードコア/パンクだったり、シューゲイザーだったり、メタルだったり、メタルはメタルでもドゥーム・メタルだったりポストメタルだったり、あるいはグランジだったり、実のところやってる事はあくまでシンプルイズベストで、ヘビネスはヘビネスでもその時代その時代の様々なルーツを持つヘビネスの多様性、それは人種の違いのようでもあり、同じ人種でも一人一人それぞれの個性とアイデンティティを持つ、その“多様性”こそが本作を傑作たらしめているのも事実。あと決して90年代懐古で終わるアルバムではなくて、90年代後半から00年代のヘヴィロック界を担うバンドへの影響を認知しつつ、一方で00年代から10年代のポストメタル界を担うバンドとも共鳴するヘヴィネス兼ヘヴィロックであり、例えばDeafheaven『普通の堕落した人間の愛』とも共振するのは流石にちょっと感動した。あとリフとメロディのリフレインが曲作りの根幹にあるところはスロウコアを聴いてる感覚に近いかもしれない。

確かに、そのバンドの過去やディスコグラフィーを知っている方がより一層楽しめるかもしれない。けど、逆に過去を知らなくとも純粋に「いい曲」と感じられる作品こそ、この世で最も素晴らしい音楽なんじゃねぇか説を証明するかのような、そんな全ヘヴィ・ミュージック好き必聴の一枚(この紫の色味が絶妙なアートワークからして優勝)。ちなみに、本作をBandcampで買うと正真正銘の“ありがた迷惑FLAC【24bit/88.2kHz】”でDLさせてくれます(容量1ギガ)。