Artist Marika Hackman
Cover Album 『Covers』
Tracklist
01. You Never Wash Up After Yourself
02. Phantom Limb
03. Playground Love
04. Realiti
05. Jupiter 4
06. Pink Light
07. Between The Bars
08. Temporary Loan
09. In Undertow
10. All Night
いわゆる“カバーアルバム”とかって、個人的にスティーヴン・ウィルソンのカバーアルバムですらCDは買うだけ買って一度も聴いてないぐらいには興味ないジャンルなんだけど、UKのSSWことマリカ・ハックマンが歌うカバーだけは唯一の例外で、今回のカバーアルバムはここ数ヶ月間のステイホーム中にレコーディングされ、最新作の3rdアルバム『Any Human Friend』の共同プロデュースを担当した巨匠デイヴィッド・レンチをミキシングエンジニアに迎えている。
Cover Album 『Covers』
Tracklist
01. You Never Wash Up After Yourself
02. Phantom Limb
03. Playground Love
04. Realiti
05. Jupiter 4
06. Pink Light
07. Between The Bars
08. Temporary Loan
09. In Undertow
10. All Night
いわゆる“カバーアルバム”とかって、個人的にスティーヴン・ウィルソンのカバーアルバムですらCDは買うだけ買って一度も聴いてないぐらいには興味ないジャンルなんだけど、UKのSSWことマリカ・ハックマンが歌うカバーだけは唯一の例外で、今回のカバーアルバムはここ数ヶ月間のステイホーム中にレコーディングされ、最新作の3rdアルバム『Any Human Friend』の共同プロデュースを担当した巨匠デイヴィッド・レンチをミキシングエンジニアに迎えている。
今作のカバーにはマリカが「しばらく夢中になって聴いていた曲」が主に選曲されており、その内約としてはレディオヘッドなどのロックやイーロン・マスクのパートナーとして知られるグライムスやアメリカの歌姫ビヨンセなどのメインストリームのポップスをはじめ、他にもフォーク/カントリーやインディ/SSWなどのバラエティに富んだ選曲となっている。その中でも、特に僕のマリカに対する信頼を俄然高める事となったのが、僕がグライムスの曲で一番大好きな“Realiti(現実)”をチョイスしている点。もしかすると、ロンドンのThe Japanese Houseも選曲されてるかと思ったらなかったw
マリカといえば、2015年作の1stアルバム『We Slept At Last』ではジャパニーズフォーク界のレジェンド=さだまさしは元より、日本のSSWを代表するトクマルシューゴや岡田拓郎もビックリの「UKの森田童子」あるいは「UKの山崎ハコ」を襲名するかのような、湿度99パーセントのジメジメとした陰気なフォークミュージックを展開したかと思えば、2017年作の2ndアルバムの『I'm Not Your Man』と2019年作の3rdアルバム『Any Human Friend』では一転して、例えるなら大学デビューを果たしたモテない喪女が学祭でニルヴァーナのコピバンして人気者になる妄想を現実化したようなオルタナティブ・ロックに鞍替えした事は今も記憶に新しい。もちろん、UKのガールズバンド=The Big Moonを携えてバンドサウンド化したアルバムも甲乙つけ難い良作だったけど、その一方で1stアルバム至上主義の僕みたいな人間がいるのも事実。
何を隠そう、このカバーアルバムはまるで僕のような1stアルバム至上主義者への救済措置と言っても過言じゃあない、それこそ1stアルバム時代の湿度99パーセントの全面ブルーカラーの部屋のベッドの上で独り佇む、倦怠感むき出しの陰鬱なマリカに回帰しているという嬉しい誤算で、まさに内省的な寂寥感に苛まれる「孤独こそ癒やし」みたいな彼女の信念が貫かれたような快作となっている。
失礼ながら知ってる原曲がレディヘとグライムスしかないけど、むしろ原曲を知らない方が楽しめるパターンのカバーアルバムだと思った。というのも、主軸のメロディからアレンジまでほぼ全ての曲が1stアルバム時代のマリカ節に染まっているので、極端な話、原曲を知らなかったら1stアルバムの世界線に残ったSSWのマリカが書いたオリジナル曲にしか聴こえないレベル。
個人的に原曲を知ってて、なおかつリピートしまくった曲がグライムスの“Realiti(現実)”しかないから原曲と比較みたいな事はできないけど、唯一この曲で言うならモノクロームな幽玄さとダウナーにたゆたう感覚をまとったシンセとギターのアレンジでマリカ色に染めつつも、原曲というか厳密に言えば「名古屋飛ばし」をしなかった事でお馴染みのMV音源のどこかシティポップにも通じるエキセントリックでエキゾチックな世界観を崩すことなく再現しているのは見事としか言いようがない。とにかく、サイケポップ感覚でトリップできちゃう近年稀に見る名カバーだと思う。
幕開けを飾るレディへのカバーを皮切りに、岡田拓郎マニアが喜びそうなシンセのアレンジを施した#2“Phantom Limb”、ハイハットのトラッピーなビートを刻むイマドキなアレンジが光る#3“Playground Love”、ドリーミーなアレンジや歌メロを含めたメロディなど全体的に#4“Realiti(現実)”の雰囲気を踏襲した#6“Pink Light”、俄然1stアルバムの名曲“Claude's Girl”でもお馴染みのX JAPANの“Voiceless Screaming”ばりにフォーキーな#7“Between The Bars”、アコギ一本で語り弾く“宅録フォーク女子”の本領を発揮する#8“Temporary Loan”など、全体的に倦怠感丸出しの雰囲気は1stアルバムを踏襲しているけど、しかし楽曲のアレンジは洗練されたイマドキっぽさもある。
あとはやっぱり前作同様にフランク・オーシャンを手掛けた名プロデューサーのデイヴィッド・レンチを迎えているだけあって、どのカバーもアレンジが凝りに凝っていて、よくあるカバーアルバムとして聴き流すにはもったいないぐらいの強い「こだわり」とミュージシャンシップに則った「本気度」が詰まった(それは本作がセルフリリースではなくSub Popから出ている事からも明白)、もはやフルアルバムと同等の扱いを受けるべき、むしろマリカのディスコグラフィーの中でも最重要作として位置づけるべき価値ある作品だと思う。