02. 春はトワに目覚める (Ver.2) [Vocal:UA]
03. ラビリンス (Album Mix) [Vocal:満島ひかり]
04. 迷子のアストゥルナウタ [Vocal:INO hidefumi]
05. 惑星タントラ[Vocal:齋藤飛鳥 ( 乃木坂46)]
06. SOLITARY [Vocal::大和田慧]
07. ERASER [Vocal:二神アンヌ]
08. SEE YOU AGAIN [Vocal:Kick a Show]
09. late night blue [Vocal:YUKA (moumoon)]
10. GOLD [Vocal:下重かおり]
11. 応答せよ[Vocal:やくしまるえつこ]
90年代から現代までの間に、日本の音楽シーンはもとより、世界の音楽シーンおよび音楽リスナーを取り巻く環境は一変した。まず環境面では、Spotifyをはじめとした音楽ストリーミングサービスの台頭、それに伴い「CDの時代」は終わりを迎え、もはやCDという媒体の存在価値は握手券以下に成り下がった。国内の音楽シーンでは、90年代の渋谷系を受け継いだサブカルクソ女の台頭、アイドルシーンの活性化、そして現代の日本語ラップ全盛時代まで、これらの日本の音楽シーンおよび音楽を取り巻く環境、そのあらゆる流動的な「変化」を大沢伸一はどのように解釈し、それに対する答えをMONDO GROSSOはどのようにして導き出したのであろうか?
大沢氏がインタビューで「もともとMINMIちゃんと一緒に別のシンガー用に作った曲が基になってる」と語る、過去に(思春期に「90年代」~を通過した世代の人間なら一度は耳にしたことがある)”LIFE”というCMソングでコラボした女性シンガーbirdとの再タッグが実現した1曲目の”TIME”から、大沢氏の艶めかしくセクシャルにウネるベースラインを中心に、ギターの音を靡かせるような音響的な表現やjジャズいドラム、ピアノやパーカッションなどの生音をフィーチャーした、もはや「らしい」としか言いようがないグルーヴィなバンド・サウンドと、MINMIとの共作だと瞬時に分かるR&B系J-POP然としたbirdのシットリしたキャッチャーなボーカルが、夕暮れ時のメランコリックな時間に誘うかのような世界観を構築し、ここだけ「90年代」で「時」が止まっているかのような、そんな「90年代」の「あの頃」が帰ってくるような情緒溢れる曲で、特に「ワン ツー スリー」と「時」を刻む「90年代」特有のダサクサいギミックから、転調してリズムチェンジする展開の気持ちよさとカッコ良さったらない。結果的に、この曲が今作で最も「バンド」してる曲でもある。
2009年作の”光”というUAをフィーチャリングした曲が「日本語ボーカル」に挑戦し始めるキッカケとなったMONDO GROSSOが、再びUAを迎えた2曲目の”春はトワに目覚める”は、1曲目の生音主体のグルーヴィなバンド・サウンドから一転して、オシャンティなクラブで流れていてもおかしくないような、数多くのプロデュース/リミックスを手がける、それこそ「90年代」の「おしゃれ音楽」を代表する大沢氏ならではのミニマル・テクノを繰り広げ、全体的に上海ハニーというかオリエンタルなメロディをフィーチャーした、映画『ブレードランナー』のようなレトロとモダンが融合したレトロフューチャーな世界観は、海外のサブカルクソ女界のアイコンであるGrimesを彷彿させる。これらの1曲目と2曲目から垣間見せる、まるで国境と国境の壁を取り払うような、そのジャンルレスでボーダレスなサウンド・アプローチは、まさしく「MONDO GROSSOがMONDO GROSSOたる所以」と言える。
今年に入ってからの満島ひかりちゃんは、「ナニか」が吹っ切れたのか本当に「アクティブ」だ。「日本版ファーゴ」でお馴染みとなった今年放送のドラマ『カルテット』では、椎名林檎提供曲の主題歌で女優松たか子とのデュエットを披露し、そして4月に発表されたMONDO GROSSOの約14年ぶりとなる新曲の”ラビリンス”を歌う謎の人物が実は女優の満島ひかりだと判明し、その数日後・・・まるで図ったように戸川純の歌手活動35周年を記念したVampilliaとのコラボアルバム『わたしが鳴こうホトトギス』に対するコメントを発表したのだ。これは個人的な話になるが、それに触発された僕は、満島ひかりがヒロインを務める園子温監督の映画『愛のむきだし』を数年ぶりに見返して、からの『園子温監督のサイン入りポスターに当選する』という、偶然にしては奇妙な「繋がり」を感じさせる出来事があった。つまり、それら一連の出来事からなる伏線回収、その総仕上げがこの度のMONDO GROSSOとの邂逅であり、それ即ち「女優 満島ひかり」が「原点」である「音楽」の世界に舞い戻ってきた歴史的瞬間でもあった。面白いのは、MONDO GROSSOは「14年ぶり」となる新作に対して、フォルダー5では短パンキャラで売っていた満島ひかりが、今度は「女優」として「16年ぶり」にMステの舞台に帰ってきたところで、大沢氏とともに「袖に腕を通さないタイプ」の衣装を身にまといステージに上がった満島ひかりちゃんは、なんだかとても緊張した様子で、しかし間奏パートでの「不思議な踊り」だけはバッチリ決まっていた。もっとも面白いのは、満島ひかりちゃんがコメントした戸川純 with VampilliaとMONDO GROSSOが揃ってフジロック'17に出演することが決まっていて、僕はMステ出演が発表される前に書いた『わたしが鳴こうホトトギス』の時点では、「(満島ひかりがフジロックにサプライズ出演する可能性について)それだけはありえない」的なことを書いたけど、こうやって実際にMステに出て「不思議な踊り」を披露している満島ひかりちゃんを観たら、「(今年のフジロック出演は)満更でもないかもしれない」と考えを改めざるをえなかった。
初めてこのMVを観た時、僕は「あっ、遂にコムアイ降ろし始まったな」って思った。いわゆる「ワンカット撮影」と言えば、最近では2015年のアカデミー賞【作品賞】を受賞した映画『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でもお馴染みの撮影技術だが、この満島ひかりちゃんが夜の香港をワンカットで踊り歩くMVは、今年最も話題を呼んだ「アカデミー賞【作品賞】取り損ね映画」こと『ララランド』の振付補でありダンサーのジリアン・メイヤーズが振付・ダンスを監修している。面白いというか、ちょっと皮肉だなって思ったのは、水曜日のカンパネラのコムアイは過去に映画『ララランド』をディスるような発言をツイッターで発信してて、その映画にもキャストとして出演していたジリアン監修の振り付けを満島ひかりちゃんが、いかにも水曜日のカンパネラ的なトラックをバックに、いかにも水曜日のカンパネラのコムアイ的なダンスをフィーチャーしたMV・・・本職の「女優」にこれやられたら、もう「女優気取り」のコムアイの立場ねーじゃんってホント笑ったわ。もっとも、「満島ひかり大好き芸人」であり「皮肉大好き芸人」でもある僕がこの件を更に皮肉るなら、「Fack共謀罪」とかツイートして「リベラルごっこ」してる今のイキったコムアイに対して、法案可決された「共謀罪」が早速適用されて、体制側が雇った女エージェント役の満島ひかりがMONDO GROSSOと組んで刺客としてコムアイの前に現れた、実にドラマ的な演出および展開だ。なんつーか、これはもう満島ちゃんが主演している江戸川乱歩のドラマシリーズで役者対決するしかないな。もちろん満島ひかりちゃんは明智小五郎役で、そんでコムアイは怪人二十面相w
この曲は、シングルのミックスとアルバムのミックスでまた微妙に違いがあって面白い。シングル版の”ラビリンス”は、そのハウス・ミュージック的なトラックを中心としたアトモスフィアと満島ひかりちゃんの透明感ある歌声との「一体感」みたいなのがあって、それこそ水曜日のカンパネラの”千利休”みたいな、良くも悪くも平坦でチープなB級感が魅力的に感じる部分もあった。しかしアルバム版では、より無機的でドラスティックな立体感のあるミックスで、シングルの浮遊感のある空間表現を担っていたアトモスフィアがまるっと消えて、その代わりにシングルのアコースティック版並に満島ひかりの歌声をド真ん中にフォーカスしたミックスで、かつストリングスとピアノの音がより上質に洗練されたのもあって、つまり水カンっぽいB級感はないし、シングルのような「一体感」こそないが、より底のないバブミの深さにどこまでも堕ちていくような、そして無限にループしていくようなミニマルな感覚が強調されており、いい意味で子供っぽいシングルに比べて、アルバムでは他の楽曲の雰囲気に引っ張られたのか俄然大人っぽい印象を与える。それこそ、昔の水カンと今の水カンみたいな差がある。とは言え、これはただ単にハイレゾで聴いたからかもしれないが、確かにハイレゾで聴く満島ひかりちゃんの歌声はブレスがハッキリと聴こえるくらい最高だし、それもあってか、どうしても満島ひかりちゃんの芯のある歌が全体のトラックを引っ張っていくイメージに行き着いてしまう。それくらいバブいしマブい。
今思うと、昨年の11月に水曜日のカンパネラのライブを観ておいて本当に良かった。ライブ中にコムアイがフロアに降りてきて自分の真横を通り過ぎて行ったのを思い出して今でも笑う。何を隠そう、僕は2016年作の『UMA』の時に、そのMVにおけるコムアイとグライムスという国内と海外を代表するサブカルクソ女のダンス対決に注目した。このGrimesの”REALiTi(現実)”は、上海やシンガポールをはじめ、日本では東京と大阪、そして名古屋を舞台に撮影されたオリエンタルなMVで、これには「名古屋飛ばしをしないグライムスはチョ~kawaii」と賞賛された。しかしなぜ今、コムアイとグライムスなのか?その理由が、男性ボーカルの猪野秀史を迎えた4曲目の”迷子のアストゥルナウタ”のアレンジからして、Grimesの1stアルバムを彷彿させるシンセ・ポップやってるところで、ここまで聴いてて面白いのは、2,3,4曲目までの全ての曲の裏にグライムスが潜んでいることで、つまりコムアイもリスペクトしている世界的なサブカルクソ女のグライムスをも利用して、完全に水曜日のカンパネラの息の根を止めにかかっててクソ笑う。
ここまで「アダルト」な雰囲気が支配する今作の中で、一際異質でイマドキの現代っ子な存在感を放つ乃木坂46の齋藤飛鳥を迎えた5曲目の”惑星タントラ”は、イントロからシューゲイザー/ドリーム・ポップ的なギターの音響的な浮遊感を内包したATMSフィールドの中で、現代社会という名の「イマ」を生きる若者の苦悩を迷宮のごとし複雑に紡ぎ出す、ティカ・αなる謎の人物による言葉遊びを駆使した文学少女兼リケジョな歌詞を、アイドル界屈指のサブカルクソ女で知られる齋藤飛鳥がいい意味で青臭い歌声をもってセンチメンタルに表現する。そして僕らは、中盤のラップパートをはじめ、この独特な歌詞世界に対して猛烈なデジャブを憶える。ちょっと面白いのは、「90年代」から「イマ」までの音楽を取り巻く環境の変化、そしてCDの価値を握手券以下にした張本人でありアイドルシーンを代表する乃木坂46のメンバーを歌い手として起用することの皮肉ったらなくて、しかしこの辺は大沢伸一という音楽家が持つ「流動性」、その真髄を体現している気がしてならなかった。
それ以降も、大和田慧を迎えてリミックス風のアレンジを効かせた#6”SOLITARY”、AMPSのボーカリストで知られる二神アンヌを”シンデレラ”として迎えた#7”ERASER”、再び男性ボーカルのKick a Showを迎えた「90年代」のポンキッキーズ的な郷愁を憶える#8”SEE YOU AGAIN”、moumoonのYUKAをフィーチャーした打ち込み主体の#9”late night blue”、そして下重かおりなる「主婦」の歌には聴こえない美声をフィーチャーした#10”GOLD”を最後に、ここで僕は再生を止めた。だから僕は、このアルバムを最後まで聴きたくなかったんだ。だって最後に「アイツ」が待ち構えてるやんと。アラサー女特有のドス黒い闇がドヤ顔で仁王立ちしてんだもん。
僕らは、女優界屈指のサブカルクソ女こと満島ひかりとアイドル界屈指のサブカルクソ女である齋藤飛鳥、現代のサブカルクソ女界を取り仕切るコムアイと世界的なサブカルクソ女であるグライムスの存在を認識していながらも、僕らはただ一人、日本が誇るサブカルクソ女の存在を視界の中で確かに認識しながらも、しかし頑なにその存在を認めようとはしなかった。今作の「裏設定」としてある、現代サブカルクソ女達による「コムアイ降ろし」、それは決して「共謀罪」を利用した体制側の陰謀ではなかったのだ。今作における「水カン包囲網」を考案した首謀者は、他ならぬサブカルクソ女界最強の女であり、11曲目の”応答せよ”を大沢氏とともに共作した謎の人物ティカ・αこと相対性理論のやくしまるえつこによる指示だったのだ。
過去に菅野よう子など様々なアーティストとのコラボ作品を発表してきたやくしまるえつこが、このタイミングで引かれ合ったのが大沢伸一率いるMONDO GROSSOだった。それこそ初期のMONDO GROSSOと菅野よう子はジャズ周辺に精通する音楽スタイル的にも互いに共振し合う存在だ。とは言え、今回の大沢伸一とやくしまるえつこの邂逅は、紛れもなく相対性理論の2015年作のアルバム『天声ジングル』があってのことで、このアルバムというのは、今流行りのラップムーブメントを的確に捉えた「えつこなりのヒップホップ」であり、それこそ「えつこなりの日本語ラップ」だった。つうか、えつこと大沢氏の邂逅よりも、えつことエイベックスの邂逅のほうが『意外性』高くね?って感じるけど、それはともかくとして、実は大沢伸一は今の若者に大人気のラッパーぼくのりりっくぼうよみに強く影響を与えてたりと、だから今回の引かれ合いは意外でもなんでもない邂逅であって、それよりも「コムアイ潰し」のために満島ひかりちゃんとやくしまるえつこが邂逅してしまったことの方がヤバいし、もうなんかコエーわ。現代サブカル界の頂点に立ってイキってるコムアイを、満島ひかりとやくしまるえつことかいうレジェンドサブカルクソ女がシメにきてる構図怖すぎだろ・・・。もうなんか【やくしまるえつこ×満島ひかり】=【みつしまるえつこ】名義でシン・対性理論という名でバンド組んでアルバム出して欲しいわ。ゼッテー売れる。少なくとも、インタビューを見ると大沢氏は今回えつことのコラボにご満悦なようで、近い将来に再タッグが実現しそうなんで俄然期待して待ちたい。
あらためて、MONDO GROSSOの『何度でも新しく生まれる』と相対性理論の『天声ジングル』には共振する部分が多くて驚かされる。このアルバムのナニが凄く怖いって、いわゆる「初期の相対性理論回帰」で初期のファンを釣っておきながら、そいつらを実験の材料として【SRAP細胞】の謎を解き明かし、母親である小保方晴子の無念を果たしているところで、特に打ち込みをフィーチャーした6曲目の”弁天様はスピリチュア”以降は、そのエイフェックス・ツイン顔負けの「実験的」な傾向が著しく強くなり、中でも”おやすみ地球”はこの『何度でも新しく生まれる』と共振する部分が多く、あらためて『天声ジングル』の凄さや怖さを再確認させられた。そんなえつこが参加した”応答せよ”は、GrouperやJulianna Barwickを連想させるアンビエント・ポップをバックに、えつこがソロアルバムの『Flying Tentacles』で習得したエスペラント語を駆使して人類に語りかける、まさに『天声ジングル』な幕開けから、全体的にピアノやシンセをフィーチャーしながらゆるふわな感じに展開するこの曲だけは、ほぼえつこソロみたいな感じになってて笑うし、ある意味で『天声ジングル』の延長線上にある楽曲と言える。とにかく、いわゆる「日本一のジョジョヲタ」である僕が認める唯一の女オタだけあって、えつこ怖すぎるわホント。
正直、こんなにも面白くて笑えるアルバムってなかなか出会えないと思うし、それをMONDO GROSSOが14年ぶりにやっちゃう不思議さ。イタリア語で「大きな世界」を意味するMONDO GROSSOなりに「90年代」以降の日本の音楽シーンおよび世界の音楽シーンを総括するような、それこそ「90年代」と「イマ」を音楽という名のワームホールの中で紡ぎ合わせた、紛れもなく今世紀最大のJ-POPアルバムだ。そして、このアルバムの裏で秘密裏に行われているのが「女たちの戦い」であり、これはもう世界的のサブカルクソ女代表のグライムス、現代サブカルクソ女代表のコムアイ、女優界代表の満島ひかり、アイドル界代表の齋藤飛鳥、そして伝説のサブカルクソ女であるやくしまるえつこによる「シン・サブカルクソ女」の称号を賭けた頂上決戦だ。僕は”ラビリンス”の歌い手が満島ひかりだと知った時→「どうせなら満島ちゃん主演でMV撮ってほしい」という願望が本当に実現したと思ったら、まさかこんな面白い裏の演出が仕込んであるなて思っても見なかった。今年、もう何回満島ひかりちゃんに振り回されて惚れ直したかわからないけど、いわゆる「満島ひかり大好き芸人」としてはこんなに嬉しいことはないし、なんかもう満島ひかりちゃんから「何度でも新しく生まれたい」と思っちゃったんだからしょうがない。
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