01. True Hallucination Speak
02. The Lion's Roar
03. Kindly Bent To Free Us
04. Infinite Shapes
05. Moon Heart Sun Head
06. Gitanjali
07. Holy Fallout
08. Endlessly Bountiful
【レジェンド】・・・2011年にリリースされた前作のEP『Carbon-Based Anatomy』といえば→伝説の1stアルバム『Focus』から15年ぶりに目覚めた奇跡の復活作『Traced In Air』のファンタジックかつオリエンタルな方向性を更に深く掘り下げたような作風で、サウンド的にも持ち前のボコーダーを駆使したスペーシーかつドリーミーな神秘性や理系くさいメタリックでテクニカルなヲタメタル色は希薄となり、比較的オーガニックな音作りとポストロッキンなアプローチを強めると同時に、より多彩な民族音楽を用いたウッホウッホホなオルタナへと深化した、言うなればポストプログレッシブ的なスタイル、言うなれば『未知なる部族との遭遇』だった。悪く言えば日和ってエモくなった。で、2ndの『Traced In Air』が『もののけ姫』のシシ神様をモチーフにした作品だとするならば、このEP『Carbon-Based Anatomy』は同作のタタリ神をモチーフにしたような作品だった。そんな、(今では珍しくも何ともないが)ジャズ/フュージョンとデスメタルをクロスオーバーさせたバンドの先駆けであり、今流行りのDjent界隈に多大なる影響を及ぼしたUSのレジェンドことCynic。フルアルバムとしては約6年ぶりとなる待望の3rd『Kindly Bent to Free Us』は、エンジニアにロブ・ゾンビの作品で知られるJason Donaghyを迎えてレコーディングされている。
【オーガ(シ)ニック】・・・まず、オープニングを飾る#1”True Hallucination Speak”のまるでPorcupine Treeの『Fear Of A Blank Planet』ライクなイントロから、この手の好き者ならばニヤリとしてしまうだろう。近年Mastodonライクなジュクジュクしたキザミリフ主体の”オーガニック”なクラシック・ロックに→「ポール・マスヴィダルの新プロジェクトかな?」と面食らい、中盤からジョン・ペトルーシ顔負けのスリリングな速弾きGソロからのツーバスドコドコを使った緩急を織り交ぜながら、実にシニックらしいアート性をもってプログレスに展開していく。もはや、この一曲だけでUKプログレおよびUSプログレを掌握するかのような一曲だ。それぐらい、恐ろしいほどの音の密度を感じる。その流れから、近年Baronessを彷彿とさせるストーナー風の”オーガニック”なリフ回しで始まる#2”The Lion's Roar”は、UKのIt BitesやスウェーデンのA.C.Tらのシンフォ/プログレハードを連想させるコーラスとポップなボーカルが織りなす爽やかなハーモニーと「A Kamikaze seed」とかいう謎の歌詞がポイントで、これにはA.C.Tも「えっ、僕たちクソ久しぶりに新譜リリースしたんですがそれは・・・」と訴訟不可避。で、ここまでの”オーガニック”な序盤の流れを聴けば分かるように、少なくとも今作は2ndの『Traced In Air』ではなく、前作のEP『Carbon-Based Anatomy』のオルタナ路線を素直に踏襲した作風だと理解できる。当然、2ndみたいなアンビエンスがかった音響ライクな音作りではなくて、とにかくリフからソロからプロダクションまで”オーガニック”を意識したクラシックな音作りで、まるでネフェルピトーの”脳みそクチュクチュ”、もしくは花京院のハイエロファントグリーンが脳幹に侵入して結界を張り巡らせていくような刺激的なキザミリフを主体に、本来のシニックらしいテクニカルなプログ・メタルではなく、いわゆる”クラシック”な”プログレッシブ・ロック”というものを現代風の解釈で描き出している。まさかあのシニックが”あのキザミ”リフを取り入れてくるなんて想像してなかったし、Gソロに関しても大きな特徴だったフュージョン色は皆無で、もはやDTのジョン・ペトルーシばりにピロピロ弾きまくってて笑う。
【俺がプログレだ】・・・そして表題曲の#3”Kindly Bent To Free Us”のイントロからテクニカルな低音キザミリフまで、シニックの一番弟子に当たるScale the Summitの『The Collective』ライクな小回りの効いたリフ回しを耳にした時は→「まぁ、弟子だから多少はね?」とか思いながら、ここに来てようやく本来のシニックらしいジャジーで幻想的なムードを高めていく。が、ここでも寂寥感を煽るタイトなベースの音使いに、二番弟子であるIntronautを想起させる。で、まるでOpethの『Damnation』ライクな哀愁よろしゅうイントロで始まる#4”Infinite Shapes”は、ポールのサイドバンドÆon Spokeっぽくオルタナ風に仄暗い空間を演出しつつ、トドメにThe Rasmusライクなエモい転調から闇夜に響き渡る狼の鳴き声の如し泣きのGソロまで、トコトンOpethリスペクトな曲。で、ドイツのThe Oceanを筆頭としたポスト界隈からの影響が伺える#5”Moon Heart Sun Head”、遂には兄弟分のExiviousライクな#6”Gitanjali”まで、序盤の”オーガニック”な始まりとは一転して、中盤はシニック自身やポールのサイドプロジェクトを含む現代的なプログレ/オルタナからの影響が顕著に表れた楽曲が続いていく。で、終盤の流れは→いわゆるATMS界の初代王者たる所以を見せつける#7”Holy Fallout”、そして本編ラストを飾るのは#8の”Endlessly Bountiful”で、あのレジェンドがまるでクリスマス・ソングみたいな、ここまであざといぐらいのエモい曲を書くなんて・・・僕はもう何も信じられなくなった。
【プログレッシブ・デス・ピッチ】・・・正直、今作がPitchforkでフルストリーミング配信された時から嫌な予感はしてた。まずリフがクソつまらないです。もう一回言うけど、リフがクソつまらないです。とにかく既聴感しかない。でもリフはパクリだらけだけど、異常に高い曲の構成力に無意識のうちに惹き込まれ、ふと気づいたらその世界に入り込んでいる辺りは、さすがレジェンドらしいシニックの【ATMS】に対する意識の高さゆえだと。これがレジェンドの作品じゃなければ、手放しでプログレマニアに高く評価されたんだろうけど、現にシニックの約6年ぶりのフルアルバムとして考えると、正直物足りなさが否めない。このアルバムで唯一評価できる所を挙げるとすれば→それは「えぇ!?レジェンドがそれやっちゃう!?」という”意外性”だけです。つうか、ある意味”禁じ手”やっちゃってるわけだから、これ以上はもう解散しかなくね?って、そんな一抹の不安を感じてしまった。なんつーか、ピッチみたいなニワカ御用達メディアを口説くには、最近のマストドンみたいなクラシックな音を出しときゃいいんでしょとメタル界隈が学んでしまった感。あらためて、やはり現代アメリカン・ヘヴィメタルの雄であり現代プログレの中心に位置するマストドンの存在は無視できないものがあったんだろう。
【Post-Progressiveへの憧憬】・・・少し話は戻るが、今作のような”オーガニック”もしくは”クラシック”な変化というと→Opethの『Heritage』を想像してもらうと分かりやすいかもしれない。なんつーか、昨年のRiversideやKATATONIAも、ある意味でAlcestもそうなんだけど、ここ最近のメタル界隈、特にベテラン勢の作品には大きな”変化”が巻き起こっている。2ndから約6年間、ポールの意識の中にOpethの『Heritage』やMastodonの名盤『Crack The Skye』や迷盤『The Hunter』の存在があったなんて事は知る由もないけど、少なくとも今作はクラシック・ロックに対する敬意とPost-Progressiveに対する憧憬が入り混じった、【Porcupine Tree?SW Teacher?Kayo Dot?Frost?Opeth?DT?A.C.T?Baroness?It Bites?Mastodon?Scale the Summit?Intronaut...?】それら21世紀以降の近代的な”プログレ”と称される全てを網羅した、つまり『勝手に21世紀のプログレ総括しちゃいましたテヘペロ』的な一枚。もはやKscopeに所属する全バンドが「マジかよシニック最低だな」もしくは「汚いなさすがシニックきたない」と阿鼻叫喚する様子が思い浮かぶほど(今作がポストプログレ界隈に与える影響って実は少ないと思うけどね)。そういった意味では→あのピッチフォークが「21世紀におけるアート・ロックの新しいカタチ」と言うのも至極納得できるし、UKのプログレメディアが年間BESTに挙って持ち上げそうな予感はする。しかし、近年のプログレ界隈が徐々に脱ヲタ化もといハードロック化していく流れ・・・正直嫌い。いかんせん、この悪い流れがOpethやMASTODONの新作へと繋がっていきそうなのがまた何とも...。
【プログレセンター試験】・・・もはや、これはレジェンドCynicではない、至ってシンプルな”プログレ”なんだ。いい意味でも悪い意味でも”ただのプログレ”、それ以上でもそれ以下でもない。プログレ好きによるプログレ好きのためのプログレだ。どこか新しくもありどこか懐かしくもあるプログレ浪漫飛行、もしくは現代プログレ大全集だ。これは世界中のプログレヲタクが試されているのかもしれない。自分がどれだけ”プログレ通”なのかを測る、言うなれば【プログレセンター試験】だ。聴き手側のプログレに対する意識の高さが問われると同時に、今のレジェンドに対して”らしさ”を求めるか”プログレ”を求めるかによって、どのような嗜好でどのような立ち位置から聴くかによって評価が大きく変わってくる作品だ。この試験の問題を解いてる時は、それこそプログレヲタクの脳みそを断面図にしたようなグロいアートワークのように、脳幹が働きまくって脳汁が溢れ出す勢いだった。自分で言うのもなんだけど、個人的にはB判定くらいは取れたんじゃあないかと。でも、唯一Toolに関する応用問題だけは解けなかったから勉強し直しかな? 何回も言うけど、今作はピッチをも巻き込んだプログレセンター試験です。今作を高く評価する奴はプログレガチ勢であると同時にニワカである証明だという...ね。しかしながら、このレジェンドに対して正しい評価を下せる俺ってやっぱカッケーわ。僕は、今作を無理くり褒め称えるようなニワカプログレヲタだけには絶対なりたくないんだ。もはや「ニワカプログレッシャーよ、俺の感性を超えてみろ」って感じだ。兎にも角にも、まるでハンターのパリストンばりに有能なポールの大胆な発想と器用さに驚きと賞賛を。
【ヒニック】・・・それこそ映画『もののけ姫』のラストでシシ神様が死を迎えたように、これにてレジェンドが築き上げてきた孤高の創造神話は無残にも崩れ落ちてしまった。当然ながら、2010年にグロウル担当のTymon Kruidenierが脱退しているため、初期のデスメタルらしき要素は微塵も存在しない。そして、ただただ驚いた。伝説の1st、15年の眠りから覚めシシ神化した2ndと革命的なスタイルでシーンに多大な影響を与えてきたレジェンドが、今度は逆に影響を与えた弟子から影響を受けていることに対して。例えるなら→銀河の果ての存在であるシシ神様が土臭い地上へと降り立ち、平民と同じ目線で日々の暮らしを体験してみた、みたいな。なんて皮肉なことなのだろう。これぞまさにヒニックだな!
Kindly Bent to Free Us
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