Welcome To My ”俺の感性”

墓っ地・ざ・ろっく!

2020年08月

Gulch 『Impenetrable Cerebral Fortress』

Artist Gulch
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Album 『Impenetrable Cerebral Fortress』
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Tracklist
01. Impenetrable Cerebral Fortress
02. Cries Of Pleasure, Heavenly Pain
03. Self-Inflicted Mental Terror
04. Lie, Deny, Sanctify
05. Fucking Towards Salvation
06. All Fall Down The Well
07. Shallow Reflective Pools Of Guilt
08. Sin In My Heart

この『はだしのゲン』タッチでピンク色に光り輝くチクビもといアートワークに猛烈な興味を惹かれて、カリフォルニアはサンノゼ出身の5人組、その名もGulchの1stアルバム『Impenetrable Cerebral Fortress』を聴いてみたら、例えるならアンダーグラウンドの裏社会に染まった漆黒の陥没黒チクビを、「ペロペロペロペロペロペロペロペロぺロ」とイジリー岡田ばりの高速ベロ使いで黒乳首からピンクチクビへとビンビンにピン立ちさせて、それと共鳴するかのように今度は自分のナニがギンギンにおっ立った瞬間、ピンク色に染まったチクビを噛みちぎり、チクビの先端から噴水のように吹き出る真っ赤な鮮血を浴びて、イッた顔で微笑みながら「おいひぃ・・・(コリコリ)」とASMRばりの咀嚼音を鳴らすような、そんな最高に“イッちゃってるハードコア”

この手のイッちゃってるハードコアで思い出したのが新世代ボストンハードコアのVeinだった。それもそもはず、彼らGulchはそのVeinTDEPのメンバー擁するハードコアスーパーグループのENDも在籍するレーベルClosed Casket Activitie所属、そしてDeafheavenをはじめとする新世代ハードコア界隈を縁の下から支えてきた気鋭のエンジニアJack Shirley案件という、要するに現代ハードコアの最先端を指し示す役満コンボ。

そんなガワからしてイマドキのハードコアなら、中身も再生した瞬間からほとばしるDeathwish臭というかConvergeや初期のCode Orangeを連想させるカオティックなハードコア/パンクをやってのける。確かに、確かに「コンヴァージの何番煎じやねん、もうそういうのいいから・・・」みたいになりかねないけど、このGulchの凄さって一見ただのDeathwish型ハードコアのフォロワーに見せかけて、鋭いソリッドなヘビネス、クラストコア的なヘビネス、ポストメタル〜スラッジラインの濃厚濃密なヘビネス、それらのバリエーションに富んだメタル資質の高いヘビネスの質量、その塩梅が絶妙なバランス感覚と音作りのセンスが新人離れしている点にある。一見、獰猛で粗雑なアングラ・ハードコアかと思いきや、しっかりとヘビネスに意識を持たせながら“重さ”と“コアさ”に比重をかけたメタリックなハードコア。どう見てもイッちゃってるのに、ただ一点だけ“ヘビネス”においてはVeinに代表される新世代ハードコアと共振する最先端のヘビネスを鳴らしてるのが最高に可愛いピンクコア。

ただでさえイッちゃってる2020年最高のハードコアなのに、UKポストパンク・レジェンド=Siouxsie & The Bansheesの楽曲をカバーしちゃうのも最高にイッちゃってる。

Havukruunu 『Uinuos Syömein Sota』

Artist Havukruunu
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Album 『Uinuos Syömein Sota』
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Tracklist
01. Uinuos Syömein Sota
02. Kunnes Varjot Saa
03. Ja Viimein On Yö
04. Pohjolan Tytär
05. Kuin Öinen Meri
06. Jumalten Hämär
07. Vähiin Päivät Käy
08. Tähti-Yö Ja Hevoiset

「ここは嵐吹き荒れる大海原の中を突き進む船の上。北欧フィンランドから出発したヴァルハラの民を乗せた船団Havukruunuは、毎夜の如く船上で宴を開いてはヤギの乳で作った酒を浴びるように飲み、イノシシの肉を飲むようにして貪り、そしてヴァイキング流の誉れとばかりに、大蛇ヨルムンガンドが化けたような荒れ狂う荒波に抗わんと怒号の如し歌声でヴァルハラの民に伝わる船歌を大海原に轟かせる。その船上の戦いという名の航海を乗り越え、標的の魔物が潜むとされる敵陣に上陸するや否や目の色を変え、漢と漢の激しい乳繰り合い、もとい激しいぶつかり合いを合図する狼煙とともに血肉湧き立つ戦いの火蓋が切って落とされる。二人の兄弟戦士が先陣を切ってヴァイキングの魂を宿した獣性むき出しの勇壮な咆哮と嵐の如く唸りを上げるトレモロ・リフの連携技で敵陣地に切り込めば、一人のイケメン戦士は北欧全土に言い伝えとして残る伝説のギターヒーロー“インギー”から継承したネオクラシカルなソロワークで味方をエピックに鼓舞するバフを与え、一人の戦士はヴァイキングに古くから伝わる伝説の聖剣ヴァルハラソードを片手にスラッシュ・メタルばりの切れ味鋭いキザミで魔物を真っ二つに一刀両断、一人の巨漢の戦士は粗暴なブラストビートで敵を容赦なく無慈悲に叩き潰す、ある一人は未だ船舶する船の上でアコギを片手にヴァイキングに伝わる民謡的なフォークソングを陽気に歌い続け大事な戦闘に乗り遅れるうっかりさん戦士、それら一人一人の個性豊かな雄々しくも勇敢なヴァイキンガーを束ねるキャプテンのラグナルの指示で戦況に応じて隊列を変化させながら陣形を構築し、敵軍をなし崩しに一網打尽にしていく。長い死闘の末、ついにラスボスの魔物を倒したヴァイキングは興奮冷めやらぬ雄叫びとともに勝鬨をあげ、いざ宴の準備に取りかかろうとしたその時、どこからともなく聞こえてくる幽玄でスピリチュアルな音色のアンビエント効果並の睡魔に襲われた船員一同は、2度と目覚める事のない深い眠りにつく。そう、彼らはヴァイキングの魂(ソウル)=エインヘリャルが復活した「死せる戦士たち」だったのだ。」

次回『ダークソウル4』、ご期待ください。

Imperial Triumphant 『Alphaville』

Artist Imperial Triumphant
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Album 『Alphaville』
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Tracklist
02. Excelsior
05. Transmission To Mercury
06. Alphaville
07. The Greater Good
08. Experiment
09. Happy Home

ニューヨーク出身の黄金仮面トリオことImperial Triumphantの約2年ぶりとなる4thアルバム『Alphaville』が、まるで一般市民による自粛警察が蔓延る近未来の超監視社会を描いたジョージ・オーウェルの小説『1984』の世界観を地でいくような、そして表題からもわかるようにフランス映画界の巨匠ジャン=リュック・ゴダールが1965年に発表したSF映画アルファヴィルをモチーフにした、それこそ巨匠キューブリックのSF映画時計じかけのオレンジの主人公マックスのように、人間が洗脳/統制されたスーパーシティ=黄金都市のディストピア社会が崩壊した後のポスト・アポカリプスの終末世界を描いてて、とにかくヤバ過ぎる件について。

物語の幕開けを飾る#1“Rotted Futures”は、その「統制された不協和音」という矛盾した不可解さと不気味さを醸し出す不規則なリズムとメロディからして、前作のような二大フレンチ・デスメタルのDeathspell OmegaGojiraに肉薄する混沌が混沌を呼ぶカオティックなプログレッシヴ・ブラック/デスメタルというよりは、それこそ今年2020年のメタルシーンにおける最重要アルバムの一つと断言していいOranssi Pazuzu『Mestarin Kynsi』を脳裏にフラッシュバックさせる。そのメタル最王手レーベルのNuclear Blastと契約したオレンジ・パズズと同じように、メタルの名門Century Mediaと契約してオレンジの色気を出してきた面も少なからずある本作は、正確には普通のブラックメタルとも普通のデスメタルとも一線を画した、マスロックなどのプログレ要素やノイズロックなどのHENTAISMを喰らったテクニカル志向の強いジャズ〜アヴァンギャルドラインにある暗黒メタルといった印象。

例えば、近年デスメタルを象徴するBlood Incantation『Hidden History of the Human Race』のようなアヌンナキや宇宙人あるいはエイリアンもしくは地底人が登場するファンタジーなSF系デスメタルじゃなくて、接触恐怖症やリモートワーク、それらに象徴されるソーシャルディスタンスを推し進めた現代人の人間不信社会という新たな現代病が最後に行き着く先にある、あくまでも超現実的な超監視社会を描いた近未来的なエイリエネーション・シンドロームを描いたのが本作。そのスーパーゴールデンシティという名の、外側は金ピカの黄金=資本主義に染まったリッチな人間と見せかせて、内側は既に感情や自由など個人主義的な思想が排除され、その行動すらもAI=人工知能アルファ60によって洗脳/統制された家畜同様のモルモットが生活する、二度と太陽の昇ることのないモノクロームの黄金都市・アルファヴィルの世界を皮肉交じりに描写していく。そこには巨匠キューブリックの時計じかけのオレンジや同ゴダールの『気狂いピエロ』を観賞した後のような「生理的に無理」な不快感と吐き気を催すほどの邪悪が混在している。ある種のカルト映画に近い、人間が論理感を失った欲望と粗暴な暴力性がむき出しになった状態。まさに「実験的、芸術的、冒険的、半SF」とゴダール自身が名付けたSFによる文明批評映画ならぬ、アルファヴィル公開から約60年の時を経てリアルな現実問題として直面している2020年を生きる現人類による文明批評メタルだ。

メシュガーの鬼神ドラマートーマス・ハッケが和太鼓でゲスト参加している(しかし当たり前のように和太鼓も叩けるハッケ天才過ぎるな)#3“City Swine”は、ある意味で“デスメタルなのにポップでキャッチー”と出会って2秒で矛盾を言いたくなるような、もはや不協和音を極め過ぎた結果普通のマスロックみたいになるという、もはや不気味の谷を通り越したヤバさを内包した爽やかなメロディで誘惑してくる感じが逆に恐怖心を煽ってくる。そしてイントロからホワイトノイズ交じりの60年代の白黒TVから聴こえる喜劇的な男性コーラスがただならぬ雰囲気を醸し出す#4“Atomic Age”は、ボストンハードコアのvein的な親しみやすい変拍子リズムで展開すると、中盤からJKパズズが60年の歳月を経てBBAパズズに化けて出てきたような心霊現象的なクワイヤや小声が聞こえてきて、稲川淳二ばりにうわぁ〜嫌だなぁ〜怖いなぁ〜と思った次の瞬間、心かき乱されるような不安とおどろおどろしい恐怖心を煽るYoshiko Ohara氏という日本人女性による金切り声混じりの絶叫、から一転して天上へと昇るようなクリーンパートに場面が切り替わるやいなや、直後に再び地獄へと突き落とされるカオティックの極み。この曲の忌々しく背筋が凍るような(Bloody Pandaのフロントウーマンこと)オオハラ氏の奇声は久々に面食らったし身震いしたわ(恐らくというか、ほぼ間違いなく日本人女性で限定したら、いや限定しなくとも日本一ヤバいスクリームかもしれん)。その時気づいた、このアルバム相当ヤバいって。

ちなみに、本作のボートラ兼実質本編扱いの8曲目と9曲目はカバー曲で、前者はカナディアン・スラッシュのレジェンドVoivod、後者は70年代に前衛的な音楽性で一部の音楽マニアを虜にしたルイジアナ出身のThe Residents。特に後者のザ・レジデンツは、その“Experiment”でエキセントリックな音楽性だけでなく、その素顔を明かさない目玉のマスク姿というビジュアル面に関しても、謎の集団感を醸し出す黄金仮面を身につけたImperial Triumphantなりのオマージュとリスペクトが込められている。これらは彼らのルーツの紐解く一つの重要なファクターとしてより理解を深める事ができる。その曲タイトルが“Happy Home”というのも粋で、つまりAIに全てを監視/統制された黄金都市人類の楽園=Happy Homeであると思い込ませるように洗脳完了した事を示唆する。このようにして、実質本編扱いのカバー曲ですらアルファヴィルの一部として組み込んでるのも俄然皮肉が効いている。

巨匠ゴダールのレトロフューチャーなディストピア映画を題材としたコンセプトも、この2020年という新時代に突入した現時代とも否応にもメタ的に繋がるし、かつメシュガーからの大物ゲストをはじめ、アヴァンギャルド的な側面ではOranssi Pazuzuと、前衛的・実験的な側面では新世代メタルのveinとも違和感なく共振してくるあたり、それら“20年代のメタル”に象徴される新世代メタルに片足突っ込んじゃってる感じは、露骨にモダンな色気を出してきたと評価せざるを得ない。無論、その“色気”が功を奏して本作を名盤に押し上げているもの事実。なんかもう凄すぎてJKパズズの新譜が子供騙しに見えてしまうのも事実。それくらい、聴いてる最中は体強張りすぎて聴き終えた後に無駄に肩凝るくらい、こんなおっかないメタル久々に聴いたかもしれない。もはや怖過ぎて再生ボタン押すのにもちょっとした度胸が必要というか、怖すぎて小音でしか聴けないし、もはや色々な意味で怖すぎて稲川淳二の怪談ばりにうっかりダメだダメだダメだ、こいつダメだ、こいつ危ない、こいつ怖いってなること請け合いだから、繰り返して聴き込むなんて事は絶対に不可能という・・・w

YUKIKA 『SOUL LADY』

Artist YUKIKA
202007212

Album 『SOUL LADY』
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Tracklist
01. From HND to GMP
02. I FEEL LOVE
05. A Day For Love
06. pit-a-pet
07. Cherries Jubiles
08. I Need A Friend
09. SHADE
10. All flights are delayed
11. NEON 1989

80年代シティポップのコンピアルバム『Pacific Breeze~』や、80〜90年代の日本の環境音楽のコンピアルバム『Kankyō Ongaku~』が海外レーベルからリリースされた出来事をはじめ、世界的に「日本の音楽」に対する再評価の流れが著しい昨今。このたび韓国から1stアルバムの『SOUL LADY』をリリースしたYUKIKAこと静岡県浜松出身の寺本來可は、日本ではティーン向けのファッション雑誌『ニコラ』で専属モデルデビューし、モデル業の傍らで声優としてアニメやゲームに出演していた経歴の持ち主。で、後に韓国のテレビドラマ版『IDOLM@STER.KR』のReal Girls Projectの唯一の日本人メンバーとして抜擢され、その活躍が実って2019年の2月に韓国でソロ歌手デビュー。そして先日、待望の1stアルバムを発表した。

K-POPといえば、EDMやHIPHOPをはじめとするUSメインストリームの影響下にある音楽性を主な特徴としているイメージあるけど、このYUKIKAは日本生まれだけあって、昨今海外の音楽好きの間でムーブメントを起こしている(「(海外の音楽を発展させた)日本独自の音楽」とされる)80年代のシティポップをバックグラウンドとしたサウンドを大きな特徴としている。正直、このアルバムを聴いた瞬間、ちょっと前に個人的にK-POPで推しているLOONAが日本デビューをアナウンスするティザー映像がYoutubeにアップされた時のコメント欄に英語で書いてあった「シティポップやってくれ今月の少女!」というようなニュアンスのLOONAペン=俺もといOrbitのコメントを思い出して「やられた...」と白旗あげた。そうだよね、Kポが一種のリバイバルブーム的な世界的トレンドとなっているシティポップに触手をのばさない訳がなかった。皮肉にも、この音楽を発展させた日本からではなく、常に世界中の音楽のトレンドにアンテナを張っているK-POP界隈からから出たのは必然と言えるのかもしれない。

本来なら2019年の夏に日本デビューする予定だったLOONAは、結局同年には日本デビューせずに、今年に入ってからユニバーサルジャパンから日本デビューが内定して4月のKCONにも出演予定だったが、それも某コロナの影響で全て白紙になってしまうという不運。必然的に日本デビューを知らせるティザー動画のコメントにあった「シティポップやってくれ今月の少女!」というオービット(LOONAファンの呼称)からの切実な願いは遠のき、しかもそのシティポップネタもYUKIKAに先取りされてしまうという不運の連鎖・・・。更に、悲運にもこのYUKIKAの1stアルバム『SOUL LADY』がシティポップ全盛の音が約40年近い時を経て蘇るかのような王道シティポップで、日本デビューしたら間違いなくシティポップを日本向けの楽曲として戦略的に組み込んでいたであろうLOONAにとっては最大の不運としか言いようがない(全部コロナのせい)。


楽曲のクレジットを見てもわかるように、作曲陣はK-POP界隈でもお馴染みのライターが起用されているのだけど、実はその中に驚くべき事実があったのだ。それというのも、本作の表題曲をはじめほぼ全ての楽曲のメインライターとしてクレジットされたMonoTreeという名前に僕は見覚えがあった。何を隠そう、MonoTreeといえばLOONAの楽曲も手がける韓国気鋭の作曲家集団である。・・・そう、すでにLOONAと直接関係するサウンドPをフォローしているという、しかも表題曲の“SOUL LADY”のMVはLOONATWICEのMVでもお馴染みの映像集団Digipediが、極めつけにはLOONAの仕掛け人であり元音楽批評家のジェイデン・ジョンもプロデュースとして参加しているって・・・ちょっと待って、それなんてLOONA・・・?ヘタしたらLOONAの日本デビュー用にストックしていたシティポップをYUKIKAに提供してしまっていたらと想像しただけで(流石にそれはないか)(というより試作をここで披露した?)、兎にも角にもこんな大きな所にも今月の少女にとって最悪の不幸が訪れていたなんて・・・。もうやめたげて・・・もうこれ以上、可愛い可愛い今月の少女ちゃんたちを苦しめないで・・・。

てっきりシティポップやってK-POPファンのド肝抜いてくるのはLOONAだと信じ切っていた自分からすると、一足先に、しかも静岡生まれのYUKIKAにここまで本格的なシティポップリバイバルやられちゃうと、さっきまでの「やられた・・・」みたいな悔しい気持ちも全て本作の圧倒的な完成度の前に霞んでしまうのも事実。

オープニングを飾る#1“From HND to GMP”の日本の羽田空港(HND)の日本語アナウンスから韓国の金浦国際空港(GMP)へと飛行機が離陸するSEからして、寺本來可が海を渡り新天地の韓国でYUKIKAとしてデビューする未来を暗示する。それは「夢」の始まりだった。シティポップといえば都会的な華やかさを演出するブラスセクションだが、(そこまでド派手でないにしろ)いかにもソレっぽいトランペットやシンセ、ファンキーでオシャンティなカッティングギター、それらの80年代シティポップの王道中の王道を司るギミックで構成された「This is CITY POP」な幕開けを飾る#2“I FEEL LOVE”、韓国でその才能を見出された寺本來可は韓国の都市ソウルで“ソウル女子YUKIKA”として新しく生まれ変わる、まるで気分は80年代に一世を風靡したマハラジャのディスコクイーンなダンスポップの#3“SOUL LADY”、シティポップ界のレジェンド山下達郎“いつか”を連想させる豪勢なゴスペル風のコーラスを駆使したしっとり系の曲調にKポならではのラップを織り込んでくる一種の“K-POPなりのシティポップ”な#4“Yesterday”、R&B系バラードの#5“A Day For Love”、本作の主要楽曲の中では唯一の例外と言っていいシティポップとは対照的なイマドキなトラックをフィーチャーした#6“pit-a-pet”YUKIKAの“歌”をフィーチャーした#7“Cherries Jubiles”、西海岸の匂いを運んでくるようなAORを背にオッパとYUKIKAが携帯での会話SEがインストながらノスタルジックな雰囲気アリアリで泣ける#8“I Need A Friend”、その流れから場面が韓国ドラマ『悲しき恋歌』みたいなトラウマ系韓流ドラマのワンシーンに切り替わり、もはやテレサ・テン顔負けの昭和歌謡ばりに哀愁だだ漏れの#9“SHADE”、再び場面は韓国の空港に切り替わると、同じ“夏に映える音楽”という意味では現代のシティポップと解釈できなくもないローファイ・ヒップホップならではの倦怠感溢れる雰囲気と、女で独り海を渡った寺本來可「どうしよっかな・・・」という漠然とした不安をため息ながらに吐き捨てる感傷的なエモさが絶妙にマッチするインストの#10“All flights are delayed”、そして本作のハイライトでありクライマックスを飾るシングル曲の#11“NEON 1989”は、まだ都市が都市らしかった眩いくらいのネオンが夜をバブリーに照らし出していた“あの時代”の都市の記憶を呼び起こす。


なんだろう、“ドラマ仕立て”と言ったら少し大げさかもだけど、冒頭から空港アナウンスSEや親子の会話SEを織り交ぜながら、日本生まれの寺本來可“SOUL LADY”へと生まれ変わっていく心情的な変化を表すように、それこそ韓流ドラマのような喜怒哀楽全開のドタバタ感じゃないけど、アルバムを通して構成のメリハリを効かせた流れが存在するので、可能なことなら聴く側もサブスクのプレイリストでお気に入りの「曲」単位で聴くのではなくて、それこそまだインターネットやSpotifyなどのサブスクが存在しなかった80年代に立ち返って「アルバム」単位で聴いてほしい。流石にネットを使うなとか、当時のようにレコードで聴けとは言わない、聴く環境は好きにしていいけど絶対に「アルバム」単位で聴いてくれ。事実、本作における高いドラマ性は、メイン楽曲を手がけたMonoTreeチーム以外のEsti氏らの作曲(インスト)によるものが大きい。

本作は往年のシティポップを中心としながらも、トラップやローファイ・ヒップホップなど現代音楽におけるトレンドとリバイバル的なトレンドが時を超えてクロスオーバーした現代シティポップであり、同時にシティポップ云々以前にK-POPの一つとして聴かせるフックに富んだキャッチーさを兼ね備えた傑作。もちろん、YUKIKAは全パート韓国語で歌っており、つまりK-POPなのに日本由来のシティポップ、シティポップなのに韓国語という、2つの意味でギャップというか新鮮さが味わえるので、ただのシティポップリバイバルで終わらない所も評価できる。あと空港SEを効果的に使った演出は、日本で活動する韓国人ラッパーMoment Joon「聴くだけで批評になるラップアルバム」こと『Passport & Garcon』をフラッシュバックさせた。ある意味では、日本から韓国に渡ったYUKIKAと韓国から移民として日本にやってきたMoment Joonの立場は似たもの同士なのかもしれない。

往年のシティポップを現代的なシティポップにアップデイトするアーティストって、強いていえば日本の若手だと岡田拓郎くんが代表的かも。確かに、2020年代が始まった今から40年前の1980年代の世界の話なんて「夢」の話でしかないし、もうずっと前からシティポップ再評価の流れがあるあるって耳にしてはいたけど、こうやって実際に日本の岡田くんや韓国のYUKIKAなどの身近なアーティストが現代シティポップをガチでやってる所を見ちゃうと、そら竹内まりや“Plastic Love”も海外でバズるのも納得。

ともあれ、個人的な思いとしてはYUKIKAを全面バックアップしているクリエイターチームがLOONAと全く同じという衝撃的過ぎる展開が今度どのように動いていくのか?逆に、逆にYUKIKA『SOUL LADY』を一つの指標として、まもなく日本デビューが噂される今月の少女が日本向けに一体どんなシティポップを展開してくれるのか?今はそこに俄然期待感と妄想が増していくばかり。もちろん、仕掛け人のジェイデン・ジョンは元より、作曲チームはお馴染みのMonoTreeで、MVもお馴染みのDigipediでお願いしますw

Julianna Barwick 『Healing Is A Miracle』

Artist Julianna Barwick
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Album 『Healing Is A Miracle』
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Tracklist
01. Inspirit
02. Oh, Memory ft. Mary Lattimore
03. Healing Is A Miracle
04. In Light ft. Jónsi
05. Safe
06. Flowers
07. Wishing Well
08. Nod ft. Nosaj Thing

ここ最近、というか2020年に入ってから特に、自分の瞳の裏にGrouperの文字を認識させるような事が頻繁にあって、それこそメタル界ではポストブラック界の新生Infant Islandだったり、ポップス界ではThe Weekndの新作『After Hours』でも半ば一方的な解釈を通せばGrouperの存在を認識できなくはなかった。そんなこんな今年の流れを前置きとして、それらの“伏線”を回収する岡田拓郎の2ndアルバム『Morning Sun』が一つの答えとしてありながら、いくつもの点と点をつなぐ先にある最終目的地こそ、Julianna Barwickの約4年ぶりとなる新作だった。

聴くだけでネイチャーメイドと同じ効果があるとされる彼女の超自然的な歌声は、もはや新世代ニューエイジ界の歌姫ことノルウェーのAURORAがゲスト参加してんじゃねーかぐらいの、もはや『アナ雪』の主題歌と言われても驚かない#1“Inspirit”を皮切りに、それこそGrouper『Grid Of Points』を想起させる、深海の奥底に潜って弾いているかのような幽玄なピアノと、いかにも岡田拓郎的な超自然的な鳴らし方のハープが奏でるニューエイジ~環境音楽然とした#2“Oh, Memory”からも、見るからに近年のGrouperに追従してきている流れがあるのは明白で、そして普通の日常が奪われた非日常的状況下で疲弊し切った現代人類に超自然的な癒しを施す表題曲は、彼女が持つ【Healing=癒し】効果は全人類が未だかつて経験したことのない【Miracle=奇跡】を引き起こす。


それはまるで映画音楽界の巨匠ハンス・ジマーが手がけた映画『インターステラー』のサントラ顔負けのSF的な幕開けを飾ると、“天上の歌声”と崇められる彼女の超自然的な歌声と呼応するように、とてつもなく強い重力を持つブラックホールの特異点という異次元の入り口が開くと、何百何千にも折り重なった彼女の超自然的なボイスはミクロの高エネルギー粒子となり地球を飛び越え、それこそ人類がこれまで歩んできた「道」、人類が紡いできた「歴史」、そして人類が繋ぎ受け継いできた「意志」を記録した『メッセージ』として某レーダー峰から送信される。すると約4光年の遥か彼方にある銀河に生息する地球外生命体の宇宙人ヨンシーとのファースト『コンタクト』に、すなわち人類史上初めて地球外生命体との交信に成功する。その宇宙人ヨンシーとの『未知なる遭遇』、その『惡の華』に触れてしまった人類は、恐怖のあまり「Safe(大丈夫) Safe(大丈夫)」と繰り返し自らの精神を落ち着かせる。そして、宇宙の長く暗い闇を抜けた人類が最後に辿り着いたのは、言うなれば『New Morning』という新しい朝、人類の夜明けを迎えて、また新しい朝日が昇りはじめる。その姿は全く新しい、正しく善なる人類文明を創造する事を願う「祈り」のようだった。

わりと分かりやすくシンプルにニューエイジ〜アンビエントラインの音を鳴らしてる印象で、とは言えどシンプルながらに「歌メロめっちゃある」という第一印象を持つくらい、誤解を恐れずに言うと過去最高に「歌ってる」イメージからも、同時に音の輪郭が過去最高に“ポップ”な事からも俄然近年のGrouper感マシマシというか、Grouperと同じようにコッチ側に来たと思ったら光の速さで通り過ぎていった感じ。極端な例え方をすると、AURORAがニューエイジ側に振り切ってアンビエント化ようなくらい“メロディ”を歌っている。それは、こころなしか岡田拓郎とコラボした優河を連想させた。

そんな事より、天下のシガーロス宇宙人ヨンシーが参加しているってんだから、そら色気付くよなって話で、その宇宙人ヨンシーが参加した#4“In Light”はアイスランドの雄大な景色を超越した“コズミック・ヨンシー”さながら。まるでエイフェックス・ツイン顔負けの暗黒物質的な電子音をモールス信号の如く発信する#6“Flowers”をはじめ、かのケンドリック・ラマーのプロデュースでも知られるノサッジ・シングをフィーチャーした#8“Nod”では、いわゆるエレクトロやヒップホップ的な新機軸と取れる実にモダンでイマドキな一面が垣間見れるのも、過去作とは比べ物にならないくらい挑戦的かつ実験的な作品、その証明と言える。なんだろう、例えば同郷ブルックリンのLiturgy「ブラック・メタル界のエイフェックス・ツイン」なら、このJulianna Barwick「アンビエント界のエイフェックス・ツイン」なのかもしれない。

冒頭で述べたように、この現代アンビエント研究者の権威と呼べるJulianna Barwick〜Grouper〜岡田拓郎ラインによる共同作業で(まるで互いの世界線をリモートでつなぎ合わせるように)、この2020年という新時代において全く新しい次世代アンビエントを展開しているのは素直に感動するというか、そのメンツの中に日本の岡田くんがいる凄さな。その岡田くんのソロアルバム『Morning Sun』は、量子学における二重スリット実験を応用したミクロ=アンビエントとマクロ=ポップスという新解釈がなされた作品で、同時にduennとの共作『都市計画』では、まさに喜多郎『シルクロード』さながら、全ての自然と生命は平等であるという「種」の共産主義思想を唱える仏教的なスピリチュアリズムとアンビエントの親和性を高次元で証明したのと同じように、この『Healing Is A Miracle』ではアンビエントとネイチャー=科学の深い関わりを示唆している。つまり、日本の岡田拓郎が示した仏教的な思想を科学的=ネイチャーの視点から立証してみせた、現代アンビエントの金字塔となりうる傑作。

確かに、いわゆるアンビエントにしてはもの凄くマクロ的だし、「曖昧さ」を一つの魅力とするアンビエントにしては直情的過ぎる印象は否めない。大仰なSF映画のサントラというよりは、それこそ現代SF小説としてヒューゴー賞を獲得した『三体』を読んでる最中のBGMを意図して作曲されたんじゃねぇかぐらい、というか個人的な話でちょうど一年前に初版で買ったまま放置してた『三体』を読み始めたタイミングで、このJulianna Barwickの新譜と運命的な出会いを果たすという、もはや完全にブラックホールの特異点を凌駕する「引力」案件(ちなみに、僕は“降臨派”です)。全ては見えない「引力」で、聴こえる「引力」で繋がっている事を再認識させられた。ちなみに、ドローンで撮影された本作のアートワークは日系人フォトグラファーのジョエル・カズオ・クノーンシルド氏によるもの。
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