Welcome To My ”俺の感性”

墓っ地・ざ・ろっく!

2021年05月

YUKIKA 『timeabout,』

Artist YUKIKA
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mini album 『timeabout,』
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Tracklist
01. Leap forward (Intro)
02. Insomnia
03. Love Month
04. TIME TRAVEL
05. Secret
06. PUNG!

韓国で活躍中のYUKIKAが所属事務所との契約を終了したと知った時は素直に残念だった。というのも、昨年その事務所からリリースされたデビューアルバムとなる『Soul Lady』は、昨今海外のインフルエンサーをキッカケに世界中でバズった松原みきの“真夜中のドア”を皮切りに、再び世界的に注目され始めている80年代の日本でブームを起こしたシティ・ポップ、そのステレオタイプもいいとこのシティ・ポップのコンセプトが貫かれた作品で、現に自分も『Soul Lady』に影響されてつい最近まで出勤前にシティ・ポップ界を代表する竹内まりやの名曲“プラスティック・ラブ”を毎朝リピートして、まるで気分は昭和のOLとばかりに自分の中でプチ・シティ・ポップブームが巻き起こっていた。


そんなYUKIKAの前所属事務所での最後の仕事というのが、若手二大俳優の浜辺美波()と吉沢亮が出演する「ロッテガーナチョコレート」のCMソングってのが驚きで、このCMソングは日本の作曲家を迎えた80年代テイスト溢れる“日本語詞”の楽曲だった。しかし、この曲を聴いて改めて「やっぱりYUKIKAは韓国のクリエイターと仕事すべき」と思ったのも事実(この音源は正規リリースされていない模様)。というか、あの浜辺美波()が出てるCMソングに大抜擢されるって普通に考えたら凄いことだと思う。もちろん、明治ではなくロッテのCMってのが韓国で活動するYUKIKAが抜擢される理由として、十分に納得できる話ではあるけど。ちなみに、このCMに関して僕は浜辺美波のチラリと映る足裏にしか興味ない模様w

その大仕事を最後に、前事務所を退所したYUKIKAは、過去に一緒に働いていた元マネージャーが設立した新事務所と新たに契約を結び、前作の『Soul Lady』から約8ヶ月ぶりとなる1stミニアルバムの『TIMEABOUT,』でカムバックするに至る。そのようにして新たなる船出を選んだYUKIKAだが、しかし一方で『Soul Lady』時代のシティ・ポップ路線は一体どうなるの?という率直な疑問が浮かび上がったのも事実で、伝説の1stフルアルバム『Soul Lady』を傑作たらしめる最大の要因となった、K-POPガールズグループ=LOONA(今月の少女)文脈のMonoTreeESTiなどのプロデューサーやクリエイターとの関係が絶たれてしまった事に一抹の不安を憶えたのもまた事実。

オープニングSEの#1“Leap forward”からして、前作『Soul Lady』の延長線上にある古き良きシティ・ポップサウンドを展開、そして星空のように綺羅びやかで幻夢的なシンセを駆使したリード曲となる#2“Insomnia”を耳にすれば、さっきまでの不安は単なる杞憂に過ぎなかった事を思い知らされる。90年代のJ-POPを想起させるキラキラシンセをフィーチャーした、記念すべき新体制初となるファーストシングルの#3“Love Month”は、段階的に怒涛に叩き込まれるフックを効かせたアッパーなサビが底抜けに気持ちいいシティ・ポップチューンで、これまたフックに富んだノスタルジックなメロディが炸裂する#4“TIME TRAVEL”、その傍らK-POPガールズグループ系のバブルガムなメロディをフィーチャーした#5“Secret”、ラストはシットリ系の#6“PUNG!”まで、なんだろう、確かにアレンジは前作『Soul Lady』の名残を感じさせる部分が大半で、十分その延長線上にあるものとして聴けなくはないんだけど、しかしそれ以上にあくまでも再出発を果たしたYUKIKAという一人のソロアーティスト、その等身大の彼女にフォーカスした作品となっている。

前作の『Soul Lady』では、当時のシティ・ポップに故意に寄せた昭和感に溢れた歌い方だったり、ステレオタイプの楽曲アレンジだったりしたけど、このミニアルバムにおけるYUKIKAはより自然な歌い方というか、同時に本来のYUKIKAの持ち味を活かす楽曲アレンジに重きを置いているというか、とにかく前作と大きく違うところは「YUKIKAを中心に動いている」ということ。前作のようなシティ・ポップというイチ音楽ジャンルにフォーカスした作品ではなく、それこそ「歌手だけでなく女優としてもマルチに幅広く活躍させたい」という新所属事務所の思惑とYUKIKAに対する期待感が如実に現れたような、あくまでも“YUKIKAを中心”とした一枚となっている。事実、このままシティ・ポップ路線一本で行ったところで、いずれ頭打ちになることは目に見えているので、わりと早い段階でシティ・ポップのステレオタイプから脱却できたのは、今後の彼女にとっても結果的に良かったと言える一連の行動と選択だと思う。もちろん、その個性や楽曲/アルバムのコンセプトという点では、“シティ・ポップ”という世界的なリバイバルブームを狡猾に狙い撃ちした『Soul Lady』のが断然上であるのも確かだし、その辺りのYUKIKAを象徴するアイコニックな作品とのギャップをどう埋め、どう打開していくのかが今後の課題となってくると思う。

洋楽メインストリームのトレンドを取り入れている、女優に歌手とマルチに活躍する先輩のIUと、一方でブームが一周回ってリバイバルを起こしているシティ・ポップをコンセプトとするYUKIKA、そのメロディ、そのプロダクション、そのアレンジ、どれをとっても違うその2つのトレンドを昇華し、同じK-POPの枠組みとして聴かせるKポならではの面白さ、また魅力の一つであることを再認識させる。

IU 『LILAC』

Artist IU
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IU 5th Album 『LILAC』
IU-LILAC

Tracklist
01. LILAC
02. Flu
03. Coin
04. Hi spring Bye
06. Troll (Feat. DEAN)
07. Empty Cup
08. My sea
09. Ah puh

今年のGW中は、ずっと観たかった映画やドラマシリーズを色々と消化して終わったGWだったのだけど(本命はルカ・グァダニーノ監督の『僕らのままで』)、その中の一つにアマプラでやけに評価の高い韓国ドラマ『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』というのがあって、あらすじから想像するにおじさん三兄弟がひょんな事から若いOLと同棲生活が始まるドタバタハートフルコメディかな?と思って試しに1話を観てみたら、ところがどっこい。そこは韓国ドラマらしく?シリアスな要素満載の比較的ダークなドラマで、アカデミー賞を受賞した映画『パラサイト半地下家族』俳優とのダブル主演で贈る、このドラマのヒロイン演じる女優イ・ジウン(IU)BiSHセントチヒロ・チッチを少しだけ病み可愛くしたような雰囲気のある娘で(トカナの女編集長にも似てるw)、そんな彼女の役回りを一言で表すならナチュラルサイコパスの「ヤベー女」というか、強いて言うなら(話の内容は全く別物だけど)韓国版『家なき子』というか、それこそ安達祐実の名台詞「同情するなら金をくれ」のセリフが似合いそうな、暗い過去を持つ役柄なこともあって初めは「完全に地雷女じゃん」みたいな目線でしか見れなかったけど、しかし回を重ねるうちに何故だか愛おしくなってくる悪女的な魅力がまた絶妙で、とにかく男が観ても楽しめるし最後の最後まで泣けること請け合いの傑作ドラマだった(劇中のBGMがX JAPAN~Anathemaっぽいもの◎)。で、そもそもの話「イ・ジウンって誰やねん」と思ったら、「え、ちょっと前にテキトーに音源ディグってる時に偶然耳にしたあのIUかよ」、みたいな妙な繋がりというか無意識下の引力が既に発生していた模様。つまり『マイ・ディア・ミスター~』のヒロインの本職がまさかの歌手(しかも国民的歌姫)だったという、よくあるオチ(IUは2012年にEMIから日本デビューも果たしている)。


そんな女優としても活躍する彼女がアーティストとしてやってる音楽というのが、少なくともドラマ『マイ・ディア・ミスター~』の寡黙で無愛想な役柄からは到底イメージできない、イマドキのK-POPのトレンドを抑えたハイレベルなポップ・ミュージックやってて、本作の『LILAC』は兎にも角にもドラマの陰鬱した雰囲気とのギャップが最高な一枚となっている。そんな「あのドラマのヒロインがこの子なの!?」とギャップ萌え不可避な曲で、軽快なカッティングギターやストリングス・アレンジをバックに、清涼飲料水並に爽やかなIUのウィスパーボイスがとびきりポップにハジケる#1“LILAC”から、USインディのHaimを思わせるミニマルなトラックと洗練されたコーラス・ワークが映えるオシャインディ・ポップの#2“Flu”、K-POPならではのラップとアリアナ・グランデ顔負けの洋楽メインストリーム然としたメロディを聴かせる#3“Coin”、韓国ドラマの劇中歌にありそうなしっとり系バラードの#4“Hi Spring Bye”、イマドキのトラップ~EDMラインのトラックを駆使した#5“Celebrity”、かと思えば今度は韓国ラッパーのDEANをフィーチャーした(サンダーキャットじゃないけど)ローファイ・ヒップホップ的なファンキーでボサノヴァ的なユル~い気怠さをまとった#6“Troll”、これまたHaimを思わせるアダルティな色気漂うR&Bナンバーの#7“Empty Cup”、IUの超絶的な歌唱力が遺憾なく発揮された王道バラードの#8“My Sea”、おとぎ話のようなポップソングを聴かせる#9“Ah Puh”、今度は童話的というかレトロなアレンジを効かせたラストの#10“Epilogue”は、UKインディ・フォークのマリカ・ハックマンやEMI繋がりで例えるなら初期の椎名林檎というか日本の某赤いガールズバンドの初期の名盤である某白盤を彷彿とさせて、なんだろう・・・やっぱ「引力」って怖いなって。とにかく、今作の中でも特異的なこの曲をエピローグとして最後に持ってきている事からも、いかにこの作品が片手間ではなく“ガチ”な作品なのかが垣間見れる。


さっきも書いたけど、ちょっとした引力的な出来事から贔屓目のある上で話すけど、ドラマのイメージとは真逆のギャップ溢れるIUの歌を活かしたパフォーマンスはもとより、イマドキのEDM~トラップラインにある洋楽志向の強いK-POP然としたトラックをはじめ、もはやピンポイントで俺狙いなんじゃねぇかぐらいの、それこそHaimサンダーキャットなどの洋楽シーンの一線で活躍するUSインディ~ジャズラインのオシャンティなアレンジや聴き応えのある洗練されたインストゥルメンタル、のみならずフォーク・ミュージックにも精通する様々な曲調に合わせて、一方で女優らしい多彩な表情で魅せるIUにゾッコン不可避。いわゆる女優でも活躍してる系の歌手による「毒にも薬にもならない音楽」なんかでは決してなくて、それは異常に良いサウンド・プロダクションからも本作のポップスとしての完成度の高さを物語っている。正直、こんな良作の日本盤を出さないEMIは本当にセンスのないレーベルだと思う。


ドラマ『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』IUを知ってハマった人は必ず聴くべきアルバムだし、また本作を聴いてIUが気になった人は今すぐにアマプラでドラマを観てIU(イ・ジウン)のギャップにヤラれるべきです。無論、どちらが入り口であっても結果はIUにガチ恋不可避だから。そのぐらい、アルバムはアルバムで「いいアルバム」だし、ドラマはドラマで「いいドラマ」だしで、何を言ったところで最終的に「IU最高!」ってなると思う。僕自身、このドラマ→このアルバムというワンツーを喰らって、自分の中にある「彼女にしたい韓国人女性ランキング」でASMRのソナちゃんと並んで同率一位の存在になったわ。そりゃ坂本龍一IUのインスタフォローするのも納得だし、既にあの是枝裕和監督の最新作『ブローカー』にも出演決定してるとか・・・こんなん絶対に観るしかないじゃん(是枝監督へ、IUの登場シーン多めでお願いしますw)。というわけで、次はアマプラで韓国ドラマ『ハッシュ~沈黙注意報~』を観ますw

Gojira 『Fortitude』

Artist Gojira
Gojira-2021

Album 『Fortitude』
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Tracklist
04. Hold On!
05. New Found
06. Fortitude
08. Sphinx
09. Into The Storm
10. The Trails
11. Grind

この時代にシングルを5枚も出すほどの「今最も景気の良いメタルバンド」であり、Deftones主催のフェスではローレン・メイベリー率いるチャーチズと共演し、そしてディズニー映画『アナと雪の少女』の主題歌でも知られるノルウェーの歌姫AURORAからも支持されている、言うなれば「世界一モテるメタルバンド」が今現在のGojiraだ。

1stシングル「Another World」

度重なるアップデートによってクソゲーから神ゲーへと進化したゲーこと『No Man’s Sky』を想起させる、そのゲーム風のアバターと化したゴジラメンバーが宇宙へと旅立つフランスらしいアニメ仕立てのSFチックなMVからして(ラストは映画『猿の惑星』オマージュ)、小島秀夫監督の『デス・ストランディング』や『サイバーパンク2077』からも垣間見れるように、昨今のトレンドの一つと言っても過言じゃないゲーム音楽界隈とヘヴィ・ミュージック界隈のコラボレーションを的確にオマージュしつつ、そのサウンドもフランスメタル界のレジェンド=Gojiraがフランスのプログレ界を代表するレジェンド=Magmaをエクストリーム・メタルの解釈で再構築したような前作の6thアルバム『Magma』の流れを素直に踏襲した、あのTOOLに肉薄する“ポスト・キザミ”を駆使した要は「ポスト・スラッシュの行き着く先」、その最終地点であるかのようなエクストリーム・プログレを展開する(Spotifyだとこの曲だけ音量デカい説)。

2ndシングル「Born For One Thing」

Gojiraほど近年のメタルシーンに影響を与えたバンドは他にいないんじゃないかって。中でも、彼らの最高傑作と名高い2008年作の『The Way Of All Flesh』と2005年作の『From Mars To Sirius』が後のメタルシーンに与えた影響力というのは凄まじいものがある。例として挙げると、10年代メタルシーンのトレンドの一つだったDjentを代表するTesseracTや20年代の新世代メタルを象徴するVein、彼らは00年代最高のメタルソングの一つと称されるGojira屈指の名曲であり、X JAPANの“Art Of Life”と双璧をなすクラシック狂想曲こと“The art of dying”のカバー曲レベルのリスペクトソングを書いている。また、彼らの影響力の高まりがピークに達した事を決定づける出来事といえば、いわゆる「メジャーなメタル」を代表するBring Me the Horizonがメインストリームのポップスやってのけたアルバム『amo』には、前作『Magma』に収録された“The Cell”のメシュゴジラ化を象徴するリフ/ヘヴィネスを引用したと思われる楽曲が見受けられた。本作『Fortitude』の幕開けを飾るこの2ndシングルは、“メタル総選挙ランキング同率1位”でお馴染みのMeshuggahとの同化政策や、レーベルメイトのコード・オレンジに代表される現代モダン・ヘヴィネス勢との相互関係をはじめ、そして何よりフロントマンであり世界一かっこいい「GOッ!!」を叫ぶ男ことジョセフ・デュプランティエによる合言葉から、彼らのシンボルでありアイデンティティでもあるキュルキュルしたクジラの鳴き声リフを交えたDjent〜メシュガーラインの変拍子が大海原に轟く後半のブレイクダウンパートは、もはやVeinに影響し返されたんじゃねぇかと思うほど、つまり影響を与える側が逆にフォロワーから影響を受ける一種の“回答ソング”と解釈できなくもない(#5“New Found”の冒頭は女DjentのDestiny Potatoのオマージュっぽく聴こえるのも面白い)。とにかく、00年代以降の全メタルバンドに影響を与えていると言っても過言じゃあない「メタルの基本」、その中心点がGojiraだった事は歴史的事実なのである。

3rdシングル「Amazonia」

本作について、バンドは(ジョー・デュプランティエの古巣でもある)カヴァレラ兄弟擁するブラジリアン・メタル界のレジェンド=Cavalera Conspiracyをリスペクトしていると語るように、そもそも「アマゾニア」というタイトルからも2秒で察しがつくように、その楽曲も南米アマゾンの未開の地に生息する未接触部族的なトライバリズム溢れる世界観を構築しており、これは前作のオルタナティブな側面その広義の解釈が進んだ結果と言えるのかもしれない。そのサウンド・アプローチもヌー・メタルやオルタナ・メタルならではの独特のグルーヴとウネりが特徴的。しかし、本作における仏教的というか木魚みたいなポンポンシー♪なパーカッションなどの俄然トライバリックな要素って、別に本作が初出というわけでもないし、それこそバンド屈指の名曲“The art of dying”もトライバルなイントロから始まるという点では、ある意味で“全ての始まりであり原点”がそこにあるのかもしれない。

4thシングル「Into The Storm」
4thシングルは、彼らがメシュゴジラ化を象徴する前作の“The Cell”と5thアルバム『L'Enfant Sauvage』が融合したような曲。なんだろう、ここまで来ると前作までには少なからず存在していた革新性というのは皆無となり、特にソングライティングの面で前作のイメージを引きずり過ぎているキライが目立つ印象。それは、この作品特有のオリジナリティの欠如を意味し、既に確立された音楽性から脱却することは偉大なる彼らをもってしても不可能であることをマザマザと見せつけられた気分だった。リフ不足をはじめ、フレーズ不足、ポスト・キザミ不足、あらゆる面で引き出しの少なさが露呈してしまっている。あと何よりもサウンド・プロダクションがTriviumの某アルバムみたいにモコモコした、要するに自分の嫌いな「音が死んでる」メタルの音質で(ドラムの音は特にドイヒー)、そういった意味でも過去最悪に推せないアルバムです(これぞアンディ・ウォレスクオリティw)。

5thシングル「The Chant」

トライバリズム溢れる本作を象徴するチベット密教系ナンバーである表題曲の“Fortitude”との組曲であり、これまた前作から“The Shooting Star”のセルフカバー曲かな?と勘違いしそうな5thシングルでは、BaronessTrue WidowなどのUSストーナー/スロウコア的なポスト・ヘヴィネスと雄大なチベット高原にこだまするコーラスワークは、世界中の少数民族を鼓舞するかの如し。しかし、本作はCavalera Conspiracyからインスパイアされたと言うわりには、いかんせん肝心のアマゾニア成分が著しく乏しい気がするというか、どうせならもっと思い切って大胆にアプローチすべきだったと思う。なんかどれも中途半端になっちゃってるというか、それこそトライバルとヘヴィ・ミュージックの代表的なのといえばTOOLだけど、そのTOOLとは天と地の差を感じるし、それっぽい実験的な側面を含んでいた前作とそこまで印象は変わらないというか、まだ前作のが創造性豊かにミックスできていた気もする。本作は「変化」という点でも過去最高に乏しく、皮肉っぽい事を言えばメンバーの服装がH&Mばりにカジュアルになったら「音」もソリッド感ゼロのカジュアルになり、そこで初めて僕らはH&MがHEAVY METALの略称じゃなかった事を知るのであった(←当たり前だ)。

なんだろう、そろそろGojiraを持ち上げてツウぶれる時代は10年代で終わりを告げた事を意味するような一枚。少なからず、前作まではまだメタルシーンに影響力のある擁護可能な作品だったけど、本作に至っては後世に与える革新性および影響力というのは皆無、それこそ新世代メタルバンドもフォローしようとは到底思えないような、確かに一聴するとフォロワー回答アルバムに聴こえなくもないけど、実は単なるフォロワーに降参アルバムになっちゃってる。例えば、今のゴジラができるスーパーキュルキュルアタックもといエクストリーム・メタルの持ちうる全てを凝縮した、アルバムの最後を飾る“Grind”では、新世代ロードランナーメタルの後輩コード・オレンジに年季の違いを見せつけようとしたら、逆に返り討ちにされちゃった感じ(まるで気分は伝説の白鯨vs.顔面炎上サイコ野郎)。なんだろう、そのコード・オレンジVeinらの新世代メタルと現役トップメタルバンドであるGojiraがそれぞれ相互作用の働いた曲同士でタイマンを張るも、見るも無残にもゴジラ側が引導を渡されていく姿はあまりに悲しすぎる。

これまでの彼ららしいインテリジェンスのカケラもない「駄作」と呼ばれてもしょうがない一枚。確かに、近年のメタルシーンに多大なる影響と功績を残した偉大なバンドの新作に対して「駄作」と言っちゃいけない雰囲気ってどうしてもあるけど、でもそこは勇気を持って「これは駄作」と言ってあげた方がGojiraのためだと思う。皮肉だけど、ちょっと売れて調子に乗ると駄作が出来上がる、露出すればするほどつまらなくなる典型みたいな構図はメタルの王道っちゃ王道で、その歴代メタル王が繰り返してきた「メタルあるある」の伝統芸能を現代メタルの頂点に君臨するゴジラがしっかりと受け継いでいるのは、なんだろう歴史は繰り返す感しかなくて逆に微笑ましくなる。いかにもそろそろ駄作出してきそうな雰囲気の中で、満を辞してその期待に全身全霊で答えるかのような駄作を出してくるあたり、それすなわち紛れもなくGojiraが時代のトップに君臨していた事を裏付ける決定的な証拠となっている。駄作は駄作だけど「愛すべき駄作」と呼ぶべきかもしれない。

そして改めて思ったのは、「これが噂のロードランナータイマーか・・・」ということ。何を隠そう、10年代に入るとスリップノットと同じ“ロードランナーバンド”となって久しいゴジラだが、そのRRからリリースした1発目の5thアルバム『L'Enfant Sauvage』からUSメタルコア的なモダンさと独自のポストスラッシュ〜プログレ路線に著しく傾倒し始め、前作の6thアルバム『Magma』でワンクッション置いてから、RRデビュー3作目となる本作『Fortitude』で遂にソニータイマーならぬ“ロードランナータイマー”が発動し、過去イチで「メジャーなメタル(=メインストリーム・メタル?)」に品種改良されて大衆向けに聴きやすくした結果の駄作なんですね。確かに、メタリカをはじめとする80年代の著名なメタルバンド以外に、00年代以降のメタルシーンを背負って立つ現役バリバリのバンドでこの立ち位置を任されるのって彼らの他にいないのも事実、つまり替えのきかない存在であると考えた時に、あくまで本作は「メジャーなメタル」への登竜門、その通過儀礼に過ぎず、この結果はむしろ必然的というか、逆にニッチなメタルをメインストリームに届けてくれている事に感謝すべきと共に、最大限にリスペクトすべきだとは思う。しかし、それ(立場)とこれ(作品)の内容が比例しないのがこの話の難しいところ。だから本作は今年のワーストメタルアルバムに違いないし、レジェンド級のモンスターバンドが一度この手の露骨な駄作を出すと2度と復活の見込みがないのも定説だけに、個人的に今作に対するショックは計り知れないものがある。

過去最多にシングルカットされた曲のMVに関しても、アマゾンの熱帯雨林破壊(あるいは森林火災)とか、インド・チベット問題(反中思想)とか、いかにも彼ら(フランス人)らしいリベラリズムを垣間見る事ができて大変素晴らしいと思うのだけど、しかし残念ながらそのイメージが先行し過ぎて曲の内容が追いついていない印象。今回のMVのコンセプトから察するに、そういった思想的な部分で(ローレン・メイベリーやAURORA、そしてアンソニー・ファンタノなどのリベラル界隈)から支持されている面も多少なりともあるのかもしれない。昨今の世界情勢における人権問題や環境問題などの点で、ゴジラの根っこにあるグリーンピース精神もといインテリ思想とポスト・コロナの世界がカチッとフィットした感じ。本作は、それらの出来事や以前までの世界とは異なる=“Another World”に対するゴジラなりの“祈り”と“慈悲”を乞うかのような作品であることを重々承知した上での厳しい評価と思ってもらいたい。

Cannibal Corpse 『Violence Unimagined』

Artist Cannibal Corpse
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Album 『Violence Unimagined』
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Tracklist
01. Murderous Rampage
02. Necrogenic Resurrection
04. Condemnation Contagion
05. Surround, Kill, Devour
06. Ritual Annihilation
07. Follow The Blood
08. Bound And Burned
09. Slowly Sawn
10. Overtorture
11. Cerements Of The Flayed

10年代を締め括る最後の年に“アヌンナキ系デスメタル”のBlood Incantationとカナダの“サイバーパンク系デスメタル”のTomb Moldが“10年代最高のデスメタル”と呼ぶに相応しい作品を発表すれば、その10年代の流れは20年代に入っても止まることを知らず、まずこの日本からは“デスメタル女子”の女優広瀬すずを皮切りに、そして2021年早々にイタリアからAd Nauseamという“20年代最高のデスメタル”が登場するなど、それら各Decadeを象徴する新世代デスメタルが続々と存在感を示し始めたプチデスメタルブームの最中、それら新世代デスメタルにも多大な影響を与えた90年代デスメタル界のレジェンド=カニコーことカンニバル・コープスがラスボスとして立ちはだかる神展開。いや、その光景はまさに血みどろの地獄絵図。グロ過ぎて子供には見せられないよ!的な放送禁止の猟奇的殺戮シーン。

前作から約4年ぶり、通算15作目となる本作の『Violence Unimagined』は冒頭の#1“Murderous Rampage”を筆頭に、(カニコーならではのブルータリズムは元より)ジャーマン・スラッシュのKreatorみたいなスラッシュイズムを感じさる、ザックザクに切り刻むタイトでソリッドなキザミとフォロワーであるTomb Mold的なイマドキのデスメタルらしい“ヘヴィさ”、それらの緩急を織り交ぜた展開と複雑に絡み合うリフに次ぐリフの波状攻撃、言うなればデスメタル界のオリジネーターが表現するデスメタルを超えた先にある“ヘヴィ・メタル”は、デスメタル云々以前にシンプルにメタルとして完成度の高さを誇っている。なんだろう、デスメタルなのに、あのスプラッター芸人のカニコーなのに音がめちゃくちゃ綺麗という矛盾を述べたくなるくらいには、本作はメタルの醍醐味の一つである音作りの気持ちよさとヘヴィネスの気持ちよさが極まりまくっている。

新世代デスメタルバンドに年季の違いを見せつけるような、カニコー史に刻まれる「もう一つの傑作」として称すべき、その最たる要因として挙げられるのは、古くは2006年作の10thアルバム『Kill』からカニコーとは誼みに、前作の14thアルバム『Red Before Black』でもエンジニアとしては元より、プロデューサーとしても深く関わっていた元Morbid Angelのエリック・ルータンが、2018年にやらかし逮捕されて脱退した前任ギタリストでありメインコンポーザーのパット・オブライエンの代わりに、晴れて正式メンバーとして加入した影響によるものだと推測できる。そういった意味では、謎にモタへ化してた前作よりかは『Kill』に近からず遠からずな往年のデスメタルに回帰している印象。しかし、この手のバンドって、いかにもやらかしそうでやらかさない、と見せかけてやっぱりやらかして置き土産に体を張ってバンドに箔をつけていくスタイルisデスメタル。つまり【もびえん×かにこー=歴代最高のデスメタル】って事です。
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