Artist Infant Island

EP 『Sepulcher』

Tracklist
01. Burrow
02. Unspoken
03. Phantom Whines
04. Awoken
05. Sepulcher
ぼくバンドキャンパー「えっ、新世代メタルバンドBandcampの新譜が$7!?やっす!ポチー」

EP 『Sepulcher』

Tracklist
01. Burrow
02. Unspoken
03. Phantom Whines
04. Awoken
05. Sepulcher
ぼくバンドキャンパー「えっ、新世代メタルバンドBandcampの新譜が$7!?やっす!ポチー」
Bandcamp「ご購入ありがとうございます!んじゃ好きなファイル形式でダウンロードしてってな!」
ぼくバンドキャンパー「やっぱり容量/音質ともに攻守最強のFLACでダウンロードポチー」
Bandcamp 「お客さんFLACをお選びとはお目が高い!今日だけ特別サービスで【96kHz/24bit】のハイレゾ音源持ってけ泥棒!(容量1ギガ)」
ぼくバンドキャンパー「えぇ・・・なにその“ありがた迷惑FLAC”・・・」
Bandcampあるあるの一つに、上記のような経験をしたBandcampユーザーことバンドキャンパーは決して少なくないはず。要約すると、Bandcampで配信されているデジタル音源を購入する際、購入者側はCD音源同等とされるいわゆるロスレス(可逆圧縮音源)のFLACを求めているのに対して、Bandcamp側というかアーティスト側は、昨今よく耳にするようになったCDを超える音質を謳うハイレゾ音源を提供してくるありがたいけど迷惑な行為。この行為のことを僕はそのまま“ありがた迷惑FLAC”と呼んでいる。
そもそもの話、FLACというのは複数あるファイル形式を選択する上での一つのフォーマットに過ぎなくて、もちろん普段のようにCDからリッピングして可逆圧縮でCD音質同等のロスレスにすることもできれば、ハイレゾ相当の高ビットレートでリッピングしてアートワークやタグを埋め込むことも可能(これがFLACが好まれる最大の利点)。しかし、BandcampでFLAC音源を買ってもDLして解凍するまでビットレートが判別できない事から、冒頭のような“ありがた迷惑FLAC”と出会ってしまう事がままある。厳密に言えば、事前にアルバムの収録時間と表記されているダウンロード容量からザックリと推測することは可能っちゃ可能(「あっ、この容量はハイレゾか?」とか、「あっ、この容量は偽レゾか?」とかw)。ちなみに、FLAC以外の形式(MP3とか)は一度もDLした事ないからわからない。というか、MP3で満足するならわざわざBandcampなんか使わないっていうw
つい最近、日本でもAmazon HDやmoraナントカがハイレゾストリーミング配信サービスをローンチした事が記憶に新しい(もちろん両方とも既に体験済み)。しかし、それ以前から海外ではラッパーのジェイ・Zが買収した事でも話題となったTIDALがハイレゾストリーミングの主流として既に存在しており(まだ日本ではローンチしてない)、いわゆる“ハイレゾ”という言葉はまだしも“ハイレゾ音源”は日本人よりも海外の人のが身近に感じている人が多い現状。その論理でいくと、ハイレゾストリーミングで配信してんのに、一方で同じデジタル配信であるはずのBandcampだけ従来のCD相当のFLAC音源を提供するとなると、なんだか変な格差が生まれちゃうのも事実で、そういった諸々の兼ね合いから“ありがた迷惑FLAC”が生まれている可能性も否定できない。勿論、全てのアーティストがそうだとは一概に言えないし、そもそもBandcampで音源をデジタル配信してるアーティストは世界でもほんの一握りに過ぎない事は百も承知の上での話。逆に、Bandcamp上で“ありがた迷惑FLAC”もといハイレゾ配信してないアーティストはストリーミングでもハイレゾ配信してない可能性が高い(ソースは極小だけど)。それこそ投げ銭音源のがビットレートが高いパターンも全然“Bandcampあるある”だし、そしてBandcampでハイレゾや偽レゾが続いてから買った音源が通常のFLAC音源だった場合、なんか損した気分になるのも“Bandcampあるある”の一つw
ハイレゾ/デジタル音源の話はさて置き、ここで“リッピングの鬼”を自称する僕が考える企業秘密のCDリッピングの方程式をコッソリ教えちゃうぞ。まずリッピングソフトは界隈でも有名なdBpowerampの有料版、ドライブはパイオニアのちょっと良いやつを使い、いわゆるAR=AccurateRip機能はオフに、そしてSecureをdBpoweramp公式が推奨する【424】に数値を合わせて無圧縮FLACでリッピングする(もはや俺レベルの“リッピングの鬼”になるとAR機能は信用しない)。ありとあらゆる試行錯誤の末、現状これ以上の最強リッピングの方程式は見当たらない。そんで今愛用してるイヤホンはEmpire Earsの約18万ぐらいの奴を4.4mmバランスで・・・って、この辺のマイリスニング環境は誰も興味なさそうなので割愛します。
話を戻して、それら“ありがた迷惑FLAC”に代表される“Bandcampあるある”という名の偏見ランキング3位あたりに食い込んできそうなのが、他ならぬ有料>>>投げ銭(無料)みたいな心理的なイメージだった。しかし、そんなBandcampあるある界の常識を真正面から覆したのが、バージニア州はフレデリックスバーグ出身のInfant Islandが今年の4月に発表したEPの『Sepulcher』で、実はその翌月にリリースされた2ndフルアルバム『Beneath』(有料)よりも、その一月前の投げ銭EPのがヤベーんじゃねぇか説がある。
2ndアルバムの時にも書いたように、このEPは1ヶ月後に出た2ndアルバムよりもレコーディング時期が最近(今年の頭)のもので、それもあってか音的には『Beneath』よりも全然こっちのがイマドキの音像というか、シンプルにこの音どうやって出してんの?って気になる【シューゲイザー×ブラックメタル=Blackgaze】すなわちブラゲでもない、例えるなら【ノイズ×Blackgaze=Noisegaze】すなわちノイゲは、それこそメタルの最先端に位置するCode Orangeの『Underneath』やMachine Girlみたいなデジタル・ハードコアに直結する“20年代”の音を出してるのが面白い(これはスリーマン不可避)。そのコロナ禍を吹き飛ばすノイズ禍を形成するエゲツナイ音作りを皮切りに、このEPはInfant IslandがセールスポイントとしているGrouper直系のアンビエントと初期のDeafheaven直系の激情ハードコアの二面性に特化した、複数の音楽ジャンルを取り込んだ2ndアルバムとは違って要点だけにフォーカスした作品だけあって、正直『Beneath』よりも完成度高いと感じる人も少なくないはず。
「フルアルバムとEPでは担っている役割がそもそも違うだろ」というごもっともな話は置いといて、初期envyのエモ/スクリーモをルーツとする初期Deafheaven直系の激情ハードコアの#1“Burrow”と#2“Unspoken”でカオティックなノイズ禍を巻き起こし、賛美歌“アメイジング・グレイス”がドローン/アンビエント化したようなGrouper直系の#3“Phantom Whines”、そして今作のハイライトを飾る約10分の大作の#4“Awoken”は、無心にひた走る粗暴なブラストビート主体のドラミングやポストロックルーツの曲構成をはじめ、伝説の1stアルバム『ユダ王国への道』時代のDeafheavenをリスペクトした激情ゲージが振り切れるくらいの超絶epicッ!!な、それこそ『惡の華』の仲村さんが「春日くんの心の内にあるもの全部グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっとさらけ出しちゃえ!」とばかりに地獄の底から血肉湧き上がる激情感、後先考えず今この一瞬に全てを賭ける刹那と焦燥が入り乱れる激情感、それらの日本の春ねむりとも共鳴する2020年の今だからこそ通用する「叫び」は、この時代に「怒り」を忘れた僕たちの心に突き刺さる。そのポスト・ノイズ後は恍惚の表情で天国へと導かれるように、まるでJulianna BarwickとGrouperが劇伴を担当するかの如く、小鳥のさえずりと清らかな川のせせらぎの自然豊かな環境音が天上に鳴り響く表題曲の#5“Sepulcher”は、ノイズ禍のディストピアからの現実逃避であるかのようなニューエイジ幸福論と自らのハッピーバースデイを祝うかのようなパトラッシュ感溢れる名曲。
正直、2nアルバム『Beneath』の中に激情路線では#4“Awoken”を、アンビエント路線では#5“Sepulcher”を超える曲があるかと聞かれたら、そしてEPを聴き終えた後の涙腺崩壊不可避のカタルシスを上回るかと聞かれたら口を噤んでしまうのも事実。そしてInfant Islandを象徴する曲が投げ銭EPにあるという違和感。1stアルバムも含めて好みが別れそうなところだけど、このEPに限って言えばとにかく音が新世代過ぎて感動する。