ようやく聴いたDIR EN GREYの新曲『人間を被る』。もう2ヶ月前のシングル発売日の時、DIR EN GREY公式のインスタにMeshuggahの最新作『The Violent Sleep of Reason』のTシャツを着た薫くんのクールな姿がアップされたのって、そういう意図あるいは伏線があったんだなって、この”人間を被る”を聴いてみたら本当に今更になって理解することができた。
それというのも、DIR EN GREYのギタリストの薫くんってもうずっとメシュガー好きのヲタクで、それこそ8thアルバムの『DUM SPIRO SPERO』から7弦ギターを使い始めたのもメシュガーの影響された説あって、しかし一方のDieは7弦ギター否定派との噂もあったり、虜の中には「7弦ギターを使い始めてからディルは終わった」みたいな論調も一部で生まれていた事も忘れてはならない。とにかく、それくらい7弦ギターがDIR EN GREYに(主に楽曲面で)与えた影響は計り知れなくて、近年のDIR EN GREYに起きた後にも先にもない大きな「転換期」だったと言える。
2010年代のメタルシーンでは、以前よりメシュガーが独自に展開していたフレドリック・トーデンダルによる7弦ギターと複雑な変拍子を刻むリズム隊が織りなす変態的なエクストリーム・メタル、そのメシュガーの音楽性から派生した”Djent”とかいうジャンルが産声を上げた。このように、メシュガーは00年代以降のメタルシーンに最も影響を与えた偉大なバンドである。ここ最近でも、同郷のPain of Salvasionがメシュガーをリスペクトした奇跡の復活作をリリースしたのが記憶に新しい。
DIR EN GREYは、その偉大なメシュガー以上にUSのデブ豚ことDeftonesにも強い影響を受けていて、何を隠そうデブ豚の6thアルバム『Diamond Eyes』はメシュガニキに対するUS側からの回答に他ならなくて、ガニキの7弦スタイルを”現代のモダン・ヘヴィネス”あるいは”現代のオルタナティブ・メタル”と解釈して”自分たちのヘヴィロック”に落とし込んだのがデブ豚である。その『Diamond Eyes』の中で聴かせる「ガーガガ ガーガガ ガーガガ ガーガーガー」と延々とガーガー鳴らすもはやガーガー連呼厨みたいなオールフリーならぬオールガーで展開する頑固なリフ回しこそ、7弦ギターならではの専売特許みたいなもんで、平気な顔してこれができるデブ豚ってやっぱ天才だなって再確認させられたもの事実。そして、その両者に影響を受けているDIR EN GREYがこの『人間を被る』を発表するのは、もはや時間の問題だったのかもしれない。
ご存知のとおり、8thアルバム以降のDIR EN GREYはもうずっと7弦ギター大好き芸人なのだけど、個人的にDIR EN GREYと7弦ギターが一番ハマった曲って実はミニアルバム『THE UNRAVELING』の”Unraveling”だと思ってて(この曲が先日のBESTアルバムに収録されなかったのは疑問)、この曲って要するにさっき書いたガー主体のリフ回しとDjent顔負けのリズムを刻む、メタル界屈指の「ガー族」の族長であるデブ豚とガニキに対する、その子供DIR EN GREYからの回答だった。
その”Unraveling”は、実際にはガニキやデブ豚というより、あくまでもDjent的なモダンなアプローチで展開する言うなればPost-Djent的な方向性だったが、この”人間を被る”はそれ以上にモロ出しDjentで、それこそデブ豚の『Diamond Eyes』を彷彿とさせる、いわゆるガー族の血脈を受け継ぐガー主体のリフ回し、つまり7弦ギターの魅力を過去最高に発揮させている。メインリフのほぼ全てをガーでキメるギターヲタク丸出しの曲調は”Unraveling”の正統後継者と言えるし、無論この曲は”Unraveling”のPost-Djentという伏線があったからこそ生まれた曲だ。その”Unraveling”はバッキングの”リズム”でDjentを刻んでいたけど、この”人間を被る”では”リフ”でDjentを刻んでいる、そのアプローチの違いは一つのポイントでもある。それらの→Djent_Post-Djent_ガニキ_デブ豚←この辺の微妙で繊細な関係性を理解していないとなかなか難しい話かもしれないが、薫くんはソコを知っている変態なので、、、すき。
この手の7弦ギターを応用したガニキ_スタイルで最も重要なのは、実はリフではなく音作りだと思うのだけど、7弦化以降のDIR EN GREYって7弦は7弦でもいわゆるDjentやガニキとは一線をがした、いわゆるヘヴィロック的な音作りで、9thアルバム『ARCHE』はまさに国内のチンカスラウドロック勢を地獄へ葬るかのような、7弦型ヘヴィロックの最高峰に君臨する傑作だった。しかし、その7弦ヘヴィロックに特化した『ARCHE』やPost-Djentの”Unraveling”でもやってこなかった7弦ギターを司る象徴的な音像が今作にはある、それが「ギョン」だった。
「ギョン」・・・それは漫画『ガンツ』に出てくるXガンの発射音ではない(ギョーン)、それは主にモダンなDjentバンドが鳴らす7弦ギターの音である。この”人間を被る”からは、Djentの代名詞であるゴムみたいにウネる、モダンがかったギョンの音が聴こえる。この新曲で一番驚いたというかちょっと感動したのは、DIR EN GREYってこの手のギョンのギター音出せるんだってこと。それくらい珍しいというか、これまでは7弦ギターなのに7弦ギターっぽく聴こえない独特な音作りがいい意味でも悪い意味でも”らしさ”や”こだわり”だったと思うのだけど、この曲に限っては明確にDjentの音作りをフォローしにきててバビった。
ここで改めて、こいつらスゲー器用なバンドだなって思ったのは、8thアルバム以降に確立した”自分たちの7弦ヘヴィロック”的な音作りと、Djentをはじめとした海外7弦勢のカドが立つようなガー系の音作りを絶妙な配合で混ぜ合わせたような、つまり”自分たちの7弦ヘヴィロック”の中にDjentを象徴するギョンの音像すなわちギョン像を、ピンセットで摘むようにして繊細な面持ちで落とし込む、その鬼ババみたいな器用さ。その唯一無二の音作りはDIR EN GREYではなく何よりも薫くんのギターリストとしての”こだわり”と言えるのかもしれない。ちなみに、ウォークマンZX300とIE800Sなら僕が力説するギョンの音像はしっかりと感じ取れます。iPhoneや付属のイヤホンとかだとギョンは掴みづらいかも。恐らく、Campfire Audioの新作イヤホンのAtlasでもギョン余裕(ギョンユー)だと思うので、実際に試してみたいので誰か僕にAtlas買ってくださいw
【グロ注意】
Post-系のアルペジオから静かに幕を開け、初っ端のドラムこそ”激闇”を彷彿とさせるけど、全体的なサウンド・アプローチやインダストリアルなアレンジはアルバム『ARCHE』の世界観を素直に踏襲していて、メインリフとなるガーリフをキザミながら徐々にテンポアップしつつ、そしてサビへの繋ぎ方も『ARCHE』以降、前作シングルの”詩踏み”をフォローしている。今作を象徴するガーリフだけじゃなくて終盤の展開もイカす。とにかく、これまでは特定のジャンルやバンドを想起させない、唯一無二のオリジナリティを確立してきたバンドでもあったから、だからこそ色々と露骨に、メンバーというより薫くんの趣味嗜好がむき出しとなったこのシングルには驚きと素直な感動があって、それこそ『ARCHE』のレビューにも書いた「今のDIR EN GREYは外に開かれている」という僕の言葉を裏付けるような曲でもあった。
一応はカップリング扱いとなる”Ash”は、中期DIR EN GREYみたいなクロスオーバー/ハードコア的なテンションを保ちつつ、アコギのアルペジオからの”人間を被る”にはなかったGソロを見せ場に、とにかく緩急を織り交ぜながら目まぐるしくスピーディに展開していく曲で、実はこっちのが”シングル”っぽいと感じるほど、もはや両A面シングルでも良かったんじゃねぇかくらいの完成度(アルバムに向けて相当気合入れてきてんな!)。なんだろう、現在進行系DIR EN GREYによるシンプル至極な”人間を被る”と、アルバム『ARCHE』によって”呪い”が解かれた旧Dir en greyによる複雑怪奇な”Ash”みたいな対比あるいは解釈も可能。しかしこうなってくると、そろそろ出そうな10thアルバムの内容がどうなるのか、正直全く読めない。唯一心配なのは、このガーリフを薫くんとDieが実際にライブで弾けるのかということ・・・(余計なお世話)。