2. Blindfold
3. In The Mirror
4. No Better Prize
5. Sleepwalker
6. Tender Shoots
7. The Monaco
8. Crest
9. Pyro
10. South
11. Glory Days
12. Raptor
2:54 ・・・この2:54というコレットとハンナのサーロー姉妹率いるロンドン出身のバンドも、黒盤あたりの赤い公園と親和性を見出だせるバンドの一つで、PJハーヴェイの作品でも知られるロブ・エリスをプロデューサーに迎え、ミックスにはマイブラを手掛けたアラン・モウルダーを起用し話題を呼んだ2012年のデビュー作でセルフタイトルの『2:54』では、ポストパンク/シューゲイザー/ゴシック/ドリームポップなど多数の要素を内包した、それこそUKバンド然とした幽玄かつ陰鬱な雰囲気を纏ったダークなオルタナやってて、個人的にその年のBESTに挙げるほどツボにハマった。そんな2:54の約二年ぶりとなる、イギリスのロマン派詩人の詩からインスパイアされたという2ndアルバム『The Other I』は、プロデューサーにレディオヘッドとの仕事でも知られるジェイムス・ラトリッジを迎えてパリとロンドンで制作され、レーベルはBella Unionからリリースされている。
インディロック化したANATHEMA ・・・これは"ナイトメアポップ"ことEsben and the Witchも同じなんだけど、それなりの良作を出した後に著名なプロデューサーを迎えてガラッと作風を変えてくる、そう・・・あのやり方です。この2:54にも全く同じことが起こっていて、それは幕開けを飾るリードトラックの#1"Orion"を聴けば分かるように、デビュー作みたいな荘厳な雰囲気やホラー映画ばりにオドロオドロしい空気感は希薄となって、言うなればThe Joy FormidableやEsben and the Witchを連想させる、ポストロック然とした音のダイナミズム/スケール感とアンニュイでミニマルなメロディ主体のいわゆる"Post-系"に大きく振り切っていて、ザックリと例えるなら"インディロック化したANATHEMA"みたいになってる。まるでイギリスの空模様のように不安定かつ不吉に揺らめくエレクトロニカとピアノを使って音響意識を植え付ける二曲目の"Blindfold"では、フロントマンのコレットに"ボーカリスト"としての自覚が芽生えていることに気づく。で、前作を踏襲したデュリーミィでイーサリアルなムードの上にレディへ風の不穏なキーボード・アレンジが施された#3"In the Mirror"、続く#4"No Better Prize"では、後期Porcu pine Treeを思わせるプログレッシヴ・ヘヴィ的な音使いや後期ANATHEMAを彷彿とさせる耽美的なバッキングをもって俄然メタリックな展開力を発揮し、同時に「あっ...これ前作より好きなやつかも」ってなった。ストリングスをフューチャーした#5"Sleepwalker"では、CoLの『Vertikal』を思わせるディストピア的なアレンジを効かせながら、終盤にサバス顔負けのドゥーミーなヘヴィネスをぶっ放す。で、ここからは少し雰囲気が違って、一転して"新機軸"とも取れる楽曲が続いていく。まずWarpaintの『S/T』で言うところの"Disco//Very"的な立ち位置にある、コレットの"ボーカリスト"としての自覚を再確認させるような聖歌さながらの神々しいボーカル曲の#6"Tender Shoots"、シューゲ然とした淡い空気感を醸し出すイントロの裏をかくようにカントリー調の陽気なノリ&リズムで展開する#7"The Monaco"、焦燥感あふれる不安定なビートを刻みながら疾走する#8"Crest"、一転して"らしさ"のある力強いリズムやヘヴィなリフと叙情的なメロディが妖しく交錯する#9"Pyro"、そして終盤のハイライトを飾る#10"South"は、それこそ赤い公園の”副流煙”にANATHEMAの『We're Here Because We're Here』直系の美メロ成分(光属性)をズキュウウゥン!!と注入したような名曲で、赤い公園の"副流煙"がタバコの煙ならこの"South"はマイナスイオンの蒸気といった所か。再びコレットのボーカリスト意識の高さが伺える#11"Glory Days"、そして和楽器を駆使した荘厳な始まりから"Post-Progressive"然としたスケールのある展開を見せるラストの#12"Raptor"まで、全12曲トータル約50分。前半の曲はプロデューサーの色が顕著に出ていて、あらためてこの手の音楽とレディへの相性はバツグンだと再認識させる。後半からはこれまでの2:54にはなかった、新機軸的なArt-Rock志向の強い音使いで聴かせる。
Post-系 ・・・確かに、デビュー作にあった"オリジナリティ"という点ではパンチに欠けるが、その艶美な音響を駆使した多彩なアレンジとリリカルで緻密な展開力に、それはまるで一種の"Post-Progressive"と言わんばかりの表現力に驚かされる。これはプロデューサーの影響だろうけど、いい意味で腐女子臭かった前作と比べてもアレンジが著しくオサレに洗練されていて、同時にさざ波のように打ち寄せられるザラザラしたシューゲイズ感や凛々しくも荘厳なゴス/ヘヴィロック感、そして男勝りのフェミニズム思想が弱体化する一方でポストロック譲りの繊細な表現力がマシマシ、独特の温かみやアンニュイな色気が音に宿っている。それはまるで鋼鉄の処女が女性としての柔らかさ温かさ、すなわち母性を身につけて非処女になったみたいな感覚、あるいは人気アイドルにスキャンダルが発覚してキモヲタを振り落とす感覚に近くて、その処女喪失する瞬間を捉えた白いジャケのアヘ顔が今作の全てを物語っていると言っても決して過言じゃあない。もはや前作の2:54とは別人と言っていいくらいで、でも僕はこの"変化"が"ポップス"あるいは"メジャー"に日和ったとはこれっぽっちも思わなくて、妹のハンナによる不気味なコーラスを交えた妖艶な雰囲気や音の根幹にある黒い狂気性は不変だし、なんというか中期ANATHEMAと後期ANATHEMAの美味しいとこ取りみたいな感覚すら、むしろ"俺の界隈"に大きく歩み寄ってきた感すらあって、とにかく曲の展開や音に様々なアイデアが施されたバラエティ豊かな楽曲陣は、単純に聴いてて面白いし、そして何よりも楽しい。なんだろう、前作はポストパンク型の力強いビートを効かせた一種の"雰囲気音楽"として楽しんでいた部分もあったけど、逆に今作は一つ一つの音や楽曲として"聴かせる"意識が今までになく強い気がする。少なくとも、それぞれ全く違うベクトルで楽しめる良作である事は確かだ。
『The Other I』=『猛烈リトミック』 ・・・そんな鬼女系腐女子の脱801感に溢れている本作なんだけど、なんか俄然エスベンと魔女や俄然赤い公園っぽくなってるし、そして何よりも"イギリスのWarpaint"という名に恥じないバンドにまでなってる感ある。むしろ本家超えてんじゃねえかって。でも向こうは2ndアルバムの『Warpaint』でシガロ界隈のPを迎えてたりするし、なんだかんだ棲み分けはできている。しっかし、ウォーペイントといいこのトゥー・フィフティーフォーといい、俗にいう"二作目のジンクス"を地で行ってる感じでスゲー面白いね。その"二作目"といえば→立川にある"クリムゾン・キングの公園"こと赤い公園も2ndアルバム『猛烈リトミック』で文字どおり"J-Pop"になってるし、そういった意味でも赤い公園はUKミュージック的なナニヵを感じる。著名なプロデューサーを迎えて、黒い部分と白い部分がクロスオーバーしているという点では、2:54の『The Other I』と赤い公園の『猛烈リトミック』は限りなく近い、似た作品と言えるかもしれない。あとエスベンと魔女がアイスランドのマイルドヤンキーことSólstafirと対バンするってんなら、この2:54がANATHEMAと対バンする可能性があったって全然不思議じゃないし、むしろ日本のHostessが2:54と一緒にANATHEMAを連れて来いってんだ。いや、連れてきてくださいお願いします。
Two:Fifty-Four (2:54)
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