Welcome To My ”俺の感性”

墓っ地・ざ・ろっく!

2021年03月

Moonspell 『Hermitage』

Artist Moonspell
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Album 『Hermitage』
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Tracklist
01. The Greater Good
04. Hermitage
05. Entitlement
06. Solitarian
08. Apophthegmata
09. Without Rule
10. City Quitter (Outro)

めっきり最近は「誰がエンジニアなのか?」または「誰がプロデューサーなのか?」で音源を聴くようになってしまい、それが果たして良いことなのか、はたまた悪い事なのかなんて話はさて置き、少なからずMoonspellの約4年ぶりとなる13thアルバム『Hermitage』を聴く限りでは「良いこと」だと思った。というのも、ゴシック・メタル界の重鎮でのある彼らは、“テイラー・スウィフトのマブダチ”で知られるイェンス・ボグレンをプロデューサーに迎えた前々作の11thアルバム『Extinct』を発表し、バンドとしてもうワンランク上の高みへと上り詰めた事は今も記憶に新しい。前作の12thアルバム『1755』では、過去作でもお馴染みのテッド・ジェンセンをプロデューサーとして再起用し、壮大なクワイアなどのシンフォニックメタル的な側面を強調し、そして全編にわたり母語のポルトガル語やスペイン語を交えた歌詞で展開する、そのイェンス流メタルメタルした前作とは一転して歴代最高にコンセプト色を強めた作風となった。

何を隠そう、通算13枚目となる本作のプロデューサー兼エンジニアを担当している人物こそ、今やイェンス・ボグレンの正統後継者と言っても過言じゃあない、南米コロンビア出身のハイメ・ゴメス・アレリャーノで、このようにテッド・ジェンセンは元より、イェンス・ボグレンからのハイメ・ゴメスというメタルプロデューサー/エンジニア界におけるトレンドの王道路線を歩んできている時点で、今の自分にとって彼らは信頼感しかないメタルバンドの一つと断言できる。近年、ハイメが手がけた主な作品というと、それこそゴシックメタルの元祖であるParadise Lostの近作が最も馴染み深いと思うのだけど、そのパラロスもパラロスでイェンス・ボグレン→ハイメ・ゴメスラインで後期の作品を積み重ねてきているバンドの一つで、そう考えたら同じくゴシック・メタル界の重鎮を担うこのMoonspellがレジェンドの影響を受けないはずもなかった。というより、前作の『1755』が全編ポルトガル語〜スペイン語の作品だったのは、次作=本作で同じスペイン語圏であり南米出身のハイメと邂逅する伏線だった・・・?事実、本作ではまるでお互いのことを古くから熟知する親友のような化学反応を起こしている。

個人的なハイメの印象っていうと、端的に言ってしまえばそのバンドが持つ「裏の顔」を引き出すプロデューサーだと思ってて、例えばベテランバンドが長年培ってきたスタイルに敬意を払いながらも、一方でこれまで見せたことのないようなバンドの一面を引っ張り出して、芸歴ウン十年の大御所すらも全く新しい存在として生まれ変わらせる天才、そんなイメージだ。それを証明するかのように、彼の才能が遺憾無く発揮された本作の『Hermitage』は、どの過去作とも似ても似つかないような一枚となっており、それこそ本作のリード曲を担う#2“Common Prayers”に代表されるように、まるで「北欧の吉井和哉」に対抗して「ポルトガルの吉井和哉」を襲名するようなエロス全開の官能的なクリーン・ボイス主体のフロントマン=フェルナンド・リベイロは、近年のDark Tranquillityにおけるミカエル・スタンネをはじめ、DTと同じスウェーデン出身のSoenのジョエル・エケロフやKATATONIAのBサイドを連想させるとともに、そのリフ回しすら近年DTSoen、そしてIn Mourningなどのモダン・メタル〜プログレ・メタルの影響下にある、言うなれば僕たちスウェディッシュ・メタル大好き芸人で〜すと言わんばかりのスウェディッシュ・スタイルを展開している。また、ボーカルパートの面では過去一でクリーンクリーン青空しているので、従来のブラック・メタルとも共鳴するフェルナンドのガナリボイスが激減しているのも事実。これは賛否両論と言うよりは、本作の作風そのコンセプト的な意味で意図してそうなっている可能性が高い。

そして何と言っても、その官能的なロマンチズムとナルシシズムに満ち溢れたクリーンパートのみならず、80年代のニューウェイブ/ポストパンクに精通するシンセの音色も本作を象徴する一つで、直感的にボーカルの自己主張が著しく弱くなった分、相対的にキーボードやギターを中心とした楽器隊に焦点が当てられている印象。その楽器隊主導を象徴するインストの#6“Solitarian”の存在感からも分かるように、それこそゴリゴリのゴシック・メタルというよりは、ミドルテンポ中心の楽曲で政則泣き不可避のゲイリー・ムーアばりのクサいソロワークや近年DTの影響下にあるATMSなシンセや新味としての打ち込み、そして壮麗なストリングス・アレンジなど、いわゆるメタル的なヘヴィネスよりもバンドの特色である内省的かつ繊細な独特の色気をまとった幽玄な音世界すなわち“ゴシック”その一点にフォーカスした、これまでバンドが挑戦してこなかったワンランク上のアレンジを新しい波=ニューウェイブとして楽曲に持ち込んでいる。もちろん、いわゆるゴシック・メタルの“メタル”をイメージして聴くと音が軽いのは否定しようもない事実だけど、逆にゴシック・メタルの“ゴシック”をイメージして聴くなら十分満足のいく作品だと思う(それこそKATATONIAのメタルサイドとBサイドの関係性に近い)。これまで築き上げてきた“ゴシック・メタル”という音楽ジャンルの概念を刷新するかのような、著しい革新性を内包した“シン・ゴシック・メタル”の世界を繰り広げており、単純にMoonspellってこんな攻めた事もできるんだと感心すること請け合いの、そして本作における革新性を寄与した最大のキーマンであるハイメ・ゴメス・アレリャーノという“ポスト-イェンス・ボグレン”の才能に屈服する一枚となっている。

しっかし改めて、この手のゴシック・メタル界の重鎮とハイメがタッグを組んだ良作が立て続けに続くと、もしもハイメとKATATONIAがタッグを組んだら、もしも日本のDIR EN GREYあたりと絡んだら一体どうなるんだろうと俄然妄想が捗りすぎる件について・・・!

Ad Nauseam 『Imperative Imperceptible Impulse』

Artist Ad Nauseam
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Album 『Imperative Imperceptible Impulse』
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Tracklist
01. Sub Specie Aeternitatis
02. Inexorably Ousted Sente
03. Coincidentia Oppositorum
04. Imperative Imperceptible Impulse
05. Horror Vacui
06. Human Interface To No God

世間一般的な人間からすると、普段の日常生活で音楽を鑑賞している時に、例えばその曲を誰が作曲したのかとか、誰がアレンジしたのかとか、それはまだしも、その曲を誰がプロデュースしたのかってほとんど気にしない人ばかりだと思うのだけど、だとしたら当然その曲を誰がミキシング/マスタリングしたかなんて興味もなかったりするんだろうな、っていうただの偏見。

このイタリア出身のデスメタルバンド=Ad Nauseamの2ndアルバム『Imperative Imperceptible Impulse』は、本人たち曰くレコーディングに使用されるドラム・パーツやキャビネット、ベース/ギター/その他スタジオ関連機材の研究・設計・製作に携わっているメンバーたちによるDIY精神に溢れたデスメタルで、僕らは普段から現代的すなわちデジタルに加工・録音された音楽を聴いているせいか、本作を聴いて真っ先に感じたのは「音悪くね?」というか「楽器の音ちっさくね?」ということ。無論、それは全くの誤解でありただの偏見で、むしろ自分たちが普段耳にしている音源こそイコライザやコンプレッサーでバキバキに加工された添加物モリモリの加工肉のような音、つまり本来の自然な音質からかけ離れた贋物相当の音質なんですね。そんなデジタル至上主義が蔓延る中、彼らはその現代音楽のトレンドには一切見向きもせず、レコーディングで使用する機材は元より、ミキシング・マスタリングという音楽制作に必要な工程を全てセルフプロデュースで行い、ひいてはクラシック音楽の録音に使われるのと同じ原理で録音された本作は、彼らがバンドマン以前にオーディオマニアである事を証明するこだわり抜かれたサウンド・プロダクションと、その卓越したソングライティングが噛み合って初めて名盤と呼ばれる音源が成立する事を、そして「録音」も楽曲の一部であることを改めて思い知らされるような、とにかく「音」に対する尋常じゃないこだわりが詰め込まれた、一種の哲学的かつオーガニックなDIYデスメタルの傑作となっている。

その音楽性としては、あくまでアヴァンギャルド・メタルが持つエクスペリメンタリズムを音の支柱としながら、真っ先にUlcerateDeathspell Omegaを連想させるカオティックなプログレッシヴ/デスメタル、Kralliceばりの不協和音が更なる不協和音を誘うトレモロ・リフが目まぐるしく蠢くブラックメタルの側面、TDEPMastodonを連想させるマスコア的な現代的で斬新なアプローチ、スラッジ・メタルやジャズ、そしてSFアンビエントなどの様々な要素が入り乱れた真のエクストリーム・メタルで、まるで人類とアヌンナキの最終決戦みたいな、一見こんなん人間の頭じゃ到底理解不能でしょうと一方的に突き放しに来ているようでいて、しかしジックリと肝を据えて聴いてみると思いのほかメインストリーム・メタルやコア系のヘヴィ・ミュージックにも精通する耳障りのいいギミックやメロディが組み込まれた、これはもう一種の「アメとムチ系デスメタル」だってね。この手のアンビエント〜ジャズ〜アヴァンギャルドラインのデス/ブラックというと、最近だとUSのImperial TriumphantやフィンランドのOranssi Pazuzuをイメージさせなくもない。確かに、広義の意味では90年代のオールドスクールデスメタルの影響下にあるテクデスっちゃテクデスだけど、しかしテクデスと耳にしてイメージするような一般的なテクデスのソレではなく、彼らの場合は意図して複雑かつテクニカルに演奏しているというより、いわゆる“テクニカル”と聴き手に解釈される緻密さや複雑さが潜在意識の中で既に備わっている感じ。

バンド曰く「ストラヴィンスキー、シュスタコヴィッチ、クセナキス、シェルシ、ペンデレツキ、リゲティなど、20世紀のクラシック作曲家から影響を受けている」と語っているように、本作の作曲過程では和声と旋律の両方の概念がせめぎ合いながら、不調和によって和声が得られ、不協和音によって旋律が得られるような音楽となっている。このように、デスメタルをクラシック音楽の方程式を用いて解いちゃった系の超越メタルといえば、ブラックメタルをクラシックの方程式で解いちゃった系のLiturgyに近い才能を感じる。中でも本作の表題曲のクラシック愛に溢れたイントロのストリングスは、否応にもLiturgy“GOD OF LOVE”をフラッシュバックさせ、Imperial Triumphantの『アルファヴィル』的な黄金都市感とDIR EN GREYの再構築的なデスコア感とポストコア感がインテリ系ポストメタルとも共振する#3“Coincidentia Oppositorum”は、彼らが作曲面でも非凡な才能の持ち主である事を裏付けるような一曲となっている。

私が聞きたいのは楽器の音であって、プロセッサーの音ではないという、かの巨匠スティーヴ・アルビニの言葉を引用している事からもわかるように、本作は楽器本来の生音を大事にした、まるでリアルに演奏している隣で聴いているような錯覚を憶えるほど、各楽器の音の分離・定位のバランスと生音感が尋常じゃないほどリアルで、例えるならメタリカの名盤『メタル・ジャスティス』が生み出した「ベースいらなくね」のカウンターパンチみたいな「ベースいるくね」の音質。ちなみに、彼らのBandcampでは[Full Dnamic Range DR11]と謳った、その名の通り真の意味での“LIVE音源”が目の前に広がるような立体的なサウンドが楽しめる音源を配信しているので(特にリズム隊の生茶感がハンパなくて笑う)、彼らのこだわりを知るためにも是が非にもBandcampの音源なりCDなりを手に入れてほしい。それでドラムだけ聴いて一回、右のギターだけ聴いて一回、左のギターだけ聴いて一回、ベースだけ聴いて一回、ボーカルだけ聴いて一回、少なくとも最低5回は楽しめる保証付きだし、そっから先は無限の組み合わせと新しい発見を求めて、聴く人の嗜好によって無限の可能性を追求できる、そして最高品質の録音で魅了する20年代最高のDIYデスメタルだ。そういった意味では、新しいイヤホンやヘッドホンを新調する時のリファレンスとして最適な作品なのかもしれない。だからメタラーのみならず、全ミュージシャンが参照すべき理想的な音作りだと思う。

それこそ本作の音源がSpotifyで配信されていないのは、少しでも良い音質で楽しんで欲しいという彼らの“こだわり”の強い現れなのか、それとも単にレーベルの意向なのか。ともあれ、「今年もデスメタルが熱い」ことを証明するかのような、無限に重なり合う不協和音の醜くも美しい美旋律と極度の不安に襲われる鬱屈した精神状態が卑しく調和するデスメタルの傑作デス。

Fractal Generator 『Macrocosmos』

Artist Fractal Generator
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Album 『Macrocosmos』
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Tracklist
01. Macrocosmos
02. Aeon
03. Serpentine
04. Contagion
05. Chaosphere
06. Shadows Of Infinity
07. Pendulum
08. Primordial
09. Ethereal

2019年の末頃に「アヌンナキ降臨系デスメタル」ことBlood Incantationの2ndアルバム『Hidden History of the Human Race』が“10年代最高のデスメタル”として降臨してからというもの、最近の自分の中でちょっとしたSF系デスメタルブームが巻き起こっていて、それこそ昨年では「土星の水ぜんぶ抜く系童貞デスメタル」のCRYPTIC SHIFTや最新ゲーム『サイバーパンク2077』のサントラにも参加しているTomb Moldに代表される、近年著しく賑わいを見せ始めているSF系デスメタルの系譜その流れを汲んでいるのが、コードネーム040118180514(ベース&ボーカル)と040114090512(ドラム)と102119200914(ギター&ボーカル)の3人からなるカナダ出身のデスメタルトリオことFractal Generatorである。

そんな彼らの2ndアルバム『Macrocosmos』は、そのワートワークからして土星の水を全部抜くために数光年先の太陽系に旅立った人類代表の童貞デスメタルが地底人と対峙するも2秒で瞬殺、その救出に向かった第二部隊は土星に降り立つと漆黒のモノリスらしき未知の生命体と遭遇し、この宇宙がシミュレーションであるという証拠(いわゆるシミュレーション仮説)を発見した瞬間、モノリスの中からアヌンナキの神々が姿を現して「人類が知ってはいけない宇宙の真実』を知ってしまいましたね・・・はい、Your GO TO Hell」と謎の呪術を唱えられて0.2秒で第二部隊も瞬殺される、そんな映画『マトリックス』もビックリのSF然とした物語を描いたデスメタルとなっている。

真面目な話、その音楽性としては同郷のTomb Moldに肉薄する、ソリッドでヘヴィなリフでタイトにザックザクに刻んでくるBPM指数高めのテクニカル・デスメタルで、しかしゴリゴリのテクデスというよりはもっとスラッシュ・メタル寄り...とまではいかないが、それこそNetflixドラマ『コブラ会』の俳優も自身のバンドでカヴァーしちゃうくらい大好きなフランスのGojiraとも共振するポスト・スラッシュ/エクストリーム・メタルの側面や、Blood Incantationの影響下にあるイマドキのトレンドも盛り込んだSF系デスメタル。で、SF映画のオープニングらしい未知との遭遇を示すシンセから、それこそ殺傷能力の高めのソリッドなキザミを駆使した暴虐的なスタイルに、アトモスフェリックでクラシカルなアプローチを加えたエクストリーム・メタルの#1“Macrocosmos”を皮切りに、往年のOpethにも精通するダイナミックな展開力を発揮する#3“Serpentine”、シンセを応用したダークでサイケデリックな世界観に誘う#5“Chaosphere”など、最後まで一貫して自分たちがやりたいイメージ通りのデスメタル、決して他のジャンルに日和らない硬派なデスメタルを貫き通している。昨今のSF系デスメタルが好きな人なら一聴の価値あり。

Mogwai 『As The Love Continues』

Artist Mogwai
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Album 『As The Love Continues』
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Tracklist
01. To The Bin My Friend, Tonight We Vacate Earth
02. Here We, Here We, Here We Go Forever
03. Dry Fantasy
05. Drive The Nail
06. Fuck Off Money
07. Ceiling Granny
08. Midnight Flit
09. Pat Stains
10. Supposedly, We Were Nightmares
11. It's What I Want To Do, Mum

COVID-19の影響により無期限活動休止という名の事実上の解散を発表したリヴァプール出身のana_thema、そんな彼らの遺作となった11thアルバム『The Optimist』といえば、スコットランドはグラスゴー出身のポストロック・レジェンドことモグワイや日本のくるりの作品でもお馴染みのトニー・ドゥーガンフランク・アークライトという二人のエンジニアを迎えた、実質的な遺作にしてバンド史上最高にオルタナ〜ポストロックへの憧憬が極まった作品で、中でも彼らの“モグワイ愛”を象徴するような曲がリード曲の“Springfield”だった。また、その二人以外にもモグワイにとって欠かせない人物がプロデューサーであり元マーキュリー・レヴのデイヴ・フリッドマンの存在で、フリッドマンといえば日本のナンバガをはじめUSのBaronessHaimの新作にも参加しているエンジニア/プロデューサーで、それこそ彼がプロデュースしたBaroness『Gold & Grey』は、大袈裟に言ってモグワイがブラックゲイズ化したようなノイズ〜オルタナラインのサウンド・プロダクションを展開する、最高傑作と呼ぶに相応しい天才的なアルバムだった。


そのようにして、90年以降のオルタナシーンは元より、今ではUKバンドや日本のバンドのみならず世界中の音楽に影響を与えまくっているポストロックの代名詞と言っても過言じゃあないレジェンド中のレジェンドであるモグワイの新作は、それこそana_themaをはじめ、これまでにモグワイが影響を与え続けてきたフォロワーたちへの一種の回答であり、またana_themaのように志半ばでバンドの道を閉ざした者たちへのレクイエムであるかのような、そんな一枚となっている。

タイトルにあるTo The Bin My Friend, Tonight We Vacate Earthと呟く、臨死体験に成功した老人らしき人物が語る妄言もとい思い出らしきモノローグから幕開けを飾る#1からして、「This is Post-Rock」すなわち「This is Mogwai!!」な静謐な音響空間の中で凛と佇むピアノと単音ギターが優しく紡ぎ出す「アダンの風」を、ほぼほぼUKポストメタル/シューゲイザーのJesuへの回答とばかりのドローン〜ドゥームゲイズばりの轟音でテュポーンと吹き飛ばす、その静謐的な音響パートとハードコアなダイナミズムならびにスケール感を押し出していく轟音パートの対比、それすなわち「This is Mogwai!!」な一曲と言える。


一転して、今度はオートチューン全開のいわゆる“ロボ声”をフィーチャーした、それこそ65daysofstaticへの回答と言わんばかりの8bitのゲーム音楽チックな電子的な打ち込みとTorcheばりのハードコアなダイナミズムが交錯する、いい意味でモグワイらしからぬドストレートなロックンロールを繰り広げる#2“Here We, Here We, Here We Go Forever”、かと思えば今度はUSポストロックのIf These Trees Could Talkへの回答とばかり、それはまるでジブリ映画のサントラの如し心が浄化されていくような、波浜辺美波(浜辺に寄せては返す美しい波)の如しゆらり揺らめく蜃気楼を描き出すアンビエントなATMSフィールドをバックに、猛烈な愛=LOVEをまとったリリカルでノスタルジックな“和”の美旋律がメランコリックでエモーショナルな美メロの洪水となって襲いかかり、ポストロックならではのエピックでドラマティックな構成美が幻想的な『ノスタルジア』を形成する#3“Dry Fantasy”、今度はUSポスト・シューゲイザーのNothingへの回答とばかりの倦怠感むき出しのボーカルと、あるいはデイヴ・フリッドマン的な意味でBaronessの新作とも共振するノイズロック然とした#4“Ritchie Sacramento”、今度は現代プログレ界隈の重鎮ことスティーヴン・ウィルソンの2ndアルバム『Grace for Drowning』SWのサイドプロジェクトであるNo-Manを彷彿とさせる、浜辺美波()のようにウェイブする耽美なシンセと湿り気のあるギターがイギリスの空模様のように妖しげな雰囲気を映し出し、その不穏な空模様に突き刺す一筋の稲光のようなハードコアな轟音が瞬く#5“Drive The Nail”、中期ANATHEMAにも影響を与えたモグワイの専売特許=ヴォコーダーボイスからして安心感しかないSFチックな#6“Fuck Off Money”、ポストロック“バンド”としてのアグレッシヴでオーガニックなパンク魂を打ち出した#7“Ceiling Granny”、SF映画のサントラすなわちハンス・ジマー顔負けのミニマルなエレクトロをフィーチャーした#8“Midnight Flit”は、それこそana_themaの遺作を象徴する“Springfield”と共振するかのような、一段また一段と徐々に次元の壁を超えていく極限的なミニマリズムと後期ana_themaもビックリの壮麗なオーケストレーションが恍惚や銀河を超えた先にある高次元空間を切り拓いていくようなアセンションナンバーで、もはやアナセマの穴にモグワイが潜っちゃった感じはドチャクソ超絶エピックで(意味わからん)、とにかく実質解散宣言を発表したアナセマへのレクイエムだと考えただけで泣ける。で、この曲を聴いて確信した事が一つだけあって、それは本作が後期ana_thma〜Baronessの新譜から地続きで繋がってるアルバムということで、しかも楽曲のノリというか熱量が完全にメタルのそれな時点で、これはもう一種の「モグワイなりのポストメタル」と解釈すべき一枚であると。つまり「モグワイはメタル」

アルバム終盤も、モグワイらしいセンチメンタルなリフでポストロックの王道を組み立てていく#9“Pat Stains”、再びNo-Man顔負けのミニマルなシンセをフィーチャーしたエレクトロ・ポップな#10“Supposedly, We Were Nightmares”、モグワイをリスペクトしてやまないフォロワーの第一人者であるUSブラックゲイズのDeafheavenへの回答であるかのような、そんな彼らの“Glint”を想起させるイントロの寂寥感に苛まれるリフやUSオルタナのJuniusをイメージさせる荘厳な世界観を形成するシンセ、そしてana_themaの遺作から“Wildfires”をオマージュしたような轟音ノイズと、中期ANATHEMAをフラッシュバックさせるアウトロの耽美的なギターが別れの挨拶にしか聞こえなくて俄然泣かせるラストの#11“It's What I Want To Do, Mum”まで、それこそ「ちょっと待って、モグワイってこんなシューゲイザーっぽかったっけ?」となるくらい、とにかく一聴してわかるのは「メロディめっちゃある!」という事で、しかし「ここまで様式美的なメロディ鳴らすバンドだったっけ?」となるのも事実。

要するに、いい意味でめちゃくちゃシンプルで王道的なロックやってるというか、いい意味でモグワイらしからぬ、いい意味でモグワイフォロワーのフォロワーを本家モグワイがやってみたような感覚。この手のフォロワーに対する回答的なアルバムにめっぽう弱い自分としては、ポストロック界のレジェンドが原点に、基本に立ち返るじゃないけど、ポストロックの基本、オルタナティブの基本を、レジェンドとなった今あえて初歩的でベタな事やってて俄然エモカッコよ過ぎて泣けるというか、泣きながら「これもう赤ペン先生だろ・・・」ってなった。少なくとも、ここ最近のアルバムの中では最もモグモグワイワイしたくなること請け合いの一枚です。

For Tracy Hyde 『Ethernity』

Artist For Tracy Hyde
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Album 『Ethernity』
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Tracklist
1. Dream Baby Dream (Theme for Ethernity)
2. Just Like Fireflies
3. Interdependence Day (Part I)
4. Interdependence Day (Part II)
5. Welcome to Cookieville
6. Radio Days
7. Desert Bloom
8. Chewing Gum USA
9. City Limits
10. ヘヴンリイ
11. The Nearest Faraway Place
12. Orca
13. Sister Carrie
14. スロウボートのゆくえ

伊集院光の深夜ラジオ『深夜の馬鹿力』でこのバンドの曲が流れてきた時、率直にシューゲイザー化したYUKIじゃんと思った。それもそのはず、シューゲイザー・アイドルで知られる・・・・・・・・・RAYに楽曲提供しているメンバーで構成された5人組バンドのFor Tracy Hyde、その音楽性としては、伊集院光のラジオでも流れた4thアルバム『Ethernity』からリード曲の#2“Just Like Fireflies”みたいな露骨に海外のシューゲイザー~ドリーム・ポップの影響下にある楽曲を中心に、同様に本作のリード曲を担う#3“Interdependence Day (Part I)”とオバマ?か牧師の演説?が記録されたアウトロの#4“Interdependence Day (Part II)”の組曲という「アルバム」のフォーマットだからこそ可能にさせるストーリー性に溢れたアルバム構成、アルバム序盤のハイライトを飾るメランコリックなエモエモ渋谷系ナンバーの#6“Radio Days”、ギタボの夏botをフィーチャーした疾走感溢れる懐かしのポップパンク風の#7“Desert Bloom”、90年代のグランジというか初期の椎名林檎オマージュの#8“Chewing Gum USA”、再び夏botをフィーチャーした曲でSSWの岡田拓郎やUSインディのThe War on Drugsを連想させるマンドリンを駆使したアコースティックなサイケデリック/インディー・フォーク的な#9“City Limits”、もはや初期Alcestばりのニューロマンティックな雰囲気を漂わせる#10“ヘヴンリイ”、神聖かつ幻想的でノスタルジックなアレンジを効かせた#11“The Nearest Faraway Place”、アルバム終盤のハイライトを飾る曲でeurekaのフックの効いたアッパーな歌声が炸裂する#13“Sister Carrie”、再びThe War on Drugs的なカントリー風の優美なピアノと新しい門出を祝うかのようなサックス、そしてイマドキらしいトラップ的なトラックをフィーチャーした#14“スロウボートのゆくえ”は、#2のeurekaパートを引用することで、都会の若者たちは物語の始まりの地である「ハイウェイ」と物語の最終目的地である「スロウボート」に乗り込んで、このクソサイテーな現実世界からの逃避行は大団円を迎える。


基本は海外の音楽から影響を受けつつも、ミニシアター系の青春映画にありそうな文学的な歌詞を綴る紅一点eurekaの歌メロに日本人好みのグッとくるフックを置いている点は好感が持てる。しかし、昨今の日本の音楽シーンで90年代に流行ったようなこの手のジャンルの音楽が売れるのか?と聞かれたらほぼ間違いなく売れないのも事実で、事実MVの再生数を見ても不当とも言える人気の低さからも過小評価されていると思うし(そもそも所属レーベルのP-VINEがゴリ押しの効くレーベルでもないし)、それこそ全14曲トータル54分の今時のストリーミング時代には珍しい「アルバム」としての強みを打ち出した本作を聴く限り、バンド自身もかなり勝負しにきている作品だと見受けられるので、確かに今時こういうバンドを支えるファン層が日本に存在しているのかは知る由もないけど、少なからず初期のWhirrNothing、ピンポイントで名を挙げるとすればスウェーデンのPostiljonen辺りのシューゲイザー/チルウェイブ界隈が好きなら十分満足できる良盤なのは確か、というよりむしろ逆にJ-POP好きにこそ響きそうな(アイドルは元より)、女性ボーカルと男性ボーカルの二面性を軸に、その曲調も多様性のある感情表現豊かな音楽を展開している。素直に「ライブ見たいな」と思わせるくらいには過小評価されたバンドだと思うし、明らかに勝負をかけてきた本作の登場により少しでも人気が出れば日本の音楽市場にもまだちょっとは期待が持てるかも・・・?ともあれ、一部で椎名林檎の影響下にあったり、ミニシアター系映画的な音楽という点では、話題の映画『花束みたいな恋をした』の劇中にも登場するきのこ帝国(クロノスタシス)を彷彿とさせなくもないし、紅一点ボーカルのeurekaは、YUKIというよりはパスピエの大胡田なつきの歌声に近いかもしれない(歌自体は決して上手いとは言えないけど)。

ウマ娘な有村架純「クロノジェネシスって知ってる?

菅田将暉「知らない」

ウマ娘な有村架純「めちゃくちゃ強い競走馬のことだよ

菅田将暉「(・・・別れよう)」
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