Artist きのこ帝国

Single 『桜が咲く前に』

Tracklist
01. 桜が咲く前に
02. Donut
03. スピカ
メジャーデビュー ・・・きのこ帝国が昨年リリースした2ndアルバム『フェイクワールドワンダーランド』が邦楽ロックリスナーの間で話題を呼び、某『ネットの音楽オタクが選んだ2014年のベストアルバム』では、幸か不幸か総合2位を獲得するくらいには評判を呼んで久しい。と同時に、1stアルバムでは「あいつをどうやって殺してやろうか」とか「なんかぜんぶめんどくせえ」とか言って邪気眼に目覚めた根暗の厨二病患者が、この2ndアルバムでは何を血迷ったのか「日々あなたを思い描く」とか言って西野カナばりのラブソングを歌い始め、その音楽性も従来のオルタナ/シューゲイザー/ポストロックから、椎名林檎は元よりチャットモンチーやYUIを連想させるメジャー感と大衆性に帯びたJ-POPへと姿を変え、従来のフアンの間で大きな戸惑いと猛烈な賛否両論を巻き起こした。そして、きのこ帝国がアルバム『フェイクワールドワンダーランド』の中で指し示した→"アンダーグラウンド"から"メインストリーム"への移行は、メジャー移籍第一弾となるシングルの『桜が咲く前に』をもって堂々の完結を迎える。

Single 『桜が咲く前に』

Tracklist
01. 桜が咲く前に
02. Donut
03. スピカ
メジャーデビュー ・・・きのこ帝国が昨年リリースした2ndアルバム『フェイクワールドワンダーランド』が邦楽ロックリスナーの間で話題を呼び、某『ネットの音楽オタクが選んだ2014年のベストアルバム』では、幸か不幸か総合2位を獲得するくらいには評判を呼んで久しい。と同時に、1stアルバムでは「あいつをどうやって殺してやろうか」とか「なんかぜんぶめんどくせえ」とか言って邪気眼に目覚めた根暗の厨二病患者が、この2ndアルバムでは何を血迷ったのか「日々あなたを思い描く」とか言って西野カナばりのラブソングを歌い始め、その音楽性も従来のオルタナ/シューゲイザー/ポストロックから、椎名林檎は元よりチャットモンチーやYUIを連想させるメジャー感と大衆性に帯びたJ-POPへと姿を変え、従来のフアンの間で大きな戸惑いと猛烈な賛否両論を巻き起こした。そして、きのこ帝国がアルバム『フェイクワールドワンダーランド』の中で指し示した→"アンダーグラウンド"から"メインストリーム"への移行は、メジャー移籍第一弾となるシングルの『桜が咲く前に』をもって堂々の完結を迎える。
東京→桜 ・・・アルバム『フェイクワールドワンダーランド』の幕開けを飾った、アルバムのリード曲でありシングルの"東京"は、それこそ新種のマッシュルームが邦楽シーンに芽生えたことを暗示するかのような曲で、これまでのきのこ帝国が歩んできたサウンドとは一線を画したものだった。何を話そう、このシングルの『桜が咲く前に』は、その"東京"から10年前の物語をテーマに、桜舞い散る卒業の季節にピッタリな刹那い春ソングとなっている。しかし"東京"の次に"桜"という流れは、今時珍しいメジャーアーティスト感満載だし、ライティングよりも普遍的なテーマからなるメッセージ性や季節感とリンクさせた話題性を重視した戦略を見ると、彼らがメジャー・デビューしたことを強く実感させる。で、佐藤やtricotのヒロミ・ヒロヒロと同じ1988年生まれ勢の自分的に、いわゆる"桜"や"春"をテーマにした曲で思い出深い曲といえば→MVに鈴木えみの全盛期が記録されている事でも知られ、「さくら舞い散る中に忘れた記憶と 君の声が戻ってくる」で有名なケツメイシの"さくら"、そしてJanne Da Arcの"桜"や卒業ソングの"振り向けば・・・"は、遡ること約十年前...まさに自分がリアルタイムで高校卒業を迎える時に聴いていた、とても思い入れの深い曲だ。あの頃は、まさかコッテコテのビジュアル系が出自のJanne Da Arcが、まさかまさか"卒業ソング"を書くなんて・・・「こ、これがメジャーの力かッ!」って、そしてその後のJanne Da Arcに何が起こったのかを考えると・・・メジャー許すまじ!
「あなた」と「君」 ・・・このMVは、フロントマン佐藤千亜妃の生まれ故郷である盛岡市を舞台に撮影され、そして前作で「"東京"で生きていく」と誓った佐藤千亜妃の"過去"が赤裸々に浮かび上がるような、リアルに上京組である佐藤のパーソナルな経験をもとに、この曲の歌詞は生まれている。少し考察すると→"東京"では「あなた」という主語を使っているのに対し、この"桜が咲く前に"では意図的に「君」という主語を用いていて、前者が『LIFE!』女優の臼田あさ美が演じる女性視点からの歌詞で、後者は深水元基演じる男性視点からの歌詞となっており、つまり深水元基演じる男を想う臼田あさ美が演じる女の切ない恋心を描き出したのが"東京"、しかし男=(あなた)の「心の中に他の誰か=(君)」がいた事を示唆する"桜が咲く前に"という風に、それら2つの曲の無垢で無邪気な歌詞が紡ぎ上げるストーリーからも、思春期から10年後の大人へと成長する青春物語として繋がりや一つの解釈を持たせる事ができる。しかし双方に共通するのは、いずれもその恋心が"不完全"に描かれている所で、そのポスト-ネガティヴな儚さや尊さを映し出す描写力は、実にきのこ帝国らしいと言えるのかもしれない。まぁ、"完全"なラブソングは西野カナ辺りに任せるとして、それとは対極に人間の心内に眠る不穏な空気感だったり、心の闇に潜む狂気だったりを、このメジャー・シーンで描き出さんとするきのこ帝国の反骨精神は、2000年代はじめに邦楽界の風雲児として名を馳せた椎名林檎の片鱗、その面影をデジャブさせる。
『トリハダ』 ・・・このMV、何と言っても駒井蓮演じる「君」の存在が大きな見どころで、それこそ昔仲の良かったあの子・・・的な、一種の"幻"のような非現実的かつ刹那的な存在感は、それこそ岩井俊二映画ようなノスタルジーを誘うプロフェッショナルな演出と物語に聴き手を引き込むには十分過ぎる魅力を放っている。しかし、まるで漫画のキャラクターでもあるかのように、なぜここまで徹底して純粋無垢な描き方をしたのだろう・・・?それは、この十年の間に東北で何が起こったのかを考えれば、自ずとその答えやこのMVが伝えたい裏のメッセージが見えてくるのかもしれない。まさかと思ったけど、やっぱり最初と最後のアパートの部屋と”東京”の部屋は同じ部屋らしい。その最後の部屋のシーンは妙な殺気が漂ってて、それこそ"過去"に佐藤千亜妃が役者として出演した恐怖系ドラマ『トリハダ』のワンシーンに見えてどうしても笑ってしまう。どう見てもこの後に臼田あさ美が後ろから男に襲いかかる前のシーンじゃん(笑) これ狙ってやったんだとしたら面白いな。次作の伏線みたいな。しかしあの『トリハダ』に佐藤が出てたなんて驚いた。自分は全話観たことあるのだけど、コレに佐藤が出てたなんて全く記憶になかったから。まぁ、それはそうとして、このMVを見るに岩井俊二作品とは相性良さそうだから、いずれコラボしそうな予感はする。ともあれ、ほぼ間違いなく年間BEST MVです(でも音量の小ささは気になった)。
上京する前のYUI→「東京は怖いって言ってた」
上京したYUI→「恋しちゃったんだ たぶん 気づいてないでしょ?」
ぼく→「あっ、大丈夫っす・・・」
初期佐藤千亜妃→「あいつをどうやって殺してやろうか」
中二病から目覚めた佐藤→「日々あなたを思い描く」
ぼく→「東京コワイ」
YUIリバイバル ・・・アルバム『フェイクワールドワンダーランド』の面白さ、及び"東京"の面白さって、やっぱり初期の椎名林檎と初期のYUIがクロスオーバーしたハイブリッド・ポップだからであって、何を話そうこの"桜が咲く前に"は、その邦楽界の一時代を築いた椎名林檎とYUIが過去に歩んできた"根暗なりの王道"を行く楽曲となっている。まるで初期の"WHIRLPOOL"から"余分な音を削ぎ落した"ような、それこそ"WHIRLPOOL"を一巡させたようなイントロのギターが奏でる叙情的な旋律からして、アルバム『フェイクワールドワンダーランド』のリア充的世界観を踏襲しているのが分かる。その、今流行りの"余分な音を削ぎ落した"系のシンプルで脱力感のある優美なアコースティック・サウンドと、俄然初期のYUIをデジャブさせる儚くも美しい、そして素朴な佐藤千亜妃の歌声が、いわゆるJ-POPの教科書どおりのコード進行を描きながら、そして桜の花びらが美しく咲き乱れ可憐に舞い散るかの如く、誰しもが持つ"あの頃"の思い出と故郷への郷愁を記憶の底から呼び覚ますような、佐藤千亜妃の扇情感かつ情熱的なサビらしいキャッチーなサビへと繋がっていく。正直、初めて聴いた時は猛烈に心揺さぶられた。僕が10年前にJanne Da Arcの"振り向けば・・・"を初めて聴いた"あの頃"と同じ感動をフラッシュバックさせるほどに。とにかく、この往年のJ-POP然とした起伏を効かせたドラマティックな曲展開、そして何よりもバンドの圧倒的個性でありアイコンでもある佐藤千亜妃の歌声から解き放たれるエモーショナルな感情表現に涙不可避で、佐藤はまた一段と"ボーカリスト"としての才能を開花させている。これはメジャー・デビューの影響もあるのか、この曲の佐藤は大衆の耳に耐えうる"ポップ"な歌声を意図的にチョイスしている。マジな話、ここまでJ-POPの王道を行く明確なサビが書けるバンドって今の時代どれくらい存在するのだろうか。前作の"東京"もそうなのだけど、今回の上京物語的なテーマも俄然初期のYUIリバイバル感あって、クシャ顔で今にも泣き出しそうな佐藤の歌い方的にも"余分な音を削ぎ落した"系の音像的にも、それこそ初期のYUIが椎名林檎カバーしてみたノリすらある。アルバム『フェイクワールドワンダーランド』の中に、初期のYUIと椎名林檎とかいう福岡が生んだファッション・メンヘラ・コンビの面影を感じたのは、決して間違いじゃあなかったんだと。それを核心的に裏付けると同時に、もしやきのこ帝国はYUIと椎名林檎が成し遂げられなかった"ヤミ系J-POP界"の高みへ向かっているんじゃないかと勘ぐりたくなるほどだ。事実、全盛期のYUIや椎名林檎のような、その時代の絶対的なアイコンに成りうるヤミ系女性ボーカルの不在が近年著しくて、しかし佐藤千亜妃はその端正なビジュアルや凛とした存在感も含めて、この時代のアイドルもといアイコンに成りうる唯一の可能性を秘めている。この"桜が咲く前に"を聴いて、長らく空席だったそのピースが埋まったような気がした。でもこのままYUI路線に行って、ある時期に「あの頃の俺達はどうかしてたのさ・・・」みたいな海外メタルバンドのインタビューみたいなこと言い出したら笑う。笑う。
佐藤千亜妃

ぼく

佐藤千亜妃

ぼく

佐藤千亜妃

ぼく

『黄金の道』 ・・・この曲は、いわゆる"余分な音を削ぎ落した"系の音使いなのだけど、それにより音の隙間や空間、あるいは一つ一つの楽器の残響感を大事にした繊細かつ静寂的なサウンドを鳴らしていて、これまでのノイズという轟音のベールに誤魔化されていた、もといかき消されていたバンドの音が、バンドのアンサンブルがより鮮明に浮き彫りとなった事で、演奏力や技術力までも生々しく赤裸々に、それはまるで水彩画のように浮かび上がってくる。それこそ佐藤千亜妃の某インタビューにもあるように→「きのこ帝国はジャンルにこだわったグループではない」という言葉の意味を立証するかのような曲で、洗練されていながらも今のきのこ帝国にしか成し得ないバラードと言える。むしろ、今の時代にここまでベタで王道的な曲やってるのは逆に新鮮で面白いというか、それくらい今じゃ珍しいほどのポップスやってて、しかもそれをやってんのが元根暗の奴らだってんだから尚さら面白くて、それこそ佐藤が某インタビューで語った→「光の強さを知ってるからこそ闇が描ける」という言葉の説得力ったらなくて、それこそANATHEMAが歩んできた"オルタナティブ"な音楽変遷に通じる、すなわち『ジョジョの奇妙な冒険』の作者であり東北出身の荒木飛呂彦が提唱する『黄金の道』を歩もうとしているのかもしれない。これがきのこ帝国が目指す『黄金の道』なんだ。これはANATHEMAは元より、『ARCHE』のDIR EN GREYにも同じことが言えるのだけど、 過去に一度 "人間の底すらない悪意"を極めたバンドは、何故ある日突然悟りを開いたようにシンプルなアンサンブル重視の路線に回帰するのか・・・?初めから普遍的な音楽をやっても何一つ面白くないけど、過去に黒歴史(中二病)みたいな闇を抱えたバンドが、突拍子もなく普遍的な事をやりだすとどうしてこんなに面白いのか。それが「光の強さを知ってるからこそ闇が描ける」という佐藤の言葉の意味なのかもしれない。とはいえ、このきのこ帝国はキャリア的に一応は若手に分類されるのだろうけど、そういった視点でモノを考えてみると、このきのこ帝国の成長性の高さに俄然驚かされる。しかし、その成長スピードの早さがキャリアの中で仇となる場合もある。それが良いか悪いかは、今後のきのこ帝国が歩む道のみぞ知る。

次作『漆黒の殺意』 ・・・このシングル『桜が咲く前に』には、他に"Donut"と"スピカ"の二曲が収録されている。前者の"Donut"は、それこそノイズ・ロック化した椎名林檎とでも例えようか、このシングルの中では最も”らしさ”のある曲だ。まずイントロからお得意のノイズバーストして、初期林檎リスペクトな佐藤のボーカルと”あるゆえ”を彷彿とさせるアンニュイなムードを醸しながら、そして三分あるアウトロでは再び轟音ぶっ放して、ライブ感溢れる終わり方で締めくくる。後者の"スピカ"は、このシングルで、というよりきのこ帝国史上最もポップスのイメージに近いラフさが印象的な曲で、特に繰り返し響き渡る凛としたミニマルなメロディが印象的。”桜が咲く前に”は元より、この二曲のメロディ・ラインやアレンジを耳にすれば、前作の”東京”に引き続いて椎名林檎界隈の井上うにをエンジニアとして起用した理由が嫌でもわかるハズだ。しっかし、佐藤が"椎名林檎ごっこ"やるにはまだまだ全然シニカルさが足りないな(笑) とは言え、それぞれ三者三様に今のきのこ帝国らしさに溢れているし、同時にきのこ帝国の未来予想図が詰まった極めて良質なシングルだと思う。そんなこんなで、リアルに高校生だったあの頃は、何も疑問に感じずにシングルCDなんて買ってたなーとか昔を懐古しつつ、あれから約10年の月日が過ぎ去り、昔と比べて音楽シーンも大きく変わりゆく中で、今日日こうやってきのこ帝国のメジャー・デビュー・シングルを買うなんて、俺はあの頃から何も変わっちゃあいないのかって、我ながら本当に時代に取り残された人間だなって、この瞬間もこうやって彼らが描き出す『桜』を聴いているなんて・・・でもまぁ、それも別に悪くないんじゃネーのって。冗談じゃなく、まるで僕の青春の記憶と今を紡ぎ出すかのような一曲だった。つまり、これが佐藤が語る→「誰かと出会いたい一心で音楽をやっている」、という言葉が示す一つの答えであり、その結果なのかもしれない。もし次回作で、「心の中に他の誰か=(君)」がいた事に気づいちゃった臼田あさ美演じるアラサー女の復讐劇、その名も『漆黒の殺意』とかいうタイトルで、つまり『東京』→『桜が咲く前に』→『漆黒の殺意』みたいな女の復讐三部作完結せたら俺マジで一生佐藤についていくわ。
きのこ帝国
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