Artist Thundercat
Album 『It Is What It Is』
Tracklist
Album 『It Is What It Is』
Tracklist
1. Lost In Space / Great Scott / 22-26
2. Innerstellar Love
3. I Love Louis Cole (feat. Louis Cole)
4. Black Qualls (feat. Steve Lacy, Steve Arrington, & Childish Gambino)
5. Miguel’s Happy Dance
6. How Sway
7. Funny Thing
8. Overseas (feat. Zack Fox)
10. How I Feel
11. King Of The Hill
12. Unrequited Love
13. Fair Chance (feat. Ty Dolla $ign & Lil B)
14. Existential Dread
15. It Is What It Is (feat. Pedro Martins)
雷猫ことサンダーキャットって、ヒップホップ界のレジェンド=ケンドリック・ラマーと互いの作品でコラボしていることからも、主にヒップホップの文脈で語られる事の多いLA出身のミュージシャンで、そんな雷猫の約3年ぶりとなるアルバム『It Is What It Is』が、まるで“ヒップホップ界のスティーヴン・ウィルソン”かと思うくらいの傑作過ぎる件について。
彼について取り上げるメディアの紹介文で代名詞のように使われているのが“マルチ・ジャンル・ベースプレイヤー”という言葉で、その意味はほぼほぼそのまんまの意味で、まず根幹部にあるジャズ/フュージョン特有のグルーヴィなサウンドをベースメイクに、そこへR&Bやヒップホップ、そしてメタルからファンク/ソウルに至るまでの様々な音楽ジャンルを持ち前の超絶技巧なベースプレイで独創的に料理するマルチな才能が高く評価されているミュージシャンだ。例えるなら、現代プログレ界の帝王であるスティーヴン・ウィルソンがプログレ側からメタルやジャズ、アンビエント/ノイズやニューエイジなど様々なジャンルにアプローチする芸風の“オルタナティヴ”なミュージシャンなら、この雷猫はジャズ側からラップやメインストリームのポップスにアプローチする“オルタナティヴ”なプレイヤーである。
今作の『It Is What It Is』には、彼がいかにしてそう呼ばれるのか?そのワケが凝縮されたような内容が詰まっている。まず「Hi, Hello」という1日の始まりを告げる陽気な歌声とともに、カーテンの隙間から朝日の眩い日差しが差し込んでくるかのような、それこそ春を通り越して初夏の湿った匂いを運んでくるような、このままずっと昼寝していたいLo-fiを装った心地よい倦怠感とともに本公演=雷猫ショーの幕開けを飾る。そのオープニングの流れを引き継いで、新世代サックス奏者カマシ・ワシントンのアダルティなサックスをフィーチャーしたジャズの王道を繰り広げるリードトラックの#2“Innerstellar Love”、そのタイトル通り同じLA出身で過去にコラボ経験もある盟友ルイス・コールをゲストに迎え、シンフォニックなストリングスとレトロなオルガンを引き連れてジュン・スカイ・ウォーカーズばりに疾走感溢れるビートを刻むキャッチーなバンド・サウンドの#3“I Love Louis Cole”、一転して今度は海外ドラマ『アトランタ』でもお馴染みのチャイルディッシュ・ガンビーノ他を迎えた、ファンク&ソウルなテンションと落ち着いたグルーヴで聴かせる#4“Black Qualls”、シンセを中心に聞かせるシンセ・ファンクな#5“Miguel’s Happy Dance”から、スティーヴン・ウィルソン風のコーラスワークと雷猫のテクニカルなベースソロとキーボードソロのかけ合いが光る#6“How Sway”、このスクエアプッシャー顔負けのフュージョン然としたスリリングな展開とマルチプレイヤーとしての本領を発揮する組曲的な構成はプロのグレ以外の何者でもない。
中盤以降は少し変化が起きる。シンセウェイブな#7“Funny Thing”、日本の岡田拓郎ソロ〜森は生きている〜トクマルシューゴラインと共振するAOR/シティポップの才能を垣間見せる#8“Overseas”、プレイヤーとしてではなく歌手として持ち前のムーディな美声と『ドラゴンボール大好き芸人』としてのオタクぶりを発揮するR&Bの#9“Dragonball Durag”、そして鍵盤打楽器や『ロスト・イン・スペース』ばりにスペーシーなキーボードとピアノの音色が夕刻を幻想的に彩る#10“How I Feel”以降は、それこそ“ヒップホップ界のスティーヴン・ウィルソン”化が顕著で、「あれ?もしかしてシークレットゲストにSW参加してる?」と思いきやBadBadNotGoodをゲストに迎えた夜行性と内省性に優れたメロウな#11“King Of The Hill”、イントロからアウトロまで映画音楽ばりの優美なストリングスが鳴り響くR&Bの#12“Unrequited Love”、Lo-fiヒップホップを装ったtoe顔負けのミニマルなマスロック系ギターのフレーズがエモ過ぎて情緒過ぎて泣ける#13“Fair Chance”は今作のハイライトで、ブラジルの若手ギタリストPedro Martinsを迎えた表題曲の#15“It Is What It Is”は、西海岸ルーツの湿ったギターが季節が移り変わる瞬間に感じる刹那的かつ“おセンチ”な寂寥感を名残惜しむ前半と、森は生きている〜岡田拓郎ラインと直結するセッション風のアンサンブルを披露する後半で本公演のクライマックスを飾り、これにて「Hi, Hello」という目覚めの朝から続いた長い1日が終わりを告げる。
そもそも常時セッションしてるメンツが、カナダの暗黒ジャズバンドことBadBadNotGoodや新世代サックス奏者カマシ・ワシントンをはじめ、チャイルディッシュ・ガンビーノやラッパーのリル・ビー、そしてプロデューサーには言わずと知れたフライング・ロータスという、これだけのそうそうたるメンツを揃えている時点で、逆に、逆に傑作以外のものを作る方が難しい。あとLA出身だけあって、めちゃくちゃ音に温暖な土地鑑を宿していて、常にサイケデリックな幽玄さと陶酔感を帯びた音に溺れる感覚。最終的に、なんだこのSWとウィーケンドとtoeと『アトランタ』と森は生きている(岡田拓郎)とスティーヴィー・ワンダーがエクストリーム合体=フュージョンしたような神バンド・・・ってなった。極端な話、SWソロにおける2ndアルバムから5thアルバムにかけてのストリングスやサックスをフィーチャーした各アルバムor楽曲をジャズ/フュージョン方面に振り切ったらこうなるみたいな、とにかく(所属レーベルが広義の意味でユニバーサルという点でも、チャイルディッシュ・ガンビーノ好きな所も)別の世界線にいるSWみたいな錯覚を憶えるほど、シンセウェイブ/エレクトロやフュージョン、ファンク/ソウル/R&Bやヒップホップ、マスロックやシティポップなどの多彩過ぎるマルチなジャンルを咀嚼したジャズいプログレとして聴け過ぎるし、何よりこれだけの音楽ジャンルと音数をもって一つのアルバムとして高次元で成立させる雷猫のオルタナティヴな才能にただただ震える。
とにかくSW界隈を聴いてる人にはピンズド過ぎるアルバムなんだけど、メタラー視点で見ても、テクニカル/フュージョン・メタルの元祖Cynicの影響下にある現代の新世代インスト勢やマスロック勢にも共振する部分があるし、一方でメインストリームのポップス視点で見てもThe Weekndの傑作『After Hours』と全然韻踏めちゃう内容だから有無を言わず聴くべきです。個人的にウィーケンドと並んで、今年の年間BESTワンツー更新しちゃった感すらある。最近はCOVID-19の影響でSWの新譜が来年1月に延期になって意気消沈してたけど、このアルバムのおかげで暫くはやっていけそう(どうでもいいけど、雷猫のロゴとコード・オレンジのロゴちょっと似てるなw)。