02. Acid Hologram
03. Doomed User
04. Geometric Headdress
05. Hearts and Wires
06. Pittura Infamante
07. Xenon
08. (L)MIRL
09. Gore
10. Phantom Bride
11. Rubicon
欧州最大の怪獣であり、現在エクストリーム・ミュージック界の頂点に君臨するGojiraの『MAGMA』は、Lamb of GodやMastodonをはじめとした、いわゆる「アメリカのメタル」を喰らい尽くした末、遂に『シン・ゴジラ』へと突然変異を遂げた。そのゴジラが喰らった「アメリカのメタル」の中には、90年代から現代アメリカのモダン・ヘヴィネス界隈の繁栄に大きく貢献してきた「デブ豚」ことDeftonesの姿があった事を、あの日の僕達はまだ知らない。
デブ豚がアメリカの現代ヘヴィネスを更新し続ける一方で、遠い北欧スウェーデンの魔神Meshuggahが独自の解釈で新時代のモダン・ヘヴィネスを創り上げ、そして遂にDjentとかいうメタルの新しいサブジャンルが確立、辺境界隈の中で小規模ながらも爆発的なムーブメントを起こしていた。そのシーンの変化に危機感を覚えたデブ豚は、「アメリカのメタル」を代表してメシュガーへの回答として、ベーシストチ・チェンの悲劇を乗り越えた末に誕生した6thアルバムの『Diamond Eyes』をドロップした。その二年後、デブ豚は7thアルバムの『恋の予感』とかいう謎アルバムをリリースする。今作の『Gore』は、その前作から約4年ぶりとなるフルアルバムだ。
幕開けを飾る#1”Prayers / Triangles”からして、前作の『恋の予感』を踏襲した「男のフェミニズム」全開の色気ムンムンなシンプルなロックナンバーで、しかしかき鳴らし系のギターや全体的な音使いは、ダイヤモンドのように硬いガッチガチなヘヴィネスを鳴らした過去二作と比べると軽めだ。 一転して『Diamond Eyes』を彷彿とさせるスラッジーな轟音ヘヴィネスやGojira顔負けのクジラのように「キュルルゥゥ!!」と鳴くギターをフューチャーした#2”Acid Hologram”、今度はMastodon顔負けの動きがアクティブなリフ回しを披露したかと思えば、転調してプログレッシブなアプローチを垣間見せる#3”Doomed User”、Post-Djentなリズムで攻める#4”Geometric Headdress”、正直ここまでは現代ヘヴィネス勢の影響を感じさせる曲が続く印象で、過去二作と比べても存外アッサリした感じ。 某”U, U, D, D, L, R, L, R, A, B, Select, Start”のポストロック系譜にある、ここにきてようやくデブ豚らしいセンセーショナルなメロディセンスを発揮する#5”Hearts / Wires”だが、しかし如何せんイントロがクライマックス感は否めない。
中盤もパッとしない、そんな中で今作が如何にイマドキのモダン・ヘヴィネスから影響を受けているのかを証明するのが、他ならぬ表題曲の#9”Gore”で、この曲ではDjent然とした軽快なグルーヴを存分に取り入れている。シューゲイザーかじってた5thアルバム『Saturday Night Wrist』の頃を彷彿とさせる曲構成と、これまでセンセーショナルな感情を押し殺していたチノがここにきてようやく本気を出し始める#10”Phantom Bride”、そしてDIR EN GREYの薫が大喜びしそうな音響アレンジが際立ったラストの#11”Rubicon”まで、中盤までの曲と違って終盤の三曲は明らかに本気度というか、気の入りようが違う。つうか、本気出すのおせぇ・・・。
基本的なバンドの音使い自体は近年のデブ豚を踏襲つつも、曲の雰囲気的には5thアルバム『Saturday Night Wrist』への回帰を予感させる、つまり脱力感のある”Alternative”なロックへの回帰を予感させるノリというか、過去二作にあった張り詰めたような独特の緊張感みたいなのは薄くなって、良くも悪くも聴きやすくはなった。これは別に過去二作と比べて地味だとか、手抜きだとか決してそういうわけじゃあないが、しかしどこか徹底したナニかに欠けて聴こえてしまうのも事実。例えば『Diamond Eyes』のように 徹底してゴリゴリのモダン・ヘヴィネス貫くわけでもなし、前作のように『恋の予感...!』不可避なエッチなフェロモンを色気ムンムンに醸し出すわけでもなく、となると今作の『Gore』にはどこか一貫した”コア”の部分がゴッソリと抜け落ちている気がしてならない。それはフロントマンチノ・モレノの歌メロを筆頭に、アレンジ含むメロディや肝心のリフに関しても、極端に突出しないどっちつかずな、悪く言えば中途半端な、良く言えば変に取り繕ってない自然体で素直な”Alternative”やってた本来のデブ豚への回帰、いわゆるシューゲイザーかじった掻き鳴らし系ロックバンドへの回帰と捉えることも出来なくもない。一貫した”ナニか”がない分、逆に アレンジやリフの種類が豊富に楽しめる利点もあるし、完成度という点ではそこまで過去作に引けを取っているわけではない。例えるなら、『Diamond Eyes』が脂ギットギトの豚骨ラーメンだとすると、今作は脂控えめなアッサリ系の豚骨ラーメンみたいな。
ゴジラの『MAGMA』もそうだったけど、今作はそのゴジラや「アメリカのメタル」の象徴であるマストドンをはじめ、現代モダン・ヘヴィネスの最先端であるDjentからの影響が著しい作品でもあって、そういった側面から分析すると、この『Gore』はかなりパンピーやキッズ向けのアルバムと言えるのかもしれない。当然、それはイマドキのモダン・ヘヴィネスをベテランなりに解釈した結果でもあるし、常に「最先端の音楽」を臆せず自分たちの音楽に取り入れてきた、実にデブ豚らしい好奇心旺盛な作品でもある。しかしそれ故に、精神面での弱さが目立つというか、これまでのメンタルエグってくるような音のギミックは稀少。ウリである「存在の耐えられないエモさ」ではなく「存在の耐えられない(音の)軽さ」、むしろデブ豚がカモメのように空を飛べるくらいの「軽さ」がキモになっている。フアンの中には、四年かけてこの内容は正直キツいと難色を示す人も少なからず居るはず。しかしこれだけは言えるのは、過去二作の中ではDIR EN GREYの薫が一番のオキニにしそうなアルバムだということ。あとやっぱ丼スゲーなみたいな話。